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アイニーネの力

みてみんサイトの「ゐうら」さんに、カレルのイメージイラストを頂きました。

なんでカレル!? と言うお話ですが、幼女? とミリタリーがお好きな様子。これからもチョウチョイ頂けるようなので、こちらにもチョイチョイ挟んで行きます。



挿絵(By みてみん)

 ティレロの事は保留となった。決定的な証拠が無い上に、はっきりとした目的が分からなかったからだ。

 現状では監視を強めた上で、ティレロの動向をしばらく伺い、それでも何かをやらかすようなら、拘束もやむなしと言う結論に落ち着いた。

 その後に少々の夕食をとって、時間差をつけて各自に帰宅。

 私が最後になった為に、アイニーネと共に待つ事にした。


「それではまた明日みょうじつに」

「ああ」


 座ったままでドーラスに言う。ミッシェランはすでに帰っているので、残るは私とアイニーネだけ。暗闇の中にドーラスが消えると。


「おばさん」


 と、不意にアイニーネが言って来た。私はと言うと眉毛を動かし、返事をするべきかしないかで悩む。

 実際問題年齢的には、そう呼ばれても仕方が無いが、私も一応女であるので、その呼ばれ方には思う所があった。


「おばさーん」

「レーヌ・レナスだ……出来れば名前で呼んでほしいのだが……」


 二度目のそれでソファーに向かう。定着する前になんとかしなければ、私の以降の呼び名が決まる。

 幼女に「レナス」と呼ばれるのも何だが、おばさんよりは余程良い。


「きゃはっ♡」


 そう思って言うと、アイニーネは笑い、「じゃあレナちんって呼ぶね!」と続けるのである。

 おばさんよりは千倍マシだが、年少者からのあだ名も割とキツイ。

 おそらく私は口の端を引きつらせて「あ、あぁ……」と返したと思う。

 すると、アイニーネは「レナちーん!」と言いながらに、ソファーから飛び起きるようにして立ち上がって来たのだ。

 歳が歳ゆえに仕方が無いが、この子には少々落ち着きが無い。

 すぐにも古びた窓へと近付き、「変わった家だよねー」とまずは言った。


「あ。ひげのおじさんだ」


 窓からドーラスが見えたのだろう。直後の呼び方には若干笑う。


「レナちんのお父さん?」

「いや、ただの同僚だ」


 その後の問いには笑い声をこぼし、父親にされたドーラスを哀れんだ。

 アイニーネは「同僚」と言う単語にも、理解が追い付いていないようで、しばらくの間は連発していたが、やがては飽きたのか窓から移動。

 それから私の隣に座り、「お父さんに会いたい」と、不意に言った。

 表情を伺うが悲しそうでは無い。会えない事に絶望はしていないのだ。

 言い換えるならどうにかすれば、会えると言うような気持ちで居るようで、或いは私がその方法を知っていると思って言ったのかもしれない。

 答えとしては知ってはいるが、可能性としては非常に低い。

 それとてあくまで私の理論で、誰かの保証がある物でも無い。

 だが、大人として、人として、「諦めろ」等とはとても言えず、結果として私は「その内にな」と言ってしまい、アイニーネに「ホント!?」と迫られるのだ。


「ああ、きっと諦めなければな」


 嘘では無いが真実でも無い。いつのも曖昧な返答である。

 我ながら卑怯だと思いはするが、他に返せる言葉も無かった。


「じゃあ諦めない! 何か知らないけど、この世界で一杯頑張れば良いんだよね!

 アイニーネ頑張るよ! レナちんも頑張ろうね!」


 いや、一応頑張って居るのだが……

 そうとは言えず、「ああ」と言う。それを聞いたアイニーネは「レナちーん!」と言って抱き付いて来た。

 奇妙な感覚。そして温かみ。

 母性愛とでも言うのだろうか、初めての感覚に戸惑ってしまう。


「そ、そろそろ帰るぞ。差し当たり言葉だな。

 ひと月に一度の審判の日に、まずは言語を優先して取るのだ」


 そんな気持ちを誤魔化すようにして、私は立ち上がってアイニーネに助言した。


「しんぱんのひ???」


 まだひと月が経って居ないのか、アイニーネが返した反応はそれ。そういえば相棒妖精が居ない所を見ると、ろくに状況を理解できないままに、こちらに投げられた可能性が高い。

 五歳の子供に理解が出来るか。それは正直難しい所だが、少しでも生存の可能性を高めてやるのが先を行く者の務めと言える。

 私は馬車に向かいがてらに、まずは妖精の事を教えてやった。


「ふーん。面白そう! ピッキーって名前にする!

