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ポピュラリティゲーム  ~神々と人~  作者: 薔薇ハウス
八章 古き国 新しい国
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密室での対面

 その日の私は執務室には向かわず、王宮の地下牢に向かっていた。

 理由は二つあり、その内の一つは地下牢に捕らわれているドーラスに会う事。

 もう一つはそのドーラスにかけられている、容疑をひとつ消す為だった。

 現在、ドーラスにかけられている容疑は、陛下の暗殺と反乱分子の扇動で、後者の容疑が解ける準備がようやく昨夜に整った為に、私はそこへと向かっていたのだ。


 螺旋階段を降りて行くと、地下牢に続く檻が見え、そこの前に立っていた兵士が私に気付いて敬礼をする。


「ご苦労だな。通れるか?」


 聞くと、「はっ!」と一言を言い、檻の鍵を開けてくれ、開いた上で「どうぞ!」と言って、私を中へと通してくれた。


「すまんな」


 礼を言って中へと踏み入り、一本道の通路を歩く。

 高さはおよそで三m弱。幅は両手を広げた程か。薄暗い道を進む途中で、背後の檻が閉まる音が聞こえた。

 靴音を鳴らして更に進み、右手の先に明かりを見つける。

 おそらく地下牢の詰所だと思われ、橙色の暖かい光が、そこから通路に漏れていたのだ。

 扉が無いのでそのまま入る。なんとも窮屈な部屋である。

 それから見たのは二人の兵士で、樽に座って向かい合い、トランプを両手にゲームをしていた。


「よし来たァ! 今度は俺の勝ちだ!」

「さっきもンな事言ってただろーが」


 おそらく何らかの賭け事なのだろう。間のテーブルには硬貨が置いてある。夢中になって気付いてくれないようので、「良いかな?」とこちらから声をかけた。


「あん? 女の声……? って、れ、レナス様!?」


 トランプを落として一人が動揺。

 もう一人は気付いて驚いた後に、持っていたトランプを後ろに隠した。

 勤務中に、しかも賭け事だ。普通であれば焦りもするだろう。

 だが、自分で言うのも引け目を感じるが、私はそこまでの堅物では無い。


「こんな所では退屈にもなるだろう。する事をしていれば咎めはしない」

「あ、は、はぁ……そう言って頂けると助かります……

 今日はその、何用でしょうか……?」


 間接的にそれを容認し、片方の男に聞かれるのである。

 その時には男は立ち上がっており、私に向かって姿勢を正した。

 もう一方もトランプを置き、同僚に倣って姿勢を正したが、賭け事をしていた事だけは隠したいのか、硬貨までの視線は体で遮った。


「ドーラス卿と面会がしたい。それと、立会人を呼んできてほしい。これは出来ればフィレロ卿が良い」


 その行動には目を瞑り、こちらの用件を先の男に伝える。


「ふぃ、フィレロ卿ですか……? それはその、レナス様がお呼びしていると伝えても……?」

「ああ。それでも誰も寄越さないようなら、内務大臣のミッシェラン卿を。

 無論、私が呼んでいると言う事でな」


 そこまで言うと、男は「はっ……!」と言い、足早に詰所から去って行った。

 急いで行けば十分程か。それまでにはドーラスにも事情を話せよう。


「では、面会室でお待ちください。ドーラス卿をお連れしますので」


 そう思っていると、残った男が言い、鍵を右手に部屋から出て行った。

「頼む」と応えて後ろに続き、通路に出てから右へと向かう。

 そして、途中で見えた左手の部屋に通され、四角いテーブルの左奥に向かった。


 部屋の大きさは先程の倍ほど。所謂、囚人との面会室である。

 部屋には四角いテーブルの他、四脚の椅子が置かれてあって、入口から見るなら一番奥に長方形の台が見えた。


「(アネモネ……か? いや、違うな……)」


 それを左手に椅子に座り、台の上の花瓶を眺める。

 そこには赤い花が活けられており、殺風景な空間に僅かな華やかさを生み出していた。

 私は生憎花の知識に疎く、他には「薔薇」くらいしか出てこなかったが、流石にそれは違うと思って、答えが分からず沈黙をした。


「……サルビア?」


 そんな花があったと思い、訝しげな顔で花に聞いてみる。

 しかし当然、答えは返らず、「何をやっているのだ……」と、顔を押さえた。

 扉がノックされたのは直後の事で、動揺を隠して「ど、どうぞ」と返す。


「(普通の女なら分かるのだろうな……一目見れば花の名前など)」


 そんな事を考えると少し虚しい。そうなりたいとは思わないが、普通では無い事は間違いないだろう。

 思っていると、ドアが開いて、まずは先程の男が入り、その後に両手を拘束された、ドーラスが中へと通されて来た。


 まず思うのは痩せたな、と言う事。それに瞳が死んでいる。

 髭は茫々(ぼうぼう)で髪の毛はぼさぼさ。騎士団長だと言われても、ホームレスの戯言だと取られ兼ねない外見だ。


「お、おぉ……レナス殿か……まさか面会に来て頂けるとは……」


