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激闘のヒジリ

 数十秒後、俺と軍勢は言葉も無しに戦いに入った。

 たかだか一人と油断をしたようで、当初はまばらな攻撃だったが、それらを全て撥ね退けた辺りから、相手は本気になったようだった。


 周囲はすでに敵だらけ。十数人が群がって来る。

 それらを一気に槍で薙ぐと、すぐにも新手が槍を突き出して来た。

 数人がかりの槍衾やりぶすまである。タイミングを揃えた突きと言えば良いだろうか。

 こんな所で見るとは思わなかったが、爺ちゃんからの知識が役立ち、突き出された槍の一本に俺はすかさず飛び乗るのである。

 そして駆けて、正面の敵の顔を踏む。そいつの背後に着地して、後ろ向きのままで背中を蹴りつけた。


「ウワアアァァ!?」


 数人を巻き込んでその敵が飛ぶ。


「一人と侮るな! 手強いぞ!」

「オォー!!」


 誰かが叫んで他が応じ、時間差攻撃で俺を襲うが、剣での攻撃を槍で受け、槍での攻撃を脇に挟んだ。

 それから体を「ぐい」と捻り、周囲の敵を一気に薙ぎ倒す。


「お、おのれバケモノめ!」


 直後に現れたのは重装甲の騎士。

 左手に盾を、右手に剣を持ち、部下達と共に斬りかかって来る。


「くっ!!」


 それらをかわして攻撃すると、重装甲の騎士が盾で防御した。

 その際に槍が壊れてしまい、手近の敵を背負って投げる。

 すかさずそいつから剣を奪って、折れて壊れる事を承知で連撃を繰り出した。


「なっ、こっ、こいつは……!?」


 騎士は何とか防御をしていたが、攻撃に耐え切れずに盾が粉砕。


「ほ、本当に……人間か……ッ!?」


 その隙を逃さず容赦無く攻撃し、重装甲の騎士を倒した。


「ヒジリヤバイ! あれ! あれー!!」


 直後にユートが声を上げ、周囲の敵が距離を取る。

 何かと思って空を見ると、大量の矢が迫って来ていた。

 少なく見ても百本以上。不得意な武器では防ぎきれるとは思えない。


「間に合うか!?」


 と、逃げを決めると、巨大な竜巻が眼前に現れた。

 それは、こちらに飛んで来た矢を巻き込んで、敵の只中を突き抜けて行く。

 巻き込まれた敵や武器が舞い上がり、その後には一本の道が出来ていた。


「援護するわ! 時間を稼ぐわよ!!」


 背後の声はカレルの物だった。魔導砲を片手に入口に陣取っている。


「今の竜巻はカレルさんのマホー?」

「多分な!」


 ユートの疑問に短く答え、小さく笑って向きを戻した。

 それから動揺する敵軍に突っ込み、カレルと共に村の入り口を死守した。

 奪った剣が壊れれば、武器を奪って戦いを続け、奪う武器が途切れた時には、拳と足で戦いを続けた。


「クソッ……」


 果たして、どれくらい戦ったのか、拳が砕けて血が滲む。

 直後に現れた騎馬兵達には、巻き上がる炎を直線で放った。

 そこからはしばらく魔法頼みで、体力に加えて精神も疲弊する。


「(嘘だろ……眠いとか)」


 やはりは魔法はどうも苦手だ。調整の感覚がいまいち分からない。

 こんな状況でも眠気を感じ出し、流石のマズさに片目を瞑る。


「ヒジリ! 前!」


 ユートが叫んだ時にはすでに、一騎の騎馬兵が直線上に居り、太いランスを突き出して、凄まじい速さで接近していた。


「マズイな……」


 かわさなければ。

 そう思う物の、体が重くてなかなか動けず、なんとか一歩を歩けた時には、馬上の敵は勝ち誇っていた。


「ヒジリー!!?」


 ユートが叫び、頭を引っ張る。

 しかし、それでも体は動かず、「魔法なんか……使うんじゃなかった……」と、俺は後悔の言葉を吐いた。


「グエエッ!?」


 直後に馬上の敵は落ち、馬だけが目の前を通り過ぎて行く。


「わりぃ……! 遅れた!!」


 と、姿を見せたのは、その敵を倒したギースであった。


「他の奴らもじきに来る! お前は少しそこで休んでろ!」


 俺が何かを言うより早く、ギースはそう言って敵へと向かう。


「ありがとよ! こっからは俺達も村を守るぜ!」


 そして、数人のデアジャキアのメンバーが、武器を片手に通り過ぎて行った。


「助かった……のか」


 と、膝をつくと、左手で突然爆音が鳴った。

 それは、数秒後にも更に聞こえ、そこからは間断無く聞こえ始めた。

 その度に敵が吹き飛んで行く。巻き込まれた味方も居るようだ。


「退くわよヒジリ! ここに居るとマズイわ!」


 何時の間にか俺の体は、カレルの両手に支えられており、一体何が起こったのかと、虚ろな意識でカレルに聞いた。


「ローエンス砲の砲撃よ! みんなも退いて!! 早く!!」


 果たしてそれは答えであったのか、大きな声でカレルは叫び、デアジャキアのメンバーに伝えた上で、俺を引き摺って村へと動いた。




 ローエンス砲の砲撃は第一王子の軍を破った。

 砲撃は今は村へと移り、破れた王子の軍勢は、第三勢力によって駆逐されている。

 俺達は村の外れに逃れ、丘の麓に身を潜めており、砲撃によって焼かれる村を何も出来ずに見守っていた。


 現状、ここには二十人程が居るが、アジトの方には村人も居る。

 もし、ここを突破されれば、戦える者は殆ど居らず、それ故に俺達はこの場所を最終防衛線と据えていたのだ。


「実際、このままなぶり殺しじゃねぇのか……

 いちかばちかでも打って出た方が……」

「バカかオメェは! あんなもんとどうやって戦えるって言うんだよ!

 運良く装置を見つけたとしても、辿り着く前に殺されちまうだろ!」


 メンバーの内の誰かが言って、もう一人の誰かがそれを叱る。


「でも、なんとかしないと確かにヤバイぜ?

