第十五章 星辰の少女?! 最強の夢蝶?!
「あらあら~、なんて仲の良い姉妹愛なのかしら。うらやましいわ~」
夜の帳を踏みしめるように、ひとつの細い影が空を渡ってきた。まるで星の光さえ吸い込まれるかのように、彼女のまわりには一切の輝きがなかった。ただ、その澄んだ甘い声だけが、闇夜に鋭く響く。
少女の姿は朧げで、ただ翻る裾が星河のように揺らめいていた。
琴蘭姑娘は穏やかな表情のまま、ただ眉の端がわずかに震えた。「……来たのね」
星辰少女はくすくすと笑い、どこか茶化すような軽やかさで言った。
「へぇ~、まさか、ねぇ~。あの高貴なる“五翼の蝶”が、規則を破ってまで、この悪者に会いに来るなんて」
「どうしたの?懐かしい話でもしに来たのかしら、琴蘭お姉ちゃん~~?」
まるで久しぶりに会った幼馴染のように、言葉は軽く、挑発的だった。
琴蘭姑娘は変わらぬ穏やかな表情で言った。
「お願いがあるの。……ある人を、陰ながら守ってほしい」
星辰少女は眉を上げ、ふっと鼻で笑った。
「ふふ~、もしかして……あの可愛い男の子のこと?」
「顔もスタイルも最高よね~。……ちょっとだけ、味見してもいいかしら?」
琴蘭姑娘の眉がぴくりと動くが、黙っていた。
その反応に星辰少女は声をあげて笑い出し、肩を震わせた。
「ははっ、怒ったの? そりゃそうよね~。生きた仙薬なんて、誰だって欲しがるわよ。私ですら、奪いたくなるもの~」
空気が一瞬、凍りつく。
琴蘭姑娘は深く息を吸い、木の葉に落ちる小雨のように柔らかく、だが確かな声で言った。
「……彼は瓊華仙の人。あなたには触れさせない」
星辰少女は肩をすくめ、ため息混じりに手を広げた。
「はいはい~、わかってるって。瓊華ちゃんのものを、姉として奪うわけないじゃない~。だってさ、あなたたちのものは……私のものでもあるんだから~」
そう言って、彼女はつま先で空を踏み、虚空にさざ波が広がった。
「ねぇ知ってた? 私がここに来るの、結構リスキーだったのよ~」
星辰少女は楽しげに足を揺らしながら言った。
「“紫の浄土・剣舞の領域”のあのジジイ共、まだ生きてるし~、それに“紅の浄土”のちっこい子、私を見た瞬間に殺す気満々だし~。まるで私が世紀の魔王みたいじゃない?」
琴蘭姑娘は黙って彼女を見つめていた。目元は静かで、深い水面のよう。
やがて、懐からひとつの小さな黄蓮を取り出し、そっと差し出した。
「……私は、ずっとあなたを信じてる。ずっと……帰ってくる日を待ってた」
ふざけた様子のままだった星辰少女は、その言葉に動きを止めた。黄蓮を見つめる目に、ふと複雑な感情がよぎる。
それでも無理に口角を上げて笑った。
「あらあら~、ほんとに……天真爛漫ね、琴蘭」
彼女は笑いながら近づき、琴蘭の肩に触れたその瞬間、抱きしめるように腕をまわした。
まるで壊れそうに、優しさの中に沈み込むように。
指は琴蘭の背にある衣の裾をきつく握り、わずかに震えていた。
「……琴蘭だけよ、私を忘れなかったのは」
その声は風に紛れるほど小さく、砕けた囁きのようだった。
「千年経っても……あなたのような親友がいるなら、死ぬことさえ恐くない」
…………
彼女の背後で、隠されていた六枚の翼が静かに展開する。
それは純白──否、暗黒の翼だった。
まるで深淵が裂けたかのように、息を呑むような邪気が漂う。だが、その美しさは言葉を失うほどだった。
琴蘭姑娘はそっと手を伸ばし、彼女の髪に掌を添えた。
その瞳には、揺らめく双翼が映っていた。
彼女は静かに、けれども確かな声で言った。
「——あなたは堕ちてなどいない。ただ……果てなき闇の中を、ひとりで歩んでいただけ」
