寂しくないね
はっはははは
成功だ
素晴らしい
最高だ
これで私は英雄 偉大なる魔術師
私は奇跡を起こした
高らかに笑う男が目の前に立っていた。
くたびれた黒いローブ
艶のない白髪が混じった金の髪
濁った青い目に色濃い隈
三日月に歪んだ口元からは不愉快な笑い声が溢れている。
床に座り込む私の下では、赤黒く光る魔方陣
男の足下には、若い男が倒れ、その体から流れ出た血が魔方陣に流れ込む。
あぁ、これは召喚の儀式というものか
かつて、こっそりと除き見た光景に似ている。
国で見たものは、光輝く聖堂で清らかと詠われる聖女と神官たちが行ったもの。
こんなに禍々しい光景ではなかったけれど…
物心つく前から暮らす離宮の一室、
日差しが差し込んで暖かなその部屋で、幼い頃から側にいたメイドの入れたお茶を、お菓子作りが趣味という騎士が作ったお茶菓子と一緒に、最近出来た秘密のお友達を二人招いた、静かなお茶会。
離宮こら出ることを許されていない私のささやかな楽しみを突然奪った、今、この状況に、私は酷く苛立っている。
けれど、なんの手だてももたない私に、この男に対する対抗策はない。
もう少し状況を見たほうが…
「ん?
何故、複数なんだ?」
突然笑うことを止めた男が、私の背後を見て首を傾げた。
「古文書には、一人の英雄が召喚されると…
まぁいい。この中で一番力があるものを選べばいいのだからな」
再び、その口元に気味の悪い笑みが浮かぶ。
あぉ、そういうことか。
「一人というのは、間違いないわね。」
思わず、笑みと小さな言葉が私の口から漏れてしまった。
「なんだ?
なんと言った?」
男の汚ならしい手が伸びてくる。
「っう」
私の左腕をつかみ、引っ張り寄せようとする。
「痛い。」
「なんだと?」
「痛いことする貴方は、私の敵。」
少し声を張り上げて宣言する。
そうすることで、痛みが無くなることを私は知っている。
だって、それが契約。
何もない私が持っている、ただ唯一のもの。
ほら、痛くない。
その瞬間
ローブに隠れた男の足が、足下から伸びた黒い影に飲み干され
彼女の腕を掴んだ右腕は、メイド服を着た女に引き千切られ
その首は、黒い騎士が振るう双剣によって綺麗に宙を舞う
掴まれていた力が失われバランスを崩した彼女は、
目元まで長い前髪で覆われた、ふくよかな体型の少年と、
爪を真っ赤に染めた手を前に突きだした、深紅のドレスを纏った少女に支えられ、床に倒れ込むことはなかった。
「一人というのは間違えてはないわね。
だって、彼らは生きていないもの。
生きていないものを一人とは数えないのではなくて?」
力と契約で縛られ、楽園へと続く死者の列に加わることも、裁きを待つ地獄の列に加わることも出来ない死霊
彼らは私の魂に繋がれた虜囚
故に、私の一部と認識されたのだろう
でも、良かった。
彼らがいれば、
寂しいないし、
苦しくない…
私は生きることが出来る