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王女×死霊術士=世間知らず 異世界へ!!  作者: 鵠居士
冒険者の町 ディフェン
18/59

成り立て冒険者のテンプレ


「お前たちが例の新人か。

不相応なアイテムをもっているらしいな。」




・・・・・・やっぱり・・・・

・・・いちゃもんテンプレ・・・・



怪我一つない

白い肌ときめ細かい細工が施された服や防具へと目が行く

若い冒険者のパーティーがメルリーウェたちの前へと立ちふさがった。


フェウル、メルリーウェ、セイ、イストを後ろに

冒険者たちと向かいあったのは、ジェノス、バルト、ラストル。

その間に挟まれて、背の高い三人の間から冒険者パーティーの様子を垣間見たトールは、よくある冒険者ものの物語で新人冒険者が何か知れにつれ傲慢で他からも嫌われているようなパーティーにいちゃもんをつけれる、そんな場面を思い、一つ息を吐き出した。








奥の部屋を出たあと、

フェウルを先頭に受け付けの部屋へと戻ると、そこで思い思いに過ごしていた冒険者たちの視線をいっせいに浴びた。

その目には、好戦的なもの、実力を窺おうとしているもの、興味をもっているものなど、様々な光をたたえていた。

「気にせんでもいい、新人に対する洗礼のようなものじゃ」

レーニ翁がメルリーウェたちの横を通り抜け、自身の担当である鑑定カウンターの席へついた。

メルリーウェたちもそれに続く。

「洗礼ですか?」

「そうじゃ。この程度の視線に臆するならば冒険者として先はないっというな」

「あぁなるほど。」

「お主らに、その心配などないじゃろう。」

バルトやジェノスは苦笑を浮かべ冒険者たちへ視線を向けているが、ラストル、イストは完全に無視を決め込んでいる。

「ところでレーニ翁。

 店を出すにいたって、何か手続きなどは必要で?」

「必要な書類を領主に提出し、一年以内に銀貨100枚支払いことじゃ。

 一年待たずして店を閉めようと、この銀貨100枚は絶対に払わなくてはならん。

 逃げようとも、銀行は差し押さえ、ギルドカードがある場合はそれも差し押さえとなる。

 二年目からは、一年に銀10枚の税金を納めることになっておる。」

「その書類は代官の屋敷に行けばよろしいですか。」

「わしがやっておこう。

 ・・・お主らのこと、一応報告しておいたほうがよいしな。」

「・・・・悪さをする予定はないのですがね」

レーニ翁とフェウルの目が静かにきらめく。

「ふん。お主等にその気がなくとも、騒ぎは己ずとやってこよう。

 それで、どんな店にするつもりじゃ。

 書類には、代表者と店の内容、場所を書かねばならん。

 代表者はお主でよいな」

「主としては、食事を提供する店ですね。

 その傍らで、装飾品、服飾品、魔道具を売ろうと思っています。

 まだまだ、師に劣る腕前ですが彼らのものも十分売り物になると思っていますのでね。」

「大いに流行るじゃろうな。

 しかし、食事か。」

レーニが目を閉じ、フムフムと何かを考え始めた。

「何か、問題でも?」

「何、これからは食事が楽になるな、とな。楽しみにしておるよ。

 ・・・・しかし、ポーションなどの薬は扱わんつもりか」

レーニ翁の再び開かれた目は、バルトたちの影に隠れるようと小さくなっているトールへと向けられた。

「・・・売り物にできないと判明しましたからね。特別な場合にしか、出さぬことにしますよ。」

「おかしなことをいうの。品質を落としたものを作ればいいじゃろ。

 それに、他にも特別な魔法薬を作れそうじゃと踏んだが?」

「そうなんだけど、ね~」

フェウルが口を閉ざし、トールがレーニ翁の視線から外れようとジェノスの身体を引っ張り壁にしようとする中、

メルリーウェとセイが、ねーっと顔を合わせ首を傾げて笑いあう。

「あのね、レーニおじいちゃん。」

「トール君は凄いけど、駄目な子なのよ。」

二人の言葉に、レーニ翁は目を丸め、トールは顔を押さえて 酷い と呟いた。

「お師匠様の 完璧なものしか認めないっていう言葉を信じて、最高品質のものの作り方しか覚えなかったの。その上、教えてもらったレシピ以外覚えられないの。

 だから、おじーちゃんやトール君の作ったものしか知らない私たち、品質と効果で五段階で評価されるなんて、村を出てきて始めて知ったのよ?」

