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第17章 雪フィア……!?

――意識が、浮き沈みしていた。


まるで星のない深海へと落ちていくような感覚。


魂が翻弄され、堕ちていく。沈み込む。


時間も知覚もすべてが断ち切られた、その瞬間――


眩い白光が、闇を裂いた。


「リン……!!!」


星は目を見開き、全身汗まみれで飛び起きた。


心臓がまるで鉄槌のように激しく鼓動する。


見渡す限り――


緑の草原が風にそよぎ、陽光が降り注ぎ、小鳥のさえずりが耳に心地よい。


「ここは……どこだ?」


彼は勢いよく体を起こし、辺りを見回したが――


水鈴児すい・れいじょの姿はどこにもなかった。


胸の奥がぎゅっと締めつけられ、喉元に息苦しさがこみ上げてくる。


「まさか……彼女も巻き込まれたのか?それとも、すでに……」


頭を振って、その不安を必死に押し殺す。


心に浮かんだ不吉なイメージを振り払うように。


「落ち着け……まずは状況を把握しないと。」


小川に沿って森を抜け、谷を越え、風を追いながら進み続ける。


そして、ついに山頂にたどり着いた。


その瞬間――彼は言葉を失った。


遥か彼方に、神話のような水上の仙都が碧い湖に浮かんでいた。


湖と街が溶け合う幻想的な光景。


湖畔では霊獣が戯れ、空には仙舟が飛び交う。


その中心には、水龍のような宮殿が悠然とそびえ立ち、


湖面には神像が立ち、星光が湖に降り注ぎ、銀色の瀑布となって空へと昇っていた。


星の瞳が収縮する。思わずつぶやいた。


「……忘憂のぼうゆうのうみ?」


「この湖の色、この空の光……この城……まさか、ここは――水の浄土みずのじょうど!?」


頭の中で何かが爆発する。


記憶の中の水の浄土は、氷と死の静寂に満ちた世界だった。


だが、今目の前にあるのは――生命が息づき、春の気配に満ちた、まるでおとぎ話のような楽園。


これが現実なら、過去の記憶はいったい……?


「これは……夢?それとも、また時を超えたのか……!?」


脳がオーバーヒート寸前。


頬がぴくぴくと引きつり、まるで壊れかけのロボット。


星は頭を振り、熱を帯びた思考を抑え込み、湖畔へと歩みを進めた。


静かで詩のような湖畔。


波紋がきらめき、虫や鳥の鳴き声が穏やかに響く。


まるで誰もこの静謐な時を乱したくないかのように、呼吸すら慎重になる。


だが――星は岸辺にしゃがみ込んで、顔を曇らせた。


「この川幅……泳ぎきるのに来世が必要だな……」


途方に暮れていたそのとき――


一隻の豪華な仙舟が、静かに川を下ってきた。


彫刻された龍紋、宝石があしらわれた縁取り。


まるで天界から降りてきたかのような仙家の船。


星の瞳が輝いた。


「おおっ!幸運の女神、ついに微笑んだか!」


声をかけようとした瞬間――船の上の人影が視界に入った。


その表情が、凍りつく。


――赤い髪が滝のように流れ、ピンク色のうさ耳がぴんと立つ。


ぴったりした戦闘服が腰と脚線を際立たせ、紫紅の瞳は冷たい刃のよう。


まるで闇から現れた狩人。


彼女は――雪フィアだった。


……だが今の彼女は、記憶にある冷酷な戦姫ではなかった。


彼女は縮こまって釣り竿を抱え、身体を小さく震わせていた。


まるで雷に打たれたウサギのように。


「……夢か?なんで彼女が……」


そのとき、二人の視線が交差した。


雪フィアの目が、救い主を見つけたようにぱっと見開かれ――


やがて呆然、そして冷笑へと変わった。


その笑みはまるで地獄からの手紙。


そこに書かれていたのは――


「オマエ、終わったな。」


星の背筋に冷たいものが走る。


「ヤバい!このウサギ、暴走モードに入った!!」


叫ぶやいなや、彼は十枚の『神影符』を一気に展開し、


残像のごとく疾走――!


……だが彼は、忘れていた。


雪フィアという存在を。


このウサギ、本気を出せば太陽すらブチ壊す――!!


彼女は赤い瞳を細め、口元に残虐な笑みを浮かべると、


一滴の鳳凰の精血を喉に流し込む。


緋色の五枚羽が広がり、煉獄のような火の羽が空を裂く。


第六の幻影の翼まで、うっすらと浮かび上がる――


それは、夢蝶六翼の覚醒の兆し。


「――大物、ヒットぉおおお!!!」


絶叫とともに竿を引く!


釣り針が炎のウサギのように空を裂き、


轟音とともに大気を巻き込み、空の雲を三尺後退させた!!


