第28章 氷雪の聖女・狐仙雅⁉
「カーロ・アイヴィ、再びの絶叫──!」
「波Cが依然トップを独走!だが、副隊長シャオ・フォンが驚異的なスピードで迫っている!」
「まもなく両者が第一関門に到達──果たして……最初に突破するのは誰だ!?」
波Cが振り返り、白い歯をギラリと見せて挑発するように叫んだ。
「よう~白髪ボウズ、まだ波兄のスピードについて来られるか?」
シャオ・フォンは無言。だが刀の柄に手を添え、空気が静かに緊張し始める。
前方に泡の群れが現れ、万華鏡のように煌めいた。
──その瞬間!
「ドォォン——!」
泡が炸裂し、一人の選手が紙くずのように吹き飛ばされる──!
「うわああっ!? まだ序盤だってのに、もう一人脱落ーー!!」
カーロ・アイヴィの声が次第に高まっていく。
彼女は思わず立ち上がり、マイクを握りしめ、驚愕と興奮が混ざった顔で叫んだ。
「第一関門、それがこの恐ろしいバブルストームよ!」
「この泡、触れただけで爆発する上に、互いにぶつかって軌道が乱れる!通過には動体視力だけじゃダメ、心臓の強さも試されるのよ!!」
波Cが鼻で笑い、まるで潮の歌を舞うように泡の間をすり抜けていく。まるで影すら触れさせない。
シャオ・フォンもすぐ後を追う。風の道韻がかすかに流れ、存在そのものが風のようだ。
手に現れたのは細長い風刃。風鳴りが低く響き、紅葉の幻がひらりと舞う。
──スッ!
刀気が一閃、泡は雨のように爆ぜ、風が波を巻き上げ、圧倒的な威圧感が場を包む。
他の選手たちも続々と技を放ち、炎・雷・氷・風が交錯。会場はまるで沸騰する大鍋のごとく、熱気に包まれた。
「ハハハハハーー!これでこそだろうがーー!!」
波Cが水面を踏み、波が跳ねた。
──巨大な牙を持つ水鮫が海面から飛び出し、怒涛の勢いでシャオ・フォンに襲いかかる!
シャオ・フォンは目を細め、両手で刀を握り、横一閃──海を裂くような烈風の斬撃!
「──ギィィン!!」
圧倒的な衝撃で彼の身体は数メートル吹き飛び、刀身は鮫の牙に喰い込んで火花を散らす。だが──斬れない!
「……これは──岩の道韻だと!?」
鮫の身体に黄金の紋様が浮かび上がり、まるで金の鎧のように硬い。
カーロ・アイヴィが興奮の声を張り上げた。
「皆さん!ま、まちがいない!波C選手はなんと、水と岩、二つの属性の道韻を持っているのです!!」
「──まさに、千年に一度の天賦の才!!」
彼は天を仰ぎ、大声で笑いながら両手を掲げる。水と岩の力が龍蛇のように彼の周りを渦巻いた。
「ハハハ~見たか!? これが完璧なる力だ!!水神様のおかげで、すべてを超えるパワーを手に入れたんだ!」
「この力があれば──俺は頂点に立てる!!」
「いや、それだけじゃない!!」
「神になることすら──夢じゃねええええええ!!!!」
「おまえらなんざ、一撃すら耐えられねえくせに、優勝を狙うだと?」
彼は高みから蟻を見るような目で見下ろし、狂気を含んだ笑みを浮かべる。
「弱者どもが……この俺と同じ舞台に立とうなんざ、おこがましいにもほどがあるッ!!」
──掌を返すと同時に、数頭の巨大な牙を持つ水鮫が咆哮を上げ、ハウンドの如くシャオ・フォンに襲いかかる!
彼が刀を振り上げようとした瞬間、足元の波がバランスを崩させ、踏ん張れずに吹き飛ばされる!
「シャオ・フォン選手が吹き飛ばされた!?やはり水上戦では実力を発揮しきれないのか!?波C選手に勝てるのか──!!?」
海に落ちかけたその瞬間、彼の腰にある紅玉がかすかに光り、微弱な風の力が彼の身体を持ち上げた。
「──まだ、終わってない……!」
彼が怒鳴る。瞳は鋭く、業火のような執念が燃え上がる。
風刃が万葉を巻き込み、横一文字に──!
