古都での再会
ナエミを送った帰り道に、俺達は古都エイラスに立ち寄った。
ドワーフの街からは一日の距離にあり、俺もユートも久しぶりに、カレルに会いたいと思ったからだ。
しかし、いざ訪ねて見ると、カレルの家には誰も居らず、まるで、火事にでも晒されたかのようにそこら中が燃え落ちていた。
一体カレルに何があったのか。疑問するも答えは出て来ず、周囲の人に聞こうと思うが、生憎誰も近くに居なかった。
「ど、どういうコト? カレルさんは?」
「俺に聞いても分かる訳無いだろ……ずっと一緒に居たじゃないか」
それらを目にしたユートが言って、答えた俺が歩き出す。
目的地は自警団の詰所であったが、以前居た時に知り合いになったおじさんを見つけたので質問してみた。
「おう、久しぶりだねヒジリ君! カレルちゃんの家はもう?」
見て来たか? という意味だと思い、それには「はい」と言葉を返す。
「そうかい……おじさんも全部知ってる訳じゃないが、どうも火事があったみたいでね。自警団が駆け付けた時には、もう手がつけられなかったそうだ……」
それから言って、残念そうな顔をしたので、まさかを感じて「カレルさんは?!」と叫んだ。
「うん……なんとか助け出して、一応、病院には運ばれたんだけど」
「ど……!? なんです! どうなったんですか!?」
「少ししてから行方不明になったらしい。
病室は誰かに襲撃されたかのように、酷い有様だったそうだよ」
治ったのか。いや、そうだとしたら居なくなる意味と荒される意味が分からない。
考え込んで困惑していると、おじさんは右手を見せて去って行った。
「攫われたの? 何で? どうして?」
「そうだと決まった訳じゃないだろ……」
ユートの言葉にはそう答え、少しの間を黙って考える。
追われているのか。だとしたら誰に?
色々と思う所はあるが、結局答えは出てこなかった。
「兎に角一度、病院に行くか」
想像して居ても時間の無駄だ。情報を仕入れた方が話が早い。
そう思った俺がボソリと言うと、「そうだね!」とユートは真面目な顔で頷いた。
「あ、でも、場所を聞き損ねたな……」
気付いた時にはおじさんは視界の中から消えて居た。
意外に早い。と言うか目立たない。人込みに紛れられたら一巻の終わりだ。
まさか「おじさーん!」と呼ぶ勇気も無く、近くに居る人に聞いてみる事にした。
「さぁね……病院って言っても結構あるからなぁ」
「カレルさん? さぁ、知らないけど……」
だが、知っている人はなかなか捕まらず、途方に暮れて立ち止まる。
「あ! ヒジリ、あれ!!」
そんな時にユートが叫び、曲がり角の一ヶ所を右手で指したのだ。
「あっ!?」
そこには顔の半分だけを出した、相棒妖精、ロウ爺が居り、俺達の姿に気付いた後に、手を動かしてそちらへ招いた。
存在を知らなければ少しホラーだが、幸いにも俺はロウ爺を知っている。
その為、むしろそれには安堵して、俺は招かれた路地へと動く。
「良かった……生きてたんだな」
無条件にそう思い、ロウ爺を追って奥へと向かう。
ロウ爺は「フェフェフェ」と笑った後に、一軒の建物の前で止まった。
ピンクの看板がやたらと目に来るアヤシイ雰囲気の建物である。
酒場の名前はプッ〇ーキャット。メス猫と言う意味あいの言葉であろうか。
「いぃ!? そこ!?」
驚く理由はロウ爺が、その店に「すうっ」と入って行くから。
ユートと違って無視ができるのか、ドアを開けずの入店だった。
「行こうよヒジリ! 何照れてんの!?」
「あ、いや、別に照れては無いけど……」
想像通りならイケナイ店である。未成年が入店して良いのだろうか。
しかし、興味は相当にあり、覚悟を決めて歩き出した。
カレルの安否を確かめる為……と言う、建前を最大限に活用した上で。
「ううん! お邪魔しまぁ~す……」
咳払いをしてからドアを開けると、大きなステージがまずは見えた。
店内の色は主に赤で、ステージの上にはポールが立っている。
そして、そこでは下着姿の一人の人物が踊っていた。
所謂ポールダンスと言う奴で、振り向きざまに大股開きをする。
「ふほぉっ!?」
