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ポピュラリティゲーム  ~神々と人~  作者: 薔薇ハウス
八章 古き国 新しい国
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レナスの黒歴史

 所謂、色恋沙汰と言う物は、私には昔から無縁なものだった。

 騎士の家に生まれ、一人娘だった私には、家名を存続する義務があり、日々、剣の道に打ち込んでいた為に、うつつを抜かす暇が無かった。

 それでも一度、父上の付き合いでデートと言う物をさせられた事がある。

 だが、これがまたヒドイ結果で、例のメニューの人には見せられないページに記載される程のモノとなったのである。


 相手は確かスード家の次男か三男だったはずで、行く行くは私の家の婿として、期待をされていた男であった。

 お互いの年齢はその時十七。名前は確かケンニッヒと言ったか。

 向かった場所は郊外にある、森に包まれた湖だった。

 移動手段はお互いに馬で、流石に鎧は身に付けてはいない。

 しかし、念の為に剣を持ってきた事が、相手の動揺を誘ったようで、私がそれを無視した事により、空気は一気に悪くなったのだ。


「(私のせいか…? いやしかし、騎士にとって剣は命。

 こちらからするなら持って居ない奴の方が、どうかしていると思わざるをえんが……)」


 その頃の私は考え方が幼く、空気が悪いのは分かった上で、そう考えて相手を睨んだ。


「もしかして……何か嫌な事でもあった……?」


 ケンニッヒはそう言って、睨まれた理由を探って来たが、私は「いや」と返しただけで口を閉ざしてしまったのである。

 現在ならばまことに遺憾だが、当時の私は本当に子供で、確か、


「(面倒だな、早く帰って稽古がしたい……)」


 等と思って、適当に馬を操っていたと思う。

 それでもケンニッヒがその点では大人で、色々と質問をしてきた為に、それに短く答えながらに森の中の湖に着いたのだ。


 目の前に広がるは花畑の絨毯。

 そして、その先には輝く湖面。

 周囲には緑の森が広がり、遙か彼方には山が見えた。


「これは素晴らしい光景だな……」


 そこは私も女であるので、景色に感動してそう呟き、馬から下りて花畑に入って、周囲を見ながら湖に近付いた。


「僕もここには初めて来たけど、確かに素敵な景色だね。

 多分、君がそこに居るせいかな? この景色が素敵だと思うのは」


 馬から下りてケンニッヒが言い、その言葉に私が足を止める。

 普通であれば嬉しいだとか、或いはときめきを感じるのだろうが、私がこの時感じたものは、


「(こいつは何を言っているんだ……?)」


 という、ケンニッヒの言動を疑ったものだった。

 誤解の無いように言って置きたいが、ケンニッヒはあくまで普通の顔で、外見もまぁ、良いのだろうが、私の好みではありえなかった。

 というか、私は外見よりも、中身を重視する傾向にあり、良くは知らない相手の事を評価する事は出来なかったのだ。


 それは今もあまり変わらず、口だけの男は信用すらしない。

 無言で、黙々と仕事をする男を最大限に信用し、口には出すが、結果を残す男をその次に信用すると言うような感じだ。

 話がズレたが、要はこの時点ではケンニッヒは評価の対象にすらなりえず、故に普通の女であれば喜ぶだろうその言葉でも、私の心は微動だにしなかったのだ。


「この花畑で一番美しいのは、どの花でも無いキミだよレナス。

 煌めく髪、整った目鼻、そして、脇から腰にかけての全く無駄が無い流れるような曲線。全てが神の生み出した芸術だ」

「ううっ……」


 それどころか何やら寒気すら感じ、私は両手で肩を押さえ、奴の妄言から逃れる為にその場から一歩を後ずさった。


「オイオーイ! 見せつけてくれるじゃねぇか? お花畑でランランルーってかぁ!?」

「おぢさん達も混ぜてくれるかニャアアア!?」


 直後の声は右からのモノで、三人の男が森から出て来た。

 見る限りでは山賊のようで、腰には大きなナタを下げている。

 何が目的で居たかは謎だが、どうやら私達が気に食わないらしく、三人で「にたにた」と笑いながらこちらの方へと近付いて来た。


「(どうする……勝てない相手では無いが……)」


 思っていると、ケンニッヒが歩み出て、奴らの前に立ちはだかった。

 まさかやるのか、と見直しかけると、


「僕はスード・ケンニッヒ! 栄光あるスード家に名を連ねる者だ!

 それでもやるのか!? やるって言うのか?!

 父さんや兄さんが黙ってないぞ!?」


 と言い、私の額に右手を当てさせ、山賊達からは笑われるのだ。

 まさか家名で相手を脅すとは、思ってもみない行動である。


「父さんや兄さんが黙ってないぞ!? だと!! 

