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ポピュラリティゲーム  ~神々と人~  作者: 薔薇ハウス
序章 その世界で出来る事
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突如の死。そして再生

初めての方は初めまして!

以前にお付き合いがあった方は、また、よろしくお願いします!

 この世界についてのうんたらかんたら。


 要は説明書のようなものらしい。

 うんたらの部分は消えてしまったので、今となっては読む事は出来ないが、他は普通に残っていたので、そこ以外の部分は読む事は出来た。


 今、俺は宿屋のような場所で、丸テーブルを前にそれを読んでいる。

 周りには人が沢山居るが、何を言っているかはさっぱり分からない。


 理解出来るのはこの説明書だけ。メニューの文字もちんぷんかんぷんだ。


 兎にも角にもこれを読めば、生きて行く術くらいは見つけられるだろう。

 と、俺はそう思って読んでる訳なんだけど、他人ひとには状況がさっぱりだと思う。


 なので、状況の説明を始める為にも、自己紹介から行こうと思う。

 俺の名前は片桐聖かたぎりひじり

 年は十七で、髪の色は、今時珍しい黒一色だ。

 顔の特徴は眼鏡位かな……って、今はそれをしてない訳で、つまり特徴は無いと言う事になる。


 うん。まぁ、基本的には何も無いつまらない人間なんだけど、唯一人に誇れると言うか、自慢みたいな事はある。

 それが槍術――

 槍を振り回す技術が人より優れていると言う事だ。

 理由は実家がそれの道場だったから。

 だから棒きれさえ持って居れば、この歳にしては結構強い。

 大会での優勝経験も五回はあるし、片桐道場の息子、と言えば、大概皆が「あいつか!」と言うだろう(この業界では)。



 ついさっきまであっちの世界、つまり、皆と同じ世界で、動画を見ながらハァハァやってた。


 じゃあなんでこっちに居ないの?

 というかそこは一体どこなの?

 ハァハァした結果そこに居るの?