波Cの目が見開かれる。「おぉ……?」
鮫の防壁が一瞬で裂け、刀気は彼の目の前三寸で止まり、涼風が顔を撫でた。
「ハハハハハ……その一撃、面白ェじゃねぇか!」
「だが──そんなもんじゃ、俺は倒せねぇよッ!!」
彼の目に殺気が宿り、二本の指で印を結ぶ。
「──海底に沈め、虫ケラが!!」
《鮫・滅・陣!!》
ドオォォォン!!
海面が爆ぜ、数十頭の巨大鮫が四方八方から一斉に飛び出す!
「……クッ!」
シャオ・フォンは必死に刀を振るが、水上戦では三割の力も出せない。
轟音。水柱。霧。
一瞬で場が静まり返った。
残されたのは、砕けた波板だけだった。
カーロ・アイヴィが声を震わせる。「シャオ・フォン選手が……落とされた!?そ、そんな……ありえない……!」
彼女の声が詰まり、喉に何かが引っかかったようだった。
彼女は選手ではない。だが今、まるで自分が深淵に突き落とされたような錯覚を覚えた。
波Cが目を細めた──
そのとき、観客席に悲鳴が起きた!
「見て……上だ!!」
空の高み──シャオ・フォンが風の葉に立ち、雷光のような眼差しで宙を見据えていた。
高く掲げられた刀に力が集まる──
「風の剣舞──第一式、《千風遼乱》!!」
無数の剣が鳴り、彼の髪が舞い、風の葉が踊る。風刃は雨のように降り注ぎ、嵐のごとく波Cを襲う!
波Cの瞳孔が収縮した。この一撃の圧に、彼はとっさに鮫の防壁を展開する!
轟音──!
両者の力がぶつかり合い、爆風が拡がる。波Cは風の刃で負傷し、よろめいて後退する。
シャオ・フォンも反動で弾かれ、顔色は蒼白。だが、その眼差しは──揺るがなかった。
波Cが再び浮板に立ち、首を鳴らす。「ハハハ……てめぇ、少しは俺の相手になりそうだ。」
シャオ・フォンが風を踏みしめ、降り立つ。
「前座は終わりだ──ここからが本番。」
彼が刀を構えた瞬間、気配が変わる。
──水上は不利、だが空こそ、我が主戦場。
波Cが濡れた髪をかき上げ、ニヤリと笑う。
「本当はもっと遊びたかったんだけどな──残念、ここまでだ。」
そう言うと、彼は狡猾な笑みを浮かべ、波を踏んで去っていく。
シャオ・フォンが眉をひそめた。
カーロ・アイヴィが困惑した声を漏らす。
「え……?波C選手が突然、戦闘から離脱!?一体何が──」
その言葉が終わらぬうちに、空が暗くなった。
観客席が一斉にざわつく。
空を覆うように、無数の泡が集まり、巨大な漩渦泡球となって天から迫り来る──
まるで終末の訪れのような威圧感!
「な、なにアレ……!?」カーロの瞳が見開かれ、声が跳ね上がる。
「うそ……その大きさ……いや、それがここで爆発したら──!!」
彼女の指が震え、マイクを持つ手も安定せず、心臓の鼓動が頭を打つ。
「この会場ごと……吹き飛ぶッ!!」
場が静まり返る。
ただ波が板を叩く音だけが残った。
カーロすら息を呑み、声を飲み込んだ。
誰もが、ただ待っていた──
落ちてくる雷鳴の、その瞬間を。
シャオ・フォンは全身に冷や汗を流し、心臓がきしむのを感じた。
腰の紅玉を見る。そして神座の水神・璃瀅を見る。
彼の脳裏に、あの優しき面影が浮かんだ。
──今回は……絶対に、手放さない。
深く息を吸い、目を見開く。
愛が、死の恐怖を超えさせた。
彼は、まるで戦神のように、足を踏み出す──
ドォォォォォォン!!!!!
