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ポピュラリティゲーム  ~神々と人~  作者: 薔薇ハウス
一章 運命は西から南へ動く
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新たなる旅立ち

この話まで逗留した場所です。

次話から南に向かいます。

挿絵(By みてみん)

 翌日の未明には懺悔室に居た。

 色々あって忘れて居たが、どうやら審判の日だったらしい。

 それに気付いて顔を向けても、あちらからの声はかかってこない。

 不思議に思って「あの~……」と言うと、ようやくPさんは口を開いた。


「頼むよヒジリ君……」


 第一声はそんなもの。

 何を頼むのか理解が出来ず、「な、何をですか?」と聞いてみる。

 すると、Pさんは「忘れてるんだ……」と、ちょっぴり呆れた様子で言った。


「キミ、正体明かしちゃったでしょ? どこから来たとかも話したみたいだし。相手に気付かれる分には良いけど、自分から話しちゃ駄目じゃないか……説明書にそういう事が書いてあったよね?」


 続けて言われた言葉がそれで、心当たりがある為に「あっ!」と言う。

 確かにピシェトに自己紹介する際に、色々と事情を話した気がした。


「まぁ、ヒジリ君も色々あって? 辛かったのは理解出来るけどさぁ。

 そういう根本的なルールは、守ってくれないと困るんだよねぇ……」

「すみません……」


 素直に謝るが答えは返らない。

 割とユルイ人かと思っていたが、そういう所は厳しい人らしい。


「はぁ……」


 少ししてからため息が聞こえ、Pさんは直後に「まぁいいや」と言った。


「今、あみだクジって奴をしてたんだけど、今回は減点で許してあげる事になったよ。五本中四本はサヨナラだったから、ヒジリ君は運が良いよね」


 恐ろしい事を言う人だ。

 ていうか、サヨナラの確率が高すぎる。

 とんでもない事をされていたと気付き、俺の頬には汗が伝った。


「て訳で本来は十五Pだったけど、五Pマイナスで十Pだね。新しい項目も書いておいたから、その中で好きに使ってくださーい」


 言った後にメニューを出して、Pさんは「あんぐ」と何かを食べた。

 すぐにも「いてッ……!」と言うのは謎だが、それには構わずメニューを広げた。

 減点は痛いが消されなかっただけマシ。そう考えて新しい部分を見てみた。


 特能二 気配探知 六P

 真実三 生き延びた果て 九P


 増えていた部分は以上の二点だ。


 言語二 アーラル語(大陸西部の主要言語) 七P

 魔法二 治癒魔法(治癒力の促進。自己に限る) 五P


 ちなみに以上が先月からの物となり、モトセカ(元の世界に戻る)を含めた五つの中でどれを取るかの選択に悩んだ。


「……あの、気配探知って何ですか?」


 正直あまり興味は無いが、内容を知る為にPさんに聞く。

 Pさんは何かを「ガリリ」とかじり、その後に「ああ」と言葉を続けた。


「殆ど言葉の通りだね。害意を持った敵に気付けるようになる。

 それとは別に隠れている奴とか、透明な敵なんかも見られるようになるよ。

 怖いでしょ? 透明の敵。もしかしたらすでに近くに居るかもね?」


 それから説明し、「ははは」と笑う。

 本当だったら怖すぎるので、俺は左右をチラ見した後に、冗談と取って「たはは……」と苦笑した。


「真実三もその通りだね。例えばずっと生き延びたとして、どうされるのか、って話になるかな。というか、そもそもいつまで居られるのか?

 もしかして何ヶ月かしか居られないんじゃないのか?