星辰少女は琴蘭を見つめ、ふいに視線を逸らす。
だがすぐに顔を上げ、無理やり明るく笑ってみせた。
「ははっ、やめてよそんな真面目な顔~。せっかくの再会なんだから、楽しまなきゃ損でしょ~?」
その笑い声は夜に溶けた。
まるで湖に落ちた星屑のように、音もなく消えていく。
ほんの一瞬の哀しみと諦めを、うまく隠しながら。
彼女は手のひらにある黄蓮を見つめ、まるで何かに導かれるように呟いた。
「これが……“道運の花”?」
「不思議ね……何かに、魂ごと引き寄せられるような……」
琴蘭はその背に立ち、泉のように冷たくも澄んだ声で語った。
「この“道運の花”は、悟りへの導きにもなり、蓮台を再構築し……“七翼の境”に至る鍵にもなり得るわ」
星辰少女は驚き、そっと一歩後ずさった。揺れる目元に、迷いが垣間見える。
だがすぐにふざけたような笑みで言った。
「七翼、ね……そんな簡単に言わないでよ。私のボロボロな体じゃ、到底無理よ」
その口調は軽く、だが瞳の奥にはかすかな渇望と自嘲がにじむ。
風に吹かれる灯火のように、頼りなく揺れていた。
「あなたのほうが、私よりずっと優れてる。この花は、あなたにこそふさわしいわ」
そう言って微笑むその顔は、冗談のようでいて、まるでひとつの問いを投げかけていた。
——私は、まだ……価値があるの?
琴蘭は何も答えず、ただそっと黄蓮を彼女の手に戻した。
その表情は静かで、微塵の揺らぎもなかった。
「私はもう、何も望んでいない。……それは、あなたのほうが必要よ。」
星辰少女はそっと唇を引き結び、
次の瞬間、ふいに話題を変えて笑った。
「そういえばね、さっき見かけたのよ、あの二人の小さな子たち……花畑の端っこで、なんだか霊気が交わってるような……いやぁ、若いっていいわね〜」
「でも不思議なの。あの女の子、水の蓮台の加護を持って生まれた“あの資質”が……まさか上がってるなんて!? 何があったのかしら?」
琴蘭は眉間をわずかに寄せ、しばらく思案するように沈黙し、
やがて低く、だがどこか警戒を孕んだ声で口を開いた。
「……星の身に宿る気配が……どことなく、生命の母樹に似ているような……でも、断言はできない。」
「もし本当にそうなら、あの子の存在は――一つの勢力だけじゃなく、多くの注目を引き寄せるわ。」
星辰少女の瞳が輝きを増し、笑顔が火花のように弾けた。
「本当に!? 琴蘭お姉さま!!」
「ねえ……」
「その子、ちょっとだけでいいから、貸してくれない? お願い〜っ♡」
琴蘭はまぶたを伏せ、袖口をそっと指でつまんだ。
何気ない仕草に見えたが、その手は、うっすらと現れかけた一縷の気配を静かに庇うように隠していた。
答えはなかった。
だが、その一瞬の動きが、何よりも雄弁に語っていた。
星辰少女はぷくっと頬をふくらませ、冗談めかして手を振った。
「はーい、はーい、冗談だってば~。今はあんたが使って、私は後でいいわ。」
夜はさらに更け、空気はまるで張り詰めた琴の弦のように震えていた。
星辰少女はふっと笑みを収め、背を向けた。
銀白の衣が地をすり、星の光のように夜空を流れ、衣の裾がひるがえるたび、ひやりとした風が舞う。
彼女の声は霜のように冷たく澄み、珍しく真剣な、そして否応ない静けさを宿していた。
「琴蘭――そろそろ時間よ。行動に移るわ。」
彼女は高く遠い夜空を見上げる。
無数の星々が瞳に映り込み、きらめくその奥に静寂を宿す。
まるで、宇宙そのものがその瞳の中に封じられているかのように。
琴蘭もまた空を仰ぎ、わずかに眉を寄せて、憂いを滲ませた声を落とした。
「……願わくば、無関係な外の人々が巻き込まれませんように。」
その言葉に、星辰少女はくすっと笑い、
