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ポピュラリティゲーム  ~神々と人~  作者: 薔薇ハウス
一章 運命は西から南へ動く
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キングカーメン試作一号機

「さぁ、じゃあ対策を練りましょうか」


 所代わってそこは宿屋。

 カレルの支払いで部屋を借り、俺達は「それ」への対策を練り出した。


「キングカーメン試作一号機。正式な呼称はそれだけど、略してカーメンと呼ばれていたわ。だから今後はカーメンと呼ぶわね」


 それには「はぁ……」と、言葉を返し、「エライ名前だな…」と、内心で思う。

 カレルはその事には気付かない様子で、懐の中から羊皮紙を出した。


 そして、それを「見て」と言って、ベッドに座る俺に手渡す。

 枚数は五枚で、絵と共に、数字やら文字やらが記されており、渡したカレルは立ったままで、両手を腰に当てて俺達を見ていた。


「何これ……?」


 覗き込んだユートが言って、教える意味で「設計図じゃないかな?」と、言って見る。


「その通り。カーメンの設計図よ。と言っても、原図じゃないけどね」


 すかさずカレルがそう言ったので、ユートはそちらに「へー」と言っていた。


「全長はおよそ三十m。上半身は人型で、下半身は蛇を模してるわ。

 尻尾の中には五十六のキャタピラがあって、砂漠の中でも迅速に動ける。

 両目からは魔導レーザー、顔の左右の飾りには、六十秒で七十二発撃てるバルカン砲を四基搭載。

 背後の守りは背中からのミサイルと、尻尾の上部の対空砲よ。

 タイエネ性元素を凝縮した強化魔導石を八十個も使ってるから、現実的には半永久的に活動が可能な殺戮兵器ね」


 それには俺達は「へー」とも言えず、目を点にして呆然とする。

 専門用語を並べられても、素人にはそうとしか反応できない。

 それに気付いたカレルは首を振り、「要するに超、ヤバイってコトよ」と、短く分かりやすい言葉に変えた。


「ど、どこか弱点は無いんですか……? 聞く限りでは絶望的に思えるんですけど……」


 言うと、カレルは「無いわ」と答えた。

 しかし、すぐにも「なんてね」と言い、「そうならなかったのが幸いだったわ」と、更に続けて苦笑した。


「見て、それの四枚目よ。体と尻尾の結合部分ね。

 そこに全ての魔導石を繋げる「核」とも言うべき魔導石が入ってる。

 ここをうまく破壊出来れば、カーメンの活動は停止するわ」


 言われた為に紙をめくり、四枚目の設計図を確認してみる。

 結合部分の断面図があり、「それ」と思われるものに〇がしてある。

 そして、そこから線が引かれて、「やるしかないの……?」と記されていた。

 人間で言うなら腰あたりの部分で、どちらかと言うと背中からの方が近そうだ。

 どうしてもやりたい。と言う訳じゃないが、カレルの命を救う為には挑戦するしか無さそうである。


「まだ動いて居なかったら、私がなんとか破壊して見る。でも、もし動かされてたら、悪いけど力を貸してちょうだい」

「分かりました。早速行きましょう」


 カレルが言って、俺が答える。

 聞いたカレルは「そうね」と言って、フードを被って歩き出した。

 

