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true177の短編小説10作詰め合わせ【3】

ウラガワにあったもの。

作者: true177

 幸弘ゆきひろには、放課のルーティンがある。


 いつもの通り、いつもの場所。パソコンブースに腰をどっしりと下ろし、画面を開く。


『みんなー、こんにちはー!』


 勉学の鬱憤を晴らす、娯楽の媒体。最近耳に聞きつけてハマりだした、バーチャル配信者というものだ。何でも、仮想空間の着ぐるみで動けるのだとか。


 個人のアカウントを所有しているので他人に趣味がバレる心配はないが、音声は出せない。プラグの差し込み全般を禁止している上の御方も、頭が固いことだ。


 字幕に起こされた文字が、下から上へと流れる。配信画面は、幸弘の生命線だ。


『今日は、機材不良で機械音声です。ゴメンね!』


 などと断られているが、幸弘にとってはどうでもいい。


 彼女(?)は、『あお』。ゲーム配信が大半で、脳内の快楽物質を供給してくれる数少ない機会になっている。


 ウサギの、布団と比べるには厚手すぎる耳を生やしたアバター。毛でこわばった尻尾が付属品なのは、キメラなのだろう。


 音声で表現の幅が削られているからなのか、画面中に手振り足ぶりが右往左往している。カメラ認識でキャラクターが連動しているのだから、現実世界でも同じ振る舞いをした女性(?)がいると想像すると、凍り付いた心も溶かしてしまいそうだ。


『近所がうるさいから、のんびり雑談配信にしまーす!』


 肉声は届かなくとも、幸弘フィルターで補完されるので問題ない。字幕ラッシュは、処理能力の勝負所だ。


 幸弘のいるパソコンブースには、仕切りを隔てて向かい合う形にパソコンが配置してある。対面も使用中であり、そのことは構わないのだが……。


 ……ネットサーフィンくらい、静かに出来ないのか……。


 立ち座りの頻度が、許容範囲を超えている。耳栓で集中力にバフをかけている幸弘が反応するのだから、雑音認定しても問題はない。高校生にもなって、周囲を考慮できないのはどういう教育をされてきたのだろうか。


 配信画面を残したまま、幸弘は立ち上がった。閑散とした場所とはいえ、正面が見えていないという言い訳は通用しない。


 どうやら、足をバタバタさせて飛び跳ねているのは女子のようだ。バッサリ切られた、しかし湿気のある黒髪。見慣れない新顔である。

 貧乏ゆすりにしては、動作が大げさ。他人から注目を浴びているとしか思えない、両手の万歳振り。精神科にでも診てもらうべきだ。


 ……バーチャル配信者のなりきりか、こやつ……。


 緊張が退散し、落ち着いた目が配信画面にいく。


 ものの見事に、パソコンを鏡にして踊る女子と、配信者の一つ一つが合致していた。


『年齢? それは、言えないなぁ……。お酒が飲める、とだけは言っておこうかな』


 ……高校で二留するのはある意味才能だろ……。


『どれくらい周りがうるさいかって? 最近、工事してるんだよね……』


 ……なんで高校で配信してるのか、俺が聞きたいよ……。


『贈ったプレゼント。……あ、これだね。甘味があって、とってもおいしい』


 ……片手に単語帳を持って、何を言ってるんだ……。


 注意する気も失せ、幸弘は脱力して座り込んだ。




 ……ホンモノ、か……。


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