 ……そんな事で悩む人への、救いになる答えが聞けるかもしれない」


 聞いても居ないのにPさんが言い、聞いた俺が「なるほど」と言う。

 しかしそこには興味が持てず、他の物から選ぶ事にした。


「(となると言語か魔法になるけど……)」


 今月で一番困った事は、言葉が通じないと言う事だった。

 この先もあそこに居るとするなら、言語二は必須と言って良い。


「じゃあ言語二でお願いします」


 そう考えてお願いすると、Pさんは「はいよー」と言葉を返した。


「残りはどうする? 元セカに突っ込む?」


 直後のそれには「いえ」と言い、ポイントを貯めておく旨を伝える。

 何だか魅力が無いと言うか、個人的にはソソられなかったからだ。

 聞いたPさんは「そっか」と言って、メニューを返すように俺に言った。


「ルールを破ったのは残念だったけど、その点を除けば素晴らしかったよ。

 特に、あの仇討ちって言うのかな? あの時の覚悟には僕は震えたね。

 今月もあの調子で頑張ってほしいな」

「そ、そうですね。努力はしてみます……」


 メニューを受け取ったPさんが言い、戸惑いながらに俺が言う。

 毎回毎回そんなノリなら、まるで「暴れん坊何とか」であり、思えばそんなノリでもあったかと、今更ながらに密かに思う。


「で、頑張るヒジリ君に、実は僕からのプレゼントがあるんだよ」


 場面を思い出してBGMをかけていると、Pさんが不意にそう言った。

 あまり良く聞き取れなかったので、その言葉にはとりあえず「えっ……?」と言う。


「いや、だからプレゼントがね。喜んでくれると嬉しいんだけど」


 思いがけない展開の為、瞬きもせずに境を見つめる。

 一体何が貰えるのだろうか。期待よりも不安で鼓動が高鳴った。


「君の恋人、ナエミちゃんだけど、実はこっちに呼んじゃいました」


 俺は直後に「えええええええ!?」と叫んだ。

 聞いたPさんは「うふふっ」と嬉しそう。


「ど、どういう事なんですか!? 俺と一緒ですか?! あいつもその、選ばれたんですか!?」


 嬉しさよりも驚きが大きく、俺はPさんを質問攻めにした。

 会えると言うなら嬉しいし、話せると言うなら色々話したい。

 でも、今はそれよりも、なぜそうなったのかの理由が気になった。


 Pさんは「あはは」と笑っていたが、やがては「実はね……」とテンションを下げ、それに気付いた俺のテンションも、不安を感じて右下に下がった。


「まぁ、その、呼べたは呼べたんだけど、ちょっとした手違いがあったっていうか……平たく言うならこの世界のどこかに「ぽとん」と落としちゃったって感じなんだよね♡」


 正直、「Pさぁぁぁぁん!!?」と、詰め寄ってやりたいが、仕切りがある為にそうも行かない。

 結果として俺は「落としたって……」と、呆れ、「ごめんごめん」とPさんが謝った。


「いやァ、僕も万能って訳じゃないからね。壊れた物を直す位なら兎も角、一度死んだ人間を、別世界に呼ぶのにはミスだってするさ。でも、この世界には絶対に居るから、会いたいって思うなら探して見たら? 少なくとも、まだ、生きていると思うし」

「まだ、って、死ぬ可能性があるんですか……?」

「それはそうだよ。ヒジリ君だってそうだったでしょ?」


 聞くと、Pさんはそう言った。

 確かに俺も死にかけた。戦場と、道端と、領主の館の戦闘で。

 そこには納得をせざるを得ないし、ナエミの場合はそれ以上に、危険だと言う事も考えざるを得ない。

 俺にはユートが居て、言葉が分かった。

 その上でマジェスティだったから、なんとか今まで生き延びて来られた。


「そう言えばナエミはマジェスティなんですか?」


 そこで気付いて質問するも、Pさんは「普通の人だよ」とすぐに答え、この事により、ナエミの立場が想像通りという事が分かった。


「探しに行くかい?」


 聞かれた為に「勿論です」と言う。

 折角の居場所を離れてしまうが、ナエミを見捨てる事なんかは出来ない。

 聞いたPさんは「だろうね」と、どこか嬉しそうな口調で言った。


「あの、そう言えばさっき、壊れた物を直すとか……そういう事なら兎も角って言ってましたけど、引き裂かれた人形は元に戻せますか?」


 思い出してそう聞くと、Pさんは「えっ?」と、少し驚いた。

 否定はしなかったので言葉を続ける。


「リースの……あ、孤児院の子供なんですけど、カメみたいな人形を持っていたんです。でも、それはあいつらに引き裂かれて、どういう物かは知らないんですけど、大事な物だと思うんです。だから、もし、直せるのなら……」


 そこまで言うとPさんは「素晴らしいね」と一言言った。


「出来るよ。でも、タダじゃ駄目だ。残りのポイントが三Pあるよね?

