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漢の闘い。拳と拳

ちょっと前までの舞台である大陸中央の地図になります。

現在の舞台はこの右下です。

挿絵(By みてみん)

 大会当日の朝がやって来た。おそらく六時くらいだろうか。

 時計が無い為に憶測なのだが、そうズレては居ないはずだ。

 起き上がり、外を見ると、港の方に向かっている人達が見えた。

 一部が住民。それ以外の者は船の中で見た事がある顔で、集合場所に指定されている船に向かっているのだと思われる。


 昨日まではどうでも良かったが、参加すると決めた以上は船に乗らない訳には行かない。少し急いで服を着替えてユートと共に港に向かった。


 参加者達は船に揺られ、四時間ばかりをそこで過ごす。

 そして、ようやくたどり着いた場所は、半径およそ百m程の、潮の満ち引きによって現れる小さな陸地だったのである。

 島と呼ぶ事すら躊躇われる場所だが、ステージとして見るなら申し分は無い。

 しばらくするとその周囲には、無数の帆船が集まって来て、それに乗った観客達が、島を囲んで騒ぎ出した。


 船の数は十隻で、乗っている人数は三百人程。

 単純計算で三千人程が、観客として戦いを見守るらしい。


「第一試合はウォルフとベッカーだ! 準備が終わったら小舟に乗ってくれ!」


 早速にも戦いが始まるようだ。

 海賊の一人がそう言って、言われた二人が準備を整える。

 それから、二人は小舟に乗って、眼前の小島へと移動して行った。


「それでは間もなく第一試合です!

 ルールの説明を致しますと、まずは相手を殺すのはNG!

 戦意を奪うか気絶させるか、或いは周囲の海に落とすか。いずれかの方法で勝負が決まります!

 優勝者には、海王ダナヒが所有しているモノをひとつだけ貰い受ける権利が発生します!

 今年の優勝者は一体誰で、一体何を望むのか!

 それではいよいよ第一試合、ウォルフ対ベッカーの試合となりまぁぁぁす!!」


 どこかの船で誰かが言って、場の興奮が一気に高まる。

 それは、続く「試合開始!」という声と、銅鑼が叩かれたような音の後に、更に高くなったようだ。


「うぉぉぉぉぉぉっ!」

「うりゃああああっ!!」


 観客達が見守る中で、ウォルフとベッカーの武器が重なる。

 二人の武器は共に剣。

 島の中央でぶつかり合って、激しい攻防を繰り広げている。

 腕前としては右の選手が、若干、上手うわてのように見えたが、それを察した相手が防御し、一瞬の隙を見つけて反撃。


「ま、まいった……!!」

「オォォー!!」


 結果としては左の選手が、武器を弾いて勝利となった。

 強いとは思うが動きは読めた。多分俺でも勝てていただろう。


「ま、この辺りは正直見る価値もねぇやな。出番が来たら教えてくれや……」


 それはダーナも同様なのか、船酔い状態でそう言って、列から抜けて歩いて行った。

 どこに行くのかと見ていた所、反対側の手すりで止まり、そこに覆いかぶさるようにして、海に吐瀉物をブチまける。


「(海が好きなのに船酔いする人って、もしかして自分の事なんじゃないのか……? だとしたらえらく気の毒な人だな……)」


 そうは思うが確信では無く、言葉には出さずに体を戻した。

 それからもしばらく闘いを見守り、ようやく俺の出番となった。


「ホォォォゥ! ハウワァァ!!」


 相手は上半身が裸の男。

 落ち着き無く左右にステップを踏み、やたらと「ホワホワ」鳴いている。

 武器を持って居ない所を見ると、俺達の世界での拳法家と言う奴に該当する職業の人なのかもしれない。


「それでは第十六試合! ヒジリ対ゴレルの試合開始です!」


 銅鑼の音が鳴り響き、直後に「ハチャアア!!」と男が飛んで来る。

 隙丸出しの飛び蹴りだったので、とりあえずの形で槍を払った。


「ホワアアアアアア!?!」


 まさか当たるとは思って無かったが、それは男の体に命中。

 右方向に一気にすっ飛び、船に体をぶつけた後に、男は海面に落下した。

 

