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フリモリウム魔法学院

古今東西=フリモリウム魔法学院=

作者: 爽夏=sayaka=
掲載日:2026/07/02

極東にある島国。連なる島々は、季節が変わると色とりどりに風景を変え、人々の目と心とを潤わせている。

僕の故郷は、豊かな自然が身近にある美しい場所だった。

母は主家の乳母として、僕も恐れ多いことに乳兄弟として、恵まれた環境で育ち、勉学に武芸に励んでいた。次代の主家を担う兄の支えになるのだと、輝く瞳で将来を語る()の方の熱が伝播したのだろう。その一助となるのだと無邪気に考えていた。

土地神様に仕える御使いたる狐の霊獣たちが里を見守り、霊峰で育った山犬が一族の男衆と共に里を守護する。

里に近い山の中は艶やかな葉を身に纏う木々が立ち並び、彼の方と共に土地神様を奉る社を詣でては、御付きの方々と共に木の実を拾い集めた。集めた木の実を持ち帰れば、母たちが擂り潰して捏ねて焼いて菓子にする。その香ばしい香りに彼の方と二人待ちきれないと手を伸ばして怒られた。

ある時、親とはぐれ、衰弱した子狸を見つけて、連れて帰った。死にそうなくらい弱弱しくて、彼の方とともに「生きろ」と声をかけて看病する。温石を布で包み暖めて、自分の粥を分けて与えた。

しばらくすれば、最初に見つけた時が嘘のように元気が良くて、彼の方と二人と一匹で駆け回った。


僕が10を過ぎた頃であろうか。遥か遠い異国の地より来訪した使者がいた。

異国の者がもたらした(いま)だかつて見たことも無い知識の沼に魅せられた僕は、国の力になるのだと、主家の、ひいては彼の方の支えになれるはずだと、異国への留学を強く希望する。

彼の方の御傍を離れなければならないのは心残りだったが、異国の学問に魅せられた僕は、彼の方のためにと自分を正当化していた。幼い僕を心配してだろう。狐狗狸の三匹がともに船に乗る。

そして、留学してみれば、毎日の生活は初めて知ることの連続で、とても刺激的で、好奇心を満たされ、更に深みにはまり、時間を忘れて没頭していく。

自分たちの研究に満たされ、異国で過ごす生活にも慣れた頃、祖国より一報が入った。

政変が起き、反逆の徒は一族郎党弑された、と。その反逆者の名簿の中に主家の名が、末端には己が一族の名も添えられた。国賊として、名も名誉も栄光も、土地すらも新たな為政者たちに奪われていた。

いつの間にか、僕の帰る場所は亡くなっていた。故郷とは何もかもが違う異国の地で、行く当てのない僕だけがポツンと残されていた。

国からの支援が無くなり文無しになった僕は、懇意にしていたマディアス教授の勧めで、学び舎より貸与される奨学金を得、勉学の環境を整えることができた。

だが、奨学金で賄えるのは勉学の環境だけだ。生活できる基盤が全くなかった。

そんな時だ。金策に悩む僕に、マディアス先生から、仕事を紹介されたのは。


《死体屋》


オッフェルの森で討伐部位だけ採取され、放置された魔物の死体。討伐依頼をこなす学生や値の付く指定部位だけを納品する冒険者が放置したソレを学院に納めて欲しいと願われたのだ。

魔物の身体は余すことなく魔法の触媒に使うことができる。価値が低いと思われている部位とて、研究には重要な素材なのだ。

「勉学の合間で構わない……あぁ、そうだね。魔物討伐の単位も工面してあげよう。不足している素材が常時手に入るのならば、そのくらい安いものだよ」

数えで12の時にフリモリウム魔法学院へ留学し、15の時には留学生としての卒業単位を取得した。だが、それではこの地で働くことは叶わない。

正規の卒業を目指すとなると、更に学ぶ範囲は広く……奨学金で賄える期間で卒業するとなれば、時間が足りなかった。

金策と共に単位が手に入るとあらば、渡りに船だと僕は思った。そのくらい切羽詰まっていたのだ。

卒業できなければ、この国に身寄りのない僕は生きる術がない。


そして、死体屋として働きつつ、卒業に必要な単位を取得して、卒業した僕は……今も死体屋として働いている。

傍には、狐狗狸の三匹が寄り添っている。故郷を知っているのは、僕の他には、この三匹しかいない。


五階建てのアパートの五階。この地に住まう人たちは、階段で登るのを好まないのだろう。一人と三匹で暮らすには広いくらいの部屋を破格の値段で借りることが出来た。

故郷にはなかった背の高い建造物が立ち並ぶトーフェルブーク学術都市。魔法の力は凄まじく、高い建物には魔動昇降機(エレベーター)が付いていた。あの奇妙な浮遊感に未だに慣れない。

それでも、高いところから地上を見下ろすのは好ましく、階段を昇る事すら楽しかった。狐は呆れたように、犬は共に楽しんで階段を昇る。疲れた狸がへたり込む姿が愛らしく、抱き上げて昇る。

アパートの五階の上には屋上があり、ほとんど昇ってくる人はいない。ほぼ、自分だけの占有エリアになっていて、屋上庭園付きだなんて贅沢だと思ってしまう。

空に月が昇る夜、月のない星だけの夜、星降る夜……あるいは、静かな夜の街を見下ろしながら、こんな生活も悪くないと思う。


(僕は此処で生きていく)


大丈夫。寂しい時は狐狗狸の三匹が傍にいる。独りじゃない。


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― 新着の感想 ―
美しい故郷と大切な人々を失い、異国で一人取り残された少年が、それでも学びと仕事を手放さず生きる姿に胸を打たれました。「死体屋」という厳しい仕事が、魔物の命を研究へ余さずつなぐ大切な役目として描かれてい…
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