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ポピュラリティゲーム  ~神々と人~  作者: 薔薇ハウス
一章 運命は西から南へ動く
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カレル・ドゥーコフ

 タレンの街は砂漠に程近い、オアシスの畔に作られた街だった。

 街の周囲には城壁があり、中の建物は殆どが石造り。

宿屋で聞いた話によると、人口はおよそで八千人という事らしい。

 元居た世界に比べると、街としては少ない数字だ。

 しかし、半径十キロ以内の場所に、五十人も居ない孤児院に比べると、大きな街だと言う表現は間違っていないと俺は思った。


「一番安い部屋となると、離れの小屋になるけど良いのかい?

 ハッキリ言って不衛生だし、入口に鍵もついてないよ?

 よっぽどの理由があるんじゃなければ、普通の部屋に泊まった方が良いと思うけどね……」

「良いんです。少しでもお金を節約したいので」


 街の宿屋の女将との会話だ。

 見た目の年齢は四十程度。俺の母さんのそれに近い。

 或いはあちらも親近感から、好意で言ってくれたのかもしれないが、俺はそれを敢えて断り、一番安い部屋を選んだ。

 理由は先の言葉の通り、少しでもお金を節約する為。


「まぁ、そこまで言うんなら、あたしも無理強いはしないけどさ……

 そうだね、じゃあ五百ギーツで良いよ」


 相場としては五百ギーツで手作り弁当が買える程度。

 つまり、元の世界の感覚と、あまり変わらない相場と言える。

 それなのに一泊五百ギーツとは……

 女将が遠慮をしたのだろうか。それとも十分利益が出るのか。

 どちらかだろうと推測されたが、代金を払って小屋へと向かった。

 


「これはヒドイ物置ですね……」

「確かに、五百ギーツなだけはあるな……」


 結論としては両方だった。あくまで想像だが俺はそう思う。

 以前はおそらく馬小屋だったのか、腐りかけている藁が積まれ、百%の確率で糞だったものが放置されている。

 天井からは夜空が見えるし、ドアの立てつけも相当に悪い。

 前置き通りの酷いもので、ユートも俺も呆れてはいた。


「……まぁ、野宿をするよりはいくらかマシだろ。街中じゃ特に怪しまれるしな」


 しかし、壁があるだけまだマシなので、そこには感謝をして適当に転がった。

 十分ほどが経っただろうか。ユートが不意に悲鳴を上げる。

 何かと思って顔を向けると、一画を指差して手を咥えていた。


「なんか居た! 赤い虫! 黄色いのも居る!? 虫! 虫ぃぃぃぃ!」


 どうやら虫が居たらしい。こんな所だ。当然の事だろう。

 赤は多分ムカデか何か。黄色いのは……多分、カナブンか何かか?

