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双倭学園恋愛奇憚

これも一つの未来の形

作者: 藤堂阿弥

リクエストありがとうございます。

調子に乗って書いてしまいました。これも一つの形であって、ひょっとしたら違う未来が開けるかもしれません。

全ては、本人の選択と行動次第ですね。

「それが、何をもたらすか承知の上で言っているのか?」

 華苗との婚約の解消――と、いってもあくまで両家間での口約束だが――を両親に告げたとき、父から返ってきた言葉に俺は首を傾げた。

「何を…ですか?確かに御子柴との縁組は八島にとって悪くは無いですが、他の財閥との婚姻で得る、という考えがそもそも古臭いと感じますが」


 彼女と出会い、今まで知りえなかったことを知り、そうして思ったこと。他者の名を借りなければ出来ないと、いうのは自分の実力が無い、と言っているようなものではないか。


「上総!」

「…いい。そうか、それがお前の考えか」

 母を制し、大きく息を吐いて父は俺を見た。

「はい」

 華苗には悪いとは思う。今までこちらの都合で引っ張りまわした自覚はある。だが、これで彼女も自由だ。俺のように、本当に想い合える相手に出会うことが出来るだろう。その方が彼女にも良い事だ。どうせ俺への気持ちは愛情よりも友情に近いものなのだから。


 少なくとも、その時の俺はそう思っていた。


「分かった」

 ソファに身を沈め、静かに俺を見つめる父の視線は、親のそれではなく経営者のものだった。

「自分の力を示したいのであれば、それを私たちに見せてみろ。…手始めに大学の進学だ。外部の国立のみ授業料は払ってやろう。だが、それ以外の資金は自ら作れ。勿論、家からの通学は許さん」

「…はい」

 自分が試されるであろう事は覚悟していた。…正直思ったよりも厳しくはあったが仕方がない。

「分かっているだろうが、大学の留年は許さん。其の時点で資金は止める。不慮の事故以外の言い訳は一切受け付けん。いいな?」

「はい」

「就職もだ。他者の力を必要としない、というのなら、自力で勝ち取れ。妨害もせん…これは御子柴にも頼んでおこう…頼めた義理ではないが、な」

「はい。お手数をお掛けします」


 最後の呟きの意味をこのときの俺は違う意味で解釈していた。

 だから、父と母が俺の態度に落胆していたことも、俺自身を見限って、八島の後継探しを始めたことも気が付いていなかった。

 華苗が、その後八島の身内と婚約したという話には少し驚いたが、心の中で、自由にしてやったのに、結局お嬢様か、と思った事も事実だ。

 そう、俺は何も知ろうとはしなかったのだ。八島という世界で生まれ育った以上、分かっていた「常識」がすっぽりと抜け落ちていた。






 大学生活は確かに大変だったが楽しかった。周囲の誰もが、俺を「八島の跡継ぎ」ではなく、ただの「八島上総」として扱ってくれたことが新鮮で、大学とバイトでなかなか時間が作れない俺に、彼女は不満一つ言わず、時々俺のアパートに来ては食事なんかを作ってくれた。


 暗礁に乗り上げたのは、就職時。言っては何だが、自分の成績に相応の自負を持っていた。しかし、次々送られていく、いわゆる「お祈りメール」。

 書類選考時に、筆記試験に…面接まで行くことすらなかった。筆記など、手ごたえがあったにも関わらずだ。流石に不審に思ったのか、就職課の人が尋ねてくれた返事に俺は拳を握り締めるしかなかった。


『八島家の御曹司は、ウチには勿体無い』『せっかく育てた人材が、最終的に他社に行くのが分かっていて採用はしない』…妨害はされては居ない。しかし、当然協力もされていない。ある会社など、八島との結び付を得るために採用を検討したところ、八島サイドから、一切の関わりを否定された、という返事があったそうだ。


 同じ成績なら、育てただけの時間を無駄にしない相手を得たい。会社の言い分は間違っては居ない。


 彼女から、義父の会社に口を利こうか、との言葉に首を振った。それこそ本末転倒だ。

 ぎりぎりのところで八つ当たりしそうになる自分を押しとどめ。就職が決まるまで会うのをやめようと言い、泣かせてしまった事に罪悪感を覚えはしたが、二人の将来の為だと言い聞かせる。

 そうこうしている内に、就職課の職員から「新しい会社だから、この先どうなるか分からないけれど、ここの卒業生たちが立ち上げた会社だから」と、紹介され内定がもらえたときは、ほっとしたと同時に野望も持った。


 この会社を俺自身の手で大きくし、いずれ八島への手土産にしよう、と。


 久しぶりに会った彼女とのデートに嬉々とし、微かに見せる陰に気付くことが出来なかった。







「久しぶりね。上総君」

 入社式の後、呼び出された社長室で、当の社長を後ろに立たせ、ソファに身を沈めている女性に、俺は息をのんだ。

「…華蓮さん…?何故」

「この会社の出資者に私と華澄がいるのをご存じなかった?…まぁ、あっちの世界から離れた貴方ですものね。仕方ないかしら」

 ゆっくりと弧を描く口元に、思わず身震いする。御子柴で注意すべきは、勿論彼女たちの父親である当主であるが、それ以上に上二人の令嬢には注意しろ、と…約束した相手が華苗嬢でよかったな、と親戚筋によく言われたことを思い出す。

「そんな顔しなくても、私たちは出資しただけ。ここの人事に口出しするつもりはないから安心して頂戴」

 その言葉に、詰めていた息を思わず吐き出した。



「彼、とても優秀だから、心置きなく使ってやって」


 しかし、続けられた言葉に、俺は知るのだ。

「この会社を手土産にしよう、なんて気を起こさないくらいに、ね」



 彼女が去った後聞かされた。華苗が一時期置かれた立場と、御子柴が決して表に出さなかった、俺自身に対する怒りの深さを。それと同時に、この会社を乗っ取りたいのなら、やってみるがいい、言う社長の口の笑みの形が華蓮さんと同じことに気が付いて、背筋が震えた。



 あの時、真摯に対応していれば。

 自分の気持ちや彼女を優先する余り、耳を閉ざした事をきちんと聞いていれば、何か違ったのだろうか。






 そして、想う相手に会うことすら儘ならなくなる…その状況に、彼女の義弟がどう動くのか…を、この時の俺は考えもしなかったのだ。


 後悔とは後から悔やむもの…どうして俺は何時まで経っても学ばないのだろう。






少し上総が不憫だと思って頂ければ幸いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 一回も登場してないはずの……噂だけの存在であるはずの義弟の存在感が半端ない件について
2015/05/27 01:22 退会済み
管理
[良い点] はじめて。 お約束シリーズ、すごく面白いです。 彼女視点での話で、今回より強烈な、ざまぁ展開を読んでみたいです。 面白い作品をありがとうございました
[一言] これって、あれですよね。 上総はすべてを捨てて駆け落ち同然で彼女と付き合いだしたのに、彼女はぬるま湯の仲で「健気な私」に酔い、挙句、彼氏に放っておかれる「可哀そうな私」に酔って義弟に乗り換え…
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