質問応答会議
ヨゼル王国の首都に戻るなり、私は一つの会議に呼ばれた。
その名を、質問応答会と称する、今までに一度も聞いた事が無い物で、どう言った物なのかをヤールに聞くと「さぁ……」と両手を広げるのである。
「軍法会議とはまた違うようですが……察するに体の良い言葉責めかと。
一戦もせずに領土を明け渡した事に、随分と憤りを感じていたようですからな」
続けて言った言葉がそれで、「なるほど」とまずは言葉を返す。
ならばどうして自分が戦わないのか。
これは考えるだけ全く無駄なので、直後には「面倒だな……」とだけ小さく呟いた。
「ま、仕事の一環ですよ。適当に黙ってればすぐに終わりますって。
奴さん方は要するに、文句を言いたいだけなんですから」
「腕の良い人形技師でも探して、そっくりな人形でも作って貰うか……
そんな事なら人形にでも勤まる。感情があるだけ、人間には不向きだ」
言葉を返すとヤールは笑い、「ですな」と答えて召喚書を出して来た。
日付は明日で開始時刻は十時から。終了時刻が未定という点が、面倒臭さをいや増しにする。
やるべき事は多々あるのだが、上からの命令ならば致し方なし。
ただ、一部の愚か者の満足の為に、本来やらなければならない事が後回しにされるのは腹立たしい事だった。
そして、翌日。朝食をとり、九時五十分には指定地に到着。
場所としては街の外れの、図書館の横にある神殿のような建物で、通常ならば裁判等を行う施設が、質問応答会とやらの場所になるらしかった。
だが、私に質問する者――
係の者は質疑者と呼んでいたが、彼らが一人も来て居ないと言う事で、私は中に一人で入れられ、椅子に座らされて待つ事になるのだ。
人を呼びつけて置いて自分達が居ない等、まさに言語道断である。
確かに十分前は早いかもしれないが、五分前には最悪来るべきだ。
私が細かいのか? いや、普通だろう。五分前行動は子供でもする事だ。
そんな事を思いつつ待っていると、おそらく十時から二十分は過ぎただろう頃に、ガヤガヤと数人が姿を見せて来た。
位置で言うなら私の正面と、左右に繋がる机に向かい、各面に二人ずつ、計六人が、話をしながらそこへと座る。
その際に、本来ならするはずの遅刻に対する謝罪も行わず、むしろ、大きな欠伸さえしている者が居て、私の額に青筋を浮かばせた。
「(いや、我慢だ……常識が違うのだ……奴らはそう、別の生き物)」
そう思う事で何とか耐えたが、私の怒りは爆発寸前。
「何をやっとるのかね? 起立したまえ」
と言われて、危うく剣を呼びかけるのだ。
だが、ギリギリで右手を押さえ、両目を瞑ってその場に立ち上がる。
それから奴らの顔を見回して「それで?」と発して開始を促した。
「あー……将軍。君は先日、我らが領土……旧、ラーク王国の事だが、ここを戦わずに明け渡したとか。これについて釈明する部分は?」
釈明とはつまり言い訳の事である。戦わずに領土を明け渡した事に言い訳をしろという事らしい。
全く以て呆れてしまうが、説明をせねば帰してくれまい。
そう思った私は小さく息を吐き、その後に順に説明をした。
戦っても勝てる可能性が低く、また、勝ったとしても被害は甚大。
例え投降兵が主だった戦力だとしても、失った命と信頼は返らない。
故に、私は一時の撤退で、戦力と命を温存したのだと。
「ふむ……では、背信行為では無いと?」
返されて来たのはそんな言葉。思わず「馬鹿なのか?」聞き返しそうになる。
しかし、どうにかそれに耐えて、「無論だ」とだけ短く答えた。
耳にした奴らが何かを話し出し、私への視線が一時的に無くなる。
その隙に小さく息を吐いて、「ゼーヤを撫でたい……」と密かに思った。