「えっ……マジで……?!」

「弱っ……!」


 払ったままの態勢で言い、呆れた顔でユートも続く。

 まさかの結末に唖然としたが、どうやら本当に勝ったらしい。


「しょ、勝者ヒジリ! 圧倒的です!!」


 腑に落ちないとはこういう事か。勝ったと言うのに手応えを感じない。

 レナスに側近、それにピシェト。

 彼女、彼らが普通と比べて異常に強いというだけなのだろうか。

 少し納得が行かない様で、首を捻りながらに小舟に向かった。


「(やっぱそういう事なんだろうな……)」


 吹き飛ばされた男は気絶し、うつ伏せで海面を漂って居る。

 やはりは彼女らが異常なだけで、マジェスティとは本来、普通の人に対してはこういう風に圧倒的なのだろう。


「勝ったのか……?」


 船に戻って隣に行くと、顔を上げずにダーナが聞いて来た。

 それには「はい」と言葉を返すと、「聞くまでもねぇか……」と力無く言った。


「(でも、それより強いこの人って、一体何者なんだろう……

 ていうか、決勝で当たったとして、俺はこの人に勝てるのか……?)」


 口には出さずにそう思い、項垂れるダーナの後頭部を見る。


「(ん……?)」


 その際に、何となく違和感を覚えたが、それが何かは分からなかった。


「次はダーナとジェイキンスだ!」


 そんなダーナの出番が来たのは、それから六試合が過ぎた後の事。

 殆ど死んでいたダーナを起こし、肩を貸して小舟に乗せる。


「おう……ちょっとイってくらぁ……」


 頼りなく右手を上げるダーナに、正直「大丈夫か……」と心配したが、カウンターの蹴りだけで試合を終えて、ダーナは再び船へと戻った。

 圧倒的と言うのであれば、こういう結果こそ圧倒的で、ユートの「大丈夫!?」と言う心配に、俺は「大丈夫♡」とは返せなかった。

 かなりの割合で大丈夫では無く、ハッキリ言って割とヤバイ。

 優勝しなければマズイと思うが、正直な所では自信が揺らぐ。


「あー、ちょっと落ち着いてきたわ……

 やっぱ、体を動かさないと駄目だな……

 決勝までには本調子にしとくから、オメェも全力でぶつかって来いよ?」


 そう言って、ストレッチ運動を始めたダーナに「はい……」と笑って言葉を返し、勝てる、勝てないは兎も角として、純粋にこの人とやり合って見たいと、少しだけ感じた俺であった。




 その後の試合は四回あったが、俺はそれの全てに勝った。

 一方のダーナも余裕で勝ち進み、最初に彼が予告したように、決勝戦は俺とダーナの二人で行われる事になった。

 潮が満ちると消える為に、試合の度に島は変えられ、夕方を迎えた現在は、五つ目の島に足をつけている。


 周囲の歓声は割れんばかり。俺自身もかなり高揚している。

 ダーナは間違いなく俺より強く、負ける可能性は恐ろしく高い。


 でも、それでも戦って見たいと思わせる何かを持った人だと思う。

 血が騒ぐ、と言うのだろうか、それとも騒がされてしまうと言うか、兎に角、この人の闘いへの姿勢は、いちいち俺の琴線に触れるのだ。


「(なんかあれだな、他所よその学校のライバルみたいな感じなんだよな。漫画の中だけかと思ってたけど、割と良いよな……こういう展開も……)」


 初めての感覚にドキドキしている。だが、決して悪い気分では無い。

 例えるならエロ本を初めて見た時。ドキドキするがもっと見てみたい!

 と言う、純粋な欲望と酷似している。


「(どういう例えだよ……我ながら……)」


 そう思いながら腰を下げ、切っ先を下に槍を構える。


「頑張ってねー! ナエミはスグソコー!」


 それを見たユートが空中に飛び、「ああ」と答えてダーナを見据えた。


「久しぶりに燃えてる気分だぜ? オメェと闘えるのが嬉しくて仕方ねぇ!

