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革命軍捕虜と尋問官

作者: たな

捕らえられた革命軍の捕虜と、なぜだか尋問しに来た研究員のやり取りです。

 どれだけ尋問されても口を割らない俺に業を煮やしたのか分からないが、王国はとうとう胡散臭い研究員まで尋問官として駆り出したみたいだ。


 薄緑の液体が入った試験管の様な容器を揺らしながら、白衣を着た男が問いかけて来る。


「最近隣国で行われた、ラットを用いた中毒実験についてご存じですか?」


 研究員が試験管を持った手をこちらに近づけてきたが、拘束された状態では抵抗のしようがない。

 流石に拷問はされないと踏んでいたが、薬物の投与は拷問の範疇には入らないと王国は判断したらしい。


「……何の話だか分からないが、お前の尋問に付き合うつもりはない」


 口では強がってみたものの、訪れるであろう死を受け入れるため心の準備を始める。


「存じ上げないんですか! 凄く面白い実験でして――」


 研究員の男が俺の顔に触れる寸前だった試験管を自分の口に運び、あろうことか一気に中身を飲み干した。


「――今お見せした麻薬を混ぜた水と、普通の水が置かれた檻に、ラットを一匹だけ入れてどちらの水を好んで飲むのか観察したんです」


 頭がおかしいのか? もし研究員が見せて来た薬物が俺の思っている物なら、液体状のアレを一気飲みするのは自殺行為だ。


「実験の結果、どうなったと思います?」

「……麻薬の入った水を飲んで死んだんじゃ―― ちっ……!」


 研究員が麻薬の原液のような物を飲んだことに動揺して、思わず問いに答えてしまった事に気付き焦りが走る。


「その通りです! 何十回、何百回と実験を繰り返し、必ずラットは麻薬入りの水ばかりを飲むようになって死にました」


 馬鹿げてる。結果が分かりきったことを何百回も繰り返すなんて実験なんかじゃない、頭がおかしいだけだ。


「……尋問する気が無いのなら帰ってくれ」

「面白いと思いませんか? だって、生物は本能的に生存と種の繁栄を優先するはずです。快楽を選んで死ぬなんておかしいじゃないですか? もちろん、水以外に毎日ちゃんとした食事も与えていたのにもかかわらずですよ?」


 何を言ってるんだ、こいつは?


「麻薬中毒ってのはそういうもんだろ」


 あまりにも馬鹿げた発言にまた反射的に答えてしまった後、研究員の顔が作り物のような笑顔に歪んだ。


「それが、そうでもないんですよ!」


 大袈裟に手を広げながらそう叫んだ研究員が、くすくすと笑い出した。


「……研究者ってのは頭のいい馬鹿しかいないんだな。狂ってるよ、あんた」

「視野が狭いですね。本当にラットが死んだ理由が、麻薬と麻薬中毒のせいだったと言い切れますか?」

「何を言ってるんだ? 中毒死したんだから麻薬のせいだろ」


 こいつの言っている事の意味が分からない。


「実は実験には続きがあるんです。条件を少しだけ変えて、食事の時間以外は檻から出して他のラットと共に過ごした実験体は、麻薬入りの水を飲まなかったんです」

「……はぁ? どういうことだ?」

「面白いですよね! ラットの死因は『麻薬入りの水』ではなく『孤独と絶望を感じさせる檻』だったんです。食事の時間以外は仲間と共に健やかに過ごせたラット達は、自殺行為である麻薬入りの水を飲むことを選ばなかった」

「……だからどうしたって言うんだ! 尋問する気がないならさっさと出てってくれ!!」


 叫びながら不気味な笑顔を絶やさない研究員から目を逸らし、言い知れぬ不安に襲われ逸る鼓動を落ち着かせるように、目を閉じて浅い呼吸を繰り返す。


「これから捕まってしまう仲間の『檻』を、『孤独と絶望を感じさせる檻』にしたくはないとは思いませんか?」

「何を言って……」


 研究員が懐から一枚の紙を取り出し、こちらに見えるように机の上に差し出して来た。


 革命軍収容施設の設計図……!? 収容室は独房のみ……全ての独房に水と麻薬入りの水を配備だと!?


「ふざけるな!! 俺達はラットなんかじゃない!!」

「もちろんそんな事は思ってませんよ! でも、研究用のラットではなく人がどんな選択をするのか正直気になりますね」

「拷問は国際条約で――」

「禁止されてるかもしれませんが、無理やり飲ませるわけじゃないので問題ありませんよ! あくまで麻薬入りの水を飲むのか飲まないのか、選択するのは革命の火を灯す()()()さん達です」


 淡々とそう告げる研究員の黒い瞳を見つめていると、まるで深淵に引きずり込まれそうな恐怖に心が支配されていく。


「私達が求めてる情報を話してくれたら、檻の設計を変えると約束します! 独房じゃなくて、他のねずみさん達と話せる共同室です! もちろん、麻薬入りの水も配備しませんよ?」

「お、俺は……」

「それとも、沈黙を貫いてあなたの仲間がどんな選択をするのか……実験してみますか?」


――――――――


「なぁ。捕えてた捕虜が情報をゲロったらしいが、尋問を担当したのが研究機関の人間だったってのは本当か?」

「らしいぞ。手練れの尋問官が何人も失敗したのに……一体どんな手口を使ったんだろうな」

「分かんねぇな……怪しい薬でも飲ませたんじゃないか?」

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― 新着の感想 ―
じわじわと外堀から埋めていくような尋問でした。 鞭で叩いたり怒鳴りつけたりするより、よほど恐ろしいですね。
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