プロローグ
世界の境界でせめぎ合う力は嵐のように天を乱し、地を踏みしだき、破壊を呼ぶ。
この世の終わりかと思えるほどの力が、この地でぶつかり合っていた。
「神であろうと、たたっ斬る」
廃墟を焼き天空を焦がす焔を背景に、一人の男が闇色の長剣を振るう。
闇色の閃光がひらめく度に、大気は裂け、大地は砕け散った。
男は中肉中背、とくに欠点もないが、どこといって特徴のない日本人的な顔立ち。強いて言えば今どきの若者にはめずらしい真っ黒な髪が特徴だろうか。
瞳の色は、光を吸いこむ鋼のような黒だった。
日本人らしい風貌の男が、ひところ流行ったRPGのキャラクターのようなファンタジックな恰好で長剣を構えるようすは、ひどくミスマッチなはずだが、なぜか不思議と板についていた。
嵐をおもわせる力の源は男と男の振るう長剣――“破壊王の暗黒剣”といわれる闇の神器だ。
虚無の刃風の片鱗に触れたものすべて轟音とともに崩れ落ちる。
歴史ある石造りの街並みは未曽有の天災にみまわれたかのように、がれきの山と化し、そこに住んでいた人々も皆、無事ではすむまい。
だがしかし――。
天災級の力をもってしても、男が対峙する相手は傷一つ負わず、足を止めることもない。
世界の境界から、にじみだしたそれは、少しづつ確かな姿をとり、ゆっくりとだが弛みなく近づいてきていた。
隙間なく呪符を重ねた被布を頭から足先まですっぽりとかぶり、顔があるとおもわれる部分は奇妙な面覆いで隠されている。身を縛る戒めの鎖をひきずりながら歩み寄る禍々しい異形の姿。
ざりざりと鎖を引きずりながら、それが一歩、歩むたびに時空が軋み、世界はゆらぐ。
「※※※※※※」
何事か告げようとでもいうのか、それが声を放ったとたん、世界を塗りつぶすノイズが走る。
在り方の違うそれの言葉に、男は耐えきれず、膝をついた。
「※※……※――コレナレバ通ジヨウ。ソノホウラヲ損ナウハ吾ノ本意デハナイユエ」
たとえ悪意がなかったとして、それがなんだろう。存在するだけで世界のありようを損なうほどの、濃密な超越した気配がじわじわと世界を侵食しはじめていた。
「時満チテ貧シキコノ地上ニメデタク生マレタマイシ御子ヲ寿ギタテマツラン……イマ一度ハシキ御子ニアイマミエント疾クマカリイヅ……御子ハイズレニアリヤ……メズラカナル御子ナレバソノ躬ハ吾ガモライウケン」
「あいつは、愛する奥さんとおれの子だ、てめえなんかにゃ絶対に渡さない。引けよ。それとも、この世界ごと壊す気かい」
2011. 7. 3. / 改稿