さくら
桜色に染まる大地から仲間や整備兵たちが振る帽子に送られ、青空に向けて8機の零式艦上戦闘機が飛び立った。
爆装零戦が5機、直掩機が3機からなる神風特別攻撃隊の一部隊。
攻撃目標は沖縄近海に集結している敵艦隊。
攻撃隊は桜色に染まる大地の上から青い海と青空か広がる海上にでた。
爆装零戦の中の1機の操縦桿を握る若者の目に、風防の外側に飛ばされること無く貼り付いている1枚の桜の花弁が映る。
その花弁を見て若者は故郷の家族や友人、それに幼馴染の女の子の姿を思い浮かべた。
眼下に見える大海原の所々に沖縄までの道標となる島々が浮かぶ。
奄美大島、徳之島、沖永良部島、与論島、島々の上空を横切る度に、翼に描かれた日の丸を認めた島民が手を振るのが小さく見えた。
与論島を過ぎたら敵が支配する海になる。
薄っすらと見える沖縄本島の上空で何かがキラキラと瞬く。
敵機だ。
増槽を落としながら直掩の3機の零戦が、キラキラと瞬きながら近寄ってくる敵機に向けて突っ込んで行く。
敵機から目を離し眼下に目を向けると……、いた!
白波をたてて数隻の艦艇が回避運動をしている。
他の機にもその事を知らせようとしたが、皆、敵艦艇を認めたらしく手振りで下方を示していた。
直ぐ横を飛んでいた僚機の操縦士が若者に略式に敬礼を寄越すと、対空砲を撃ちまくっている敵艦艇の一隻に向けて突っ込んで行く。
若者もそれに続いた。
操縦桿を前に倒し真っ逆さまに駆逐艦らしい敵艦の煙突目掛けて急降下する。
若者の機を見上げる恐怖に歪んだ敵兵の顔が段々と大きくなっていく。
敵艦の煙突に突入する寸前若者は幼馴染の女の子の名前を小さくつぶやいた。
「さくら……」
爆装零戦は敵駆逐艦の煙突腔に飛び込んだ。
今し方まで殺し合いが行われていたのが嘘のように晴れ渡った青空の下で、1枚の桜の花弁が風に翻弄されるように舞っていた。