星は逃げ切ったと思ったその瞬間、背後に冷たい感触が――


「うわああああああ――!!」


衣の襟を釣り針に引っかけられ、マグロのように仙舟へと引き戻される――


「ドボン――!ゴンッ!」


そのまま魚かごに頭から突っ込んだ。


魚かごはバタバタと暴れ、生きた魚同士の喧嘩のよう。


雪フィアが近づき、真剣な顔で見つめてきた。


「おおっ!この魚、めっちゃ元気だね!新鮮っ!」


星の目が裏返る。


「てめぇコノヤローッ!!!!」


「跳ねてるのは、痛くて痙攣してるんだよおおお!!!@0@凸」


水面から泡がポコポコと立ち上る。


まるで一連の怒涛の罵声のように。


しばらくして、雪フィアが釣り竿で彼の頭をつつく。


「ねぇ、銀盗ぎんとう?あんたなんでここにいるの?」


星は必死に水を吐き、息も絶え絶えに答える。


「……お前の釣り竿に聞いてくれ……」


二人は言葉を交わしながら、記憶をつなぎ合わせていった。


「さっき見たあの神像……完全に残ってたんだ。


でも、戦争でとっくに壊れたはずだよな……」


「この緑の草原も、建物も、全部違う……」


「……もしかして、千年前に来てしまったのかも……」


雪フィアの表情が一変した。


「千、千年前……!?」


星の目がひくつく。


「また時を超えたってのか!?俺、また死んだのか!?」


そして、視線が少女の横顔へと向かう。


(さっきは魚みたいに釣られかけたけど……今の横顔、なんか……)


(なんか、もうちょっとこのままでもいいかも……?)


卵型の顔立ち、冷ややかな紅の瞳、ピクリと動くうさ耳。


ぴったりとした服に浮かぶ、あの微妙なライン……


喉がごくりと鳴り、拳を握る。


まるで、さっきの柔らかい感触を反芻するかのように――


「パアァァン!!!」


「!?」


頬に炸裂する強烈な平手打ち。


雪フィアは満面の笑みを浮かべながら、手の短刃にほのかな赤い光を灯し、


まるで春風のような口調で、背筋が凍るような声を出す。


「――ねぇ、今、何考えてたのかなぁ?」


星の口元が引きつり、冷や汗が額を流れる。


「ど、どうしたんだ?具合でも悪いのか?」と彼がごまかすと――


「“女王様”って呼びなさい。」


「……女王様。」


「声が小さいよ。跪いて、床を舐めながら言ってごらん?」


「お前、俺を弄んでるだろ!?」


文句を言いながらも、彼は渋々と跪き、


手を床に当て、恭しく言った。


「女王陛下、その高貴なるおみ足が触れる床など、


この身には恐れ多く、塵ひとつすら汚せません。火の中水の中、何なりと……」


(今日の重力、やけに重く感じるな……屈服じゃない、きっと)


ふと視線が彼女の白くて長い脚をかすめる。


脳裏に一筋の電流が走る――この脚、尊厳を捧げる価値がある……!


「ふふ、本女王はあなたがここに現れるのを予知してたから、


ずーっと船の中で待ってたのよ~」


雪フィアが髪を撫でる手が、一瞬だけ止まる。


湖面の反射がその瞳に一閃し、すぐに視線を逸らした。


彼女は船の縁に腰かけ、紅茶とお菓子を優雅に楽しむ。


まるで午後のティータイムの貴族令嬢。


星は不思議そうに訊ねた。


「なぁ、その船、どこで手に入れたんだ?」@0@?


船は碧く澄んだ湖面を滑るように進み、そよ風が頬を撫で、水面には柔らかな波紋が広がっていった。


目の前に広がる〈水の浄土〉の景色は、記憶の中よりも遥かに生き生きとしていた。空から幾筋もの滝が銀糸のように流れ落ち、街の通りは賑やかで、子どもたちは笑いながら駆け回り、仙獣たちは穏やかにその傍を歩いている。まるで、この街そのものが呼吸し、微笑んでいるかのようだった。


中央の高くそびえる神像の前では、信徒たちが両手を合わせ、心から祈りを捧げている。その一つ一つの仕草に、天地と繋がるような澄んだ信仰の色が滲んでいた。


星は思わず櫂を漕ぐ速度を落とし、水光に包まれたこの土地の静けさを心に刻む。


「……本当に、まだここにあったんだ……」


その声に気付き、彼はそっと船縁に目をやる。雪フィアが静かに腰かけており、先ほどまでのからかいの表情は消え、代わりに言葉にできないほどの静けさと懐かしさがその顔に滲んでいた。