 物事とは大抵悪い方に進むようで、領主の館にカーメンは居なかった。


「今頃はゴルズリアの領内じゃないかなぁ。まっ、あんなのが手の内にあるんだし、こっちの勝ちは決まったようなもんだけど」


 留守番の兵士がそう言ったように、実戦に駆り出されてしまったらしい。


「早くしないと大変な事になる! 主に、あたしの評価的なものが!」


 それを聞いたカレルは焦り、殆ど全力でゴルズリアへと駆け出した。

 俺も続き、八割程で駆け、翌日の昼前にはゴルズリア領に入り、戦場の特定に奔走するのだ。




 調べた結果、戦場は、テンダーと呼ばれている砂漠だと分かった。

 両軍は現在そこに集結し、決戦の時を待って居るらしい。


「い、い、行くわよ! 覚悟は決まった!?」


 それを知ったカレルは言って、眼鏡を拭きながら質問してきた。

 しかし、その手が震えていた為、うまく拭けずに眼鏡が落下。


「い、嫌ね。あたしは決まってるわよ」


 と、聞きもしないのに俺に言い、亀裂が入った眼鏡を拾った。

 動揺しているのは明らかである。初陣の時の俺のようだ。

 恐怖に負けて逃げ出さないだけ、俺より肝が据わっていると言える。


 ちなみに今は酒場の外で、カレルは震えつつ眼鏡を拭いている。

 それを見た俺は気を遣い、一応、こう質問してみた。


「あの……もしかして戦闘は初めてですか? だったら無理してついてこなくても、俺がやれるだけはやってみますよ……?」

「き、気持ちはありがたいけどそうはいかないの……あたしがやらなきゃ意味が無いのよ。それよりあなた、武器とかは大丈夫?」


 聞いたつもりが逆に聞かれ、それには「ええと……」と言葉を詰まらせる。

 そう言えば武器が無い事に気付いたが、恥ずかしさの為に言えなかった。


「ビンボーだから買えないんだよねー?」

「おい……」


 両目を細めてユートを叱る。言い方があるだろ。と、思うが故に。

「貧乏なの? プギャアア!」とは言わないだろうが、やっぱりそこは男としても何だか少し恥ずかしい所だからだ。


「もしかして特能を放置してる?」


 直後のそれには「は?」と言い、「いえ、暗視は取りましたよ」と笑って答える。

 聞いたカレルは「暗視だけ……?」と一言。呆れた様子で、眼鏡をかけた。


「だったら二つほど連続で取りなさい。次元セキュア、って言うのが出ると思うから、出来るだけ早めにそれを取って」


 それから続け、言われた俺が「次元セキュア?」とオウム返しをする。

 ユートは分かっているのだろうか、「はいはい?」と、どうにも微妙な態度だ。


「平たく言えばあなただけの道具箱よ。目には見えない空間に作られた、ね。だから……」


 カレルはそこで言葉を止めて、周囲を確認して誰も居ない事を見た。


「どこでも、こんなものが取り出せるって訳」


 そして、それから言葉を続け、右手に突然、武器を呼び出すのだ。


「じゅ、銃じゃないですか!?」


 それは、こちらの世界では目にした事が無い、元の世界での銃と言うもの。

 聞いたカレルは「銃?」と言って、「これは魔導砲よ」と、自分達流に言いかえた。


 長さとしては百三十㎝程。色は黒で重厚な印象だ。

 元の世界で言うのなら、マシンガンと言う奴に当たるのかもしれない。

 ともかく、カレルはそれを呼び出し、見せつけた後に「しゅん」と消し去った。

 次元セキュア、と言う物に送り返したのだと考えられる。


「どう? 便利でしょ?」

「みたいですね……」


 聞かれた為にそう答える。世辞は抜きにして便利な物だ。

 武器だけで無く食べ物やテント等、かさばる物が送っておけるなら、移動がぐっと楽になるだろう。


「(レナスの言った通りって訳か……従うのはちょっとシャクだけど、これは確かに便利そうだな……)」


 そうは思うが口には出さず、特能の発展を密かに決める。

 レナスの言う事を信じてみる気が少しだけ生まれた瞬間である。


「と言っても、モノ自体が無いのは問題ね。良いわ。あたしが買ってあげる」


 そうとは知らないカレルは言って、村の鍛冶屋に足を向けた。

 滞在期間が俺より長い分、街の構造は把握しているらしい。


「悪いですよ……安い物じゃないですし……」


 一応遠慮をしてみると、「良いのよ」と答えてカレルは歩く。


「じゃあ借金という事で……」


 と、辛うじての形で甘える事にすると、「良いから黙っておごられなさい!」と、怒った顔で振り向いて来た。

 本来の年齢の強さの発揮だ。こうなっては俺には何も言えない。


