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ポピュラリティゲーム  ~神々と人~  作者: 薔薇ハウス
三章 ゲンナマを求めて
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レナスの想い

 寝ているスラッシュの懐を探ると、一枚の紙切れが発見できた。

 そこには例えるなら鹿のような絵があり、その絵に従って石板を置くと、台座の正面が「ぱたり」と倒れて、レバーのような物が現れたのである。


「またヘンなのが出て来るんじゃないの~?」

「だとしたらむしろ今の内かな……今のスラッシュさんはアレだからね」


 アレとは即ちスリルの塊。

 足手まといとまでは行かないが、見ていて正直心臓に悪い。

 ユートに向かってそう答え、出て来たレバーを下へと下ろす。

 直後に背後の扉が開き、壁の一部が「すうっ」と下がった。

 そこは俺達から見て正面の、一番奥手の壁に当たり、範囲にするなら六m程が、壁を失って露出されていた。


 財宝はそこの棚の上に、数列に渡って保存されており、それを目にした俺とユートは、口を半開きにして立ち尽くすのである。


「す、すごいね、あれって五万ギーツくらいあるの?」

「いや、その千倍はあるんじゃないか……?」


 五万ギーツは金貨で十枚。ユートの金銭感覚はおかしい。

 その辺りの事は知らないようなので、驚きながらに一応突っ込んだ。


「(って言っても財宝の価値なんて、俺にも正直分からないけど……)」


 千倍とは言ったがそれは適当だ。俺にも正直良くは分からない。

 だが、それでも大金になる事は俺の感覚でも理解は出来、少し落ち着いて来た事を意識してから、財宝の棚へと近付いてみた。

 金貨と言う物は殆ど見られず、財宝の内訳は八割が装飾品。

 残りの一、九割以上が、杖や、王冠や、彫像等だった。


「問題はどうやって持って帰るかだな……」


 それらを目にして息を飲み、それから誰にともなく呟く。

 スラッシュは何か考えていたのかと思い、そちらを伺うが寝たままだった。


「え? セキュアに入れれば良いんじゃない?」

「無理だろ……」


 ユートの言葉にまずは言う。思えば無理な理由は無いが、俺の常識は「無理無理」と言っていた。


「やってみてから言いましょー」


 直後のそれは先生口調で、「いらっ」とした為に両目を細める。

 ユートはそれに「あはは」と笑い、「まぁほら、やるだけやってみようよ」と、実行に移す事を催促して来た。


「どうなっても知らないからな……?」


 それだけ言われて「ヤダネ」と言い張る程、ユートとの仲は険悪では無く、一応受け入れて、移動を開始し、露出した部分の左端から手当り次第にセキュアに送った。


 少ししてみて分かった事は、セキュアに物を送る為には、多少なりとも、魔力と言うのか、精神力のような物が必要だと言う事だった。

 おそらくそれは逆もそうで、取り出す時にも必要だと思われ、大体二十キロ位の重さで、六十分集中して勉強をしたような感覚。

 つまり、四十キロも送れば、二つの授業を受けたような感じで、「二十五分休憩が欲しい!」と言う、俺の気持ちも学生ならば分かって貰えるだろうと言う話である。


「え~っ、まだ半分も行って無いよ~?

 もしかして飽きたの? 尻取りでもする?

 じゃあ最初は熟年離婚のじゅ!」

「いや、そういう訳じゃなくて……

 なんかこう、精神に来るものがあるんだよ……

 ユートには多分分からないだろうけど、連続して授業を受けたような感じ?

 ちょっと休んだら再開するから、悪いけど黙って待っててくれよ……」


 それにはユートは「フーン……」と言って、一応黙って待って居てくれた。

 そして、おおよそで二十五分が過ぎ、作業を再び開始すると、


「ヒジリ復活した!」


 と喜んで飛んで来て、俺の肩に収まるのである。

 それからも何度か休憩を混ぜつつ、作業は三時間程でようやく終わる。


「ん……? んん……? これは一体……?」


 と、目を覚ましたスラッシュに事情を話すも覚えておらず、


「酒は飲んでも飲まれるな、か……」


 と言う、反省した様子のスラッシュを連れ、ヘール諸島へと帰還するのだ。


 見た目には手ぶらな俺達なので、誰に怪しまれると言う事も無く、二日後には無事に国外に出て、換金の為にコールドに寄ってみた。

 鑑定の結果、財宝は全部で三千万ギーツになるらしかったが、すぐには用意が出来ないという事で、まずは五百万ギーツ分を金に換えた。

 そして、財宝そのままで、一千万ギーツ分をレイラに渡し、残りの千五百万ギーツ分は、俺のセキュアに収まったままとなったのだ。


「あ!? 集まった? 建設の資金が!?

