世界で一番かわいいと思っていた俺(女装趣味)が、35になって――現実が 見えてきた
「……おい待て。誰だこの『ヒゲの濃いおじさん』は」
深夜二時。
最新の4K解像度を誇るスマホの画面を見て、俺――佐藤恵(35歳・独身・中堅商社勤務)は戦慄した。
画面に映っているのは、フリフリのゴスロリ衣装に身を包んだ、どう見ても『無理をしている不審者』だ。
おかしい。
二十代の頃の俺は、街を歩けば「お姉さん、今からお茶しない?」とナンパな男に声をかけられる程の、自他共に認める『世界で一番かわいい存在』だったはずだ。
キラキラとした輝きを纏い、その笑顔一つで道行く人の視線を独り占めしていた。
あの頃の俺は、重力をも味方につけていた。
だが、三十五歳。
現実は非情だった。
「なんだこの肩幅……! ガンダムか? 俺はいつからモビルスーツになったんだ!?」
二十代の時には華奢なラインに見えた骨格が、今は歴戦の戦士の如き威圧感を放っている。
さらに、昨日食べたラーメンの塩分が、如実に目の下のたるみとして現れていた。
それをコンシーラーで隠そうとすればするほど、そこだけが塗り壁のように不自然に浮き上がる。
いや、服やメイクが浮いているんじゃない。
浮いているのは、俺の存在そのものだ。
俺という個体が、この装いに相応しい世界線から脱落してしまったのだ。
「もう……無理なんだな。俺の賞味期限は、とっくに切れてたんだ」
自嘲気味に呟き、ウィッグを外す。
中から現れたのは、仕事のストレスで少し後退した生え際。
さっきまで必死にお姫様を演じようとしていた努力が、一瞬で滑稽なコスプレ変態おじさんに成り下がった。
「明日も仕事だってのに。俺は、こんな時間まで何を……」
・ ・ ・
翌日。
俺は『佐藤課長代理』として、グレーのスーツに身を包んで出社した。
満員電車に揺られ、理不尽な上司の小言に頭を下げ、部下のミスをカバーする。
鏡を見なくてもわかる。
今の俺は、どこからどう見ても、ただのくたびれたおっさんだ。
昨日、あんなに惨めな思いをした。
現実に気づいてしまった。
もう女装なんて、あんな痛々しい遊びはやめようと思った。
……そう、思っていたのに。
仕事帰り、俺の足は無意識にドラッグストアへ向かっていた。
目的は、SNSでバズっていた最新のアイシャドウ。
テスターを手に取ろうとして、ふと指が止まる。
横には、部活帰りの女子高生のグループ。彼女たちの肌は、蛍光灯の下で発光するかのように瑞々しい。
彼女たちにとって、アイシャドウは未来を彩る光だ。
だが、今の俺にとっては、過去にしがみつくための泥に過ぎない。
店員がこちらを見る。その引きつった笑顔が「おじさん、何してるんですか?」と問いかけてくる気がした。
俺は結局、何も買わずに店を出た……。
――なんて、そんな殊勝なタマかよ!!
「そこの店員! ……いや、店員さん! これの、一番ビビットなピンクを一つ! あと、この『最強の青髭隠し』と、この『重力に抗うリフトアップテープ』も! いますぐ会計お願いします!」
俺は勢いのままに、給料日直後のクレジットカードを叩きつけた。
三十五歳。
現実が見えてきたからこそ、やるべきことが明確になったんだ。
『かわいい』は天賦の才能じゃない。
これからは高度な情報戦と資本主義の暴力だ!
帰宅後、俺は再び戦闘服を纏う。
補正下着を締め上げ、内臓を押しつぶし、物理限界を超えたクビレを作る。
肩幅を包み隠すように漆黒のケープを羽織り、なだらかな曲線へ偽装していく。
仕上げに医療用グレードのコンシーラーで、パテで凹凸を埋めるかの如く、三十五年間の人生を塗りつぶす。
「……はは、見ろよ。まだいける。まだ死んでねぇ」
鏡の中にいるのは、確かに加工なしでは厳しいおじさんかもしれない。
けれど、その瞳に宿っているのは、不当な値下げ要求を跳ね除けてきた時と同じ、不屈のビジネスマンの如き諦めることを諦めた輝きだ。
俺はスマホを掲げ、ライティングを限界まで炊き、叫んだ。
「俺はまだ終わってねぇ!! 誰がなんと言おうと、『世界で一番かわいいおじさん』になってやるんだからよ!!」
自撮りの連射シャッター音が、六畳一間の戦場に爆速で響く。
まだまだ三十五歳。
俺の『かわいい』は、ここからが本番だ。
明日も、スーツの下にピンクの靴下を隠して、最強の笑顔で出社してやる。
この作品を見てくださった方へ。
おじさんを☆でデコレートして、世界で一番かわいくしてやってください!
※この作品はAIちゃんとの共同執筆となります。