 俺はゴキブリは苦手だが、それ以外の物には耐性がある。何より今は疲れていたので、そんな物には構っていられない。


「虫くらい居るだろ……そんなの無視しろよ」


 さり気なく言って再び寝転がる。


「えっ!? 今のもしかしてえっ!? そんな事言っちゃうキャラだったっけ?」

「う、うるさいな! 偶然だろ偶然!!?」


 本当に偶然の事だったので、顔を赤くしてそこは抗議した。

 そこからはユートに背中を向けて、眠る事だけに集中をする。


「また出た! キモッ! キモモモモモモッ!!」


 が、遅くまでユートが騒ぎ続けた為に、あまり熟睡する事は出来ず、それでも明け方に少し眠って、朝からナエミの捜索を開始した。


 結論としては収穫はゼロ。昼までの四時間の結果である。


「珍しい名前だな(ね)」


 と言うのが殆どで、そこには他の名前よりは見つけやすい可能性があると言う事だけが分かる。

 だが、反面で、珍しい名前にも関わらず、誰一人としてそれを知らないという事は、少なくともナエミはこの街には、居ないのかもしれないと言う事も考えるのだ。


「髪の毛が茶髪って結構居るしね。ボクみたいにレアグリーンな髪の色だったら、パッと見ですぐに分かるのにねー」


 ユートのそれには「だな」と言い、茶髪の女の子を見ながら歩く。

 元居た世界でもこちらの世界でも、茶髪は割とスタンダードなようで、反してユートやピシェトのように、緑や銀は稀有なようだった。

 ちなみに俺の黒髪は、ラーク王国ではレアモノだったが、大陸の西部では溢れているらしく、割と当たり前にその辺りで見られた。


「やっぱりこの街には居ないのかな……」

「それはちょっとセーキューなんじゃない? だってまだ一日目じゃん」


 諦め口調で俺が言い、聞いたユートが右肩で言う。

 確かに人口八千人とは言え、その内の千人も目にしていない。

 それで結論を出してしまうのは、性急と言われても仕方が無いだろう。


「ていうかちょっとお腹空かない? 昼ご飯食べようよ昼ご飯!」


 両方の脚を「ばたばた」させて、空腹を露骨にアピールしてくる。

 思い返すと朝食も食べて無かったので、左右の店に目を向けてみた。

 雑貨店に宅配所、武器屋や詰所が目に入り、少ししてから酒場を見つける。

 或いはつまみしか無いかもしれないが、とりあえず足を踏み入れてみた。


「はい、いらっしゃい。この時間は酒は出せないよ」


 入るなりにそう言われ、それには「はい」と言葉を返す。

 酒「は」と言う事は他の物は出せるのだと思い、一番手前の席に座った。

 入口から見るなら右側の、正面と右が壁の席だ。L時になっている場所と言えばもっと伝わりやすいかもしれない。

 ともあれ、そういう場所と言うのは何となく落ち着く場所であり、そこに座って何となく店内の様子を伺って見た。


 先客は一人。

 この場所から見て、正面のカウンター席に腰かけている。

 灰色のローブを纏っている為に、年齢や性別は不明だが、後ろ姿で判断するなら、かなり身長の低い人だ。


「あいよ。すまねぇが今は物資不足でな。出せるものと言ったらパンとソーセージ、それにヒャット関係のものしかねぇんだ」


 三十歳くらいの店主が現れ、俺の目の前にグラスを置いた。


「ヒャット関係……?」


 と、疑問すると、「ああ、オアシスで獲れる魚の名前だ」と、すぐにそれの説明をしてくれた。

 所謂、ご当地モノと言う奴だ。淡水で獲れるなら川魚に近いのだろう。

 多分、食べればうまいのだろうが、川魚に対する抵抗があり、結果として俺はそれを敬遠してパンとソーセージを頼む事にした。

 理由はおそらく、今までの人生で川魚を一度も食べた事が無いから。

 川魚はヤバい! と言う情報をネットでチラ見したせいでもあったのだろう。


「じゃあパンとソーセージで。もし大丈夫ならパンは二つ下さい」

「分かった」


 実際の所は不明であるが、以上の理由からそれらを頼む。

 聞いた店主はそう答え、カウンターの奥へと歩いて行った。

 料理が出て来たのはそれから数分後。


「固い! 岩みたいに硬いよコレ! かぁみぃきぃれぇなぁいぃぃぃ!!」


