第三章 師匠が入浴中だと!?
「こほん……師匠、深く考えないでください。ただ、ちょっと気になっただけです!」
星は口では真面目そうに言いながらも、心の中ではすでに小躍りしていた。
脳裏には、「星明かりの下、温泉に浸かりながら人生を語り合い、そして……同じ部屋で枕を並べて眠る」――そんなファンタジーな光景が浮かぶ。
……まさに小説の中の仙人ライフじゃないか!?癒やされる~!!
口では「純粋に気になっただけ」と言いつつ、内心ではニヤニヤが止まらない。
――前世じゃ、こんな待遇は一度もなかった!
師匠はいつもクールで、抱きしめるどころか、たまにビンタが飛んでくる始末。あの親友が優しいお姉さんタイプであることを祈るばかりだ……。
瓊華仙は星の腹黒そうな顔をちらりと見て、怒りがこみ上げてきた。
「この反逆弟子め!てっきり本気で心配してるのかと思えば、私の妹弟子に下心があったとはな!」
星は青ざめて、慌てて手を振った。
「ち、ちがいます!そんなこと、僕がするはずが……!」
瓊華仙は鼻で笑い、胸元の銀白の鶴の刺繍が怒りに反応してふわりと羽ばたく。端然と座るその姿は絶世の美しさなのに、今は怒りで奥歯を噛みしめ、美しい瞳に炎が宿る。
まるで雪原で酒壺をひっくり返された仙鶴のようだ。
「師匠!?でも、師匠は“俗世の情など断ち切った”って言ってたじゃないですか!?」
「ふん、私がそんなこと言った覚えはないが?」
瓊華仙は冷たく星を一瞥し、見下すように言い放つ。
二人が仙舟の上で口論を繰り広げる間に、周囲の街もにわかに賑わい始めた。
仙舟はゆっくりと聖地の中心に着地する。
彼らが舟を降り、たどり着いたのは――
「星辰客棧」
ここは「黄之浄土・星辰商会」の直営する施設で、外観は鏡面のような水晶でできており、空と雲を映し出している。楼閣はまるで夢の中のように繊細で美しい。
客棧に入ると、大広間の床は白玉のタイルが敷かれ、青みがかった光を反射している。壁には「記憶の書」がずらりと展示され、書巻は氷晶のような輝きを放ち、ページをめくるたびに幻のような光が揺れる。
カウンター前には青衣の女将がすでに待っており、柔らかな口調で言う。
「瓊華仙子様、ようこそお越しくださいました。こちらがご予約の部屋の令牌です」
瓊華仙はそれを受け取り、星へ振り向く。
「ここには『記憶の書』以外にも、法術や武器が多数ある。好きなだけ選んでよいぞ。弟子を粗末にはしない」
星は遠慮がちに指摘する。
「でも師匠……僕たち、そんなにお金なかったような……?」
瓊華仙は自信満々に胸を張る。
「安心しろ、これは私の親友が予約してくれたものだ。支払いはすでに済んでいる。あの子は口うるさい性格じゃないし、遠慮なく使えばよい」
星は俯いて、令牌に彫られた「琴蘭」の文字と、ぎっしりと刻まれた金額を見て――
口元がぴくりと引きつる。
――いい師匠だな。親友の財布で堂々とタダ乗りとは……。
その後、二人は別行動を取り、思い思いに館内を探索し始める。
……
一方その頃――
琉璃の屋根、白玉の柱で構成された薬亭が、淡い霧に包まれながら空中に静かに浮かんでいた。
外には百花が咲き誇り、幽かな香りが漂い、花びらが風に舞う中、まるで見えない仙女が花の上を歩いてくるかのよう。
亭の中では、紫衣の女性が琴の前に静かに座っていた。まるで月下の精霊のように、霧や香りと一体になっている。
滝のような茶髪を垂らし、眉目は柔らかく、肌は雪のように滑らか。紫紗の刺繍衣がわずかに開き、そこから薬草のかすかな香りが漂っている。
細い指が琴弦を撫で、人差し指が琴身を軽く叩く。それはまるで周囲の霊草を呼び覚ますかのよう。水気が立ち昇るなか、琴音は朝露のように清らかに響く。
この女性こそ――
「琴蘭お嬢様」
見た目は二十五歳ほど、穏やかで品のある雰囲気。まるで薬谷から現れた仙医のよう。
その琴音は万病を癒し、医術も神技のごとく、振る舞いは端正そのもので、「医仙」として九州中に名を轟かせている。
だが――
その仙楽のような空間は、一発の轟音によって引き裂かれる。
「――ドン!!」
琉璃の壁が粉々に砕け、光の破片が四散し、花びらが宙を舞った。
空から、水色の剣光が雲を裂いて突っ込んでくる!
