ヒジリの問題
俺個人の問題とは、要するに工事の資金の事だった。
居ない間に資金が尽きて、工事が中断されてしまっていたのだ。
帰って来た直後にその事を知り、セキュアの財宝をギーツに換金し、それを監督に渡す為に俺は島へと向かっていた。
土産話を聞く為だろうか、それには久々のカレルも同行。ダ・チン祭での成り行きを聞いて「馬鹿じゃないの……」とまずは呆れた。
「人助けも良いけど気を付けなさい……
十六Pがあったから良いけど、もし、それでマイナスになってたら、あなたはこの世界からサヨナラだったのよ……?
挙句に本人にお礼も言われないじゃ、あまりに救いが無いってものじゃない……」
続く言葉には何も返せず、「すみません……」と、ただただ謝罪する。
「べ、別に悪い事をした訳じゃないでしょ!?
ああもう駄目ね……言い方が悪かった。
あなたは良い事をしたけれど、リスクがちょっと大きすぎた。
今後はそこに気を付けて欲しいのよ。
……つまりその、そんな事で、いきなりサヨナラして欲しくないってコト!」
それを聞いたカレルは言って、顔を「ぷいっ」と逸らすのである。
いきなりサヨナラは寂しいじゃない……そんな事を言われているようで、その気持ちが嬉くて直後は微笑む。
それから「わかりました」と言葉を返して、照れ臭さを隠す為に頭を掻いた。
「えっ……? そんなに?! 股間……じゃなくて、象の鼻が……!?」
が、カレルはこちらを見て居なかった。ユートと何かを話していたのだ。
なぜかどうして頬が赤いので、疑問に思って顔を顰める。
「そーそー。何か知んないけど急にビヨーンって。
多分これくらいはあったと思うけど、パオーンって言ったら「やめろよ!」って怒られた」
すると、ユートがそんな事を言っていたので、思わず「やめろよ!?」と叫ぶのである。
悪意が無いのは十分分かる。だが、具体的なサイズの報告は駄目だ。
大きいと思われるならまだしもだが、小さいと思われたら何かキツイ。
そういう意味で叱りつけると、ユートは「ビクリ」と震えて逃げた。
「ぼ、ボク何も言って無いよー! ワルイコトナニモイッテナーイ!」
そして、船の舳先辺りに留まり、誤魔化すように口笛を吹くのだ。
「あ、そ、そろそろ着くわよ! 準備は良い!?
って、そんなの当り前よね!?」
「だ、大丈夫ですぅ!」
真っ赤な顔でカレルが言った。俺も殆ど同様である。
カレルの方はおそらくはだが、聞いてはいけない物を聞いてしまった為。
俺の方は恥辱に加え、カレルの判断が気になるからだ。
「見た目に反してスゴイのを持ってるのか……」
そう思っているとカレルが言うので、俺は胸を撫で下ろすのである。
だからと言って何なのか?
それを聞かれたら何とも言えないが、少なくとも小さいと思われるよりは、良かったと思う出来事だった。
船はそんな中で島へと近付き、沖で停泊して小舟を下ろす。
俺達はその小舟に乗りかえて、工事現場近くの浜辺に向かった。
浜辺に上陸して現場に行くと、ギースとニースが何かをしていた。
見る限りでは掃除のようで、こちらの姿に気付いた後に「よう!」と言って近付いて来た。
見取り図の上ではロータリーになる場所で、二人と再会して立ち止まる。
当然ながら作業は止まり、現場には二人の姿しか無い。
「何やってるんだ……?」
聞くと、ギースは「掃除」と言った。なぜかの満面の笑みである。
一方のニースもそれを聞いて笑い、見つけたゴミを塵取りに入れ、その後に二人で顔を見合わせて、楽しそうに微笑み合った。
どうやら二人は本当に、出来上がる学校を楽しみにしているらしい。
作業が止まったこの状況でも、何かがしたくてたまらないのだ。
「ごめん……行く前に気付いて居れば、作業が止まる事は無かったんだけど……」
「何言ってんだよ。仕事だろ?
タイミングが悪かったんだから仕方がねぇよ」
そこに気付いて謝ると、ギースが右腕を軽く叩いて来た。
そして、その後に「気にするなよ」と付け加えて、白い歯を見せてくれるのである。
「そうですよ。ヒジリさんが謝る事なんて何もありません」
こちらはニースで、微笑みを絶やさず真っ直ぐにこちらを見つめており、その言葉に対して「ありがとう」と言うと、「いえ……」と呟いて視線を俯けた。
「ヒジリって年下にはニンキがあるよねー」
「ロリっ子キラーヒジリ君か」
それを見ていたユートが言って、ニヤけた顔でカレルが続く。
「そんなんじゃないでしょ……」
と、一応言うと、カレルは「ゴメンね」と笑いながらに言っていた。
真面目に考えるとどうなんだろう。年上と年下どちらにモテるのか。
年上ならカレルやメイドのサーヤ。年下ならレイラやニースやリースか。
同年代ならナエミ一人だが、あいつの考えはさっぱり分からない。
となるとやっぱり年下……? なのか?