 来いよ全力で! 手を抜いたら許さねぇ! 勿論、俺様も最初はなから全力だ!」


 斧を構えてダーナが言った。

 両刃の下に右手を置いて、左手を柄に置いた水平の構えだ。

 俺が「はい!」と言ったのを聞くと、不敵に「にいっ」と笑って見せた。

 釣られた俺も口の端を曲げ、それを目にしたダーナが笑う。


「それでは決勝戦!! 試合!! 開始ィィィィ!!」


 それから銅鑼が鳴り響き、笑ったままで俺達はぶつかった。


「イヤァァ!!」


 直後に生まれた衝撃波により、空中に居たユートがどこかに飛ばされる。


「ウォォォォォ!!!」

「ハァァァァ!!」


 それには構わずつばぜり合いを続け、俺達の足は少しずつ、砂浜の中へとめり込み出した。


「たまんねぇ! セッ〇スより燃えるぜ! おっと、こいつは禁句だったか?」

「ユートが居なくて良かったですよ! 説明を求められても……困りますからね!」


 ダーナの言葉にそう返し、力の限りに武器を押す。


「誰だそりゃあ!? ここには俺様とオメェしか居ねぇだろ!?」


 一方のダーナもそう言って、力の限りに押し返して来た。

 凄い力だ。だが負けられない! 俺も力の限りを発揮する。


「ふがあああ!!」

「ふぎいぃぃぃぃ!!」


 引けば良いのにお互い引かず、真っ向勝負でつばぜり合いを続ける。

 押し合う力はまさに互角。

 俺達はその際も笑顔のままで、お互いの力を体感し合った。


「なっ?!」

「ヤベェ!!?」


 その時、「ビシリ」と音がして、お互いの武器に亀裂が走る。

 流石の事につばぜり合いをやめ、俺達は短く後方に飛ぶ。


「面白れぇ……こんな事は初めてだ……だが、こんな事でやめられるか?