「おういらっしゃい。旅の人かい?」


 やがては鍛冶屋に到着し、新品の槍を買って貰った。


「あ、ありがとうございます……」


 と、見た目には、十才の少女に頭を下げる俺を、店主は不思議そうな顔で見ていた。


「絶対「逆じゃね? オゴる方じゃね?」って思ってた顔だね?」


 少ししてからユートがそう言い、それには「だろうな……」と俺が返す。


「それじゃ本当に、よろしく頼むわね……」

「はい」


 真剣な表情のカレルにそう言い、俺達は戦場へと足を向けた。




 戦場に着いたのはその日の夕方。

 どうやら小競り合いがあったらしく、戦場にはいくつかの遺体が見えた。

 だが、決戦には至らなかったようで、両軍の本隊は本陣に待機。

 殺戮兵器カーメンも、西の領主の本陣にあった。


 純粋な高さは二十m程で、夕日を背にして両腕を組んでいる。

 上半身はほぼ裸だが、肩当てと、そこから布を下げており、古代砂漠の王を思わせる顔で、砂漠の彼方を見つめていた。


「良かった……まだ投入されてないみたい。それとも不具合で動けないのかしら……? だとしたら無理に破壊する意味は無いわね……」


 砂漠に伏せたカレルが言って、分からない俺が後ろから見つめる。


「そこの所どうなの?」


 どうしても答えが欲しかったのか、カレルが肩のロウ爺に聞いた。


「死ぬぞい。二日以内に。それはもう派手にパアンと」

「やっぱりそう……」


 返された言葉がそれだったので、カレルも覚悟を決めたようだ。


「それで、ここからはどうしたら良いかしら? 夜まで待った方が良いと思う?」


 それからカレルは顔だけを向け、俺達に向かって質問して来た。

 ここからの事は俺の判断に任せる。そういう意味の質問だろう。


「そうですね。俺達の方には暗視がありますし、不利にはならないと思いますよ」


 そう考えると責任を感じるが、思う所を素直に伝えた。

 カレルは「そうね」と一言言って、うつ伏せの体を仰向けにする。


「そう言えば、あなたはどうしてここに? もしかして冒険者って言う奴なのかしら?」


 そして、この件とは関係無い事を聞かれたので、とりあえずの形で「いえ」と返した。

 事情を話しても問題は無いだろう。むしろ後での手間が省ける。

 そう思った俺はここまでの状況を、若干駆け足でカレルに話した。


「そう……大変な時にごめんなさいね……」


 聞いたカレルはそう言って、「見つかると良いわね」と、微笑んでくれた。

 それからお互いの事を話して、砂漠に夜が訪れる時を待った。


 時間にするなら一時間程が経ったか。

 砂漠の空に帳が下りる。

 そろそろ行こうか、と、思い出した頃に、カーメンの鉄梯子に人が見えたのだ。


「領主だわ! 一体何をする気かしら!?」


 それに気付いたカレルが言って、両目を細めて様子を伺う。

 俺もそれと同様にして、三十才位の領主を見つめた。

 領主はそのまま梯子を上り、左耳の入口から中へと入った。


「ドウィン!」


 カーメンの両目が赤く輝いたのは、それから数秒後の事であった。

 宛らそれは有名なアレ。一つ目の巨大な機動兵器だ。

 音としてはアレがピッタリで、思わず俺は噴き出しかける。


「えっ!? 何!? 何がしたいの!?」

「し、試運転か何かじゃないですか? 明日の為のチェックとか……」


 あまりに取り乱すので一応言ったが、それは確信という訳では無く、実際問題分からない俺は、カレルと共に様子を見守った。

 やがて、カーメンは腕組みをしたままで、「ずずず」と砂漠を前進し始め、足元に集まった兵士達が、その様を見て歓声を上げた。


 そして、カーメンはゆっくりとそれを見て、頭部のバルカンを発射したのだ。


「りょ、領主様一体何を!?」

「うわああああ!?!」


 そこからはまさに阿鼻叫喚。

 兵士達が逃げ惑い、カーメンの頭部がそれを追う。


「行きましょう!!」

「え、ええ!」


 流石に放置は出来なかったか、カレルの言葉で俺が飛び出した。

 カレルはすぐにも魔導砲をその手に召喚し、それを携えて後ろに続く。


「カーメーン」


 謎の声を発した後に、カーメンがこちらの姿に気付いた。


「ヤバいっ!?」

「えっ!?」


 直後に俺は自分達に迫り来る、カーメンの両目からのレーザーを目にした。



ラピュ〇の人造兵器はマジ怖かったです。小さい頃は特に。

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