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第25章 狐仙双姫⁈

水の浄土全体が、まるでシュガーミストとバブルガムが織り成すおとぎ話の夢に浸かっているようだった。


空には銀の龍のように蛇行する水路が高く舞い、水晶の橋を縫うように空を駆け、時にはきらめく滑り台となって青い楼閣へと直通し、またある時は滝のように空から降り注ぎ、光のカーテンを紡いでいた。水晶の光が交錯し、空には泡が舞い、まるで夢のような色彩が反射している。


今日は——百年に一度の《サーフィン大会》の開幕日だ。


通りは透き通る水晶で敷き詰められ、少女たちは裸足で歩き、スカートの裾は水面のようにゆらゆらと揺れていた。笑い声と水を滑る音が、波のように交互に響く。


「ん~美味しい♪」


雪フィアが青く光るかき氷をひとくち食べ、まるで星の欠片をキャッチした少女のように微笑んだ。その幸せそうな様子に、空中の泡さえも引き寄せられたかのようにふわふわと舞い寄り、まるで彼女を拝んでいるかのようだった。


その後ろで——


「……あっつい……」


巨大なサーフボードを背負った一人の少年が、ふらふらと歩いてくる。まるで干物のように干からびて、今にも倒れそうだ。


「星、お疲れさま。」


カロ・エイヴィがゆっくりと近づき、手にはもう一つのかき氷。


「そのボード、結構重そうね。持ってあげるよ。かき氷はご褒美——命の回復アイテムとして。」


星の目が一瞬で輝く。


「えっ……ほんとに……?」感動で今にも泣きそうだ。「ありがた……でも今、手が……」


言い終わる前に、そのスプーンは彼の口元に差し出されていた。


カロはふっと微笑み、唇の端が優しく上がり、耳元でそっとささやくように——


「はい、あ~ん?」


「えええっ⁄(⁄⁄•⁄ω⁄•⁄⁄)⁄!?」


星の耳は真っ赤に染まり、まるで一時停止したかのように固まり、思考がフリーズしつつも、身体は正直に口を開けてその一口を受け取った。


冷たく甘い氷の味が、唇から心臓にまで染み渡る。カロの口元を視線の端で捉えた瞬間、それがただのかき氷ではなく、ノンケ男子への究極の挑発に思えてきた。


「美味しい?」


「う、うん……美味しい。」


思わず答えたその直後、星の動きが止まる。


カロ・エイヴィは同じスプーンで新たにひとすくいし、今度は自分の口に運んだ。


(こ、これは……間接キス!?)


心の中で爆風が巻き起こるが、表面上は「余裕のある男」みたいな顔で耐え続ける。


「さあ、そろそろ大会が始まるわよ?」


カロは片手でサーフボードを軽々と持ち上げ、もう片手で星の腕を優しく取り、横からにっこりと笑いかけた。その瞳は夜空の星のようにきらきらと輝いていた。


「君も大会に出るの?」星が驚く。


「私?ふふ~」


彼女は自信満々に胸を張り、神々しいほどの笑顔を浮かべる。


「私は司会者よ。この百年に一度の大会に、私がいないなんて考えられる?」


星はこっそりと頷いた。


(だって彼女の財力なら、この都市全体を金色の海に変えることだってできそうだし……)


「ルールはもう聞いた?」


「全然。」


「簡単に言えば、チーム制で島を一周するサーフィンレースよ。途中にはトラップや障害があって、優勝チームは——水神様に願いをひとつ叶えてもらえるの。」


彼女は空を見上げた。


雲の奥に、金色に輝く浮島が静かに浮かび、まるで天上の神の玉座のように、人々の祈りを受け止めている。


「この大会の本当の意味は、単なる競争じゃない。人々の心を一つにする儀式なの。皆の願いを通じて、来年の災いを祓い、祝福をもたらすのよ。」


「なるほど……」星がうなずいたそのとき、鋭い悲鳴が空気を裂いた。


「星——!!」


遠くから雪フィアが跳ねるように飛びかかってくる。


「さっきお茶屋で、あんたの知ってる人見たよ——!」


「なっ!?誰?!」星は思わずかき氷を吹き出し、彼女の肩をがしっと掴む。


「水リンア!?どこ!?早く案内して!」


「ちょ、ちょっと待って!違うってば!」雪フィアは慌てて手を振る。「あの赤い服の青年よ——」


「赤い服の青年?!」


───


二階の茶屋では、風鈴がやさしく鳴っていた。


扉を開けると、涼風が暖簾を揺らす。


窓辺に、一人の少年が水着の上から緋色の羽織をまとい、静かに座っていた。腰には刀を下げ、その雰囲気は水のように穏やかだが、どこか侠気を漂わせていた。


「……ショウフウ?!」


彼は声の主に気づき、少し驚いたように目を見開いたが、すぐに微笑む。


「おや、これは奇遇だね。まさかここで会えるとは。」


「久しぶり、元気だった?」星が親しげに近づく。


二人はかつて《忘憂の海》で出会ったことがある——


……深淵へ一緒に落ちた、いわば戦友のような関係だ。


「もしかして、君も大会に?」


ショウフウは視線を壁際のサーフボードにやり、うなずいて笑った。


「ちょっと興味があってね、つい申し込んじゃった。」


(水着まで着替えておいて、「ちょっと興味」って!?)


