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王女×死霊術士=世間知らず 異世界へ!!  作者: 鵠居士
引きこもり’s、異世界へ
11/59

悪巧み 奴隷 魔術

「あの時、生贄にされた人たちは奴隷の町で買ってきたみたい。

 だから、その記憶も得ることができたの。」


怪しく光るセイの目は、得た情報の中を見ている。


劣悪な環境。

多くの人を閉じ込める檻。


厭らしい笑いを浮かべる客たち。


媚びへつらう商人たち。


そして、環境に耐えられず死んでいった奴隷たち。


死んだ商品を捨てる、町の端に掘られた大きな穴。

穴に溜められたそれらは、穴が一杯になると魔術で焼却される。


「あっ、やっぱり宝石はいらないわ。

 町の中に降りなくてもいいよ。

 死体を溜めた穴があるみたい。

 町の住人は滅多に近づかない。

 だから、選びたい放題♪」


「そうか。ならば、遠慮はいらないな。

 トールと私が行って来るとしよう。」


トールにも異論はない。

すでに、ポーチから古い指輪を二つ取り出し、ジェノスへと手渡す。

『視覚障害の指輪』装着した者を視認することができなくなるアイテムだ。

セイとトール、イストは何度もそれを使い王宮の中を闊歩していたため、何時でも使えるようにとポーチにもちゃんと入っていた。

「なら、私たちはもう少し森の奥に入って腕試ししましょう。

 セイ、貴女も魔術の練習をしたらどう?」

「そうだね。魔術はちょっと違うところがあるから使ってみないと・・・

 あの世界では、一つの血に一つの魔法って感じだったから、中々発展がなかったんだね。

 でも、この世界だと適正と魔力があれば色々な魔術が使える。

 ふふふ 楽しみぃ」


「では、私とトールは行って来る。

 頼んだぞ、バルト。」


宙に浮かんだ絨毯に先に乗っていたトールの後ろに、ジェノスが軽やかに飛び乗る。

そして、二人が指輪を装着すると、そこには宙に浮かぶ絨毯だけが残った。

「あれぇ、絨毯はどうするの?下から見たらビックリだよ?」

「この絨毯・・・見えなくなる機能・・・ついてるから」

誰もいない空間からトールの声が聞こえる。

すると、絨毯も影も形も消えていく。

「じゃぁ・・・行ってきます・・・」


多分、空に飛んでいったのだろう。


なんとなく、気配が消えたような気がする。


「それじゃあ、私たちも行きますか。」

「基本は、私とイスト姉さんが動くってことでいいでしょ、バルト兄さん?」

「あぁ、俺はメルを見てるわ。」

「頑張って着いていくね。」


「あっ、ここ、このままにしたら駄目だね」

森の中に足を踏み入れたが、セイが慌てて振り向いた。

確かに、森の中にいきなりテーブルとイスがあったら驚くこと間違いない。

セイが腕をあげ、今までいた場所へと伸ばす。

「《重力》《範囲設定》《潰す》」

まず、テーブルとイスを囲うように光の輪が生まれた。

あとはただ、光の輪の中にあるもの全てが押しつぶされただけ。

光が消えた後、白い粉末が風に消えていき、輪の形に沿うように凹んだ地面だけが残っている。

「うん。良い感じ。」

「おぉ。」

「すごいね!!

 ねぇ、セイ。私も魔術使えるようになる?」

首を傾げて期待を寄せるメルリーウェを見つめるセイ。

「う~ん・・・メルの場合、魔力はめちゃくちゃあるけど

 ・・・全部死霊術の方に注がれているから・・・無理だね。」

「そうなの?じゃあ、イストお姉ちゃんやバルトお兄ちゃんは?」

「イスト姉さんは風と水、バルト兄さんは雷かな?

 魔力の量が少ないから簡単なのしか無理そうだけど。」

「へぇ、使えるのか。平民出の俺やイストが、なぁ」

手の平を見るバルト。

「あの世界だと、魔法は受け継がれる血に一つ。

 様々な魔法が発現するのは、聖王国王族の血筋だけ。っていうのが魔法だったからね。

 メルの死霊術の魔法だって、王家始祖の妃の魔法でしょ?