 私に気付いたドーラスが言う。瞳に若干生気が戻ったか。

 連れて来た男の前を通り過ぎ、私の正面の椅子に座った。


「それでは私は外に居りますので」


 こちらは連れて来た男の言葉で、言った後には外へと出て行く。

 それからドアを引っ張って閉め、この場には私とドーラスだけとなった。


「少し痩せたな。待遇が酷いのか?」


 聞くと、ドーラスはまずは「いや」と言い、苦笑した後に言葉を続ける。


「単純に怖いのだ。毒殺等がな。

 なんだかんだで口にはしているが、正直それでは食べた気にもならん。

 こんな生活がいつまで続くのか……いや、そもそも終わりがあるのか……」


 気弱になったな、と、正直思う。尊大なドーラスはどこへ行ったのか。

 だが、こうなれば誰でもそうなるかもしれず、それには触れずに一枚の紙を出して見た。

 そして、ドーラスが示すであろう、反応を注意深く見守るのである。




「……これは?」


 まるで分かって居ないと言う風。それが私の感じた印象だ。


「いつぞやの反乱分子の始末……貴殿が私に押し付けた仕事だが、その際に手に入れた契約書のようなものだ。金の使い道が事細かに書かれている。

 見る限りでは大金だな」


 ゼーヤと共に戦った後に、私はそれを洞窟で手に入れた。

 念の為にと持っていたのだが、反乱分子が金で動いていた事への証拠の一つとなった訳だ。

 教えると、ドーラスは「おぉー」と言って、そこで初めて理解をしたらしい。

 

「これは確かに相当な額だ……しかし、それが何だと言うのだ?」


 実力はあるが、頭の回転は遅いのか。

 そこの部分には少々呆れ、「そんな金が動かせるのか?」と、分かるように聞いてみる。

 動かせるのならば可能性は残り、動かせないのならば根幹部分でドーラスを疑う事が出来ないからだ。


「はっはっはっ……騎士団長風情が動かせる額かね? これだけあれば一年以上は団員の給金が賄えるだろうよ」


 返された言葉がそれだったので、「だろうな」と答えて息を吐く。


「(まだ気付かないのか……)」


 と、思いはするが、分からせる為に「ならば」と切り出した。


「貴殿にかけられた反乱分子の扇動疑惑はこれで消える。金の入出もすでに調べた。貴殿に怪しい点は無い」


 そして、調査の結果としてのドーラスの無実を教えてやるのだ。


「おっ、おぉぉ……そうか、そういう事か……!

 確かにアレ以来奴らの活動は無く、そこまでの時点で金の動きが無ければ、私である訳が無いと言う事だな……!

 こんなものが存在していたとは……いやはや、貴殿にはまた救われた……」

「いや、救ったのは貴殿の過去の怠惰だ。感謝するなら自分にしてくれ」


 両目を瞑ると、ドーラスは笑い、「それにしても」と言葉を続ける。


「なぜ、私を助けてくれるのか? 貴殿には色々と悪辣な事をしてきたが……」


 それには黙り、考えたが、「ケーキの礼だ」とだけ答えて置いた。

 本当の所は犯人が分かっており、無実の者を救いたいだけだが、それを言うとドーラス自身に危険が及ぶかもしれないからだった。


「失礼します!! ミッシェラン卿をお連れしました!」

「(やはり来なかったか……)」


 そうは思うが、外からの声には、冷静な声で「どうぞ」と返す。

 現れたのは年齢四十の内務大臣のミッシェランだった。

 髪は金色は瞳は緑色。民と兵士に慕われる信頼に足る人物で、内務大臣と言う地位に就いているように、影響力が強い人物だ。

 立場としてはティレロよりも上で、故に、私はティレロが来ないなら、彼に立会人を頼む事でドーラスの安全を確保しようとしたのだ。


「一体何用です? お声掛けとは珍しい」

「朝からすまない。実は折り入って、貴殿に聞いて貰いたい話があるのだ」


 入って来たミッシェランに成り行きを話す。

 ドーラスの容疑の一つである、反乱分子の扇動はあり得ないモノだと理解をして貰う為だ。

 そして、その上でドーラスの毒殺等、強硬手段もあり得る事を教え、慎重な調査を約束して貰って、面会時間を終えるのである。


「それではミッシェラン卿、よろしく頼む。貴殿自身も気を付けて欲しい」

「さも、犯人を知っているかのような口調ですな。しかし、分かりました。

 色々と気を付けましょう」


 流石に鋭い。誰とは言わないが、ある程度を察して居るのかもしれない。


「それでは」


 握手の後にミッシェランが去り、ドーラスが牢に連れられて行く。


「貴殿の人格を誤解していた過去の己を恥ずかしく思う……

 もしも無実で釈放されたら、ひとつ、夜食にでも招待させてくれるかね?」


 その際に聞かれた質問に対しては「考えておこう」とだけ答えて置いた。

 同僚としての誘いだろうが、人前ゆえに遠慮をしたのだ。

「そうか」と笑ってドーラスが出て行き、私もすぐに部屋の外へ出る。

 そして、執務室に向かう為に、ドーラスに背を向けて歩き出した。


ドーラスはレナスに「ホ」の字なのですがね…

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