 ま、マジかよ……い、いや、そいつぁ良かったな……

 余計な事はしなくて良かったか……」


 報告するとダナヒは言って、書きかけの書類を握り潰した。


「本当に良かったです。

 学校を建てても余裕があるし、他にも何か建ててみようかなって。

 まぁ、その辺の事はナエミと相談して、決まったらまた話しますね」

「お、おう」


 気にせず言うと、ダナヒはそう言い、「頑張れよ」と続けて紙を投げ捨てた。

 立ち去り際には「やれやれ……」と息を吐き、「何でもねぇよ!?」と慌てるのである。


「はぁ……?」


 何かおかしいな。と、思いはしたが、その時の俺は何も知らず、ダナヒにそう言って館を去った。

 これは後日に分かった事だが、ダナヒは俺に与えた島に鉱脈があった事にしたかったらしく、それを買い取るという名目で金を支払うつもりであった。

 その作戦書……というか筋書きを練っていたのだが、俺が資金を見つけて来たので、不要になったそれを丸めてゴミ箱に捨てたと言う訳なのだ。

 ちなみにこれを教えてくれたのはダナヒの副官のデオスであり、


「ああ見えて照れ屋ですから、これは聞かなかった事にして下さい」


 と言う、デオスの願いを受け入れて、知らないフリを貫く事にした。


「(なんだかんだでお人好しだよな……ま、そういう所があるから、皆、ついて行きたいと思うんだろうけど)」


 それには自身も含まれており、気付いた直後に俺は笑った。

 ともあれ、資金を調達した俺は、人足を手配して学校建設を始めた。

 完成はおよそ八か月後という事で、その時が早く訪れる事を、ナエミ達と共に見守って行くのだ。




 その日の未明は審判の日だった。

 特筆する事は何も無い。

 いつものように話だけで終わり、私はこちらの世界に戻った。

 寝ていた為にベッドの上で、眼だけを開けて天井を見つめる。


「……目が冴えたな」


 起きるにしては早い時間なので、もう一度寝ようと試みたが、最早眠れそうには無かった為にベッドの上で体を起こした。


「どうだった? 合格か?」


 飛んで来たのは相棒妖精。生憎と名前を付けてはいない。

 そればかりか出来るだけ接触しないよう、敢えて冷たく扱ってきたつもりだ。


「見れば分かるだろう」


 今回もまたそういう風にして、ベッドの中から左足を出す。

 別に奴が嫌いな訳では無いが、愛着を持つと後が辛いのだ。

 普通にしていれば問題ないが、私がやろうとしている事の前では。


 ベッドから抜け出して窓まで歩き、外を見る為にカーテンを引く。


「まだ暗いよ?」


 と、妖精が言うが、それを無視して外を眺めた。

 降りしきる雨。そして暗闇。それに下着姿の自分が見える。

 背後では妖精が舌を出していたが、それをも私は見えて居ない事にした。


「(気の毒な物だな。相棒妖精とは……)」


 私が奴ならとっくに折れている。

 二回も無視されればこちらから願い下げだ。

 だが、奴はもう何年も、懲りずに接触を図って来て居る。

 それがサガなのか、個性なのかは知らないが、気の毒な存在だと心底思う。果たして何度それを思ったか。

 今日もまた私はそう思い、カーテンを閉めて浴室に向かうのだ。


「ついてくるな」

「行って無いでしょ」


 一応言うと、妖精は尖って口で私を見つめた。

 入浴に関しては物理的なダメージが伴うので、奴も自らは近付いて来なくなった。


「そうだな」


 それを見てからドアを開け、入った後に鍵を閉めた。


「ん……少し太ったか……?」


 鏡の前で立ち止まる。脇腹の肉が増えた気がしたのだ。

 恐る恐るに右手を伸ばし、肉を掴んで少しを沈黙。


「いや……そんな事は無いな……」


 結果としては見間違いだと思うようにして、首を振ってから浴槽に近付いた。

 実際は多分……少し太ったが、今日からのケーキを控えれば良い。

 表情を変えずにそう思い、右手を浴槽の中へと入れる。


 浴槽の中身は当然水で、流石にそこでは湯浴みは出来ない。

 故に、私は前屈みになって、右手の先に魔力を送った。

 取得した属性は水であるが、かと言って水を増やす訳では無い。

 魔力を円状に放つイメージで、浴槽の水を暖めているのだ。

 例えるなら体温を広げるイメージか。実際には魔力を放っているのだが、分かり易く言うのであれば、そんなイメージが一番近いだろう。


 これは私のオリジナルでは無く、とあるマジェスティが考案したものだ。

 もはや名前は忘れてしまったが、方法だけは記憶の中にあり、今でもこうして私等に重宝されていると言う訳だった。


 他の者にも教えてやりたいが、この世界には魔法を使える者が少なく、かと言っていきなり「暖かい風呂に入りたくないか?」では、頭がおかしい女だと思われる。

 それ故に私は広げる事も出来ず、自分の中だけで完結していたのだ。


「ん……こんなものだな」


 適温になった為に手を戻し、下着を脱いでバスタオルを取る。

 それからそれを浴槽にかけ、暖めた湯の中に体を浸けた。


「あぁ……気持ち良いな……」


 体の内と外から癒される。

 暖かい湯と言うのは不思議な物で、母の中に居た時の記憶なのか、安らぐ気持ちさえ感じる程だ。