「おばさーん!見て見て!新しい発明できたよ~!超強力な“水爆弾”!!」
やって来たのは、軽装に身を包んだ17歳くらいの少女。
素足で剣に乗り、青い長い三つ編みが風に舞い、銀白のマントがはためく。衣の裾には波模様の龍が刺繍されている。
この少女こそ――
「水靈兒」
――瓊華仙の第七弟子。
湖のように澄んだ瞳を持ち、無邪気で自由奔放。今は手に電光を放つ水色の珠を握り、嬉しそうに笑っている。
――爆発すれば、百メートル四方が廃墟と化すほどの威力。
「これはね、昨日おばさんからもらった“薬草”で作ったんだ!見て、この爆発力、すっごいでしょ~!」
その口調は早口で、語尾には得意げな響きが隠しきれない。
……
琴蘭は、散らばった花と砕けた琉璃、そしていまだに煙を上げる薬亭の床を、黙って見つめる。目元がかすかに引きつる。
彼女は最後の琴音を弾き終え、静かに琴を仕舞い、優しくも困ったような口調で言った。
「靈兒、その薬草はね、病を治すためのものだったの」
爆弾なんて……
……
一拍置いて、疲れたような目でその水爆弾を見つめる。
「……作るためのものじゃないのよ」
……
水靈兒はきょとんとした顔で瞬きし、無邪気に答える。
「でも……水属性の薬草と雷属性の薬草って、融合したらどうなるか気になっちゃって……」
「まさか、こんなに威力あるなんて……」
琴蘭は軽く額に手を当てた。白玉の房飾りが袖口で揺れ、まるで不意に訪れた頭痛を払うかのよう。
長くため息をつき、風に揺れる葉のような柔らかな声でつぶやいた。
「……まあいいわ。薬草も吹き飛ばされたし、この薬亭も――」
「うん」
「……仕方ないわね」
彼女は優しく言った。
「ずっと“外に出たい”って言ってたでしょ?この機会に、少し気晴らししてらっしゃい」
水靈兒の目が一瞬で輝き、剣の上で飛び跳ねそうになる。
「ほんとに!?遊びに行っていいの!?」
「ええ」
琴蘭は穏やかに頷き、静かに語りかける。
「師匠に会いに行ってきなさい。……もう、しばらく顔を出してないでしょう?」
「やったー!!」
水靈兒は歓声を上げ、足先で剣を蹴り、銀の鱗のように空を舞って、瞬く間に姿を消した。
琴蘭は彼女の姿を見送り、口元に微笑を浮かべて首を振る。
「……よその家の屋根まで壊さないでくれればいいけどね」
再び琴弦に指を添え、音を紡ぐ。清らかで優雅な旋律が空間を満たす。
ただ今回は、その音色に――
抑えきれない愛しさと、
そしてこれから直面するであろう――
修繕費への不安が、ほんのりと混じっていた。
……
【星辰客棧内】
星は「記憶の楼閣」と呼ばれる場所に足を踏み入れた。そこは他人の記憶を封じた書が所蔵された空間だ。
棚のあちこちに、水の波紋のような光が揺れ、透明な氷晶のような本が並んでいる。
星は何気なく一冊を手に取った。表紙は氷晶でできており、開いてみると中には文字ではなく――
写真が並んでいた。
次の瞬間、彼の意識が書の中に引き込まれ、映像が脳内に浮かぶ。
まるで実体験のように、記憶の奔流が彼の中へ押し寄せ、ある懐かしくも見覚えのない名前が浮かんだ。
「……手抽筋先生?」
星は呆然としばらく立ち尽くし、その後、驚嘆して呟く。
「この“記憶の書”……本当に不思議だな」
彼はさらに進み、恋愛、錬丹、剣修、ロリコン育成マニュアル――
ありとあらゆる記憶の物語が、ここに並んでいた。
ふと、床に無造作に散らばった本の山に目を留める。
「なんだこれ……?こんなに散らかして……あれ?」
彼の手が、何かふわふわしたものに触れた。
不思議に思って本を掻き分けると、そこには――
眠っている小さなウサギ。
耳先は桃の花のように赤く、毛並みは光を帯び、まるで月の光を纏ったように輝いている。思わず手に取りたくなる可愛さだ。
「癒やされる……」
星はモフモフに弱く、好奇心が抑えきれずに撫でたり擦ったり、ついにはその額にキスまでしてしまう。
すると――
ウサギが目を見開き、彼と視線を交わす。
星は目を輝かせる。
「かわいい!君、野良ウサギでしょ!」
真剣な顔で抱き上げ、堂々と宣言した。
「ふう……僕、優しいから。君をペットとして飼ってあげるよ」
ウサギの頬がぴくりと動き、その瞳に浮かんだのは――
【ケンカ売ってるの?0.0凸】
必死に逃れようとするも、力が足りず、好き放題に弄ばれる。
星はウサギを抱えながら歩き、モフモフし続け、その心はすでに天にも昇る気分。
「この手触り!?スーッ……身体、プリンでできてるの?食べたらプルプルしてそう!」
彼は気楽に館内をぶらぶらと歩き回るが――
その胸元のウサギの、羞恥と殺意に満ちた目には、まったく気づいていなかった。
夜が更けた。
彼の手には収納用の指輪、そして山のような護身用の法具と符籙。
ただ――
あのウサギの姿は、どこにもなかった。
「ふう……残念だな」
星が部屋の扉を開くと、甘ったるい桃の香りが一気に広がり、湯気がもくもくと立ち昇る――
「……ん?」
星が呆然と立ち尽くす。そして次の瞬間、脳裏に雷が走る。
――まさか……
――師匠が入浴中なんじゃ……!!?
みんなが応援してくれるなら、それだけで嬉しいよ。
日本語から翻訳するのは初めてなので、誤訳があったらご容赦ください。本文は下記URLにあります。
p-https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=24666038