「・・・・・・それはそれは、なんともはた迷惑な師弟じゃな」

レーニ翁が呆れて言葉を失いながらも、ようやく出た言葉は、上手く説明を考えてくれたセイに対して安心しながらも心を痛めたトールに、ぐさぐさと止めを刺した。


そんな時だった。


様子を窺っていた冒険者たちの中から、5人の若い彼らがメルリーウェたちの前に出てきたのは。



一番前にいるのは、普通の冒険者が着ているような服に金の刺繍糸が目立ち、金属で作られた胸当てにはキラキラと光沢がある。そんな、冒険者のようで、そう見えない少年。

その後ろには、動きにくそうな長いスカートと高価な装飾品が目立つ、杖を持つ少女。

弓を背負っているものの、その指を白魚のように綺麗なままな少女。

屈強そうな身体に古傷が目立つ、他のメンバーとは随分と年の離れている男。

最後は、少年たちに比べれば少し汚れた服を着ているが、それでも一般の冒険者よりは清潔なものを纏っている、目立つのはその首元に着けられた首輪という青年。


一目見て、隠れるようにいたトールが

「こいつら 嫌い」

と呟いたのがメルリーウェたちだけでなく、近くのテーブルに腰掛けていた、こちらは正統派のベテラン冒険者という風貌のパーティーに聞こえたらくし、彼らは飲んでいた酒を噴出しかけ身体を小刻みに震わせている。




「お前たちが例の新人か。

不相応なアイテムをもっているらしいな。 

Bランクのこの『金の若鳥』である僕が有用に使ってやる。

何、栄光ある生まれにある僕たちが代価を払わないなどと愚かなことはしないさ。

第一級ポーションならば、そうだな銀貨110枚渡してやろう。

 買取の相場より多いが、これもこれから活躍しようと夢見る君たちへの餞別だ。

ほかのアイテムも買い取ってやろう。

新人の身で僕らに声をかけて貰えるんだ。

君たちはとても運がいい」


自分の言っていることに陶酔しているらしい少年。

彼の言うことを正しいと信じ込み、慈悲のこもった笑みを浮かべ新人たちに施しをするかのような少女。

彼の言うことを聞くのは当たり前のことだと、こちらを侮蔑した目で見る少女。

こちらが何かをしないように、腰にある剣に手をかけ圧力をかけてくる男。

その後ろで、光の宿らない目で遠くを見る青年。


「・・・気持ち悪い・・・」


またもや、トールの言葉は近くの冒険者たちの腹筋を苛めている。


「気をつけな。

そいつらは聖テオドルの上位貴族のガキどもだ。

目をつけられたら面倒な厄介もの共だ」


笑いを抑え、テーブルに突っ伏している冒険者パーティーの一人が、震えた声でだが、トールたちだけに聞こえる声で忠告を囁いた。


「・・・・・ありがとう・・・・・・」


一番近くにいたトールが礼を言った。


それには、メルリーウェたちは顔に出さないようにしながらも驚いた。

人見知りが激しく、メルリーウェたち家族以外には声をかけることも難しいトールが誰に言われるまでもなく礼を言ったのだ。

しかも、屈強で歴戦の痕が目立つ大男に向かって。


だが、それよりもまずは、目の前の厄介ものをどうにかしなくてはいけない。





「光栄なことに、声をかけていただいたのは、これの事か」

 トール とラストルに声をかけられ、トールはカバンの中から一本瓶を出し、後ろ手出すラストルへ手渡した。

「そう。そうだ。一級ポーションなど、お前たちのような田舎ものの新人が持つなど身に余る。

 僕たちのような、勇猛で実力ある冒険者こそが有用に使えるというものだ」

芝居がかった、大きな声はギルド中に響き渡った。

一級ポーション。

アマリエが言うには、大都市のギルドでさえ滅多に見ない、レシピが一部に抱え込まれたそれは話に聞くことはあっても、滅多に見るものではない。

冒険者たちは、ラストルの手につかまれた一本の瓶へと、その視線を集中させた。

トールが礼を言った冒険者パーティーも、笑いが一瞬にして収まり、突っ伏していた顔を上げた。


まじかよ

おいおい、本物かよ

いや、あのお貴族様が言っているだ。嘘ってわけはないだろ

どうやって、手に入れたんだ?


「確かに、まだまだ新人の俺たちがこれを必要とする事態に陥ることはないな」


「そう。青き血の義務として民草を守らねばならない僕らこそが、そのような事態より君らを守っているのだ。本来ならば、君らはそれを我らに提供するのが義務ではあるが、僕はそこまで非道ではない。誇り高き青き血の継承者なのだからな。」