 パンに噛みついたユートが言うので、適当な大きさに千切ってやった。

 確かに硬い。フランスパンを日干しにして二日くらい放置したような硬さだ。

 千切ると言うより折ると言う感覚が近いのだから相当である。


「ヒジリの優しさには頭が下がります」


 皿の横に正座して、圧し折ったパンをユートがかじる


「(なんか、小動物に餌やりしている気分だな……)」


 と、不適当な感情を抱いて笑うが、それはユートには気付かれなかった。

 直後に聞こえる「ぱりっ」という音。


「ん???」


 二人して音が聞こえた方を見ると、小さな老人がソーセージを食べていた。

 大きさとしてはユートと同等。眉毛で両目が隠れた老人だ。

 俺達がガン見をしているにも関わらず、構わない様子でソーセージを食べ、一本を食べつくして一服した後に、右手を「すぅっ……」と、皿へと伸ばした。

 とりあえずの形で皿を引く。何だこれ、と思うが故だ。


 それを見た老人は動きを止めたが、暫くすると右手を前方につき、四つん這いになって近付いて来た。

 そして、皿の手前で止まり、「ふほほ」と笑って手を伸ばす。

 ユートが「ちょっと」と、声をかけると、「はぎゃあ!?」と驚いて横倒れに転がった。


「あの……あなたは誰なんですか? ていうか、まず、何なんですか?」


 その質問には「何と!?」と返し、心臓を押さえて体を起こす。


「わ、ワシが見えておるのかね? という事はあんたはミャジェスピーか?」


 続けたそれには「マジェスティですね……」と、呆れると、老人は「それそれ」と俺を指さした。


「悪いわね。ロウ爺が迷惑をかけたわ。見えるか見えないか、それだけで良かったんだけど……」


 何時の間にか、テーブルの前には、灰色のローブの人物が立っていた。

 先に、カウンター席に腰かけて居た背中しか見えなかった人物である。


「あなたは……?」


 と、聞くとフードを脱いで、俺達の前で顔を晒す。


 髪は水色で瞳は黄色。

 髪の長さは肩より下で、目には円形の眼鏡をかけている。

 身長は俺より相当低く、あっても百五十㎝位であろう。


「あたしはカレル。あなたと同じマジェスティよ」


 そして、顔を晒した上で俺の正面の椅子へと座るのだ。

 驚くべき所はその年齢で、見た目にはせいぜい十才程度。


「(一体この子は何なんだろう……)」


 そう思った俺は眉根を下げて、少女の続ける言葉を待った。




 少女、改め、カレルが座るなり、老人はカレルの元へと戻った。

 その手にはちゃっかりとソーセージを持ち、「よいしょ」と言って肩へと上る。

 そして、カレルの左肩に収まって、「ヤレヤレ」と言ってソーセージをかじった。


「これはロウ爺。ロウバルト・グリムヒル・何だかとか言う、小難しい名前だから勝手に略してる。あなたにもついてる相棒妖精ね。

 で、あたしはカレル・ドゥーコフ。元の世界で二十五年生きて、こっちの世界では十年程生きてるわ。

 転生したって言うのかな。前の世界での記憶はそのままで、赤ん坊の頃からやり直しだった」

「(なるほど、だからそういう口調なのか……)」


 言葉には出さず、そう思う。

 実際には三十五才なのだから、それは落ち着いていて当然だ。


「それで、俺達に何の用ですか?」


 結果として、年上だとも分かった訳なので、そこは敬語で質問してみた。


「うん……」


 されたカレルは右を見て、言い辛そうに口に手を当てる。

 数秒待ったが続きが出ないので、「あの……?」と語りかけてこちらに向かせた。


「ちょっと……力を貸して欲しくて……実に図々しいお願いなんだけど……」


 しかしながら目は見ずに、視線を泳がせてカレルはそう言う。


「ど、どんなお願いですか……?」


 よっぽど言い辛いものだと思い、息を飲んで更に聞くと、カレルは「実はね……」と、答えた後に、両目の上に右手を当てた。


「ヤバいのよ……」


 直後のそれには「は?」と言う。意味が全く分からない。


「何が?」


 と、質問するユートに同感だ。