巨大な泡が炸裂し、星をも滅ぼすような暴風が襲い来る!
シャオ・フォンは、それに抗うように突っ込んでいく──命を賭して!
その瞬間。
「──頭を下げろ!!」
背後から、鋭く冷たい声が響いた──
蕭楓は言葉を失った。
白い衣をまとった人影が、波を割って現れる。
揺れる狐の尾、ひらひらと舞う衣、波の上を静かに歩むその姿は、まるで幻想だった。
「氷の剣舞──第一式、《吹雪一閃》。」
刃が鞘から抜かれると同時に、世界の時が止まったかのようだった。
雪のように白い刀光が天を貫き、まるで無音の雪がすべての狂嵐を穏やかに鎮めるかのように──
終末のハリケーンは一瞬にして消散。
その一閃は、天を裂き、星々の輝きさえ覗かせた。
観客席は一瞬の沈黙に包まれ、
──次の瞬間、
雷鳴のような歓声が一斉に爆発した。
「一撃だけで……っ!?」
実況席のカロ・エイヴィは言葉を詰まらせたかと思えば、跳ねるように立ち上がり、手にしたマイクが飛びそうになる。
「たった一撃で!あの嵐を──切り裂いたぁぁっ!!」
「なんという力……っ!! さすがは『夢蝶美人録』の有力候補のひとり!!」
そう叫びながら、彼女は腕を高く掲げた。
「──氷雪の聖女・狐仙雅!!!」
観客席が津波のような熱気で揺れ動く。
「狐仙雅!!狐仙雅!!」
「うわああああっ!さっきの登場……カッコよすぎだろぉぉ!!惚れた!!」
「天から落ちて、俺の心に突き刺さったあああ!! 嫁にするしかないだろ!!」
「今すぐ……今すぐ自殺して、彼女の足元の泥になりたい!!」
観客のテンションは天井を突き抜け、会場全体が一体となって沸き立っていた。
──その中、
白い霧がゆっくりと晴れていき、ひとつの人影が静かに浮かび上がる。
銀の髪は雪のように白く、氷の瞳は鋭く冷たい。
まっすぐに水面に立つその姿──
今、嵐を断ったあの長刀を静かに鞘へと戻しているところだった。
そのすぐ傍らには、
彼女に救われた蕭楓が、いまだ石化したように立ち尽くしていた。
口を開け、呆然としたまま。
頭の中をよぎるのは、たったひとつの思い──
(こ、これが……絶頂との、差……っ!?)
目の光は消え、呼吸すら一瞬止まった。
「──まだ生きてる?」
凛とした声が、その沈黙を断ち切った。
初雪のように静かでありながら、心に鋭く響く声だった。
「あっ、ああ……大丈夫です……。隊長のおかげで……」
「もし出遅れていたら、きっと俺は──」
我に返った蕭楓は、恥ずかしさと敬意の入り混じった声で言った。
「剣の意志が浮つけば、刃は乱れる。」
「心を静めよ、剣は風となる。」
狐仙雅は淡々と告げる。
「……はい。」
彼女の言葉は、彼の心の乱れを見抜いた忠告だった。
それ以上、彼女は何も言わず、ひと跳ねして海豚の背へと軽やかに戻る。
そして、ふと振り返り、視線だけを向けた。
「試合はまだ終わってない。乗って。」
「は、はいっ!!」
蕭楓は力強く頷き、跳び乗る。
「キュイーーーンッ!!」
海豚が鳴き声を上げて、前へと加速していく──
【実況席・サイドライン】
「わあ……やっぱり……すっごく強い……!」
蜜瀅児は机にぐでーんと突っ伏し、口には飴をくわえたまま、星のようにきらきらした目で画面を見つめる。
「うん、確かに強い。もし双子の姉妹に、あと千年の成長が許されれば……この世界に敵などいなくなるかもしれないね。」
カロが静かに頷く。
「うんうん~」
蜜瀅児は再び画面を見て、そこに写る雪菲雅の姿を追いながら、ふと辺りを見回した。
「……あれ?星は?どこ行ったの?」