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3.酔狂な探偵

4、酔狂な探偵

王木の事務所は抹消課銀座支部から徒歩で20分の距離にある。

銀座の雑多な通りに軒並み立つビルのひとつに、

部屋を借りて営業している探偵事務所がそれだ。

古びたビルの側面に突き出るようにして割と新しい縦長の看板が出ており、

そこには、「王木探偵事務所」と書かれている。

看板と同じ高さにある三階の窓にもでかでかと同一の内容が貼られていて、探偵事務所のイメージとはかけ離れた可愛らしげな装飾が施されている。

ビルは4階まであり、王木の事務所は窓の装飾からも判るように3階にあった。

スペース一人分しかない入り口をいつものように少し身をかがめて入り、

そばにあるさび付いた手すり使って急な階段を上る。

階段はところどころタイルが剥げてコンクリがむき出しになっていて、

踏むたびに、パキパキとなってうるさい。

ふと、階段を上がりながらこれから起きるであろう惨劇を思い浮かべてみた。

陰惨な罰ゲームに苦しみ、泣き悶える自身のことを・・・・・・。

いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ。

ガチでいやだ。

あいつに会いたくない。

「はぁ~~がぁ~」

ため息と一緒に奇声を漏らしてしまった。

これは、王木の担当になってから知ったことだが、

人は極限まで追い詰められると

自分でもわけのわからない奇声を上げてしまうものなのだ。

そして、体の節々が鳴り冷たい汗が体中から流れる。

滝のように背から、雨が降るように顔から、にじみ出るように足から。

特に手汗がひどい、

普段出てこない汗が軽く手をすり合わせるだけで濡れるほどに湿っている。

何度服に手を擦り付けても湿り気は取れない、

これではドアノブを掴んでも汗で滑って回せないかもだ。

うわ―めっちゃ、びびってんなー。

無意識のうちに足は動き、遠ざかりたい所へ着実に、着実に、近づいていく。

しかしその歩みは、足に鉄の錘をくくりつけているのかと錯覚するレベルであった。

靴底の磨り減った紳士靴を引きずるようにして、床にこすり合わせるようにして、

まるで、靴自身が進むことを拒絶しているかのように。

そこまでいやなら逃げ出せばいいと思われるかもしれないが、逃げ出せば秘密漏洩を防ぐために警察関係者もとい殺証者達に消される。

これは、就職する際に言い含められていたことだから、いまさら考えても仕方が無い。

そんなこんな考えているうちに目当てのドアの前まで来ていた。

ここから引き返すことはできない、後ろに引くことはできない。

俺ならやれる、死なずにいける。

力を抜き、深くため息をつく。

気持ちを切り替えて、声を荒げた。

「よし、死んでくるか!」

むりやり、自身を奮い立たせて恐怖から逃れようとしているのが丸わかりだ。

汗で滑るドアノブを目いっぱい強く握り思いっきりドアを引く。

顔を上げるのが怖い、しかし、顔を上げなければ始まらない。

恐る恐る顔を上げて、事務所の様子を見やるとそこには異様な光景が広がっていた。

ドアの前にはメイド姿に身を包んだ、

黒髪セミロングの眼帯美少女が丁寧にお辞儀して首をかしげる。

「おかりまさいませ、ご主人様。ごはんにします?おふろにします?それとも、わ・た・し?OR、お・し・お・き?」

同じくメイド姿の道楽(手錠つき)は叫んだ。

「もちろん、おしおき一択でお願いします!」

「それじゃあ、ジョブとして私の部屋でベッドイン?」

「YAS,私も一緒にベッドイン~!」

なんか盛り上がっているところ悪いんだけど・・・

俺はお前らとそんなことするつもりないから。

あと、それを言うならジョブじゃなくて、ジャブだから。

「「さぁ、どうします?ご主人様?」」

ここに効果音が入るとしたら、「キャピィーン☆」だな。

ただ、あいつらの腹の内まではそうはいかない。


「ねーねー。わたしとするの?それとも死ぬの?」

「・・・・・・・・」

可愛らしげに首を傾げるが、片手に握るサバイバルナイフがそれを台無しにしている。

ギラリと鈍く光るそれは人の首を飛ばすには十分で、まるで狼の刃のようだ。

王木はナイフを逆手に持ち替えると自分の首筋にそっと押し付け、体をこちらに寄せる。

あいつの背丈は自分の頭半個分下で、

ちょうど並んで立つと目の前にあいつの頭の先が見えるぐらいだ。

まぁ、そんなこと考えている余裕なんて無いんだけどね(笑)