それを目にした俺が目を剥くと、「あらヤダ……!」とその人物がこちらに気付くのだ。
「可愛いボウヤじゃない? どうしたのォン?」
親父であった。それも濃い目だ。格好だけは女性のそれである。
先程見たモノを忘れる為に、俺は入口に頭を打ちつける。
「どうしたのダッツェルちゃん? お客さん?」
「アラヤダー可愛い僕ちゃんじゃなぁい!!」
親父の数はすぐに増え、野太い声で近付いてくる。
「いや、あの、すみません、間違えました!!?」
何やら身の危険と言う物を感じ、俺は言いながらに後ずさった。
「お待ちなさいよ!」
が、親父達は一斉に動き、四方から迫って俺を捕縛。
「分かるわ……いえ、分かってるつもりよ……
あなたにはあたし達と同じ匂いを感じるわ……
面接希望ね? そうなんでしょう?」
それから一人の親父が言うので、「違いますよ!」と全力でキレておいた。
「ムキになる所が怪しいわねぇ……
ま、良いわ。じっくりと、四人がかりで聞いて、A・GE・RU♡」
「ひいっ!?」
体が引かれ、入り口が閉められる。直後に凄い力で引っ張られ出した。
「やめてっ!? い、イヤァァァ!!!」
流石に攻撃する訳にも行かず、俺はそのまま引き摺られるようにして、強引に店の奥に連れて行かれるのだ。
「アーーーーーッ!!」
……俺の貞操はなんとか守られた。事情を彼らに話した為だ。
しかし、頬や首筋にはいくつものキスマークが残されており、話を聞くという名目なのに、ズボンは脛まで下げられていた。
「ふぅん……それは残念ねぇ」
事情を聞いた一人が言って、右手で「ジョリリ」と顎鬚を擦る。
おそらく彼らのリーダー格なのか、親父としての貫録は十分だ。
「でも嘘は言って無いみたいね。良いわ。あたしについてらっしゃい」
その後に更に言葉を続け、隣の部屋へのドアを開ける。腕も足も毛がボーボーで、例えるなら原始のキャバクラである。
「素質はあるのに残念だわぁ……」
「でもあの子、どこかで見た気がするのよね」
「あー分かる分かる。あたしも思ってたー」
残りの親父が言いながら、別のドアから姿を消して行く。
俺は涙の後を拭って、ズボンを上げて隣に向かった。
そこは窓も無い薄暗い部屋で、ベッドがひとつあるだけだった。
そして、そこには体中を包帯で巻かれた人物が寝ていた。
「ま、まさか……」
と言うと、体を起こし、「ヒジリ……?!」と声を出して相手が驚く。
その声を聞いてカレルだと確信し、「カレルさん!?」と言って近くに向かった。
「じゃああたしはあっちに行ってるから、何かあったら呼んで頂戴」
親父が言ってドアを閉め、隣の部屋に姿を消した。
その際にナイフをしまった事を見たが、警戒の為だったと納得をしておく。
どういう訳か現状謎だが、カレルを匿ってくれていたのだろう。
「どうしたの? エイラスに帰って来るなんて。ナエミちゃんは見つからなかった?」
「いや、ナエミは見つかりましたけど……
っていうか、それ所じゃないでしょう?
どうしたんですかそっちこそ……」
聞かれた為に一応答え、ベッドの脇で片膝をついた。
包帯の下に見える体には、火傷の跡は殆ど見えない。
見えるのは切り傷。そして打撲の跡のようなものを薄らと見て取る事が出来る。
これがカレルの逃げた訳と、匿って貰った訳だと思うが、一体誰に、何故されたのかで、俺は疑問して顔を顰めた。
「え? カレルさん?」
これはユートで、今更に相手がカレルだと気付いたらしい。
カレルの前に浮遊して「どーしたの!?」と質問していた。
「どうしたんですか……って言われてもね……あたしも正直何が何やらよ」
カレルの最初の回答はそれ。包帯の隙間から口を曲げる所が見えた。
「簡潔に言うならマジェスティに襲われたの。
それも二回も。理由は不明。
剣と土魔法を使う相手だったわ。心当たりはある?」
第二の回答で質問もされ、それには「いいえ……」と言葉を返した。
「襲われたって何かしたんですか? また不良品を売りつけたとか……?」
これにはカレルは「失礼ね……!?」と言い、痛みの為に顔を顰める。
「全くもって心当たりは無いわ……
それに、もしも文句があるなら、問答の一つもあっても良いでしょ?