 ベッドの中に居ても、美味しいものを食べても、こういう気持ちには決してなれない。


「あの時も……」


 そう、あの時も……

 私はこうして安らぎを感じていた。

 同じように暖かい湯の中で、内と外から癒されていた。

 しかし、それはすぐにも壊され、全てを失う事になったのである。

 そして、私は今ここに居る。

 ここで全てを終わらせる為に。


「そう、この星で終わらせる為に……」


 浴槽の中に体を沈め、天井を見ながら私は呟いた。




 制服に着替えて執務室に行くと、副官のヤールがすでに待って居た。

 時刻としては十時前。私の遅刻では無いはずである。


「どうした?」


 それ故に表情を変えずに聞くと、ヤールは「ちょっと」と言葉を濁した。


「ん……?」


 両目を細めて席に着き、「どうした?」と、改めて顔色を伺う。

 またドーラスが何かをして来たか。そう思っていると口を開いた。


「厄介な仕事が回されまして……」


 続けて言ったのは「参りましたね」と言う物で、乾いた笑い声をその後に発した。

 そして出される命令書。

 そこには「命令」とまずはあり、その下に任務が記されている。

 それによると私はどうやら「反乱分子の始末」と言う物を、国王から命令されたらしかった。

 管轄としてはドーラスの管轄なので、これは要するに奴の怠慢だ。


「何かと思えばいつもの事だな。国内の事は漆黒の騎士団。

 つまり、ドーラスの管轄だが、そこに文句を言うのも疲れた。

 時間の無駄。感情の無駄遣い。色々とあるが、要するに面倒だ」

「達観してますなぁ……そこにかけては……」


 私が言うと、ヤールはそう言い、無理に苦笑いを作って笑った。


「しかし、今回は本当に厄介です。

 よくよく読んで下されば分かりますが、新人のゼーヤを連れて行けとあります。それもレナス様お一人で。

 つまり、実質二人きりで奴らを片付けろと言ってきとるのです」

「何……?」


 それには僅かに眉根を寄せて、命令書の隅々まで目を通して見る。


「本当だな……」


 確かにヤールの言ったように、一番下にはこうあった。


 新人ゼーヤの成長を知る為、今作戦にはこの者を必ず同行させる事。

 また、隠密性が高い作戦である為、二名以内での実行を推奨する。


 要するに二人でやれという事だ。

 形の上では陛下からの命令書だが、ドーラスが一枚以上噛んでいるのは間違いない。


「あわよくば邪魔者を一気に消す為、か」

「いやぁ……そこまでは考えていないんじゃないですか……?

 レナス様が居なくなれば国が傾くのは分かってるでしょう。つまり……」

「嫌がらせ、という単純なものか」


 それにはヤールは「ですな」と言って、「困ったもんです」と言葉を続けた。

 女が言うのも何ではあるが、まるで女が腐ったような奴だ。

 元来、差別的な言葉であるが、敢えてそれを使わせて貰おう。


「まぁ良い。実行はそれに従おう。

 だが、調査する段階では二名でやれとは書いていないな?

 早速だが居場所を調べてくれ」

「は、それは確かに……承知しました! すぐにあらいます!」


 ヤールが言って、部屋から下がり、私が「ふぅ……」と息を吐く。

 ドアを開けっぱなしにする嫌がらせも効くが、こういう陰からの嫌がらせも効くものだ。


「おはようございます! お疲れっすね!」


 入れ替わるようにしてゼーヤがやって来て、挨拶をしてきたので「おはよう……」と返す。

 悪気が無いのは分かって居るのだが、その元気は現状では少々煩わしい。


「しっかりしろよ! 元気出せよ! 朝からそんなんじゃ夜までもたねぇぜ! げーんき! げーんき!」


 これはゼーヤの右肩に居る、バルクと言う名の相棒妖精。

 髪は主人と同様オレンジ。性格は私には相当暑苦しい。

 無視していると「無視かよおい! なっちゃいねぇぜ! いつも思う事だけどよお!!」と、勝手にどんどんヒートアップし、最終的にはゼーヤが黙らせた。


「近く、出撃があるかもしれない。心の準備はそれまでにしておけ」


 その後に言うと、ゼーヤは「えっ!?」と言い、相棒妖精は「っしゃあ!!」と言った。

 必要な事は告げた私は、それ以降何も言う事は無く、今日の仕事を午前中には片付け、午後にはゼーヤの訓練に付き合った。


「強くはなっているが動きに無駄がある。お前程度の者はそこら中に居るぞ。

 死にたく無ければもっと強くなれ。動きを見極めろ。体力を無駄に使うな」

「はい! はいぃぃ!!」


 ゼーヤは基本、雑ではあったが、私の言葉に良く従った。

 おそらく、私に従っていれば元の世界に帰れると奴なりに信じていたのであろう。

 そして、それは外れでは無く、かと言って大当たりという訳でも無い。


 現在の私にはそんな力は無く、せいぜいが死なない為の方法を、こうして教えてやる事しか出来ないからだ。

 

 いつになるか。

 それは分からないが、いつか、時が満ちた時には元の世界に帰してやりたい。

 言葉には出来ないが、そう考えて、「もう一度やるぞ」とゼーヤに言った。


何を考えているかは追々。

ここでバラすと終わってしまうので…

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