 アジトの方に直撃だってし兼ねない……そうなったら、俺の家族もみんな……」


 しかし、続けての誰かの言葉で、叱った男も口を閉ざした。


「そもそも一体誰の仕業だよ……っていうかまず何がしたいんだ!?」


 これはギースで、興奮しているのか髪の毛が若干逆立っており、それを見たニースが「お兄ちゃん……」と言って、ギースの興奮を冷まそうとする。


「クソ!」


 が、ギースはそれでも落ち着かず、地面を右手で叩いて一言。

 それで少しは落ち着いたのか、「ごめんな……」とニースに謝罪した。

 答えは俺にも分からない。どうすれば良いのかと言う事すらも。

 ギースの苛立ちも良く分かったが、こういう時こそ落ち着いて考えないと、自滅の方向を辿ってしまう。


 それこそ漫画や映画なんかで「うわああああ!」とか言って飛び出した奴。

 大概が数秒後には死んでいるだろう。

 そうはなりたくない俺は意識して、冷静を装って考えるのである。


「犯人はやっぱり……第二王子ですかね……? ローエンス砲ってあそこの庭にあったデカイ大砲の事じゃないですか?」


 思い出しつつカレルに聞くと、「そうね」と言う言葉がまずは返る。


「でも、一門じゃ無かったみたい。少なくとも三門はあると思う。

 それに目的がさっぱりわから……っ!?」


 それから続けた言葉の途中で、爆発を目にしてカレルは黙った。

 そこは僅かの数十メートル。

 もし、こちらにズレていれば、全員が吹き飛ばされていたかもしれず、一同の中には恐れ慄いて腰を抜かしている者も見えた。


「(このままじっとして居ても、確かに狙い撃ちにされるだけか……

 それならいっそ……)」

「あいつらが気付いているかどうか……ローエンス砲には弱点があるのよ」


 密かに思うと、カレルが言って、殆ど全員が顔を向けた。

 弱点。即ち勝機があるのなら、そこに賭けたいと思っているのだ。


「角度にして四十五度以上にはローエンス砲は発射できない。

 エネルギーがうまく供給されず、強制的にシャットダウンされるの。

 再起動までは六十秒はかかる。あいつらがそれを知らないのなら……」

「反撃のチャンスは十分ありますね……」


 そんな中でカレルは続け、最後の部分を俺が補った。


「四十五度以上の角度ってどれ位? ヒジリの朝のモッコリくらい?」

「おいぃぃぃぃ!?」


 こんな時にナニ言ってるの!? ユートの声にはそう返し、「ポケー」としている皆さんに気付く。

 唯一、カレルは「ど、どうかしら……」と言ったが、マトモに目を見てくれなかった。


「それにどうやって撃たせるのさー。向こうだって無駄撃ちしないよー?」


 続けて言ったそれは尤もで、撃たせる方法は確かに必要だ。

 俺とカレルにしか聞こえて居ない為に、二人で「うーん……」と思案した。

 直前で飛ぶか。というものが浮かんだが、それでは接近時に撃たれると気付き、言葉にするまでには至らない。


「うわっ!?」

「ひいい!?」


 直後に付近で爆発が起こった。場所はギース達の家である。

 今はすでに粉々になり、家の外枠だけが燃えており、二人は何も言わなかったが、悔しそうにそこを眺めていた。


「わたし、やります……注意を引けば良いんですよね……?」


 答えが出ずに黙って居ると、ニースが不意にそう言った。

 視線は壊れた家にあり、直後には一歩を歩き出す。