なのに本当に問答無用。まるで殺す事が目的だったみたいにね」
その後に言って、息を吐き、痛みに耐えながら体を動かした。
また、とは言ったが確かに過去にそんなものを売りつけた経歴を知らない。
言い過ぎた事には少し反省して、次の質問を切り出して見た。
「ちなみにどうしてマジェスティだと……?」
「相棒妖精が肩に居たわ。それに土魔法を使用した。
知ってると思うけどこの世界では魔法を使える人間は稀。
あの若さで魔法を使えるなんて、普通に考えたらあり得ないわ」
聞くと、カレルがそう言ったので、魔法の部分は知らなかったが、そうだと知って「そうですか」と返した。
それにしてもなぜ襲われたのか。相手は分かったが理由が謎だ。
個人的な恨み? 辻斬り的な犯行?
色々と思いつくが確証は無い。
「で、カレルさんはどうしてここに居るの? 家がカジになっちゃったから?」
これはユートで、聞かれたカレルは「それもあるけど」とまずは微笑んだ。
「逃げる場所が無かったからよ。
最期に一口だけでも……と思ったのかしら。
そこの所は良く覚えて無いわ」
それから続けて苦笑して、「あっ! でも、飲んでないからね!?」と、俺に対して言い訳をした。
飲む、飲まないは自由であるのだが、俺に注意された事を覚えて居るらしい。
別にそんな事で怒りはしないが、生真面目な性格が少し微笑ましい。
「それで、あの親父達……じゃないや、あの人達に匿って貰えたと……」
「そ、そうね」
それは言わずに質問すると、動揺しながらカレルが言った。
なんで動揺……? と思いはするが、人間関係は色々である。そこは質問をせずに置く。
「でも、いつまでも居られないわ……幸い、動けるようにはなったし、そろそろどこかに移動しないと……」
じゃないと彼らに迷惑がかかる。そこまでの事は言わなかったが、カレルの口調と態度は暗にそう言う事を示していた。
「じゃあ来ますか? 俺達の国に」
その為に言うと、カレルは「えっ……?」と言い、包帯の隙間から俺を見て来た。
「実はあれから色々あって、ダナヒさん……あ、いや、海王ダナヒの手伝いみたいな事をしているんです」
それからあれからの成り行きを話し、カレルに現状を知って貰った。
「新しい国ね……嫌いじゃないわよ。そういうバカなコト」
褒められたのか貶されたのか、そこの部分では「はぁ……」と言う。
「……でも良いの? 迷惑がかかるかもしれないわよ?」
「勿論良いですよ! カレルさんには恩があります! 俺が絶対に守りますから!」
それには遠慮をされないように、理由を示した上で力強く返した。
少なくとも今は。そういうつもりだったが、後で考えれば軽率だったかもしれない。
「そ、そう……そんな事別に……気にしなくても良いのに……」
カレルは直後に俯いて、小さな声でそう言った。
照れた、と、受け取れなくもない行動だったが、この時の俺はそれには疑問。
どこか痛むのか、等と思い、少し心配したものだった。
「どうしたのカレルさん? 調子悪くなった?」
「だ、大丈夫よ大丈夫、何でも無いから」
それを見たユートに心配されて、カレルはぎこちない笑顔を見せた。
「……じゃあ早速行きますか?」
言葉の後に背中を向けて、そこに乗るようにカレルに仕向ける。
しかし、カレルは「えっ……ちょっ、何!?」と、どうやら困惑しているようだ。
「いや……何って病人じゃないですか? 気にしなくて良いんで乗って下さい」
これにはカレルは「こっちが気にするのよ……!」と、小さく言って戸惑った。
「じゃ、じゃあ歩きますか……? キツく無いんですか?」
「キ、キツいに決まってるじゃない!
わ、分かったわよ……乗るわよ……乗れば良いんでしょ?
後で文句は言わないでよね……」
訳が分からないが少しキレられる。
最終的には納得してくれたのか、「ぶつぶつ」言いながらも背中に乗って来た。
それから俺達は店へと向かい、店員達に礼を言ってから怪しい酒場を後にしたのだ。
「へぇ……じゃあナエミちゃんとは、無事に再会出来た訳ね?
