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ポピュラリティゲーム  ~神々と人~  作者: 薔薇ハウス
八章 古き国 新しい国
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かつての首都へ

 それから二日後に出撃命令が下された。

 向かう先は旧ラーク王国で、目的は領土の防衛である。

 相手は最近統合された、旧ゴルズリアの連合軍で、率いる者は砂漠の鷹と呼ばれる、カムシール・イーブと言う男のようだった。


 元々はゴルズリアに仕える騎士で、クーデターで元首になったと聞くが……

 実際の所は情報不足の為に、そこに関しては何も言えない。

 だが、戦乱が続いていた周辺地方をまとめ上げた力を評価するなら、凡庸凡夫では無いと言う事だけは、確かと言える事ではあった。


「おそらくこちらの混乱に付け込んできたと言う事なのでしょう。

 それにしても情報が早いので、街中は勿論、王宮内にも、スパイが居るのかもしれませんな」


 報告して来たヤールが言って、私が無言で頷きを返す。

 或いはティレロの仕業かとも思うが、証拠が無いので断定は出来ない。


 しかし、一方の軍の編成。

 これにはティレロは間違いなく関わっており、そちらの目的はおそらくはだが、私を戦で消す事だった。

 なぜそう思うのかを説明するなら、まずは本国から動員される兵。

 これが全くのゼロだと言う事と、不満を抱えるラーク王国と、ユーミルズ王国の残兵だけで領土を防衛しろと言う事。


 その総数は四千程度で、対する敵は四万を超えている。

 例えば防衛が成ったとしても、殆どの者が戦死しており、使い捨てにされた彼らの家族や恋人達の憎しみは、私に向けられると言う事である。


 因みに本国に待機している精鋭兵の行き先についてだが、これは南のヘール諸島のようで、奪われた大型戦艦を脅威と考えて、万が一の侵攻に備えると言う事らしい。


「バカげた話だが従わざるを得ない。生きて帰ったら権力闘争とやらに参加してみるのも悪くないかもな」


 冗談めかした口調で言うと、ヤールが「ですな」と言葉を返す。


「いっそ、全権力を握ってみては?」


 と言う、続く言葉には「クーデターへの誘導か?」と言い、冗談と受け取って笑って置いた。


「しかし、実際、如何いたします? 相手が十倍では流石に分が悪く、率いる兵が残兵となると、戦う以前の問題になり兼ねません。

 逃亡だけならまだしもですが、最悪は裏切る者達も出るかと」

「戦えと言えばそうなるだろうな。だが、ひとつ、考えがある。

 向かいがてらにそれは話すとして、兎にも角にもスターレッドに向かおう」


 こうしている間にも進軍は続いている。間に合わなければその考えも水泡に帰してしまうであろう。

 ヤールの問いに答えて立って、隣の部屋に着替えに向かう。


「はっ! それでは一旦失礼致します!」


 私の背後でそう言ってから、着替えの為にヤールも出て行った。


「(ティレロはおそらく私を消したい。

 これは分かるとして、その先で何をしたい? 先王の死、騎士団長の更迭。それに加えて私の戦死。

 国が弱体して行くだけだが、それが奴の目的という事か……?

