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さんまおやじ ~またたび商店街のほのぼの猫物語~

作者: 近藤良英
掲載日:2025/11/17

下町の温かさと猫たちの暮らしを描いた物語です。

登場猫たちの紹介

朝吉あさきち

さんまをこよなく愛する“さんまおやじ”。毎朝3時に起きて河岸へ走る働き者。魚屋と鮨屋の二刀流で商店街の人気者。

●ヒデ

朝吉のしっかり者の妻。店や家のことをてきぱきこなす「またたび鮨」の屋台骨。笑顔がやわらかく、商店街の猫たちにも好かれている。

●ユカ・カイ

朝吉とヒデの双子の子猫。元気いっぱいで魚が大好き。将来は「パパの仕事を継ぐ!」と宣言している頼もしい二匹。

●マサ

朝吉の母。昔習った“猫気道”の達人。のんびりしているようで、実は鋭い観察眼を持ち、商店街の守り神のような存在。

猫林ねこばやしさん

駄菓子屋の店主。やさしくて、子猫たちの味方。事件の被害にあったが、マサに助けられて以来、より一層マサを尊敬している。

●魚河岸の猫たち

毎朝、元気に声を張り上げる市場の猫たち。朝吉の仕事を支える大切な仲間。



〈ものがたり〉


さんまおやじは猫である。

名前を朝吉という。

朝吉は、毎日、朝がまだ暗いうちから働きはじめる。

鉢巻きをきゅっと締め、そこへさんまを一本差し込むのが朝吉のトレードマークだ。

「よし、今日もがんばるか!」

その短いひげをふるわせ、店の戸をそっと開ける。

真冬の外気がひゅうと吹き付け、頬にいたずらをしてくる。


深夜三時の仕入れ


朝吉の一日は、夜中の三時からはじまる。

オート猫輪車のエンジンをかけると、プスンとかわいい音がした。

「おいおい、今日は寒いからって、さぼるんじゃないぞ」

猫輪車をなでながら呟き、猫洲の河岸へと向かう。

月明かりに照らされた道を、コトコト走っていく。

河岸につくころ、魚屋猫たちの元気な声が響きはじめる。

「らっしぇえ、らっしぇえ! 朝吉さん、今日もいいのが入ってるよ!」

「おお、そいつぁ助かるねぇ!」

新鮮なさんま、ピカピカのかつお。

箱いっぱいにつめてもらうたびに、朝吉の胸はほくほくとあたたかくなる。

(今日はきっと、お客さんが喜んでくれるぞ)


「またたび鮨」の朝は魚屋さん


仕入れを終えて戻ってきたのは朝の7時すぎ。

「またたび鮨」の前に猫輪車をとめると、朝吉は店先に魚箱を並べはじめた。

氷をしいて、その上に、つやつや光る魚たちを丁寧に並べていく。

朝の空気はまだひんやりしているけれど、

朝吉の動きは活きのいい魚のように軽快だった。

「さてと……暖簾を“魚屋”にして、と」

実は「またたび鮨」は

午前9時から11時までは魚屋として店先で魚を売る

ちょっと珍しい店なのだ。

通りを歩く猫たちが、魚のいい匂いにふらふらと近づいてくる。

「朝吉さーん! 今日はどんなのがあるの?」

「おはようさん! なんだか、今日のさんま、いつもより光ってない?」

朝吉は鉢巻きを指で押し上げ、胸を張って大きな声をあげる。

「らっしゃい、らっしゃい! 今日は河岸で特上もんを手に入れてきたよ!

刺身も焼きも、どれをとってもまちがいなしだ!」

「まちがいなし!」と子猫たちが真似をしてはしゃぐ。

朝吉は笑いながら、魚の選び方を教えてやる。

「ほら、さんまはな、目がきれいで、体がまっすぐなやつがいい。

 魚も猫といっしょで、しゃんとしてるのが一番さ」

魚屋の時間は、商店街でいちばん活気がある。

近所の猫たちは、朝吉の声に誘われて、次々と魚を買っていく。

(やっぱり、この時間が好きだなぁ)