つまりロリっ子キラーなのか?
「(いやいや! アホか! 傲慢な考えだろ!)」
が、自分の思い込みで決めつけるのはマズイので、小さく首を振ってその考えを吹き消した。
「えーと……それで、監督さんや、他の人達は居間どこに?
仮設テントの方?」
気を取り直して二人に聞くと、ギースが「釣りだよ」と短く言った。
「釣り……!?」
「良いポイントが見つかっただとかで、殆ど毎日行っているみたいです……」
若干顔を顰めて言うと、苦笑しながらニースが答えた。
まぁ、確かにこんな所では、待って居ると言っても相当暇だろう。
暇潰しと言えば寝る事と、そういう事くらいしか無いのかもしれない。
むしろ、資金が尽きた事で、逃げられなかっただけありがたいと言える。
「あー……じゃあ、分かるかな? その場所?
そこに案内して欲しいんだけど」
すでに資金は用意して来たので、それを監督に渡すだけだ。
待って居ても良いが、早く渡したいので、ギース達に場所を聞いてみた。
「分かりますよ。行きましょうか」
答えてくれたのはニースであった。
すぐにも歩いて横を抜け、正門予定の場所へと向かう。
「何か、ちょっと元気になった?」
「あ、はい。前より調子が良いくらいなんです」
そう聞いてから歩き出すと、顔だけを向けてニースは言った。
カレルの生命力を貰った事で、或いは寿命が延びたのかもしれず、良かったのか、悪かったのかの判断に悩み、俺は「そうなんだ」とだけ言葉を返す。
後ろの方ではカレルとギースが何やら話して言い合っていたが、ギースの恋路を邪魔したくないので、それには絡まずにニースと話した。
正門予定の場所を越え、右へと向かって森の中に入る。
「あれ? 小屋? こんなのあったっけ?」
そこでひとつの小屋を見つけ、疑問に駆られて声を出した。
二つくらいの部屋があるのだろうか。農園の母屋脇に建って居そうな倉庫だ。
「あ、これ、監督さん達が、私達の為に造ってくれたんです。
いつまでも宿屋に居るのも悪いので、最近はこっちに住んでるんですよ」
「え!? そ、それは料金とかは?」
「暇だという事でタダでした。と言うか、給料代わりだとかで」
答えたニースが「ふふっ」と笑う。
その後には小屋……では無く、家に近付き、塵取りと箒を置いた後に、森の奥へと更に歩いた。
「学校が出来たら一等地だね……」
そう呟くと「そうですね」と言い、ニースは楽しそうに笑っていた。
それから三十分程を歩いただろうか。
俺達はようやく監督達に再会し、工事の資金を渡す事が出来た。
入り江では殆どが釣りをしていたが、中にはそこで泳いでいる者が居て、「本当に釣る気があるのか……」と、俺は疑問をしたものだった。
「これでやあっと仕事ができますわ! どうにも暇で狂っちまいそうでしたよ!」
そんな事を言う監督の背後では「アヒアヒアアアア!!」と叫んで飛び込む者も居り、「すでに狂った人が居ますが……」と言う、ユートに内心で賛同するのだ。
ともあれ、工事は再開となり、彼らは釣りと遊泳を止め、現場の方へと戻って行った。
「じゃあオレらも戻るわ」
それを目にしたギースが言うので、またしばらく居なくなる事を伝える。
「船の強奪? なんか面白そうだな……」
理由を聞いたギースはそう言い、名残惜しそうにその場に留まった。
何かを言いたそうな顔ではあるが、思う所があって我慢しているような感じだ。
「……良かったらお兄ちゃんを連れて行ってくれませんか? もし、足を引っ張るようなら捨てて来てくれても構いませんので」
これはニースで、聞いたギースが「なあっ!?」と言ってニースの顔を見る。
「お、お前は大丈夫なのかよ? オレが居なくて、平気なのか?」
しかし、行きたいのは行きたいのだろう、そこの部分は否定をしなかった。
「平気じゃないけど大丈夫だよ。たまにはお兄ちゃんも息抜きして来て」
妹、ニースから返されたのは兄を気遣ったそんな言葉。
しかし、ギースが迷っているように見えたので、肩に手を置いて「じゃあ行こうか?」と聞いてみた。
ニースの気持ちを汲んでやろう。言葉にはしないがそう言ったつもりだった。
「あ、ああ……そうだな。カレルも行くのか?」
これにはカレルが「いいえ」と答え、聞いたギースが若干凹む。
「行かないんですか?」
それを知らなかった俺が聞くと、「これでも色々とやる事があるのよ」と、カレルは言って両手を広げた。
研究主任。そういう立場に据えられた為に、やる事は実際多いのだろう。
「(という事は俺とダナヒさんの二人でやる気だったのか……
全く、無茶を思いつくよなぁ……)」
そんな事を思った後に、入り江から再び現場に戻り、そこでニースと別れを告げてから、俺達は浜辺の小舟に向かった。
キングダナヒ二世の制作とかね?