 祖国の復興、他国のスパイ、考えられる可能性はいくつもあるが、全ては憶測の域を出ない。兎に角、証拠を集めない事にはな……)」


 制服を脱ぎ、鎧に着替え、剣を握って鏡に向かう。

 つい、思い出したのは先日の事。


「花の名前も分からない癖に、人を疑う事ばかりに長けてしまうようになったな……時折、寂しく感じると言う事は、私もまだ人間だと言う事か」


 思い出して笑ってしまい、洗面台に両手をついた。

 人間の感性。これを失えば、私が戦う意味が無くなる。安心したような、呆れたような、複雑な心で両目を瞑り、しばらくしてからそれを開けた。


「……行くか」


 それから言って足を動かし、執務室に続くドアを開いた。




 その街の名はスターレッド。かつてのラーク王国の首都である。

 占領からはかなりの日が過ぎ、人々達の抵抗は消えたが、同時に誇りと活気も消えた、人口の割には静かな街だった。


 ヨゼル王国の首都から五日。

 ようやくスターレッドに辿り着いた私は、街の入口で検問を受け、ヤールと共に身分を証明し、街の中へと踏み入っていた。


「寂れているな……以前よりも……」


 馬の上から様子を伺い、誰にともなく言葉を発す。

 住民達は身内の中に不幸があったかの如くに塞ぎ、露店の商人は呼び込みすらせず、ただ、そこに座っているだけ。

 ここが首都だと誰が思うか。国葬の最中の如しと言える。


「一度傾いた太陽は、そう簡単には元には戻りません。

 ヨゼル王国にこのまま呑まれるか、もしくは別の生き方を見つけるか、彼らがどの道を選ぶかは分かりませんが、それを見つけるまではこんなもんでしょう」


 同じく馬上のヤールが言って、聞いた私が「そういうものか……」と答える。


「祖国を失うってのはそういうもんです。背中の壁を失うような感覚ですな。

 それがまた作られるまでにゃ、不安で、不安でどうしようもないんですよ。

 実際に失った男の言い分ですから、説得力もあるでしょう?」


 ヤールの祖国は旧ユーミルズ王国で、そこでは確か部隊長をしていた。

 そんな男が言う事なのだから、彼らの気持ちはそれに近いのだろう。

 私も祖国を失ってはいるが、それを実際に目にした訳では無く、どちらかと言うと失わせる方に居た為に、彼らの感覚はいまいち分からない。

 だが、想像は出来なくはないので、「そうだな」と、一言だけ答えて置いた。


「ん……?」


 その際に何かが視界に入り、私が静かに両目を細める。


「何か?」


 と、ヤールに質問されて、考えた後に「いや……」と言った。

 見えたと思われたのは相棒妖精だが、それはすぐに消えてしまった。

 或いは私の気のせいかもしれないし、「近くにマジェスティが居る気がする」等と、ヤールに言っても仕方が無いので、気にはなるがそれを放置して、かつての王国の王宮に向かった。


 待って居たのは三千ばかりのラークとユーミルズの敗残兵達。

 報告よりも千人ばかりが減っている理由はすぐに分かった。


「少ない理由は……逃亡です。昨夜の内に八百四人が軍から逃亡致しました。残った者の士気も低く、これではとても戦えるとは……」

「なるほど。分かった」


 少ない理由が分かった為に、担当者に答えて馬から下りる。

 そして、こちらを伺っている兵達に向かって足を動かした。


「おい……レナスだぞ……」

「鮮烈の青か……?」

「いくら鮮烈の青って言ってもな……」


 気付いた兵が口々に言い、横へと避けて道を空ける。その中を通って前に出て、ヤールと共に彼らと向き合った。


「ご苦労!!」


 息を吸ってまずは一言。

 それによって兵士達が畏まる。

 残兵とは言え叩き込まれたそれに、体が勝手に反応しているのだ。

 その点がなぜか妙に嬉しく、私は密かに口の端を曲げ、それをすぐに元へと戻して、彼らに伝えるべき言葉を発した。


「此度の戦は戦わずとも良い! ただ、その時まで従って欲しい!

 その時と言うのは敵が見えるまで! 或いは私が帰還するまでだ!

 この戦は負ける! 勝ったとしても、お前達の殆どは生きてはいないだろう! 祖国の為ならまだしもだろうが、占領者の為には命はかけれまい!

 その時が来たら命令を放棄し、それぞれの判断で動く事を許可する!