陽の光が彼女の横顔を照らし、その姿はまるで人の世に迷い込んだ神女のように、優雅でどこか近寄りがたかった。


ふるふると揺れる淡いピンクの兎耳が、湖面よりも心を波立たせる。


星は思わずごくりと唾を飲み込み、視線を逸らしながら、胸のざわめきを押し殺す。


そのとき、船は一体の女神像の前を通り過ぎた。雪フィアの瞳がふと鋭くなり、その奥にほんのわずかだが、深い哀しみが浮かぶ。彼女は拳を固く握りしめ、関節が白くなるほどだった。


空気の変化に気付いた星は、ふと悪戯心を抑えきれず、船の端を勢いよく踏み込む。


「ドンッ!」


「きゃあああっ——!」


油断していた雪フィアは、バランスを崩してそのまま湖に落ち、大きな水しぶきをあげた。


星は腹を抱えて笑い転げる。「はははっ!女王さま、そんなにドジだったのか?」


だが、一秒……二秒……


彼女はいつまでも水面に浮かんでこなかった。


「……うそだろ?」


星の顔色が一気に変わり、迷うことなく湖へ飛び込む。


水中は陽の光が揺らめき、夢のような幻想に包まれていた。彼は波間に沈む一つの影を見つける――それは雪フィアだった。まるで糸が切れた人形のように沈み、拳を握りしめたまま、瞳に光がなかった。


「おい、何やってんだよっ!?」


星が彼女に手を伸ばそうとした、その瞬間――


雪フィアは突然、蛸のように彼にしがみついてきた。全身を震わせ、目尻からは涙がこぼれ落ちている。まるで、溺れかけた人が最後の浮き輪を掴むかのように。


星は何も言わず、力いっぱい彼女を水面へと押し上げた。


背中を優しく叩きながら、囁くように言った。


「……ごめん、水が怖いなんて知らなかった。」


雪フィアは何も答えず、ただ呆然と彼にしがみついたまま離れなかった。虚ろな目で、どこか遠くを見ているようだった。


(強いと思ってた彼女が、水すら怖がるなんて……。


この弱さに、俺は戸惑って、でも……手放せなかった。)


星は小さくため息をつき、彼女をそっと船室へと抱きかかえる。ベッドの上に寝かせ、自らの掌に赤の道運を宿らせ、濡れた衣服を温かく蒸していく。


ふとした拍子に指先が柔らかな曲線に触れ、思わず目を逸らす。けれど、彼はわかっていた。


今、彼がすべきことは——


兄のように、彼女の心を落ち着かせることだった。


(さっきの彼女、震える兎みたいだった……。


あの威厳に満ちた“神”のような彼女とは別人のように見えた。


夢蝶になったって、泣いたり笑ったりするんだ。


……結局、背中の羽の数以外、俺たちに違いなんてないのかもしれない。)


雪フィアの呼吸は少しずつ穏やかになり、かすかに身体が震えている。まるで、悪夢から目覚めた少女のように。


部屋の空気が、ゆっくりと、しかし確かに――


甘く、曖昧な色に染まり始めていた。


星の心も、もはや平静を保てなかった。


柔らかな感触が胸元に押し当てられ、淡い少女の香りが鼻をかすめる。彼女の鼓動が、まるで自分の心と重なったかのように感じられる。


その温かなぬくもりが、二人の心を優しく結びつけていた。


「……ほんと、綺麗だな。」


彼はそう呟いた。


それは彼女の美しさに対してなのか、それとも、この一瞬の優しさに向けた言葉だったのか、自分でもわからない。


思わず、彼女をぎゅっと抱きしめる。守りたいという衝動と、抑えきれない何かが胸の内で交錯した。


熱を封じるように目を閉じ、そっと眠りへと身を委ねる。


雪フィアはそんな気配にも気づくことなく、静かに彼の胸に顔を埋めた。まるで、ようやく巣を見つけた小動物のように。


柔らかな光が、二人を包み込む。


——まるで、永遠のような一幕だった。


「……あの兎娘、ちょっとフワフワしてて、お姫様気質だけどさ……。


……意外と、悪い奴じゃないのかもな。」


彼は微笑みながら目を閉じる。


ぬくもりを感じながら、二人は静かに眠りへと落ちていく。


だが、その温もりに身を溶かすその一方で、星の脳裏には、自分が魚のように釣り上げられた屈辱の記憶がよみがえっていた。


「……ったく、この兎娘……ちゃんと利息は取ってやる。」


口元に悪戯っぽい笑みを浮かべ、彼は頬に頬を寄せる。


そして、小さくキスを落とすと、満足そうに再び目を閉じた。


——この夜、彼と彼女は、初めて同じ床で眠った。


だが、その時すでに――


運命の糸は、水の光と笑い声の交錯の中で、静かに絡み始めていた。

みんなが応援してくれるなら、それだけで嬉しいよ。

日本語から翻訳するのは初めてなので、誤訳があったらご容赦ください。本文は下記URLにあります。

p-https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=24666038

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