体を寄せた状態から、爪先立ちになり自分の耳元に口を近づける。

「早く答えろよ、殺すぞ。」

「はい!丁重に断らせえいただきます!」

はっ!しまった。思わず本音を口走ってしまった。



「ふーん。そういうこと言うんだ。

メイドがあなたのために精一杯ご奉仕してあげるって言っているのに。」

体をさらに密着させ、白を基調にしたスタンダードメイド服を体の隅々に摺り寄せる。

より密着したことによりあいつ自身の女性の香りが自分の鼻へ吸い込まれていき、

あいつの何も飾り気の無い香りが余計に自分をむらむらさせた。

大きく息を吸い込み、腹に息をためる。

腹に息がたまっているのは、腹部が膨らんだことからも感じることができた。

それから、艶かしく顔をゆがめて、その体勢からゆっくりと耳に息を吹きかける。

唇が耳に触るか触らないかの所で「ハァ~~~。」と。

右耳から、直にあいつの動悸が聞こえてくる、

胸からはあいつのとくとくと脈打つ鼓動が伝わってきた。

あいつの華奢な体がこんなにも激しく連動しているのを聞いて見て感じて、

素直にあいつはきれいだと思った。



賞味1分間ぐらい右耳に生暖かい息がかかっていた。



「なんか言ってよ。ねぇ。」

今度は耳たぶを食み始めた、たっぷりの唾液を含んだ舌で丹念に舐りまわす。

「クチュクチュ、ペチャクチャ」右耳から聞こえる生々しい音で理性が吹き飛びかけた。


見た目だけは真っ当な美少女、

こんなことをされたら大抵ではなく全ての男性がとりこにされるだろう。

「一回だけですよ・・・」

とうとう一の爪楊枝のような心も折れた。

しかたないじゃない!男なんだもん。本能に抗えるわけ無いじゃない。


「じゃあ、裸で待っていて、シャワー浴びてくるから。」

そう言うと一の頬に口づけし、さっさと奥の部屋に引っ込んでしまった。

この事務所はあいつの自宅も兼任している、仕組みとしては玄関から入ってすぐのところが仕事場としての部屋でその奥の部屋があいつのプライベートルームだ。

備え付けの簡素なシャワールームとキッチンが部屋の大部分を占めてはいるが、

あいつの特色を表現するのには十分な広さであるといえる。

部屋のいたるところ、ところ背ましにかわいらしい熊のぬいぐるみやら、

ファンシーグッズが置かれている。

あいつは、あれで結構かわいいものが好きなのだが、一週間に一度は解体してしまう。

特殊な愛情表現だと思う。

ではさっそく服を脱いで準備をするかな、

いやーほんとお久しぶりだ、腕なまってないかな。


「何にやにや笑っているんですか?

王木さんに一さんの童貞を奪われるのがそんなにうれしいですか。

そうですか、一さんってMっけがあったんですね覚えておきます。」

道楽(手錠付)が頬を膨らせてそっぽを向きながらそう尋ねる。

「誰が魔法使いだ。俺はもう中学のときに卒業しているよ。」

「な、な、なんと!どこの馬の骨ですか、泥棒猫ですか!」

「リアルで泥棒猫使う奴がいるとは思わなかった・・・・。」

「きぃ~、そいつの氏名年齢趣味性癖容姿の特徴、

最後に電話番号郵便番号住所を教えてください。」

手錠の鎖を引きちぎれんばかりに口で引っ張る。

昼ドラのハンカチを噛んで悔しがるポーズそのままだった。

「なんか懸賞に応募するみたいだな。じゃあ教えてやるよ、初めての相手」

「ちょっと待って!メモりますから。」

とっさに自身の学生かばんを取りに戻る道楽。

その姿はまるで瞬間移動ができるようになった孫●空を見ているのかのようだった。

「ああっ、メモ帳が無い。ホントどこにいれたんだ私!」

いつのまにか戻ってきていた道楽は

ジャラジャラとキーホルダーのついた学生かばんをあさる。

その目は血走って、かばんからものがこぼれても目にも留めない。

こいつに何があったんだ・・・・・・。

道楽はやっぱりこんなことを考えていた。

(こんな大切なときにメモ帳を家に忘れるなんて、

くそ!!一さんの好みを知るチャンスなのにっ)

「まだ、サービス期間は続いていますか!続いているなら脳内SSDに記憶しますから、

どうぞ暴露しっちゃってください!」

結局、道楽はメモ帳を探すのをあきらめたようだ。

いや、何で学生かばんの中に筆記用具が入っていない?

おかしいだろ?学校に何しに行っているお前?