 特権階級だけのものだった。

 この世界では違う。魔力があって、適性ある属性の魔術なら使えるよ。」

「セイは、どうして属性が分かったの?」

「あの男、実力はあったみたい。

 魔術師ギルドっていうのがあって、

 上級魔術師っていうのになると弟子を育てるようにって

 魔力の流れを見ることができるようになる刻印を目に入れられるんだって。

 それを貰っちゃった。

 属性は、魔力の流れに色があっってそれを見たり、触ったりしたら分かるわ。」

セイが両手を空中に遊ばせる。

言っていることから、魔力の流れというものに触れているようだ。

「変な見え方だから、普段は抑えておけばいいみたいね。

 ちなみに、メルが持っていて、私たちも共有している死霊を見る目と同じようなものよ。

 あれも、見たい時だけ見るように出来るでしょ?」

「魔法と魔術の違いは?」

「魔術は、儀式とか呪文とかを使って世界に干渉するもの。

 魔法は、魔力を精霊や悪魔、魔獣に与えて結果をもたらすもの。

 ってことになってるよ。」

きょろきょろ あたりを見回すメルリーウェ。その目は、少しだけ紫色になっている。

「精霊がいるの?」

「特殊な目が必要らしいけど・・・

 死霊の目でも、見えないの?どこにでもいるらしいけど・・・死霊とは違うんだね、やっぱり。」

がっかりと肩を下ろす。

「まぁ、魔術に関しては私才能あるみたい。

 男の記憶にある魔術書、ほとんど理解できたし、属性も大概のはあるみたいだから。

 魔術に関しては、任せてね。」

三人は気づいてはいない。

セイが男の記憶から奪い取ったのは、伝説に残るような魔術師たちの秘伝の書と言われる魔道書の数々。それらを記憶の中から垣間見るだけで、セイは理解してしまったのだ。








「・・・あそこ・・・みたいだよ」


指輪をはめたものだけが、指輪をはめたものを見る事ができる。

透明仕様になった『空飛ぶ絨毯』の上、ジェノスだけが地上を指差すトールを見る事ができた。

トールが指差す方向には、ほどほどの屋根が連なる町と、その外れにあるぽっかり開いた穴。

穴の周りには森が茂っており、あれなら指輪がなくても気づかれること無く作業できるだろう。



「これは・・・ひどい光景だ・・・」

穴の崖ふちに立った二人が見たのは、三メートル程の深さがある穴の中を折り重なるように捨てられた数々の遺体。人としての心を失ってしまった二人でも、顔を背けてしまう光景だった。

「・・・損壊が激しくても・・・治せるから・・・条件に合うものを選ぼう・・・」

「条件はどうする?」

「店主役にする、そこそこな年の男。

 宝飾職人にする、若い男。

 鍛冶師役にする、屈強な男。

 歌姫役の、若い女」

指折り数えるトールの言葉を聞きながら、ジェノスは穴の中を見つめ探していく。

「なるほど。

 確かに適するものはあるな。」

「・・・じゃあ、この袋に・・・」

トールが子供大の巾着袋を手渡すと、ジェノスは躊躇うことなく穴の中に飛び降りた。

そして、目星をつけていたそれらを次々に袋に入れていく。

慌てて『空飛ぶ絨毯』に乗ると、トールも穴の底へと向かう。

「あぁすまんな。」

トールが下りた頃には目当てのものを全て袋につめたジェノスは絨毯に乗る。

「これで、全員がそろうな。」

「・・・うん・・・リーウェも喜ぶね・・・」





「・・・ただいま・・・」

「何をしたんだ、お前たちは?」


機嫌よく、メルリーウェたちのもとへ文字通り飛んで帰った二人が見たのは、

切り倒された数本の木々、

水浸しの地面、

焼き焦げた後のある草木、

お腹を抱えて笑うメルリーウェ

だった。


「魔術の練習だよ?」


光の玉を作って周囲に浮かばせているセイが笑う。


そのそばには、ぐったりと倒れ付したイストとバルトの姿。


「魔術?」


「うん。イスト姉さんに風と水、バルト兄さんに雷の、魔術が使えそうだって言ったら練習するっていうから。そしたら、魔力が尽きちゃったんだ。」

「何をしているんだ、お前たちは・・・」

呆れて怒る気にもなれない。

「ジェノス兄さんは・・・火、だね。」

「そうなのか?かわりなしか。」

「ううん・・・多分、使い方も一緒だよ。」

貴族出身であるジェノスは、火の魔法を受け継ぐ血である為、火の魔法を扱えた。

少しだけ他の魔法もつかるようになるのではと期待していたジェノスは、顔に出さないまでもがっかりして肩を落した。

「イスト姉さん・・・バルト兄さん・・・マジックポーション・・・飲んだら、魔力戻るよ・・・」

動くのも億劫そうな二人の前に二つの瓶を置くと、そのままメルリーウェの前に近づく。

「・・・リーウェちゃん・・・翁と王子様の体持ってきたから・・・お願い、ね・・・」

思う存分笑って息を荒げているメルリーウェの前に、トールが袋から二つの体を取り出し、地面に寝かせた。30代後半あたりの細身の男と10代半の若い男の体。肌が黒ずんだり、傷があったりするが、そんなものは後でポーションを飲ませれば、すぐに治ってしまう。

「は~い」

メルリーウェが力を振るう。

全員へも力の余波が流れ、その目が死霊の目としての機能を持つようになる。

ジェノスの時と同じ。

メルリーウェの周りに漂う、紫色の光の珠がその手に導かれたそれぞれの体へと溶け込んでいく。


先に目を開けたのは、青年の方。

栗の渋皮のような濃い茶色の髪に目。眉間には皺が寄り、口元は硬く結ばれている。

生前は優しそうな面影だったかもしれない。

けれど、今の中身が浮かべた表情は冷たく無関心なそれだった。


次は、白髪交じりの灰色の髪に青の目。こちらは優しげな表情を浮かべ、そばにいたメルリーウェの頭をなで始めた。



「まずは、ポーションを渡せ。」


青年の手がトールへと向けられる。

高圧的にも聞こえるそれに誰一人怒ることもなく、苦笑を浮かべた。


「はい・・・どうぞ・・・


 ・・・服も、いりますか・・・?」


近づいてみて、少しだけ気になる匂い。

元はあの場所にあった体だ。

それ以前の、生きていた時から着続けきた服のそれは、仕方ないものだろう。



「当たり前だ。」



トールは慌てて、近くのものに触れることで、二人分の服を作り出した。

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