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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

異邦人ルマン

作者: ゴスク
掲載日:2026/02/09

1930年ポーランド  怪盗ルマン――その名は、噂だけが先に歩いていた。

 確かな目撃証言はなく、盗まれたとされる品も特定されていない。

 被害者は皆、同じことを口にする。

 「確かに、何かを奪われた気がする」と。

 マーヤーズ・キリスは、新聞を畳み、静かに椅子にもたれた。

 これまで数多くの未解決事件を終わらせてきたが、ここまで輪郭の掴めない相手は初めてだった。

「ナンシウスルマン、か……」

 調査を進める中で、一つだけ共通点が浮かび上がった。

 事件の前後、必ずイタリア――特にヴェネチアに関係する人物や情報が絡んでいる。

 偶然にしては、重なりすぎている。

 キリスは、古い電話機に手を伸ばした。

 呼び出した相手は、ソ連にいる旧友だった。

「護衛を頼みたい。短い旅になるが、面倒な仕事だ」

 受話器の向こうで、低く笑う声がした。

「面倒な仕事ほど、君は楽しそうだな」

 数日後、キリスはドルコフ・マトロキーと合流し、南へ向かう列車に乗り込んだ。

 車窓の外では、国境がゆっくりと後ろへ流れていく。

 ヨーロッパ全体が、どこか不穏な空気を孕んでいた。

 新聞には連日、ドイツと日本、そして欧米諸国との対立が報じられている。

「時代がきな臭いな」

 ドルコフが新聞を畳みながら言った。

「こういう時代には、怪物が現れる」

 キリスは静かに答えた。

 やがて列車は水の都へと近づく。

 運河と石の街――ヴェネチア。

 怪盗ルマンの影が、最も濃く落ちる場所だった。

 キリスは胸の奥で、言い知れぬ予感を感じていた。

 この街で、事件は大きく動く。

 そして、自分自身もまた、何かを失うことになる――そんな予感を。

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