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王女×死霊術士=世間知らず 異世界へ!!  作者: 鵠居士
冒険者の町 ディフェン
15/59

まずは、町に入ろう。

セイちゃんの社会科講座を少し変更しました。

でも、身分証もなしに現れる集団って怪しくて中入れてもらえないんじゃない?


夜も明けない暗闇の中、遠目に見える町は唯一の入り口の門を硬く閉ざしていた。

町へと伸びる道から外れた森の中に、周囲から見えなくなる効果があるテントの中で思い思いの休憩をとっているなかでの、イストの言葉にはそれはそうだと皆が頷いた。


魔の森へと挑む冒険者たちが集まる町、スカイル辺境伯領ディフェン。

広大で危険性がトップレベルの瘴気溜が生み出した魔の森はその中心部に大規模な竜の巣や希少な鉱物を含むファマス山脈、山脈を越え、再び広がる魔の森を越えると、豊富な資源が眠り、魔物が住む海が広がっている。魔の森の中には希少な植物や資源が茂っていることもあり、魔物などの危険性を理解しながらも中へ進む冒険者は後を絶たない。

そんな夢見て腕に覚えのある冒険者が集まるだけあって、ディフェンの町は活気にあふれ、冒険者を相手にしようと商人も集まってくる。

休息をとる冒険者やその家族たち、商人を守る為に、町は高い城壁に囲まれ、日が暮れてから門が開けられることは特別な場合を除いて無いに等しい。

門には門兵が配置され、人の出入りを確認し、怪しいものは牢に入れられ尋問を受けることになる。


この世界は15才で成人とみなされる。

15才になる前までは、何をするにも保護者の承認を必要とすることが多い。

この中で大人に見えるのは、フェウルとバルト、イスト、そしてラストルくらいだ。

ジェウスはぎりぎり成人したとみなされるか、という容姿

セイとトールは海外では童顔で年齢よりもうんと若く見える人種の為、メルリーウェたちの世界でも悪くて6、7歳は幼く見られたこともあり、実年齢が12歳なメルリーウェと共に完全にアウトだ。

身分証を持たない、荷物の少ない身軽な集団。

しかも、子供が三人もいるが保護者はいないように思える。

完全にアウト。牢へと連れていかれても文句は言えない。


「私は故郷の村で採れるものを持って、村々を物々交換に近い形で行商していた。

 半年ほど前に故郷の町が壊滅。生き残ったのは年若い子たちばかり。

 残ったものをかき集め行商をしながら旅をしていたが、魔物に襲われわずかな荷物を除く全てを失ってしまった。これらを元手に、子供らが安心できる地で定住したいと思って、ディフェンに来た。上の子らは村から出ることなく手に職を身に着けていた。ギルドで身分証明としてギルドカードを作りたい。ということで、どうかな?」

フェウルに、トールとメルリーウェ、セイが拍手を送った。

「じゃ・・・じゃあ、わずかな荷物・・・今から作るね・・・」

「中は何がいいかな?薬、装飾品とか?」

「宝飾品や宝石もいれておけ。俺の師が作り残したものということにしておけば、俺が宝飾職人ということをそれとなく印象付けられる。」

「で、ラスト、ラス。それは別の袋に入れて、お前が持ってればいいよな。」

殿下、ラストルと呼ぼうとする度に睨まれ言葉を詰まらせたバルト。

「じゃあ、トールは薬草とか、薬の瓶とか入った袋を持ってればいいな。んで、フェウルじいさんが食料とか入った袋。俺とイストは護衛役ってことで。メルはおびえた感じ出しとけよ。セイは強気な感じ。聞かれたら、少しだけ魔術が使えるって答えとけば完璧だな。」

バルトの言葉の通りに背負える形の大きめなカバンを生み出し、その中にいれるものも用意していく。

一つ目のカバンに、無骨な宝石の原石、綺麗に磨かれた宝石、そして美しい装飾を施された首飾りに指輪、腕輪、手持ちの鏡などを。

つめ終わるとそのカバンはラストルの前へ置かれた。

二つ目のカバンに、薬の素材となる植物が種類別に詰められた大きな瓶、素材を加工した茶褐色の液体が入った瓶、そしてポーションやマジックポーションなど名前が書かれた瓶を。