五人で円卓を囲み、近況を語り合う。


どうやらショウフウは深淵の後、水の浄土を巡って旅し、その実力と義侠心が評価され、守衛隊長の推薦で副隊長になったらしい。


「わぁ〜副隊長ってすごい!」ミインルの目が輝く。まるで三段重ねのプリンを見たときのようだ。


「はは、ただの運だよ。」


彼の胸に輝く「調律者の徽章」は、誇りと責任の象徴だ。


「守衛隊は六つの班に分かれていて、水神様直属のメイド長が全体を統括してるんだ。普段はコミュニティの治安維持が主で、邪なるものと遭遇することは少ないね。」


「水神様って、本当に素晴らしい方なのね。こんなに穏やかで、皆が笑顔でいられるなんて。」


その言葉を聞きながら、現実世界の荒んだ空気と比べて、思わずため息がこぼれた。


「でも……水神様には会ったことあるの?」雪フィアが尋ねる。


「……ないよ。彼女の居場所を知ってるのは、メイド長だけさ。」


「そうなんだ……」


雪フィアの表情が、わずかに陰る。


星はそれを見て、にやりと口角を上げた。


「???」


何かを察して視線を落とすと——


いつの間にか、彼女の腕の中には一式のメイド服が。


「これはチャンスじゃない?君がメイド長になれば、水神様に会えるかもよ~?」


キラキラした目で言う星の顔は、殴られ待ちの顔そのものだった。


雪フィアは三秒ほど固まった後、無表情で言った。


「お前、死にたいのか?」


星はまったく怯まず、むしろさらに顔を近づけて、誠意満々の表情を浮かべた。


「お願い~!一度だけでいいから着てみてよ!これからはなんでも言うこと聞くからさ!」


「へぇ?本当に?」


「本当だって!」


「じゃあ、その代わりにビンタ二発どう?」


「いいよいいよ!!準備万端だよ!!」


星は生贄の犬のように興奮して顔を差し出した──


「パァンッ!!!!」


轟音が響き、茶屋の天井が吹き飛び、泡が四方に舞い散り、外の鳥まで驚いて卵に逆戻りする始末だった。


星の顔は真っ赤に腫れたが、笑顔は晴れやかだった。「は~い、あと一発!」


雪フィアの手のひらでメイド服が灰になり、風に舞って消えていった。


「……じゃあ続けて叩きなさいよおおおおお!!あたしのメイド服がぁぁぁ!!」


星、精神崩壊。


蜜瀅児が手を挙げて、困ったように笑った。「あの……お二人とも……」


二人は同時に振り返る。


上品だったはずの茶屋は、今や見事なオープンテラスと化していた。壁はなくなり、床は割れ、客たちはみんな海に落ちていた……。


店主は顔を腫らして帳簿を握りしめ、顔面蒼白。


「アハハハ……ごめんなさい、ちょっと加減を間違えたかも。」


雪フィアは乾いた笑いを漏らした。


一同は無言の合意で、瞬時に頭を下げ、猛ダッシュ。泡が宙を舞い、残されたのは店主の怒号だけが海街にこだました。


──このサーフィン大会、始まる前から水浸しである。


観客席は波のようにうねり、歓声は海の如く空を裂き、万の声が雲をも揺るがす。


第20回「星海サーフィン大会」は、光と水の交錯する栄光の中、ついに幕を開けた。


空にはリボンが舞い、幻影の光幕が広がる。夢のような幻想の中、星、雪フィア、蕭楓は観客に紛れて、試合開始を待ちながら選手たちを観察していた。


熱気が最高潮に達したその時──突如、波のような悲鳴が空を裂いた。


「うわあああーーっ!!来た来た来たぁ!!あれだよ!『走れ棺桶』の異名を持つ──浪Cだっ!!」


遠くから現れたのは、六人の屈強な男たちが腰をくねらせながら棺を担ぎ、リズムに合わせてノリノリで進むという奇行。海全体をひっくり返すほどの圧倒的なオーラ。


黒塗りの巨大な棺の蓋の上には、筋肉が眩しく、サングラスが反射し、棒付きキャンディーを咥えた男がどっしりと座っていた。脚を組み、まるで地獄のパーティーから帰ってきた神のようだった。


「あ、あれって……サーフィン五連覇の伝説の選手──浪Cじゃないか!?」


「間違いないよ!前回の大会じゃ、棺桶でそのまま滑って全選手を薙ぎ倒して、史上最強の破壊王と呼ばれたんだ!」


「浪C:君が波を滑るなら、俺は君を送ってやる。」


──歓声が轟く中、星は口元を引きつらせながら、そっと隣に訊ねた。


「カロ姉、この大会……まさか死人は出ないよね?」


カロ・アイヴィは相変わらず優しく微笑みながら、そっと顔を背けた。まるで何も聞こえなかったかのように。


「……聞こえないフリしないでぇぇぇ!!」


星は絶望し、人生を疑い、手にしていたサーフボードもぷるぷる震え始めた。


カロはにこやかに彼を支え、頬を撫でながら言った。「怖がらないで~ただの普通のサーフィン大会よ?」


そして、彼にずっしりとした袋を手渡す。


「中にはちゃんとルールに沿った道具を入れておいたわ~足りなかったら言ってね♪」


星は感動してカロに抱きついた。「カロ姉は本当に優しいよ……!」


袋の中を開けてみると──水雷、武器、濃縮型雷撃砲?


……おかしいだろ!?


「軍需倉庫から持ってきたのかよ!?俺が出るのはサーフィン大会であって内戦じゃねぇぇぇ!!」


──しかし、この混沌は、まだ前菜にすぎなかった。


第二波の歓声がすぐさま押し寄せる。


「来たぞぉぉぉ!!狐仙双姫だぁぁぁ!!」



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