 と、色々と疑問があるだろうから、それの説明もさせてほしい。

 その間に俺はこいつを読んで、こっちでのうんたらを理解する事にするよ。




 その日の俺は朝練をサボり、「世界のニャンコ大集合」と言う、ある意味いかがわしい動画を見ていた。

 見ていた先は皆も知っている(ピー)チューブという動画サイトだ。

 猫好きの俺にはたまらないもので、両親が外出してるのを良い事に、


「ハァ……ネコ良いわー……アー……最高だワー……♡」


 等と言って、体をくねらせて悶絶していたと思う。


 そんな所に幼馴染の――

 と言っても、一度も同じ学校になった事は無いが、道場の関係で付き合いのある、川崎武具店の一人娘がやってきた。


 名を川崎奈恵美かわさきなえみと言って、行動力の塊みたいなやつだ。


 髪は茶色でポニーテール。

 それは元からという訳では無く、中学二年の夏休みに染めていたように記憶している。


 顔の作りは何とも言えない。

 可愛いと言えば調子に乗るし、ブサイクと言ったらフルギレするだろう。

 だから好みによるんじゃないかな? と、紹介する事で勘弁して欲しい。


 性格は真っ直ぐで、こうと決めたら曲がらない鋼の精神を持っており、服やアクセサリーを自分で作ると言う、創作意欲にも溢れた奴だった。


 兎も角、その奈恵美は今日も、勝手に何時の間にか上がり込み、ノックもせずに俺の部屋にいつものように侵入してきた。

 そして、クリックする度に「ヤベー……」と言っていた俺の背後に密かに近付き、いきなり「わっ!」と驚かせたのだ。


 突然の声に俺は驚き、「アあぁ!?」と喚いて椅子から落ちた。

 額を机に、後頭部を椅子に、加えて尻を床にぶつけたが、そんな事では流石に死なない。


「何すんだいきなり……!」


 と、死にそうな程に驚いて、文句を言って起き上がったのだ。

 すると、奈恵美は袋を見せて「ケーキ持ってきた」と言って誤魔化してきた。


「な、何ケーキだよ? 一応聞くけど」


 そんな事で誤魔化されるかよ! だが、モノによっては相談に乗ろう。

 そんなノリで質問すると「チーズケーキ」と言われて「マジデ?」と返す。

 決して誤魔化された訳じゃないが、チーズケーキは俺の好物。

 怒りと欲求の狭間で悩み、結果として俺は欲求を取った。

 無言で居ると、許したと受け取ったのか、


「切り分けするからー」


 なんて言って、奈恵美が台所に歩いて行った。

 勝手知ったる他人の我が家。宛ら自分の家である。

 中学になってからはそうでも無いが、それまでは結構遊んでいたらしいから、実際、あいつの頭の中では、第二の家のようなものなのかもしれない。


「あー……アブネー……猫動画じゃ無かったら終わりだった……」


 でもな、頼むからノックくらいはしようぜ。

 俺にも男のプライベートがあるんだから。

 そう思いながら呟いて、俺はパソコンのマウスを握る。

 何かのはずみで「お気に入り」を見られない為にパソコンを閉じるのだ。


「ふぅ……これで良し、と」


 どんっ、という衝撃を感じたのは、シャットダウンが始まった頃。

 振り返ると奈恵美が立って居て、俺の背中に包丁を刺していた。


「なえ……?」


 最後まで言えず、喉元を切られる。

 鮮血が「ぷしゃあっ」と噴き出して、奈恵美の緑の服を濡らした。

 椅子からずり落ち、眼鏡が落ちる。


「(意味わかんねぇ……)」


 その時にはもう喋れなかった。

 心の中でだけで呟いており、奈恵美は両目を見開いたままで、俺の事を見下ろしていた。




「やっ、お疲れ」


 気が付くと、小さな部屋の中に居た。

 教会の懺悔室みたいな場所だ。

 先の声は仕切りを隔てた、向こうの部屋から聞こえたらしい。


「俺は……何で……?」

「ええと、まぁ、死んだからじゃないかな?」


 呟いた直後の返答がそれだ。

 意味が分からず「死んだ?」と言うと、「良いから良いから。諦めが肝心だよ?」と、暢気な声が返されてきた。


 良くは無いし、意味は分からない。

 だが、最後の記憶に頼るなら、俺はやっぱり死んでるんだろう。

 なんかこうやって普通にしてると、死んだという事に実感が湧かない。

 夢なんじゃないか、と思っていると、向こうからの声はこう言った。


「とにかくヒジリ君。キミは死んだ。でもねぇ、チャンスを上げようと思うんだ」


 声を聞く限りは男のようで、年齢は少なくとも俺より上っぽい。

 二回も死んだって言われた所を見ると、やっぱり本当に死んでるんだろう。


「……チャンスですか」


 少し凹んでそう言うと、「そう、チャンスさ」と男は言った。


「君はこれから別世界に行く。と言うより、行ける権利を上げよう。

 要らないって言うのならサヨウナラだし、行くって言うなら説明を続けるよ。

 さて、君の選択は?」


 内容の割には口調が明るい。

 楽しんでいるような感じすらある。

 一体この人? は何者なんだろう……


「あの、元の世界に戻るっていうのは……?」


 そう思いながらも一応聞いてみる。


「ダメダメ、それはありえないよ。少なくとも、今の君には出来ない」


 結果は駄目。ありえないらしい。

 行くか、行かないかしか選択肢は無いようだ。

 でも、気になった事を口にしたので、


「今じゃ無ければありえるんですか?」


 と、気になる部分を突いて聞いてみた。


「うーん……君の頑張り次第かな?

 まずは行くといってくれないと、僕も説明が続けられないんだよね」


 返された言葉はそんなものだ。


「(一人称は僕なんだ?)」


 頑張り次第がどうとかは置いて、俺はまずはそう感じた。

 エライ人かと思ったけれど、もしかしたら案外下っ端なのかもしれない。

 尤も自分を「僕」と言うお偉いさんも世の中には沢山居るんだろうけど。


「(行かないって言ったらどうなるんだろう……?

 やっぱりあの世に直行なのか?