三つ目のカバンに、干した肉や水の入った皮袋、乾物、あとは細々としたアイテムを入れ、フェウルの前に差し出された。

「それと、トール。メルにカバンと糸や針を。これは服飾の仕事をする。」

「は・・・はい・・・・」

肩から斜めにかける可愛いデザインのカバンを生み出し、その中に様々な布や糸、針など裁縫道具を入れる。隣に座っていたセイがメルリーウェにカバンをかけさせ、紐の長さを調整してやる。

「メルの服、私も大好きだから嬉しいな。」

「・・・アラクネの糸とか・・・属性付与の服に装飾品、いいね・・・」

「じゃあ、トール君。私もメルとおそろいのカバン欲しいな。古びた本とか、魔道具、魔術師っぽいもの入れて置くから。村にいた変わり者の魔術師の形見ってことで」

「ふむ。これで準備はできたということだな。」

「ジェノスは、その口調」

少年の容姿で顎を摩り頷く姿は違和感満載だ。

イストが注意すると、コホンっと咳払いしてにこやかに笑いを作った。

「ごめんごめん。今度から注意するからゆるしてよ、イスト姉さん。」

「・・・頑張って慣れるわ。」

「ラスは村長の孫で装飾職人の弟子だった。

 ジェノス、トール、メルは兄妹でラスの従兄妹。

 バルトとセイも兄妹。

 イストとフェウルは叔父と姪ということにしておこう。

 ジェノスとバルト、イストは冒険者だったバルトの父に剣を習っていた。

 セイは村にいた変わり者の魔術師に魔術を教わっていた。

 トールは薬師に教わっていた。

 こんなところでいいかな。」

「いいと思うよ。でも、やっぱり怪しいことには変わりないよね。」

不安そうなことを言いながらも、セイはくすくすと笑っている。どうにでもなる手段を知っているから、本当に不安を覚えているわけではないのだ。

「だからこその《私のこの声》があるのですよ」

一瞬だけ、フェウルの声が二重に聞こえ、頭の中で甘く響いた。

「教会の秘術、心を惑わし教えを教唆する《神の御声》を使えば、信頼を得るのはたやすいというものですからね」

「そうやって信者を増やしていたんだから、教会って腐ってたんだねぇ」

「・・・僕たちの・・・世界でも一緒・・・」

フェウルは教会の中でも秘術と相性がよく、それを使い信者を増やし、寄進を増やし、友を教皇へと押し上げた実績がある。門兵ごときを信用させるなど、片手間でもできる簡単なものだ。

そんな強力な力を誇っていたからこそ、支えた友に疑念を抱かせ殺されることになったのだが・・・

「夜が明けて、人の姿が門の前に見え始めたら私たちも向かいましょう。」

「なら、私とバルト、ジェノスはもう少し狩りをしてくるわ。

 トール、もう一つ袋追加ね。

 インベントリの中にしまった毛皮とかも合わせて、町で売ればそれなりになるでしょ。」

「・・・分かったよ・・・」





 


「いや。大変でしたね。

 でも、大丈夫ですよ。この町は冒険者の町。

 この城壁に守られているんですから、子供たちも安心して暮れせます。」


「なんか、あんだけ考えたのが馬鹿みたいよね」


明るい門兵の青年の後に続きながら、イストのため息が小さく漏れる。

それに対して、シーっとバルトやセイが口元に指を立てて止めているが、内心は同じだろう。

門兵の隣に立ちながら笑って答えるフェウルも同じ思いだろう。

一番後ろでは、ジェノスがキョロキョロと周囲を見回し興味津々のトールとメルを両手で引っ張り苦笑を浮かべている。

ラストルは涼しい顔で、しかし横目で町中をチェックしている。


日が昇り、人の出入りがちらほらと見え始めた頃、テントをたたみ何食わぬ顔で道を進んで門へと向かった一行。

門の前で並んでいる人々の後ろについて順番を待った。

話し合った通り、究極の手段はあるもののやはり少しばかり緊張した面持ちの年少組、メルリーウェとトール、セイ。それほどではないにしよ、表情を強張らせたイスト、バルト。