朝吉はふと、そう思う。

みんなの笑顔を見ると、冷たい朝の空気もどこかやわらかくなる。

魚屋の時間が終わるころには、魚箱はほとんど空っぽになっていた。

「よし……次は鮨屋の準備だ!」

暖簾をかけ替え、「鮨屋」の顔に戻る朝吉。

小さな店に、また違った活気が流れはじめる。


朝吉の家族


朝吉には、あたたかい家族がいる。

妻のヒデ、そして双子の子ども、ユカとカイ。

二匹は元気いっぱいで、「大きくなったらパパの仕事を継ぐ!」と胸を張る。

朝吉は照れながらも、嬉しそうに目を細める。

そして、おばあさんのマサ。

縁側で日向ぼっこをしながら、孫たちに昔話を聞かせている。

なかでも、朝吉の子どもの頃の“はずかしい失敗談”は、マサの十八番だ。

「おっかさん、その話は……やめてくださいよ」

そう言っては、朝吉は耳まで赤くする。


創業70年「またたび鮨」


朝吉の店「またたび鮨」は、戦前にひい爺さんが始めた店だ。

ひい爺さんは富山から出てきて、もともと銭湯をやっていたが、

戦後、焼け落ちてしまい、趣味だった鮨を握るようになったという。

「この場所で続けられてるのは、ご先祖のおかげだな」

朝吉はときどき、店の壁にかかったひい爺さんの写真を見上げてつぶやく。

ランチは11時から14時。

握りや鉄火丼を、ほぼ原価で出している。

「お客さんに喜んでもらうのが、一番だよな」

夜の部は17時から21時まで。

店を閉めればすぐ仮眠して、また夜明け前の仕入れへ走る。


年末の事件


そんなある年末の夜。

「またたび鮨」の近くにある駄菓子屋、猫林さんの家に泥棒が入った。

「ひでえ話だねぇ……売上金、全部取られちまったんだとさ」

商店街がざわついた。

最近、同じような泥棒が立て続けに出没していたのだ。

そして……ついに「またたび鮨」にも、その魔の手がのびた。


マサおばあさんの秘技、猫気道!


その日の午後2時。

店が休憩に入り、朝吉は裏で少し横になっていた。

店番をしていたのは、縁側でうとうとしていたおばあさんのマサ。

しかし、ただの居眠りと思ったら大間違い。

マサの眠りは浅く、耳もひげも、うっすらとまわりの気配を探っている。

「……む?」

マサの鼻がすん、と動いた。

(今のは……魚の匂いじゃないね)

マサが薄目を開けると、店の奥でこそこそと動く二匹の猫。

見知らぬ若いどろぼうだ。

「こらっ、何してるんだい!」

どろぼうは慌てて逃げようとしたが……。

次の瞬間。

マサはまるで若返ったような素早い動きで、一匹をひょいっと投げ飛ばした。

「てやっ!」

畳の上でゴロゴロ転がるどろぼう。

もう一匹も逃げようとするが、

「まだまだ!」

マサは華麗に飛びかかり、見事に押さえ込んだ。

その技は、若いころ習得した“猫気道”そのものだった。


商店街を救ったおばあさん


「おっかさん、大丈夫かい!?」

駆けつけた朝吉は、床に倒れたどろぼうを見て呆然とした。

「このくらい、朝飯前さね」

マサは涼しい顔で毛づくろいしていた。

この事件で、商店街の泥棒被害はぴたりと止まり、

マサはおまわりさんから表彰もされた。

ユカとカイは誇らしげに言う。

「うちのおばあちゃん、すっげーんだぞ!」

「猫気道の達人なんだから!」

マサはしっぽをふりふり照れながら、こっそりウインクをしてみせる。


今日も「またたび商店街」はあったかい


そして今朝も、朝吉は店先に立つ。

「らっしゃい、らっしゃい! 今日も活きのいいのが揃ってるよ!」

朝の陽ざしがやさしく差し込み、

商店街には今日ものんびりした空気が流れていく。

ユカとカイが魚箱を運び、

ヒデが暖簾を整え、

マサが縁側で日向ぼっこしながら見守っている。

昔ながらの下町の情緒と、あたたかな猫たちの暮らし——

「またたび商店街」の一日は、今日ものほほんと続いていくのであった。




読んでくれたあなたの心が少しでも温まれば幸いです。

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