★第5話:ソールドアウト★
光暦3050年。
ある人々は空中都市を作り空に移住し、
ある人々は地下都市を作り地下に移住した。
空中都市、それは空飛ぶ未来へ。
地下都市、それは希望の新天地として。
ディファレンス、ドッキュン、ディレイ
違い、分裂、遅延。
「そんな事、どうでもいいじゃない。
そんなことより、お昼どうするの?」
「え?まだ何も決めてないですけど……」
「なら、いいところ教えてあげるわ。
元地上暮らしのお間抜けさん。」
地下では警察が一般市民にこんな感じで
店を紹介するのか、とちょっと戸惑ったが、
潜伏時間が長くなるにつれて新しい人間関係もできず、
警察とはいえ、女性の誘いに少し心躍っている自分に気づく。
気分的にスパイであることも一時的にパージして、
誘いに乗ってもいいかと思いつつ、
つくづく男として、自分はちょろくて単純な生き物だと思う。
昼食屋。
ここの定番の卵かけご飯andざる蕎麦が最高らしい。
しかし今日はあいにく、その最高のランチは
売り切れ(ソールドアウト)だった。
「はぁー、今日は運が悪いわ。仕方ないわ。」
「また来ますよ。雰囲気良さそうなお店なんで。」
「仕方ないわね、じゃあ、私はひ…」
「俺、日替わりで。」
「先に言わないでよー。あ、店員さん、日替わり二つ。」
注文を終えると彼女は携帯通信機を取り出す。
長方形の機器の背面には幼い子供の写真が貼ってある。
つまり彼女もソールドアウトということか。
こうやって女性を売り物と同じように考えている自分に
少し嫌気がさしてゆっくり首を回す。
顔が正面に戻ってきたところで勢いで聞く。
「写真、お子様?」
「職業柄、色んな奴が寄ってくるのよ。
だからこうして幼い子供の写真とかつけてたら、
だいたい勝手に子供がいる既婚者だって思うのよ。」
「あー、じゃあ、ダミーって事で?」
「なに、き・ょ・う・み・あ・る?」
「いやいやいやいや、何言ってるんですか。」
「当たり前よ。冗談じゃない(にしても否定しすぎ)。」
「…(じゃあ、聞いてくるなよ…)」
少し気まずい雰囲気が流れかけたが、
店の金髪超絶チャラい兄ちゃん店員が
軽快にランチを持ってきた。
「はい、日替わり定食でーす。」
女性警官はゆっくりとマスクを外した。
その外す速度がゆっくりで、
いけない秘密を見せられているように感じる。
思わず固まって顔を見てしまう。
そういえば初めて顔を見る。
「いただきまーす。」
マスク越しでもわかる筋の通ったスッキリした鼻。
唇は薄く淡い。
視線が合いそうになったので我に返った。
「いただきます。」
トゥビーコンティニュー……