涼しい顔をしているフェウル、ジェノス、ラストルが普通なのか、可笑しいのか・・・

一行の順番が回ってくる。

始めは不審気にみていた門兵たちだったが、フェウルの説明を聞き、そして最後に

《どうか入れてもらえないでしょうか》

とささやくと、表情が一変しにこやかに門の中へと入れてくれた。

「規則ですから。案内がてらギルドまでお連れしますね」

一人の門兵に連れられギルドへと向かっているのだが、以前の世界でも苦労をしていた経験のあるイストは納得いかないと顔をしてバルトとセイになだめられていた。


「門の前の広場は冒険者の待ち合わせに使われることが多いです。

 ここから伸びて町を突ききる大通りはお店が並んでいて見て回るだけでも楽しいですよ。

 あっ、真正面の、あの大きな屋敷が町を取り締まる代官の屋敷ですね。

 領主様の右腕って言われている方で元冒険者なんですよ。

 町の中央にある大広場には、冒険者ギルド、商業ギルド、医術ギルドの支部

 教会、あと大商会の支店が取り巻くようにそろっています。

 中心の噴水は、コインを投げ込むと願いが叶うっていわれているんで、試してみてください。

 大広場の奥は、職人区って言われてて腕利きが店を並べてます。」


門兵の青年はぺらぺらと饒舌に町の説明をしていく。

本来なら、身分証もない人間に気安くするなんてと考えるはずだが、フェウルの「《町はどんな感じかな》」という言葉に、話さなくてはという考えで頭が埋まっているのだ。


青年の言葉通り、一行が歩く大通りの両端には、服や武具、薬や食べ物を扱う店が立ち並んでいる。さ

それらを見ながら、買い物をしながら、大通りには多くの住人や冒険者たちが行きかい活気にあふれていた。

その軒先に並べられた品物を見ながら、トール、そしてラストルの口元に笑みが浮かぶ。


「これなら、商品が売れないということは無さそうだな。」


ラストルの呟きは小さく、前に歩く青年にも、近くにすれ違う町の住人たち、冒険者たちにも、聞こえることは無い。ただ、ラストルの微笑みに見蕩れるものはいた。平凡な顔立ちの青年の身体だが、魂に刻まれた生まれ持った王族の仕草というものを感じとるものがいたのだろう。


「・・・ポーション見つけた・・・平均銅貨50・・・マジックポーション・・・無いな・・・

 あっ・・・魔道具・・・灯りが150銅貨・・・魔道具は貴族のもの・・・かな・・・」


自分の生み出すものをどういう値段で売るか。

それには市場調査は欠かせないものだ。


「・・・インベントリの魔道具・・・ないのかな?・・・冒険者たち・・・大きな袋とかカバン持っているし・・・なら、僕のインベントリつきのカバン売ったら・・・大騒ぎ・・・?」


「剣もあるな。

 ふむ、鉄の剣が300銅貨か。

 魔術効果つき?20銀貨か、どういうものか後で見に行くのもいいな」


「服も縫製が荒いうえに、生地も麻が多いな。

 喜べ、メル。

 お前の服も需要が多そうだ。」

「本当、お兄ちゃん。嬉しい。」


後続から聞こえてくる数々に、イストを宥めていた二人も、ふて腐れていたイストも、いつの間にか笑いを抑えるのに苦しさを覚えていた。

けれど、その内容を聞く限り、これからの生活で資金面を心配する必要はなくなったようで胸のうちでホッと安心の一息をついた。

ただし、それによる厄介ごとへの覚悟もじわじわと沸いてきた。


「絶対に権力者が出張ってくるな。」

「それだけじゃないよぉ。腕に覚えのある、態度のでかい冒険者にも要注意だよ。」

「なら、権力層から冒険者になった、あるいは背後に権力者を背負った輩共は排除しなくてはね」


戦い担当が戦略を練っていく。

過ぎたる懸念では、絶対にない。

トールのチートアイテムも、メルリーウェの引きこもりによる熟練の縫製技術も、優秀すぎるラストルによる手先の器用さと芸術センスも、ありとあらゆる危険性を秘めていることは語るに及ばないのだから。


「商人にも注意ね。」

「ああいうのは黒一色だからな。商人ギルドも確認する必要があるし・・・」

「一人勝ちは絶対に許さない。どこも、そんなものよ。腕が鳴るわね」



「はい。ここが大広場です。」


目の前に広がる大広場。

多くの冒険者たちや買い物中の住人たち、そして露天で野菜などを売る商人たちの姿でごった返している。

その中心には大きな噴水があり、青年の言っていたようにコインを投げ込み拝んでいる人影が見える。

「あの正面右にある屋敷がさっきも見えた代官の屋敷です。

 で、通りを挟んだ向かい、正面左の大きな建物が冒険者ギルドです。

 ギルドの英雄の紋章『蛇の尾をもつ獅子』があるから分かりやすいでしょ?