でも、早速お別れって言うのは、あなたにとっては寂しいコトかしら?」
その日の夜。俺達三人は、川の畔で野宿をしていた。
焚き火を起こしてそれを囲み、岩に腰かけて話しをしており、聞かれた言葉に「いえ、別に……」と返すと、カレルは「ふふふ」と楽しそうに笑った。
「(良かった。だいぶ良くなったみたいだな……やっぱり自己治癒は地味にデカイな)」
それを目にして思っていると、カレルが「どうしたの?」と首を傾げた。
「いえ、収得済みなんですよね。魔法二」
「そりゃあね。魔法は五までは行ってるわ。そっちは?」
言うと、更に質問されたので、「この前で三まで」と言葉を返す。
「ず、随分早いわね……追い付かれそうじゃない……
このまま行くと一番弱いマジェスティは、あたしという事になっちゃいそうね」
続く言葉には「さぁ……」と言い、「でも、知識は一番じゃないですか?」と、思っている所をカレルに伝える。
「それもどうかしら……聞いた話では、レーヌ・レナスも相当らしいけど」
だが、カレルはそれを受け入れず、軽く否定して焚き火を眺めた。
「強さではそうかもしれませんね……本当に、全く見えませんでしたから……」
カレルと同様の場所を見ながら、あの日の事を思い出す。
俺が振った槍はかすりもせずに、そこに乗られて勝負はついた。
そして、王国は滅ぼされ、セフィア達は処刑されてしまったのだ。
ようやく夢には見なくなったが、罪悪感のようなものは残っており、それ故に俺は暗くなって、ぱちぱちと爆ぜる焚き火を見ていた。
「見えなかった……って、一体何が? もしかしてあなたレーヌ・レナスと……」
気配探知の特能が活き、殺気を感じたのはその時だった。
カレルの方でも感じたらしく、殆ど同時に岩から飛び退く。
直後に右手の土手の上から、大量の礫が飛ばされてきた。
「うひゃあー!!」
岩が削れてユートが驚く。
「離れてろ!!」
と、大声で言い、右手に槍を召喚させた。
「多分奴よ!」
カレルの方も銃を呼び、それを右手に言って来る。
カレル曰くの奴はすぐに、土手の上から駆け下りて来た。
右手には剣。左手からは魔法。
魔法の対象は俺のようで、飛ばされてきた石槍を叩き落とすと、相手は暗闇の中で飛んだ。
夜空に向かってカレルが撃つが、それらは全て闇に消え、無傷の相手が姿を現し、俺は槍で攻撃を受け止めた。
髪の毛は白で目は琥珀。若干ながら良い匂いがする。
「女!?」
と、気付いて油断すると、着地をした後に蹴りを繰り出して来た。
「くっ!!?」
それをかわして槍を薙ぐが、剣を横にして相手は防御。
威力に耐えながら地上を滑り、カレルの緑弾を飛び退いて回避した。
「(早いな……けど、そこまでじゃない!)」
回避した場所へと素早く詰め寄り、手加減をした上で突きを連打する。
相手はそれをある程度受けて、回避に切り替えて魔法を撃ってきた。
地面が不意に隆起して、鋭い石槍が俺の喉を襲う。
しかし、それをギリギリでかわして、体を屈めて足払いを放った。
「ぐっ!!?」
石槍が砕けて相手が転ぶ。
だが、すぐにも両手をついて、飛び上がるようにして距離を取る。
そして、その場でカレルの攻撃――緑弾の殆どを剣で弾き、これではかなわないと踏んだのだろう、防御を切り上げて逃亡して行ったのだ。
「(それ程の実力でも無かった気がするけど、こっちは二人がかりだからな……)」
まずは思い、息をつく。
「にしても何が目的なんだ……」
それから普通に声を出し、武器を戻してカレルの方を見た。
「参ったわ……随分強くなったのね」
「いやいや、俺なんてまだまだですよ……海王はもっと強いですから」
苦笑いを作ってカレルが言うので、こちらも苦笑いでそれに答える。
カレルの援護が無かったならば、もう少し苦戦をしていたのは確かな事だ。
「ホントに? 嫌ね……あたしのマジェスティ最弱説が、いよいよ有力になってきたじゃない?」
カレルはそう言って笑った後に、次元セキュアに武器を戻した。
この日を限りに襲撃は止んだが、俺とカレルには疑問が残る。
一体なぜ、何の為に、マジェスティがマジェスティを襲ったのか。
どうしても答えは出なかった為に、俺達は今度の審判の日に、ダメ元で聞いてみる事にしたのであった。
そう言いながら聞きませんが、これは普通に忘れて居ます。
作者が忘れたと言う訳でなく、ヒジリが単純に忘れているのです。
季節の事とかもそうなんですが、割とこの子、すぐに忘れます。
いつか思い出して聞くかもですが、作者が忘れている訳では無いのです。
いやホント! 言い訳じゃないの! 信じてくらさいいい!