次の瞬間、ぱっと振り返った。
その一瞬の振り向きに、まなざしが星河の奔流のごとく迸る。
冷ややかで艶やか、まるで天地の理を掌に収めたかのような威厳。
「安心して〜♪」
その語尾が弾けたかと思えば、彼女は微笑を収め、口元に静かな自信を浮かべて続けた。
「その時が来たら……私がやるわ。」
袖をひるがえせば、星光がきらりとまたたき、
にやりと笑って、軽やかにこう付け加えた。
「なにせ私は、《夢蝶美人録》に名を刻む――最強の美人だもの♡」
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遥か天の穹にて、千年の眠りについた一つの星が、
いま静かに、だが確かに目覚めようとしていた。
微かな光のはじまりが、抗えぬ運命の胎動を携えていた。
星の粒が線を成し、まるで宿命の針のように静かに――運命の網を編み上げていく。
【場面転換・スローモーション】
森の中――
蕭楓は古樹を背に立ち、衣は風に乱れ、眼光は鋭く、佩剣が手の中でかすかに震えている。
渓流のほとり――
水靈児は石の上にしゃがみ、露に濡れた小さな白兎を両手で抱え、無邪気に笑っていた。
無人の夜の橋――
「星」は静かに歩いていた。
銀の髪が肩を揺らし、瞳には星々が織りなす天幕の光が映り込む。
その表情は雪のように寂寥としていた。
森の奥深く――
カロ・アイヴィは樹のそばに座り、霊薬の花畑の中で帳簿を整え、指先に宿る光で数式を記している。
山の頂――
十七歳の少年が深緑の長槍を携え、暴風の中に立つ。
マントは裂けた羽のように広がり、銀紫の異なる瞳が冷たく煌めく。
その姿は剣意の如く宙を貫き、目には遠く目覚めたばかりの星の光が映る。
霊泉の岸辺――
十六歳のか弱き少女が水面をそっと踏みしめる。
橙金のドレスが波に揺れ、耳飾りと花鈴がかすかに揺れた。
まるで誰にも聞こえない祈りを風に託しているように。
そして――氷の深淵、誰の目にも届かぬ最奥にて。
一つの巨大な氷棺が、静かに横たわっていた。
「黒衣の男」はその上に静かに座り、
銀の仮面で素顔を隠しながら、月光が長く続く暗い裂け目から差し込み、氷棺の表面にかすかな水の痕を描く。
周囲には凄まじい殺気が満ち、まるで深海の潮が眠りから目覚めようとしているかのようだった。
彼の指は腰の剣を静かになぞり、
その眼差しは氷のごとく冷たく、まるで夜明けの直前をじっと見据えている。
指がゆっくりと鞘をなぞるたび、剣は低く鳴き、
それはまるで、悪夢の中の深海の獣が泣いているかのようだった。
彼は口を開かなかった。
だがその視線は、まるで星々の隙間をも見透かすかのように、
これから目覚める「ある名前」を、ただ静かに見つめていた。
水の浄土、その上空――
かつて世界を包んでいた澄みきった泡が、静かに変化を始めた。
中心からひと筋の寒気が広がり、泡の表面に水の光が集まり、やがて薄氷となる。
透きとおるその氷の膜の下では、万象が凍りついたかのように沈黙する。
気配も、音も、霊力さえも――すべてが遮断された。
風が、止まった。
一条の星光が雲を貫き、夜を裂く剣のごとく放たれる。
盤は、すでに置かれた。
星は、動いた。
歩む者は誰か。
犠牲となる者は、誰か。
――誰も、知らない。
…………
……
…
。
みんなが応援してくれるなら、それだけで嬉しいよ。
日本語から翻訳するのは初めてなので、誤訳があったらご容赦ください。本文は下記URLにあります。
p-https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=24666038