 いいや、男ならやめられねぇよなぁ?」

「ええ! 勿論! やめられませんよ!」

「よっしゃ! それでこそ男だぜ!!!」


 それからダーナの言葉に答え、斧と槍での応酬が始まった。

 時に避け、時に受け、金属音が辺りに響く。

 危うい攻撃も中にはあって、お互いの髪の毛が宙に舞った。

 数十合がすぐに過ぎ、激しい打ち合いは百合にも及ぶ。


「オラアアア!!」

「てヤアアアア!!」


 気合の声で武器を重ねた時、お互いの武器が同時に砕けた。


「こっからはコレだ! 異存はねぇな!?」

「ありませんよ!」


 拳を見せてダーナが言って、それに応えて拳を作る。

 そこからの攻撃は殴り合いとなり、俺達は拳で語り合った。

 十発、二十発と殴り合った後に、お互いが不気味に「ヘヘヘ……」と笑う。

 それを見たユートは「あわわわ……」と言って、口を押えて困惑していた。


「次でシメェだ……! 全力で行くぞオラァ!!」

「そっちこそ……!! 覚悟して下さいよォォ……!!!」


 ダーナが言って俺が言う。

 直後には二人で「うぉぉぉぉぉぉ!!」と叫び、夕日を背景に中央でぶつかった。


「へっ……へへへ……夕日なんぞより余程にアチぃぜ……」

「変な世界の……扉が開いた……かも……」


 拳はお互いの右頬に入り、そのままの態勢でしばらく固まる。

 手ごたえは……あった。

 だがそれはおそらく、ダーナも感じていた事だろう。


「あ……あれ……っ……?」


 俺の世界がぐらついたのは直後。満足げな表情のダーナが遠ざかる。


「しょ、勝者はダーナ!! 優勝者はダーナでえぇぇぇぇす!!」


 そして、俺は勝利者宣告を聞きながら、砂浜を目の前に両目を閉じた。




「う……ん……」


 気付いた時にはベッドの上に居て、左では誰かが本を読んでいた。

 もう夜なのか部屋は暗く、ロウソクの炎で照らされているだけ。

 視界の中に映る布は、どうやら巻かれた包帯らしかった。


「ユート……?」


 と聞くが、返答は無く、代わりに「気付いた?」と誰かが言った。

 目を細めて見ると誰かは本を置き、隣から俺を伺ってきた。

 ぼやけた視界が回復してきて、茶髪のポニーがその目に入る。


「ナエミ……!?」


 と、叫ぶと誰かは「うん」と言い、「まだ起きちゃ駄目」と、体を押して来た。


「いつっ……」


 それすら痛く、顔を顰めると、ナエミは「久しぶりだね」と微笑んだ。


「ああ……」


 言葉を返して体を戻す。月日としてはそれ程でもないが、何年かぶりにあった気がする。

 おそらく二人の周囲と言うか、世界が大きく変わったからだろう。


「あの時はごめんね」


 思っているとナエミが言った。


「あの時って、あの、俺をやっちゃった時……?」


 目だけを向けて質問すると、ナエミは「うん」と小さく頷いた。


「理由は、良く分かんないの……

 ケーキ持って来て、切ってたら、気付いたらヒジリが血まみれになってた。

 ケーサツを呼んで調べて貰ったら、私が犯人として捕まっちゃってさ。

 自覚は無いけどそれしか無いって、ケーサツの人も皆言うから、私もちょっと変になっちゃって……」

「それで……自殺した……?」


 そこにはナエミは「うん」とは言わず、無言のままで頭を俯けた。

 或いは記憶が無いのかもしれない。それほどに追い詰められていたのか。

 答えは無いが、俺はそう思い、追及するのはやめる事にした。


「そうか……じゃあ何だったんだろうな……」


 最後にそれだけ、ポツリと言って見る。ナエミなりの見解が気になったからだ。

 だが、ナエミからの反応は無く、床に俯いたままだった。


「でも、もう、どうでも良いか……また、こうして会えた訳だし」


 言えないだけの理由があるのか、本当に分からないのかのどちらかだろう。

 決めた通りに追及はやめ、切り替えるようにそう言って見た。

 ナエミは「そうだね」とそれに答え、横たわっている俺に笑顔を向けた。


「あのねヒジリ、一つだけ良いかな?」


 聞かれた為に「ん?」と言う。

 すると、ナエミは少し迷ってから、


「あいつの事、あまり信用しないで。あいつはヒジリの事、騙してると思うから……」


 と、少し怯えた瞳で言った。


「あ、あいつって……?」


 当然の事に聞き返してみたが、ナエミは「ごめん……」と、その先を話さない。


「おっ? 流石に回復も早いねぇ」

「ヒジリ起きたー! 大丈夫ー?」


 と、ダーナとユートが現れた事で、この一件は有耶無耶になった。


「(あいつって一体誰なんだ……? っていうか、言えないなら言わないで欲しかったかな……)」


 そうは思うが口には出せず、俺はしばらくはこの件を引き摺った。

 しかし、この先に色々あって、やがて、この事を忘れてしまうのだ。


「ちなみに優勝賞品なんだが、俺様はオメェを貰う事にした。これからは俺様のモノとして、色々と一緒に頑張って貰うぜ?」


 色々の第一はそれであり、それには「ええええええ?!」と言葉を返す。

 俺はそもそもモノじゃないし、海王だかの持ち物でも無い。

 それを貰うとはどういう事か。混乱で頭が一杯になる。


「その代わりにナエミはオメェに返す。悪ぃ取引じゃねーだろうが?」


 代わりと言うが対等では無い。なぜなら俺は物では無いのだ。

 しかし、それを無視するかの如く「ニイッ」と笑うダーナに対し、俺はひたすらに「えええええ……」と言って、とりあえずは不満を明らかにしていた。


BL展開フラグ

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