 知るかよクソガキがぁ! 豆でも食ってろ!」

「ヒイイイイッ!?」


 山賊達がナタを持ち、それを片手にケンニッヒを脅かす。

 ケンニッヒは腰が抜けたかの如くに、後ずさった後に花畑に尻をついた。


「……もう良い。私がやる」


 やむを得ないので前に出て、腰に下げていた剣を抜く。

 山賊達はこれにも笑ったが、結果としては私の圧勝。

 ドレスの腰辺りを少々切られたが、体自体には傷は無かった。


「な、なんだこの女はぁ?!」

「に、逃げろぉぉ!!」


 重傷を負った一人を引き摺り、山賊達が森へと逃げて行く。


「す、凄いねレナス……本当に強いんだ……!」


 輝く瞳でそう言われたが、私にとってはそれすら嫌悪で、一応、父に言い訳する為にケンニッヒに黙って剣を差し出した。


「こ、これは……?」

「今後も許嫁を名乗りたいのなら、私と勝負して勝って貰う。それが出来ないなら今日でさよならだ」


 当然の疑問に答えてやると、ケンニッヒは無言で口の端を動かし、少ししてからようやくに「無理でしょ……」と、ひねり出すような小声で言った。


「無理でも何でもやって貰う。私より強い事。最低限の条件だ」


 私はと言うと木の枝を拾い、それを片手にケンニッヒに向かう。

 木の枝と剣。この時点でも相当のハンデを与えたつもりだ。


「かすり傷でも良い。傷一つでも作れたらそちらの勝ちにしてやっても良い。さぁ抜け! 男ならかかって来い!」


 そして、更に条件を緩和して、ケンニッヒのやる気を奮い立たせた。


「く、くそっ、どうなっても知らないからな!!」


 それでようやくやる気になったか、ケンニッヒが渡した剣を抜く。

 傷でもつけられるならむしろ本望。そんな男なら付いて行ってやる。


「うわああああ!!」


 そう思ったが、何も考えず、剣を上段に直進して来る。

 力量を見る為に攻撃はせず、敢えて、二度、三度とかわしたが、やはりは素人だと判断をして枝を頭に叩きつけた。


「ハギャアア!?」


 乾いた音が鳴り響き、ケンニッヒはそれで剣を落とした。そして、花畑の上を転がり、頭を押さえてのたうち回るのだ。


「そんなに強く叩いて居ないが……」


 余りに脆い。脆すぎる。こんなのと付き合うのは不可能である。

 呆れた顔でその様を見守り、自分の剣を屈んで拾った。


「ともあれ、これで関係は解消だ。気分転換にはなった。礼を言う」


 剣を収めて立ち去りかけると、ケンニッヒが「いやだぁああ!!」とまとわりついて来た。

 意外に早い。

 油断をしていた事もあるが、ナイフでも持って居たら危なかった。

 そこの部分は評価して、抜き身の剣を鞘に収める。


「ええい! 離せ! 見苦しいぞ!」

「見苦しくても良い! 叩きのめされても良い!

 僕はレナス! 君の強さと、君の美しさに心底参ってしまったんだ!

 だから頼む! 会うだけでも! 今後会うだけでも認めてくれよ!」


 その上で押し退けようと試みるも、ケンニッヒは今までに無く力強い。

 言葉の内容に動揺した事もあり、私は一瞬両手を止めた。


「行かないでくれレナスー!!」


 直後に何かが破れる音がした。


「……??」


 下を見ると、私のドレスの腰から下が無くなっていた。

 賊との戦いで切れ目が入った事が、破れやすくなっていた原因らしい。


「あれ……これは……?」


 四つん這いになったケンニッヒが破れたドレスを両手に呟く。


「き……き……」


 私はそこで状況に気が付き、顔色を変えてまずはそう言った。


「貴様は死ねぇぇぇぇぇ!!」


 出てきた言葉は「キャー」では無くて、ケンニッヒを驚かすそんな言葉。


「キャアアアアー!!?」


 むしろケンニッヒが悲鳴を上げて、私の拳を両手で防いだ。

 花畑の中で下半身を露出。

 今でも耐えきれる自信は無いが、当時の私は死ぬほど恥ずかしく、真っ赤な顔と剥き出した目で、ひたすらケンニッヒを殴り続けた。


 それが、黒歴史に載っている顔であり、私の唯一の男性との交際。

 ちなみにケンニッヒは生きてはいたが、後日にあちらから関係を解消され、


「ヒドイものだ……男女交際等面倒なだけか……」


 と言う印象をその時に私は抱いたのである。

 以来は男女交際無しで、あの日を迎えて私は死んだ。

 マジェスティになってからもそういう事は一度も無いが、私自身は気にして居ない。


「(しかし、妙な事を思い出したな……)」


 なぜ、このタイミングでそんな事を思い出したのか。

 自分の思考の不明瞭さに呆れ、馬上で大きなため息を吐いた。


よくよく考えたらただの事故なので、ケンニッヒはあまり悪く無かったりします。


内容自体は変えてませんが、加筆と修正を行いました。(1~10話)

登場人物への印象が変わるかもなので、お時間がある方は良ければどうぞ。

それではまた木曜日に~

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