祭りの後
ダ・チン祭の本戦が終わったのは、それからおよそ三十分後の事だった。
現在、俺達三名は、扇上の線の内側に居り、そこに作られた台の上で村長からの祝辞を受けている。
この三名は言うなれば、上からの順位ベスト三で、準々優勝から優勝の順番で高さの違う台の上に居た。
俺はと言うと準優勝で、優勝者の飛距離は十八m。
最大の敵はラッドだと思っていた為に、結果を知った時にはまさかと思った。
ちなみに優勝者の名前はキーマで、ラッドの後に競技をしており、見た目良し、声良し、センス良し(オウムのパンツ)の、良い事尽くめの好青年だった。
「アツい戦いだったよ。ありがとう」
挙句に握手まで求められて、男として完全に負けた事を知り、それにはぎこちない笑顔を作って「こちらこそ」と言って握手を返すのだ。
「準優勝者、カタギリ・ヒジリ!」
準々優勝者への賞与が終わり、俺の名前が直後に呼ばれる。
「オォォー!」
観客達が声を上げ、村長が少し移動する。
そして、村人から紙を受け取り、それを両手に俺の前に立った。
「準優勝おめでとう。賞品はムメ一年分じゃ。来年も是非、参加をして欲しい」
これには俺が「えっ?!」と言い、ユートが「なんと!」と声を上げる。
村長は「ん?」と、顔を顰めたが、何でも無い事を伝えると「うむ」と頷いて紙を渡して来た。
「ありがとうございます」
礼を言ってそれを受けると、村長は隣に向かって行った。
優勝こそは出来なかったが、これは割と嬉しい結果だ。
個人的な目標が思わぬ所で果たせたのだから。
ユラには少し悪いと思うが、優勝者がラッドで無いだけ良いだろう。
「優勝者、キーマ・レンブルドン!」
村人の言葉で歓声が上がる。
俺自身もそれには拍手を送り、台の右隣に居るキーマを眺める。
褐色の肌に茶色の髪の毛。整った顔が普通に羨ましい。
「さて、何を望むかね? 常識的範囲内で願いたいが」
そんな中で村長が質問し、聞かれたキーマが考え込んだ。
「……では、家を頂けますか。
将来、一緒に住みたい人に今から告白をして来ますので。
もし、うまく行かなかったら、傷心旅行にでも行かせて下さい」
その後に言って、キーマは苦笑し、台の上から飛び降りて、観客席の一画に向かった。
どよめく観客をかき分けて、キーマは誰かを目指して進み、辿り着いた女性の前で膝を折って屈み込む。
「いっ!? あれって!?」
キーマの眼前に居たのはユラ。
当人もそれには驚いており、観客達が避けた事で、母とユラだけがその場に残される。
「どーゆこと!?」
「分からないけど、告白がどうとか言ってたよな……まさか……?」
ユートに聞かれ、俺が言う。
まさかが的中したのは直後で、キーマがユラへの告白を始めた。
「ずっと前から気になって居ました。
話しかける機会を作れずに、ダ・チン祭を迎えてしまいましたが、これを機会に友人からでも良いので、僕との付き合いを考えてくれませんか?」
その後に少しの間があって、「わ、わたしで良ければ喜んで!」と言う、ユラのOKの返事が聞こえる。
「う、うわああああああああああ!!?」
観客席からラッドが走り去る。それには同情を禁じ得なかったが、キーマとユラは観客達から、歓声と拍手で祝福されていた。
「なんかマッチョが気の毒になってきたヨ……」
「どっちかって言うと俺もそうだな……あの人の人生、もうボロボロだろ……」
衆人環視の前での噴火に、好きな女の子のあっさりの撃沈。
俺だったらもう村に居られないし、多分、一生立ち直れないだろう。
ユートの言葉には同調して答え、はにかむ二人とそれを見守る、ユラの母親を呆然とした顔で見つめた。
「ヒジリさん! 待って下さい!」
数十分後。
村を去る際に、ユラの母親に声をかけられた。
着替えを終えて歩いていると、村の入口辺りで彼女に見つかり、声をかけた後には走り、俺の近くにやって来たのだ。
そこには娘のユラは見えず、肩で息をする母親一人。
「準優勝おめでとうございます。
それから、本当にありがとうございました。
娘もとても喜んでいました。見送りに来ないのはアレなんですけど、幸せの絶頂期だと思うので許してあげてください」
そもそもの見送りを期待して居なかったが、その後の言葉で理由が分かり、「分かりました」と言って笑顔を返す。
「幸せのゼッチョーキだと見送りに来ないの? 頼むだけ頼んで用が済んだらポイ?」
とは、ある意味辛辣なユートの声で、笑顔を若干苦笑に変えて、それを無言の答えとして置いた。
こればかりは性格と常識の問題だ。見送りに来るべき、と、強制する事が正しいのかは俺には分からない。
ただ、俺なら礼を言う為に見送りに来るとは思う事だが。
「親が言うのも何なんですけど、あまり長続きはしないと思います。