 これを全て引き換えにするって言うなら、その人形を元通りにしてあげるよ」


 でも、と言われて少し焦ったが、それだけの事で直してくれるらしい。

 俺はすぐにも「お願いします」と頼み、喜ばしい気持ちで境を眺めた。


「やっぱりヒジリ君はサムライだね……そんな事はなかなか出来ないよ」


 Pさんが言って、「ははは」と笑う。


「あっ……」


 気付くと、俺の膝の上には、リースのカメの人形が乗っていた。

 やっぱりPさんは凄い人だ。汚れや綻びもそのままである。

 正体は未だに不明な人だが、この時に俺は敬意を抱いた。


「その覚悟に免じてポイントは取らない。ナエミちゃん探しも頑張ってね」

「あ、ありがとうございます!」


 俺なんかよりも全然熱血だ。アツイ何かがある人だと思う。

 そのはからいに礼を言った直後、周囲は闇に包まれて、俺はそれに飲まれて行った。




 孤児院を離れるという事を言ったのは、朝食が終わった後での事だった。

 場所は食堂。

 子供達は、食事を終えて外に行っており、広い食堂には俺とユートと、話を聞いたピシェトしか居なかった。


「そうですか……寂しくなりますが、仕方が無いですね。すぐに見つかる事を祈っていますよ」


 事情を聞いたピシェトはそう言い、孤児院を離れる事を許してくれた。

 例えば「駄目です」と言われても、それを受け入れずに離れた訳だが、こうして快く送り出してくれるのは、俺にとっては救われる事だった。


「ちなみに、私だけに伝えたと言う事は、子供達には黙って行くのですね?」


 続けたそれには「はい……」と言い、後ろめたさから机を見つめる。

 子供は素直で、そして純粋だ。

 嫌われていないなら百%「行くな」と引き止められると思う。


 それを振り切って行くとなれば、泣き出す子も居るかもしれない訳で、それを放置して立ち去る事は、俺の精神では耐えられそうに無い。

 要するに、それを見たくないから、挨拶もせずに消える訳で――

 自分の都合で子供達の気持ちを省みないと言う事と変わり無い。


「では、子供達にはこう伝えましょう。ミスターヒジリは長いおつかいに行ったと。いつかは必ず帰ってくると。そう、約束していただけますか?」


 俺の気持ちを汲んでくれたのか、優しい顔でピシェトが聞いて来た。

 それにはすかさず「はい!」と言い、「それなら許しましょう」と、ピシェトは微笑んだ。


「帰って来ます。いつか必ず」


 自分自身に言い聞かせるよう、拳を握って俺はそう言った。


 それから部屋に行き、後片付けを始める。

 と言っても、私物は何も無く、ベッドの掃除や床の掃除など、感謝の気持ちの掃除が殆ど。

 それが終わったのが夕方頃で、夕食を取って早めに眠り、皆が寝静まった頃に起き出して、リース達の部屋に静かに向かった。


 別にドッキリを仕掛けようと言う訳では無く、直して貰った人形を最後にリースに渡す為だ。

 ドアを開けると寝息が聞こえ、窓からの月明かりが俺の顔を照らす。

 部屋の左右には二段ベッドがあり、そこには二人ずつの子供が寝ていた。


「(こっちこっち! リースこっちだよー)」


 小声で無くても聞こえないのに、わざわざの小声でユートが招く。

 それには少し微笑んで、招かれた右手に足を向けた。

 リースはベッドの下に居て、何も知らずに寝息を立てていた。


「(ごめんな……)」


 と、小さく言って、頭を撫でて人形を置く。

 明日になれば居なくなっている事が分かり、この子はおそらく悲しむのだろう。


「んん……」


 リースはそれを習慣なのか、見もしないのにすぐに抱きしめた。


「(また絶対帰ってくるから)」


 心で約束して部屋を後にする。

 それから俺達は玄関に行き、寝巻きのピシェトに迎えらえた。

 一応の時間は告げていたので、見送りの為に起きて来てくれたのだ。


「持って行って下さい。無いよりは良いでしょう」


 会うなりピシェトはそう言って、茶色の袋を俺に渡した。

 背中に担ぐような大きさのモノで、何なのかと思って中を覗く。

 中身は食料と僅かの金銭。


「これはちょっと……!」


 と、顔を上げると、ピシェトは頭を横に振った。


「マジェスティと言えども食べずには居られません。それにお金も無ければ困るでしょう。幸い、ここではお金よりも、物々交換の方が需要があります。なので、そこはお気になさらず」


 それから言って、玄関を開け、さっさと外へと出て行ってしまった。

 確かにここでは金の価値は低いが、それでも稼ぐのは大変だったろうに。


「神様みたいな人だよね」

「ああ……」


 ユートの言葉に頷いてから、袋を担いで外に出る。


「すみません、ありがたく頂きます」


 そこで改めて礼を言うと、ピシェトは紙を差し出して来た。


「地図です。大きな街に印をつけておきました。一番近いのはここから南の、タレンという名の街になりますね」

「何から何まですみません……」


 そして、差し出された地図を受け取り、それに対しても頭を下げた。

 心の師匠。そう言っても過言では無い。この人が居なければ俺は死んでいた。


「良いですか。ミスターヒジリ。あなたはおそらく、そう遠くない未来に苦しい選択をする事になるでしょう。ですが、その先には希望があります。どうか、その事を忘れないで下さい」

「あ、は、はい……?」


 その言葉には疑問して、俺はそれしか返せなかったが、ピシェトは直後に「にこり」と微笑み、「私達は同志です」と右手を差し出してきた。


「光栄です……」


 上から目線でも全然良いのに、同じ立場で見てくれている。

 何だか嬉しいし、少し照れ臭い。

 恐縮しながらそれに応じ、お互いに笑って握手を交わした。


「じゃ、行きます」

「お世話になりましたー」


 それから俺とユートは言って、夜空の下を歩き出す。


「また帰って来れると良いね?」


 手を振りながらにユートが言って、俺がそれに「ああ」と言う。

 その時、孤児院から誰かが飛び出し、見送るピシェトの隣に立った。

 いや、立ったのではなく捕まったようで、何かを言われた後に顔を向け、大きな声でこう言ってきた。


「ヒジリ!! ありがとー! お人形ありがとう!! 絶対、絶対帰って来てねー!! ヒジリ……お兄ちゃん……大好きだよー!!」


 言うまでも無くそれはリースで、小さな体で大きく手を振り、ピシェトと一緒にいつまでも、俺達の事を見送っていた。


「(ここに来れて本当に良かった……ピシェトさんやリースに会えて……)」


 お互いの体が小さくなった頃、俺はそう思って二人に背を向けた。



ヒジリ「俺達の戦いはこれからだ!」

的なタイトル。

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