 聞かれたカレルはため息をつき、「評価がね、非常にヤバいのよ……」と、こぼれ落とすような口調で言った。


「ひょ、評価って言うと、あの評価ですか? サヨナラか、続行かが決まるあの……?」


 聞くと、それには「ええ」と返す。


「えぇぇぇ、一体何したの? よっぽどの事をしないとアレだよ~?」


 続けて言ったユートの言葉には、「そうね……」と答えて虚ろな目で笑った。

 一体何をやらかしたのか。聞きはしないが話すと思って、黙って成り行きを見守って見た。


「まぁ、その、一言で言うのなら、殺戮兵器を作っちゃった、ってコトかしら……それも多分、超絶に失敗しちゃった殺戮兵器を」

「はぁ???」


 それでも意味が分からない。

 俺とユートが疑問していると、「説明するわね……」とカレルは続けた。


 その事によって成り行きと、カレルの近付いて来た理由が分かった。

 俺なりに一応理解したので、以下に簡略しておこうと思う。


 カレルの元の世界というのは、割とこちらに似たものだった。

 そして、カレルはその世界では、魔法と兵器の研究をしていた。

 しかし、研究を始めて五年が経った頃、兵器が暴走して研究所が爆発。

 その時にカレルは命を失い、こちらの世界に転生してきた。


 元の世界の知識があった為に、カレルは神童扱いをされ、六才の時には大学を出て、研究者の道に舞い戻った。

 そんな時にスポンサーの一人、即ち、西のとある領主に呼ばれて、彼の館を訪ねたのだそうだ。


「昨今、東のヨゼル王国が騒がしい。侵略の戦を起こすいう噂もある。

 我が国もそろそろ纏まっても良い頃だ。どうだろう? ひとつ、我が国の為に、強力な兵器を作ってみてくれんかな?

 具体的には守護神のような、巨大で、乗る事が出来る兵器だと良いな」


 とある領主はそう言って、カレルに兵器の制作を頼んだ。


 そういう事ならありかもしれない。

 それならきっと評価も上がる。

 そう思ったカレルは頼みを受けて、巨大な兵器の制作にかかった。


「一年半位かかったかしら。それはなんとか出来たんだけど、試運転の時に雷が落ちたのよ。

 そこからはどうも不安定っていうか、日に日に操作を受け付けなくなっちゃって……

 スポンサーも随分喜んでたから、まっ、いっか、と思って逃げたんだけど……」


 ロウ爺、つまり、相棒妖精が「無責任ゲージがMAXに到達ぢゃ! このままではお主は破裂して死亡ゥゥゥ!!」と、この頃になって言ってきたのだ。


「生憎あたしは戦闘に関しては、そこいらに居る兵士以下。

 運動神経は上乗せされてても、技術なんかがさっぱりなのよ。

 だから、協力者が必要だった。そんな所に現れたのがあなただったという訳よ」


 全てを話してため息をつき、カレルは「どう……?」と俺に聞いて来た。


「報酬にお金を払っても良いし、出来る事なら協力もするわ。だからその……」


 あたしにも協力してくれる?

 カレルがそう続けたいのだと思って、俺は「分かりました……」と言う言葉を返した。

 聞いたカレルは「ウソ!?」と言って、心底驚いた顔をした。


 俺には俺の目的があったが、そうと聞いては放置はできない。

 自分がした事への結果ではあるが、例えばユートに「〇日後に死ぬヨ!」と言われたら、怖さと焦りは相当のものだろう。

 マジェスティ同士だから、と言う訳でも無いが、目の前で露骨に困っている人を見捨てて行く事は俺には出来ない。

 それに、出来る事なら協力してくれるらしいし、成功した時にはナエミの捜索を手伝ってもらうのも良いかもしれない。


「本当ですよ……困ってるんでしょ? だったら見捨てられる訳が無いじゃないですか」


 そう言うと、カレルは「やだ……」と言って、「年下の癖にカッコイイ事言うじゃない……」と、口を尖らせて言うのであった。


「(いや、見た目では年上ですけどね……)」


 あなた、本当は三十五歳でしょ?

 そうは思うが口には出せず、代わりに俺は「アハハ……」と苦笑した。



三十五は禁句。


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