モフモフした毛を。そして尻を。尻尾を掴むと甘噛みして来るが、本気では噛まない頭の良い子だ。
最近は少し慣れて来たようで、私が寝ているとベッドに忍び込み、脚の間で寝るようにもなった。
今度の休みにはアレをやってみよう。円盤状の何かを投げて、取って来させる謎の遊びだ。
公園でたまたま見かけて以来、「やらせてみたいな……」と思っていたが、色々あって忘れていた事を、ここになって急に思い出した。
きちんと取ってきたらおやつをやろう。ケーキでも食べるのか? 雑食だからな。ついでにキウイケーキも買って、一緒に食べるのも悪くない。
「…軍……レ……将軍! 聞いているのかね?! レナス将軍!?」
「あ?! ハァッ!?」
そんな妄想に耽っていた為、直後の私は間抜けに返事。
その後に慌てて我に返り、状況の把握に首を動かした。
呼んでいたのは正面の男で、何やら質問もされたようだ。
全員が真剣な顔をしている辺り、割と重要な質問らしい。
まさか、「妄想にふけっていた」とは言えず、私は表情から質問を推測。
「どうなのかね?!」
「あ、ああ……」
だが、土台無理な話であり、押して来た言葉にまずはそう言い、「どうだったかな……」と、中途半端に答えた。
「マール長官。彼女も女性だ。やはりその質問は……」
「うむむ……そうですな。直接には関係が無い事ですし、紳士の我々は察するべきですか」
何やら雰囲気がおかしい気がする。或いは答えを不味ったかもしれない。
「レナス将軍。つまらない事を聞いて済まなかった。
この事はここだけの話にするので、貴殿も早くに忘れて欲しい」
「い、いや、待て。何の話だ? 正直に言うが聞いて居なかった。私に何を質問したのだ?」
右手に居た男がすまなそうな顔をするので、流石に私は質問するのだ。
聞かれた男は「いや……」と一言。
「聞いた話では敵軍に捕まり、相当の辱めを受けてしまったとか。
敵軍の殆ど、つまり約四万人に陵辱されたと言う話も聞いている。
その真実を聞いた訳なのだが……」
その後にとんでもない言葉を続けるので、私は「デマだ!!」と叫ぶのである。
「デマだ! 嘘だ! 出鱈目だ! 四万人とか普通に死ぬだろう!
その頭は飾りかッ! 少しは考えろ!」
その後はまさに猛抗議。おそらく顔は真っ赤であったろう。
「いや、マジェスティならそれだけの体力が……」
等と言う、左の男を「きっ!」と睨み、男が咳込んで顔を逸らしたので、正面に向き直って「とにかく無い!」と告げる。
「まぁ、あっても無いと言うわな……」
「何しろ四万人相手ですからな……」
「いや、本当に……」
こいつら殺すか……と、少しだけ思う。最悪でも半殺しにはしておかなければ、ある事無い事広げられるかもしれない。
だが、そんな事をすれば今度は本当に、言い訳が効かない裁判行きだ。
故に耐えて、首を振り、許可も得ずに椅子へと座る。
座った事はどうでも良いのか、そこからも更に質問が続き、なぜかのドーラスとの関係を聞かれて、「この質問で終わりだが」と言われるのである。
そんな事がどうして気になるのか。その点は謎だが「同僚だ」と答える。
奴らは最後に「なるほど……」と答えて、何かを話しながら去って行った。
或いはティレロの差し金なのか。そんな事を直後に思うが、何の確証も無い事なので、椅子から立って出口に向かう。
時間にするなら四時間程が経ったのか。精神的に疲れたし腹も減った。
若干、やつれたのではないかと言う顔で建物の外に出て来た時に、私は思いもよらなかった人物に、夕食の招待を受けるのである。
無論、彼らの頭の中では「あったコト」になってます(笑)