 ってか、そんなものが本当にあるのか?)」


 その後に考え、思案する。

 こんな所が存在するんだ。あの世なんかもあるのかもしれない。

 爺ちゃん婆ちゃん久しぶり。ご先祖様達初めまして。

 親父と母さんが立ち直ってくれないと、片桐家はもう終わりです。

 それとその、一族に伝わる槍をノリで折ったのは実は俺です。


「棒高跳びくらいヨユーヨユー!」


 と、小さい頃に奈恵美と遊んでて、見事にポキリと行っちゃいました。

 そこの所は本当にごめんなさい……


 念の為に頭で謝り、その上で「良い事ありますか?」と聞く。

 男は「うーん」と言った後に、「君次第じゃない?」と続けて来た。


「あー……じゃあ行きます。俺もこのまま死にたくないし」


 言うと、向こうから「いや、一度は死んでるんだけどね」と聞こえた。

 あちらにとっては面白かったのか、「くぷぷ」と密かに笑っている。

 しかし、少しして落ち着いた後に、


「長い説明と説明書一式、君の希望はさてさてどっち?」


 と、楽しむような口調で聞いてきた。


「長いって、一体どれくらいですか?」

「見ればわかるよ。じゃあ説明書一式ね」


 ハッキリ言って答えになってない。

 直後には目前の仕切りの間から、分厚い説明書が「すぅー……」と出された。

 まぁ、要するに面倒な訳だ。きっと説明が長くなるからだろう。

 理解した俺はそれを受け取り、「ぱらぱら」とその場で何ページかをめくった。


「あ、それ、読んだ所から消えるから。迂闊な気持ちで読まない方が良いよ」


 声に言われ「げっ!」と言う。

 幸いにもまだ読んでは無かったので、目に入れないようにして膝の上に置く。


「じゃあ向こうでも頑張ってねー」


 その声を最後に扉が開く。俺の真後ろの扉である。

 現れたのは十七~八才の、ピンクの髪の少女であった。





 少女は今、俺の目の前に居て、白く長い通路を歩いている。

 左右の壁に窓は無く、飾りと言うものも一切見えない。

 どこかの王宮の通路だけが、ここに持って来られたようだ。


「あの……」


 声をかけるが返答は無い。


「あの、すみません……」


 挫けず言うと、少女は止まり、そのままの姿勢で「何ですか?」と言ってきた。


 服装としては司祭というのか、年齢に見合わない不思議な格好だ。

 顔はここからでは分からないが、さっき、ちらりと見た限りでは、結構可愛い女の子に見えた。


「俺ってその……死んだんですよね?」


 認め切れずにそう聞くと、少女は素っ気なく「そうですね」と言った。


「何で死んだ……っていうか、あいつに殺されちゃったんですか?」


 続く質問には即答をせず、しばらくしてから「さぁ……」と言った。


「(何か知ってるような気がするな……)」


 正直な所はそうも思うが、しつこい男は嫌われると聞く。

 同じ質問を二度するな、という片桐家の家訓のようなものもあるので、今回はそれに従う事にする。


「あなたはこれからナプティーズと言う世界に行きます」

「あっ」


 少女が再び足を動かし、少し遅れて俺が続く。


「私が管理を任されている星です。そこで、自由に生きて下さい。

 色々と制約がありますので、その説明書を参考にすると良いでしょう」

「自由にって……何か無いんですか?

 魔王を倒せとか、勇者になれとか?」


 聞くと、少女は「ありません」と言った。

「ですが」と、言葉を続けたので、発動寸前の「マジですか」を呑み込む。


「あなたの行動には評価が伴います。

 誰の評価とは言えませんが、何かをする度にそれは増減します。

 そして、ひとつきに一度の審判で、評価の結果が下されるのです。

 もし、そこで規定値以下だった場合、あなたの魂は永遠に自我を失う事になるでしょう」

「……ま、マジですか!?」


 結局の所、俺はそれを言い、少女は冷静に「マジですね」と言った。


「逆に、規定値以上の場合には、特別な力を得る事が出来るでしょう。

 どういう道に進むかは自由ですが、その事をいつも念頭に置き、慎重に行動する事をお勧め致します」


 そして、更に続けられた言葉には、俺は「はぁ……」と、力無く返すのだ。

 何だか面倒な事になったな。と、思うが故の対応である。


「私からの説明は以上で終わりです」


 少女が立ち止まり、こちらに振り向いた。

 何時の間にそこまで歩いていたのか、通路の終わりはすぐそこにある。

 終わりと言っても闇しかないが、ここで立ち止まったという事は、多分そこで終わりなんだろう。


「何か、ご要望はありますか?」

「え……?」


 少女に聞かれ、疑問顔で返す。

 言葉の意味が分からなかったからだ。


「髪の色や顔の作り等、細かい部分の変更が可能ですが」


 が、すぐにも続けられた説明により、少女の質問の意図が分かった。

 頼めばおそらくイケボでイケガオのイケメンになれると言う事だろう。


「んー……いや、親から貰った大事な顔だし、そういうのは特に良いです。

 ただ、目だけは良くしてくれますか? できればそう2、0とかに」


 が、俺は幸いにも、ブサイクとまでは行かない顔で、まぁ、それなりに愛着があったので、顔の作りは変えない事にした。 

 しかし、視力。これだけはどうしようもない。

 どんな世界に行くのかは知らないが、眼鏡やコンタクトが無ければキツイ。

 現に、今だって三mも離れれば、少女の顔が「ぼんやり」とする位だ。

 そう思った俺が少女に聞くと、すぐにも「分かりました」という言葉が返った。


「うわっ!?」


 直後に目の周りに光が集まる。

 そして、それが消え去った時、俺の視力は格段に良くなっていた。


「凄いなぁ……まるで神様みたいだ……」

「まだ、そうではありませんが、いずれはそうなりたいと考えています」


 少女の言葉に「えっ……?」と疑問する。

 しかし、少女はそれに答えず、「それでは良い人生を」と言った後に、元来た道を歩いて行った。


「あ、あの! 名前は! あなたの!」


 返って来た言葉は「イサーベール」というもの。


「本当に、神様みたいな名前だな……」


 それを覚えた俺は呟き、闇の中に足を踏み入れた。


以上が一話目です。ありがとうございました!


面白くなってくるまでに時間がかかる作品らしいので、きながーーーにお付き合い下さると嬉しいです(苦笑)

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