「お前まさか!?」


 ギースが何かに気付いた時には、ニースはするりと服を脱いでいた。

 ニースの体が光に包まれ、徐々に形を変えて行く。

 しばらくするとニースの体は、巨大な竜に変貌していた。

 その身は白で、大きさは十m程。すぐにも翼を羽ばたかせ、強烈な風をその場に生んだ。


「やめろニース! そんな事したらお前は……!!」


 風圧に耐えてギースが言うが、ニースは聞かずに頭上に飛んだ。

 そして、砲撃が続く北へと向かい、その身に注意を引きつけたのだ。


「なるほど。その手があったか!」


 暢気な事を言うのはユートで、幸いにもそれは他の者には聞こえない。


「ニース!! 馬鹿野郎!! なんて事を……!!」


 と、ギースが走り出した為に、それを追う為に俺も動いた。


「これを使ってくれ!!」


 誰かが言って槍を投げたので、走りながらにそれを受け取る。


「六十秒よ! 六十秒の間に全ての砲台を破壊して!」


 すかさず言ってきたカレルに「はい!!」と言い、前方を走るギースを追った。

 やがて森の中へと入り、草木を踏んで小川を越える。

 でこぼこした地面を飛び越えて進み、森の端から平野に飛び出た。


「こういう事か!!」


 目前に広がる平野の先には、なだらかな丘が存在していた。

 そして、ローエンス砲はその丘の上に横並びで設置されていたのである。

 ローエンス砲の砲門は、現在は空に向けられており、俺達はその為砲撃を受ける事無く、一気に平野を駆け抜ける事が出来た。


「な、なんだ?! 壊れたのか!?」

「こっちもだ! どうなってんだ!!?」


 おそらく発射をしたのであろう、ローエンス砲の射手達が騒ぎ出す。

 射角は彼らの頭上を飛んでいる竜と化しているニースにあった。


「な、なんだあいつらは!?」

「む、迎え撃てー!!」


 見張りの兵士に発見された。向かってきたのは五十人ばかりだ。

 俺とギースはそれを迎え撃ち、蹴散らしながらに丘を駆け上がる。


「敵襲ー! 敵襲ー!!!」


 直後には全軍が動き出すが、俺達の目標は砲台にある。

 それらを無視して砲台に向かい、空中から槍を投げて一門を破壊した。


「どけどけェェ!!」


 入れ替わるようにしてギースが飛んで、蹴りを繰り出したままで地面に落下。

 その事により砲台を破壊して、土煙の中からギースが飛び出した。

 残された砲台はあとひとつ。ニースが旋回をしている下だ。

 距離としてはギースが近いので、そちらはギースに任せる事にし、俺はギースに群がろうとする敵兵に向けて魔法を放った。


「やったぞヒジリ!!」


 やがてはパンチで破壊して、敵を蹴りながらにギースが叫ぶ。


「よし! 退こう!」


 と、返した直後に、俺の目の前の敵兵が散った。


「しまっ……!?」


 直線上に見えたのは、四基目となるローエンス砲。

 充填と調整は終わっていたようで、直後にそれは発射されたのである。




 爆発音が聞こえた後に、俺は瞑っていた両目を開いた。

 しかしながら薄暗く、どうした事かと周囲を見回す。

 それは影。

 大きな影に覆われて居た為に感じた暗さで、影の正体に気付いた時には、俺は両目を見開いていた。


「ニース……!?」


 俺の体は、竜と化したニースの体で包まれており、その為に俺はローエンス砲の直撃を喰らわずに済んだのである。