私としてはヒジリさんのような、男気のある男性の方が良かったんですけどね」
「い! いやいや! そんな……そんな事無いですよ……」
その後の言葉にはそう返し、ユラの母親に「ふふふっ」と笑われる。
年上属性は無い筈だったが、なぜかどうしてどぎまぎしていた。
「じゃ、じゃあそろそろ帰ります。ユラさんによろしく伝えて下さい」
新しい属性に目覚めそうなので、逃げるようにして足を動かす。
「お気を付けて。またいつか」
最後の言葉には「はい」とだけ答えて、軽く手を振って村を離れた。
「そう言えばムメは? 持って帰らないの?」
「セキュアに入れる事も考えたんだけど、そこを見られたら怪しまれるだろ? だから送って貰う事にしたよ」
聞かれた為に答えると、ユートは「ふーん」と言葉を返した。
「じゃああとはお土産だね? ダナヒさんにはロップで決まりでしょ」
「いやいや、あの人絶対切れるし……それはそれとしてネタで買って、本命を用意しとかないとヤバイって」
その後の言葉にはそう返し、二人で笑って道を歩いた。
村が離れ、森が近付いた頃、誰かが不意に姿を現す。
敵意や殺意は持たないようだが、突然の事なので少々驚く。
「あ、負け犬マッチョマンだ」
が、ユートのそれで相手に気付き、失礼ながらに安心をした。
「一体……俺の何が悪かったんだ……」
現れた男、ラッドの一声は訳の分からぬそんなモノだ。
「俺の何が悪かったんだぁぁぁあ!!?」
続けた言葉も同じもので、それにはユートが「ビクリ!」とビビる。
「教えてくれよぉぉぉ! 何なんだよぉぉ!?」
直後には半泣きで取りすがって来た。
「ちょ!?」と発して後ずさるが、がっちりと掴んで俺を離さない。
「俺はあいつよりずっと前からユラの事が好きだったんだ!
もう何回も告白したさ! 結婚してくれって言った事もあるさ!!
なのにいきなり、しかも一回の告白で、あっさりOKしやがってよぉぉ!
一体俺の何が悪くて、あいつの何が良かったんだぁぁぁ!?」
それにはユートが「主に顔じゃない?」と言い、聞こえない事に俺が感謝する。
「ま、まぁ……強いて言うなら二度三度と、同じ事は言わない方が良かったんじゃないですか……?
俺ん家の家訓みたいなものなんですけど、男は同じ事を二度聞くな。そして、同じ事を二度言うな。
と言うものがあって、少なくとも俺の母さんは、それを守る父さんを格好良いと思ったらしいです。
大事な事は一度言えばわかるし? みたいな事も言ってましたね」
それで納得するのかどうか。
代わりにラッドに向かって言って、彼が若干呆然としている間に、両手の中から左足を抜き出す。
「そ、そういうもんか……要するに……」
ラッドはそれで四つん這いになり、感銘を受けたのか体を震わせる。
「要するに……俺の男らしさは、張りぼての筋肉だけだったという事で、中身を伴っていなかったという事か……
足りて居なかったものは真の男らしさ……そういう事だなカタギリヒジリ……?」
「あと顔も」
それには「うるさいよ!」と言いたかったが、ユートは無視してラッドに向かう。
「多分、そんな所じゃないですか……」
そして、確信では無い言葉を送り、ラッドに右手を差し伸べた。
何だかんだで敵対したが、下手をするとキーマより好感が持てる。
……というか、もしかすると憐れみかもしれないが、せめて優しくしてあげたかった。
「……」
その手を取って無言で立ち上がり、ラッドが小さく息をつく。
「お前と最後に話せて良かった。今までの無礼を許して欲しい」
その後にそのまま握手に持って行き、そう言った後に右手を離した。
普通に良い人だ。誤解をしていた。
「いえ……こちらの方こそ色々と失礼を……
年長者に対する敬意を欠きました」
「おいおい、俺達は同い年位だぞ……おっさん扱いするのはやめてくれ」
聞いた直後に「えっ!?」と言う。ユートも揃っての驚きである。
「これでも一応十八なんだがな……もしかして二十五くらいに見えたか?」
冗談だったのかラッドが笑う。
見えました。とは、流石に言えず、「そんなまさか……」と、苦笑いを見せて置く。
ラッドがそれをどう受け取ったかは謎だが、「ははは」と笑って話を終えた。
「俺はしばらく旅に出る。男を鍛える為の旅だ。
それでもユラの事が好きだったなら、今度は男気でぶつかってみるつもりだ。
お前も達者でな。カタギリヒジリ」
最後に言って、頷いたので、俺も無言で頷きを返す。
そして、立ち去るラッドの背を見て、
「祭りはもう終わってるのに、なんであの人は服を着ないのかな……」
という、一つの疑問をボソリと口にした。
帰って来た頃には子供が出来て居て結婚してたりして一層凹むのです。