でも、決して突っ込んだりしない、なぜならこいつはそういう奴だからだ。

「まず、黒髪でショートだったと思う。」

「もしもしっ、美容院KEINZUですか!今日の午後に予約を入れたいんですけどっ。

なんですって!もういっぱい、いっぱい?はっ、そんなこと知りません、金はいくらでも払いますから私を黒髪ショートにしてください!」

「で、俺よりも背が高くて胸も大きかった。」

「高島先生の整形外科ですか!すいません、明日までにどうしても胸が大きくて背が高くないといけないんです。急には無理?うっせぇ、だまってやりゃいいんだよ、私の足にシリコンでも鉛でも詰め込んでもっと背を高くしやがれ!」

「で、めちゃくちゃ頭よかった。」

「これは、私にはどうすることも出来ない。」

こいつはリアルに馬鹿な子である。

1+1=と聞くと

「その問いには田んぼの田って答えればなんとかなるとおじいちゃんが言っていました。」

真剣にそう答えるのである。

「一さんは、うぐっ、ぐすっ、うっ、そんなに私が嫌いですか?」

「うーん、興味が無い。」

「それは、嫌いだって言われるよりも傷つきます。」


「そんなこと言われても、

俺はお前を道端に落ちているタバコの吸殻程度にしか見ていない。」

「せめて、人として見てください。女としてとまでは言いませんから。」

「無理言うなよ。誰がごみを人間扱いできるんだ?」


「ついに言いやがった!警察の人間が人間をゴミだって、この国はもう終わりだ!」

「王木みたいな職業が出来る時点で終わっているだろ、この国は。」


「たしかにそうですけど・・・・・。物には言いようがありますよ。

もっとこう美少女を守ろうとか思わないんですか?」

「だから、お前は美少女じゃないって言っているだろ。まず、そこを自覚しろ。」


「じゃあ王木さんは?」

「あいつは・・・・・売れ残りだな。」

「売れ残り?ずるい、王木さんだけずるい。なんで私がゴミで王木さんだけ未使用の売れ残りですか?私はそんなに汚れてませんよぅ。」


「なんでかって?それはあいつが誰にも相手にされず必要とされず、

作られた意味も無く、存在するだけで全ての人間に恨まれ憎まれる、

いつかは誰にも存在を知られること無く捨てられる存在だからだ。

ゴミ中のゴミだよ、あいつは。」


「・・・・・・・・・」

「おっと、これは誰にも言うなよ?特に王木には。」

「後ろで聞いちゃっていたりして☆、あは、一お兄ちゃん?」

「!!!!!!」


「・・・・・・・・・」

「そう、私は売れ残り、だからこそ、人の温かみが触れ合いが恋しくなる。

いつも誰かにかまってほしくて、仕方が無い・・・・・・。」


「だから、今日だけは好きにさせて・・・、一さん。」

「・・・・・・・・・」

「しかたねぇ、今日は付き合ってやるよ、王木妹。」

「ありがとう、一さん」


そのまま、二人は王木のベッドにもぐりこみ、行為に及ぼうとするが、ベッドの中に何か四角いものが入っている、この大きさと山あり谷ありはま、まさか!

王木はにやりと笑うとばさっと布団をはぎ、中に入っていた伝説のゲームをあらわにした。

「あたしが先行でいいですか?よし、がんばって一さんを多重債務者にするぞ~。」

「????????」

「何かたまっているんですか?あれ、もしかして、別のことしようとしていた?」


「まさか、まさまさささ、まさか。」

「ベッドの上で、人生ゲームするに決まっているじゃないですか。」


「道楽カモーン、人生ゲームしよう~。」

「はーい、待っていました、二人で一さんを借金で首が回らないようにしてあげましょう。」


「まさか、二人して俺をはめたのか・・・・。」


「はめた、なんて人聞きの悪い。一さんが勝手に勘違いしただけじゃないですか。」

「はめたなんて、もう、いやらし~。」

「うがああああぁぁぁぁぁぁぁ」


「あっはっはっははっ、全身真っ裸で人生ゲームするなんて、何やっているのですか?」


「糞お前ら覚えとけよ!いつか絶対お前らをコテンパンにしてやるからな。」

「もう、こんなことで熱くならない、ならない。あっ、もう子供生まれた。一さん、道楽、

2万円ずつ出して。」

「しかたないですね~。今月お小遣いピンチなのに。」

「月に30万もらうような奴の言い訳は訊かん」

「ちぇー。エルメスの新作バックを買おうと思ったのに。」

「一さんから同じくぶん取ればいいじゃない。」

「そういやそうですね。そうさせてもらいます。」

「いやちょっとまって、言い忘れたけど俺仕事でここに来たんだよ。

一度話を聞け。」

「どうせまたそこら辺の殺人鬼が人を殺したとかそんなところでしょう?

その程度の事件じゃ人生ゲームを中断できるどころか話しさえ聞いてもらえないのがわからないんですか?あっ、私も子供生まれた。」

「その年で出産するなんて祝福されないねぇ。」

「30越えても「黙れ」初恋すら「殺すぞ」すいませんでした・・・・・」

「だからとりあえず、人の話を最後までとは言わないから最初だけでも聞いてくれ。

今回はお前達好みの依頼になっているはずだから。」

「「というと?」」

「食いつくのが早いな・・・まぁいい。

例によって今回も殺人事件なわけだが犯人が十中八九かなりの腕を持っていると推測されている。殺し方は言うまでも無く死体の処理、」


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