 降伏するも良し、国に残るも良し、それでもヨゼル王国に、軍籍を置きたいというのも良しだ! 私はこれより単身で、敵の指揮官と話をつけてくる! 以降は私の副官であるヤールの指示に従うように!!」


 言うべき事は言い終えたのだが、返される反応はまるで無い。

 私が彼らなら「なるほど」と言うのだが、どうやら理解をされないようだ。

 殆どの者が戸惑っており、残りの僅かもその場で呆然。

 或いはもっと噛み砕き、「交渉に行って来る」と言えば良かったが、今更それを口にするのは間が抜けているようで何だか嫌だ。

 故に歩き、道を空けてもらい、馬へと近付いてそれに乗る。

 そして、こちらを見ている様子のヤールに小さく頷いてから馬を動かした。


「部隊長は集合! 各隊の持ち場を伝える!!」


 ヤールの声が聞こえたと同時に、手綱を引いて馬を走らせる。

 向かう場所は敵の指揮官が居ると言う、紛争地帯との国境であった。

 砂漠の鷹がどんな人物か。先が見える者なら交渉に応じるはずだが。

 そんな事を思いつつ、私は見知らぬ街道を駆けた。




 遡る事四日前。

 私とヤールは任地に向かう為に、馬を並べて街道を駆けていた。


「それで! 考えと言うのは一体何です!! そろそろ教えてくれても良いでしょう!!」


 言ってきたのは左のヤールで、それにはまずは「そうだったな!」と返す。


「この戦いはこちらの負けだ! 勝ったとしても損失が大きい! 故に、私は戦わず、敵の指揮官と交渉をするつもりだ!」


 続けて言うと、ヤールは「何ですと!?」と言い、「和平交渉ですか!?」と更に聞いて来た。


「いや! 降伏を前提とした条件を飲ませる為の交渉だ!

 領土はこの際奴らにくれてやる!

 本国の頭のおかしい連中に、無理があるという事を分からせる為にな!

 お前にはその間の兵の指示と、撤退の指揮を頼むつもりだ!

 万が一、私が戻らない時には、お前の判断で行動してくれ!」

「は?! 本気ですか!? と言う事は何ですか、もしかしてお一人で、四万の敵兵に突っ込むおつもりで!?」

「奴らとて聞く耳は持っているはずだ! 私の噂も知っては居よう!

 それでも駄目なら考え直すが、それは無用な心配だろう!」


 ここまでを言うと、ヤールは黙り、無言のままでしばしを過ごす。


「気を付けて下さいよ! あなたは確かにマジェスティですが、その前に一人の女性なんですからな……!」


 そして、何秒かが経った後に、顔を向けずにそう言ったのだ。

 普通の女なら嬉しいのかもしれないが、私は正直何も思わなかった。

 そういう感覚がマヒしてしまったのが、思わなかった最大の原因だろう。

 ならば何を思ったのかと言うと、「こいつはこれでフェミニストだな。なぜ、恋人が出来ないのだろう」と言う、逆にヤールを心配する物だった。


「……分かった。気遣い、すまないな」


 だが、それを言う訳には行かないので、気遣いに感謝して礼を言う。

 それから無言で馬を走らせて、私達は一路レッドスターに向かった。

 そこからの事は知っての通りで、事態は現在、この場所に移る。

 右手には海。左手には森。眼前にはひたすら街道が続いている。

 戦の気配を察しているのか、昼だと言うのに街道上には行き交う人々の姿は無かった。


「(思えば昔から興味が無かったな……剣の道ばかりを探求していた気がする……)」


 果たしてそれは何年前の事か。私は唯一の交際経験である、ある日の事を思い出していた。


オフ会とかでひたすらに無言で飲み物を飲んでいるタイプ。


月曜日から三日間帰省します。

なので金曜の更新後には、多分木曜日が更新日になります。

少し間が空いてしまいますが、変わらぬお付き合いをお願いいたします…


あと、そろそろ折り返し地点になります。良かったら伏線の回収等、今の内にしておくと後で「ああ!」となれるかもしれません。


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