「そうだな。では、これは・・・」

ラストルの瓶を持つ腕が前へと伸びる。

その様子に、にっこりと少年は笑い、男に目で指示を出す。

下賎な相手に直接物を渡されるのは、あってはならないことらしい。

周囲から音が消える。

冒険者たちが、まるで音を立てるなと命令されているように物音を立てないようにしている。


「あっ」


もう少しで男が瓶に触れようという時、


ラストルが腕を振り上げ、全員の注目を浴びていた瓶が宙を舞う。

驚愕に、目を丸めるのは、少年たちだけでなく、この場にいる全員。

高価で希少なそれをそんな風に扱うなどと、誰も思っていなかった。


ラストルは落ちてくる瓶を受け取る気が無いと周囲に見せ付けるように、腕を背中に回した。

瓶を落すまいと慌てて腕を伸ばす、男。

声を荒げ、男に命令する少年。


だが、瓶が誰かの手の中に入ることは無かった。




一閃



その軌道を見れたものは、ほんの少数だった。

少なくとも、少年にも男にも、それは見えなかった。

いや、それが鞘から抜かれるところさえも見えなかった。



落下する瓶が、ラストルの目線まで落ちてきた時

瓶の落下する下には、男の手が入り込み、誰もが瓶は男の手の中に落ちると考えた。

ホッと息をつく音が聞こえる。

だが、すぐにそれは悲鳴へと変わった。


ジェノスが刀を抜く。


そして、刀は鋭い軌跡を描き瓶を空中で真っ二つ、縦に切って見せた。

瓶を切った後、刀は差し出されたいた男の手の平ぎりぎりでピタッと風圧だけを残して止まった。


瓶は二つになり、男の手の両脇を通り床へと落ちていく。

中に入っていたポーションも、男の手で弾かれ、周囲へと飛び散った。


一瞬の静寂


そして、瓶が砕ける音と液体が床にぶつかる音が響くと、

まずは男の恐怖に引きつった悲鳴が響き

冒険者たちの息を飲む音が生まれた。


「あぁ、申し訳ない。手が滑ってしまった。」


「本当だ。御分不相応な方々の視線に入ったせいで、手が震えたな」


ふふふ

くくく


ラストルとジェノスが笑う。

バルトは苦笑を漏らす。

イストは嘲りを含んだ微笑を少年たちに向け、何時でもメルリーウェたちを守れる位置につく。

 

その場にいるものたちは、誰も彼も、ただただ呆然としていた。


滅多に見る事がないほどに希少で、高価なそれを

こんなふうに己の手で無駄にしてしまうなんて

ありえない

ただ、それだけが頭をめぐっている。



まさか、あれは違うものなのではないのか



そんな疑念を浮かべるものもいた。


少年たちも、その考えへと至ったのだろう。

こちらを睨み、その口が大きく開けられ・・・・・




「あっ」




それは、トールの口から出た。

男たちの身体に隠れようと必死になっていた、幼く少年

それが、いきなり響き渡るような声を出したのだ。

注目が集まった。

少年から出されようとした言葉が、音をなくした。



「トール?」



「破片・・・散って、当たったかも・・・怪我してたら、大変。

 これ・・・使ってください。」


トールが差し出したのは、先ほど真っ二つになった瓶とおなじもの。

それが渡されたのは、トールたちに忠告をした冒険者。

「はっ?」

それもそうだろう。

冒険者は戸惑いの声をあげるし、その仲間たちは目を丸めている。

破片ごときで怪我をするわけがない。

「あぁ、そうだな。こんなことで怪我を負わせてしまったとあっては大変だ。

 別に害があるわけじゃない。

 試しに、飲んでみてくれませんか?」

トールの企みを一瞬で理解したラストルが、笑顔を作って冒険者へと頼む。

その作られた笑顔を見た冒険者たちは、それに逆らえないものを感じていた。

逆らえない、逆らってはいけない。

そんな風に感じるなど、今まで生きてきた中でも無かったことだ。


「いいだろう。」


「おいっ」


仲間たちから制止の声が出るが、男に迷いは生まれなかった。

男に見えているのは、

逆らえない何かをもつラストルの笑みと

長い前髪の間からのぞく、トールの目だった。


小さな瓶に入った、少量の液体を口に入れる。


再び、息を飲む音が響き、静寂が包む。


効果は劇的だった。


男の晒された腕にあった太く引きつった古傷

頬から首筋に伸びていた、火傷の痕

額にあった深い切り傷の痕


それが一瞬にして、消え去ったのだ。


おおっ

まじかよ

本物だ

すげぇ

もう治った傷まで治すなんて


騒然と

仲間たちも立ち上がり、男の無くなった傷を触る。

周囲にいた冒険者たちは目を丸め、顎を外し、

事情を知らぬものが今ギルドに入ってきたとしたら、お腹を抱えて笑い転げるほどに滑稽な光景が広がっていた。


そして、

自分たちこそが主人公だと信じて疑わない少年たちは

フルフルと屈辱に顔を歪め、

自分たちにそれを渡さなかったラストルとジェノスを

自分たちに渡さなかったそれを、他の、薄汚い男に飲ませたトールを

睨んでいた。

殺気を放ち、今にも切りかかりそうに、










「ふざけるなよ。

 平民ごときが

 この僕に、逆らうなんて!!!!!」

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