 わたしが飼ってたウンドロコの名前だよ!」


 ウンドロコの部分が謎過ぎたのだが、とりあえずの形で「そうか……」と返す。

 その上でしばらくは妖精を通して会話をしろとアドバイスした。


「うん、わかった!」


 果たして本当に分かったのだろうか。子供とは大抵こういう反応をする。

 しかし、本当は分かって無くて、とんでもない事をしでかしたりするのだ。


「(まぁ、最初から信じないのも何だな……まずは信じる事から始めよう)」


 まるで何の歌のようだが、心の中で密かに思う。

 その後に館の玄関を開け、待っていた馬車を視界に入れた。

 流石に二人は帰ったようで、残っていたのは私の馬車だけ。


「ぎゃあっ!?」


 直後に御者が悲鳴を上げて、首から出血して前のめりに倒れた。

 喉仏を一閃。得物は短剣か。

 御者を殺した人物は、黒い外套に身を包んでおり、すぐにも現れた十数人とこちらに向かって駆け寄って来た。

 敵意があるのは明らかである。

 アイニーネの前に立ちはだかって、剣を召喚して相手に向かった。


「一斉にかかれ! そいつの相手は無理にするな!」


 そんな声が聞こえた後に、奴らが一斉に宙に飛ぶ。

 そして、私達に群がり落ちて来て――


「ぎゅわっ!?」

「ギャヒィィィ!?」


 どう言う訳か同時に吹き飛んだ。吹き飛ばされた連中は、地面や、木や、石に激突。

 その殆どがうめき声を発して、その後の動きが取れないで居る。

 よくよく見ると周囲には、薄白うすはくの膜のようなものが発生しており、おそらくそれが発生したせいで、奴らが同時に吹き飛んだのだと思われた。

 勿論、私はそんな事をしていない。やったとしたなら氷の壁になる。

 疑惑の顔で振り向くと。


「えへへへ……アイニーネ頑張った」


 と、アイニーネが顔を綻ばせていたので、それをやったのがアイニーネだと、認めざるを得なくなるのだ。

 テレキネシス……とか言っていたか、おそらくそれを使ったのだろう。

 襲撃者達は今も尚、受けたダメージに苦悶している。

 五歳でそれとは末恐ろしいが、言い換えるなら最低限では自分の身は自分で守れるという事。

 私はその点には素直に感謝し、「良くやったな」と、アイニーネを褒めた。

 その後に襲撃者の一人に向かい、剣を突き付けて事情を問うと。


「し、知らねぇよ! 俺は何も! 上から命令を受けただけなんだ!

 女と一緒に居るガキを殺せって、上から命令されたんだよ!

 だから頼む! 見逃してくれ! こんな仕事からは足を洗うから!」


 見苦しい事に命乞い。殺す価値も無いと思い、「そうか」と答えて他へと向かう。

 しかし、そこでの答えも同様で、命令をした者は謎となったが、予測の範囲を出ない中で、私は大体の目星をつけていた。

 そう、ティレロ・アルバードである。このタイミングでこんな事をさせる奴は、私の知る限りでは奴しかいない。

 やり方が少し露骨になって来たが、こちらにバレても構わないと言う事か。

 それとも、バレても構わない所に奴の目的があるのだろうか。

 三人で考えても分からなかった事だが、奴の目的が本当に見えない。

 もしかすると、ただ、単純に、混乱を招きたいだけでは無いか。


 そんな事を思っていると、悪党達がようやく立ち上がり、次々に逃げ出し始めたのである。

 それでもダメージが残っているようで、中には骨折している者も居る。

 大したものだ、と、思いながらに見送り、袖を引っ張って来たアイニーネに気が付いた。


「帰るか?」


 聞くと、「うん」と小さく頷く。少しは懐いてくれたのかもしれない。

 嬉しい? いや、何だろうな。初めての感覚なので何とも言えないが。

 兎に角、御者をそのままには出来ないので、そちらに向かって遺体を抱え、馬車の中に乗せた後に、アイニーネと共に前部に座った。


「これ、飛ぶの?」

「な、なに?」


 直後の言葉に眉間を寄せる。質問の意味が良く分からない。


「飛ばないんだ。じゃあアイニーネが飛ばしてあげるね!」


 無言で居ると、アイニーネはそう言い、何かの力を使ったのだろう、馬車ごと私達を夜空へ飛ばすのだ。


「ブヒヒヒヒイイン!?」

「きゃはははっ!」


 馬が驚き、私も驚く。喜んでいるのはアイニーネだけだ。


「それいけー!」

「よ、よせっ!?」


 そんな中でアイニーネが号令し、馬車の速度が急激に上昇。夜空を流れる流星の如き速度で、首都の上空を滑空し始めた。

 凄まじい疾走感。そして恐怖。馬車のあちこちが軋みを上げている。

 このままで行けば空中で、分解してしまいそうな風圧である。

 馬はすでに完全に失神し、だらしない顔をしてぶら下がっており、馬車は引くものがいないままに、首都の夜空を無尽に駆けた。


「楽しいねレナちーん!?」

「うぐぅぅぅぅ!?」


 アイニーネが笑顔で聞いて来るが、私に返せる言葉は無かった。

 と言うより、返すだけの余裕が無くて、必死で座席を握っていたと思う。

 怖いとは思わないが「このままではマズイ!」と、心配するが故の必死さだと言える。

 いや、それは要するに、落ちる事を恐れた恐怖であるのか。

 そんな事すら分からないままに、馬車は三周ほど首都の上空を回る。


「あー面白かった!」


 やがて、アイニーネは満足げに一言。その事によって速度が低下し、私はようやく息を吐いた。

 おそらく髪はボサボサで、瞳孔も開き切っていた事だろう。

 たまたま見つけた我が家を指差し。

「あそこがうちだ……」と、震える声で言った。


素質としてはトップクラスですが、参入の時期がちょっとばかり……

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