 その代わりにそれを受けたのは竜と化したニースであり、影はすぐにも小さくなって、本来のニースへと変わって行った。


「うあああああっ!!」


 叫んだのはギースで、一気に詰め寄り、ローエンス砲を破壊する。


「み、見ろ!? 新手だ! 新手が現れたぞ!!」


 敵兵は新手の姿に気付いて、丘の上から逃げ出し始めた。


「あ……だ、大丈夫でした……か……?」


 直後にニースが口を開く。目は半分も開いて居ない。


「ああ!」


 と答えてローブを羽織らせ、ギースを近くに呼び寄せた。

 ギースは近くにやって来た後に「馬鹿野郎……!」と言って拳を握った。


「どうしてこんな無茶をしたんだ!! ただでさえお前は……」


 そして、地面に膝をつき、泣きそうな顔で言葉を続け、「にこり」と微笑んだニースを目にして、「なんでだよ……」と小さく言ったのである。


「ヒジリさんは……お兄ちゃんの友達……だから……

 それにわたしも……ヒジリさんとは……」


 ニースはそこまでを言葉にした後、苦痛に耐えて顔を顰めた。

 けほっ、けほっ、と小さく咳込み、少々の血までも吐いてしまう。

 俺のせいだ。と、強く思う。俺が油断をしたせいで、こんな小さな子が酷い目に。

 どうすれば良いんだ、と考えるが、頭には何も浮かんでこない。


「ニース!?」


 ギースが顔を近づけたが、ニースは何も応えなかった。

 ただただ小さな声で喘ぎ、時折、体を痙攣させるだけ。


「兎に角チリョーだよ! どうにかしないとー!」


 ユートに言われて「そうだな!」と気付き、ニースを抱えて立ち上がった。


「ど、どうするんだよ!?」

「どうにかするんだ!」


 ギースに聞かれて即答をする。方法は分からないがじっとしては居られない。


「あれ? カレルさんだ」


 これはユートで、丘の下を見ており、そこには百人程の団員を従えたカレルの走って来る姿が見えた。

 見た事の無い顔が殆どである。その中には金髪の女性も見える。


「(どうしたんだろう……)」


 とは思う物の、ニースの治療が最優先で、彼女を抱えて丘を降り、カレルにすぐに助言を仰いだ。


「……大丈夫。まだ助かるわ」


 それがカレルの返した言葉で、俺とギースは息を吐く。

 流石はカレルだ。と思う反面、自らの無力が口惜しかった。


 その後に地面に寝かせろと言われて、ニースの体を地面に下ろす。

 百人程の団員は、若干早足で通り過ぎ、辺りの安全を確保する為か、武器を抜いて散って行った。


「所謂回復魔法って奴ね……かなり疲れるから後はよろしく……」


 ニースの体に手を当てて、苦笑いを作ってカレルが言った。


「よろしくってどういう……?」


 聞き出す前に、当てた右手を暖かく輝かす。


「っっ……くっ……!」


 なぜだかカレルも苦しそうで、「大丈夫ですか」の「だい」までを発す。

 そこで言葉が止まった理由は、カレルが「パタリ」と倒れたからだ。


「ちょ!? カレルさん!? カレルさぁぁん!?」

「おい!? カレル!? どうしたんだよカレル!?」


 結局の所倒れた者が二人になっただけであり、本当に大丈夫かという不安もある為に、狼狽する俺とギースであった。


だいぶ成長して来ましたが、まだまだ油断性があるヒジリでした

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