プロローグ
宇宙空間。
そう例えるに相応しい場所で、槍を支えに俺は立っていた。
「ハァ……ハァ……」
体はぼろぼろで意識は朦朧。立っているのがやっとの状態だ。
そんな意識で隣を見ると、同様の人物が俺の目に入る。
青い鎧に金の髪、切れ長の目をした綺麗な人で、こちらの世界では「鮮烈の青」と呼ばれる、レーヌ・レナスと言う名の女性であった。
剣を支えに何とか立っており、視線に気付いて口の下の血を拭う。
「行け、ヒジリ……時間が無い。こちらの事は私達に任せろ」
それから言って、視線を動かして、俺が向かうべき場所を示した。
そこは俺と彼女の正面。
宇宙空間の中に一ヶ所だけ、「ぽっかり」と開いた白い穴がある。
大きさはおよそで三m程。それは徐々に小さくなっている。
あの人……
そう、俺が信じたあの人の力が失われて来ているのだ。
そこに入れば元の世界に戻れる。
あの人は最後にそんな事を言った。
それはきっと嘘では無いし、俺もそうだと信用している。
長い、長い旅路の果てにようやく見つけた最後の希望だ。
戻るか。それとも戻らないのか。
激しく、辛い戦いが終わり、二つに一つの選択を迫られていると言う状況だった。
「そうだ。それで良い。お前は良くやった……元の世界で幸せにな」
足を動かすとレナスは言った。
おそらく戻ると受け取ったのだろうが、戻ると決めた訳では無くて、本当にただ動かしただけだ。
「良いんですか……?」
一応聞くも、答えは返らない。
無言で息を整えた後に、支えにしていた剣を収める。
「……」
槍を支えに扉を眺め、この世界での事を少しずつ思い出す。
苦しくもあり、楽しくもあったこの異世界で過ごした日々を。