 その横の、商業の紋章である『双鴉』が描かれているのが商業ギルド。

 代官の屋敷の横の白くて医術の英雄の紋章『杖を伝う蛇』の建物が医術ギルド。

 その横の『祈る乙女』の紋章の建物が英雄教会です。

 商業ギルドの隣、『捩じれた輪』が、銀行です。

 あとの、大通りを向かいあうのが大商会 ワイマール商会とディクスン商会のディフェン支店ですね。

 あっ、医術ギルドと教会の間の小さいのは僕たち門兵を含めた衛兵がいる詰め所なんで、いつでも遊びに来てくださいね。」


確かに大通りを囲むように大きな建物が並んでいる。


「私は行商人を止めて店を開きたいと思っているんだが、何処かいいところはないかな?」

「なら、冒険者ギルドの後に商業ギルドも行かれるといいですよ。

 ・・・・義務って訳ではないんですけど・・・無視すると厄介ですから・・・」

「そうなのかね」

今まで明るい表情で声を張って説明していた青年の表情に影が落ちる。

「・・・店を開くなら、いい場所がありますよ。

 ギルドの裏、大通り沿いで職人区の中でも大きい店です。」

「それはいい場所だね。でも、《どうしてそんなところがあいているんだい?》」

青年の表情に何かがあると感じ、話を濁そうとする青年に力を込めた声で聞きだす。

「代々続く宿屋があったんですけどね、

 代替わりした時に商業ギルドと揉めてギルドから抜けたんです。

 しばらくは、それまでどおりの営業を続けていたんですけど、

 影でですけど嫌がらせを受けるようになったんです、商業ギルドから・・・」

「そうなのか・・・ありがとう。私は、上手くやることにするよ。

 すまないね、言いにくいことを聞いて。」

「いえ、そんなことないですよ。

 店を出したら、遊びにいきますね。」

「あぁ、歓迎するよ。今回世話になったし、サービスもさせてもらうしね」


「ふぅん。なかなか、面白そうね。」

「・・・わざと騒ぎおこすなよ」

「起こすのはあっちでしょ。ねぇ?」

イストの視線を受け、トールが笑う。

「・・・商業ギルドに加入する必要・・・なさそうだし・・・」

「向かってきたのなら、叩き潰せばいいだろう」

「元宿屋なら、いろんなことができそうだな。見に行く価値あるな。」

過激な発言に、バルトが矛先を変える。

「カフェと、その一角で魔法薬と魔道具、宝飾品とか売ることもできそうだから。

 さっさと資金作って買っちゃおうよ。」

「・・・高いんだろうね・・・」

「ここが冒険者ギルドです」

思い思いに話ながら進んでいくと、何時の間にやら大広場を通り抜け冒険者ギルドの前についていた。

「僕がギルドの方に説明するんで、」

「何から、何まで、すまないね」

「これが仕事ですから。それに、こういうことは結構あるんですよ。

 流石に、村一つ一つにまでギルドの支店作れるわけじゃないですから」

扉を潜ると、中には多くの冒険者たちが思い思いに過ごしている。

5つあるテーブルを囲んで、これからの計画を立てたり、袋から出した銀貨を数えているもの。

右側の壁沿いには、張られている依頼の紙を見上げている冒険者たち。

左側にはカウンターがあり、積み上げられた植物を鑑定している男が座っている。

青年はその人ごみを避けながら、奥へと進んでいく。

「・・・本当のギルドだ・・・」

一番奥には三つに区切られたカウンターとそこに腰掛ける三人、そして、右端のカウンターの横には建物の奥へと続く扉と二階にあがる階段があった。

その一つ、一番右側の女性が座るカウンターへ進むと、青年は門で説明した事情を女性へ伝えている。

「・・・というわけで、この人たちのギルドカードをつくって欲しいんだ。よろしくね」

説明を聞いた女性は、全員を一瞥するとにっこりを微笑みを作った。

「分かりました。お疲れ様、ザイ。

 ようこそ、ギルドへ。私は受付を担当している、アマリエです。

 ギルドについて説明しますので、そうですね・・・この人数ですもの、奥の部屋にご案内します。

 こちらへ。」

女性は立ち上がると、階段へと全員を導いた。

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