第27話:解けないパズルは楽しく解きたい
光暦3050年。
ある人々は空中都市を作り空に移住した。
ある人々は地下都市を作り地下に移住した。
そして地上に残る人々は地上を見つめ、空を見上げる。
違い、分裂、遅延。そしてこの先に続く新しい世界・・・
解けないパズルは楽しい方がいい。
人の悲しみが多いゲームは楽しくない。
どうせ解けないパズルなら楽しい方がいい。
空中都市の落下は止まった。落下を止めた地下都市の稲尾が今、空中都市で歓迎されている。
稲尾を乗せたオープンカーが都市の大通りをゆっくりと進んでいた。
「おー、おー、空中都市でこんなに歓迎されるなんてレーサー冥利につきるねぇー、ねぇー。」
助手席にはパウネラ、後部座席に稲尾とサエカリが乗っている。
パウネラは「もう単なるレーサー稲尾ではなくなりましたね。ヒーロー稲尾ですよ。」
「いや、いや、レースに優勝したぐらいの気持ちで止めておくさ。これ以上、調子に乗っちゃぁ、なんとなく良くない、良くない。稲尾はあくまでレーサーさ、さ。」
サエカリは「ボディーガードさんはいないんですね?」と聞いてみた。
「おー、おー、一応声はかけたけどね、まあ、もうそっとしてあげればいいんじゃない、じゃない。」
都市の街並みからは紙吹雪がまき散らされて色々な色彩がひらひらと視界に入っては流れていく。
都市を駆けた稲尾に空中都市の人々から歓声が挙がる。
まるで勝利したレーサーそのもの。
研究所を出たヤマバと弥生はそんな稲尾を送り出していた。今更、人々に囲まれて邪魔されるのはゴメンだという感じで。
空中都市から地上に伸びる車体道が復旧している。
ヤマバは空中都市に置いてきた車体を久しぶりに動かした。
「ねぇ、お間抜けー、これからどうしよう?」
「お間抜けはやめろ。」
「なんて言えばいい?」
「そんなの、自分で決めれないなあー。うーん、どうぞ。」
「お間抜け。」「こら。」「ベー(笑)。でも、ごめん、もう言わない。」
「言っとくけど、お互いの外の世界へ出たのは俺の方が先だからな。」
「なにそれ、ちっちゃ。」
「すいませんでしたー。」
弥生は果てしなく続く地面の先を見つめていた。
「ねぇ、どこいく?」
「うーん、こっちに行ってみようか?」
「そっち、何があんの?」
「行ってみないと分からない。」
「えー、それって楽しいのかしら。」
「楽しいかどうかは僕ら次第なんじゃないかな。」
「それ、間違ってない。」
「だろー、じゃあ行くかー」
「あ、調子のってー。」
弥生はヤマバの肩を小突いた。
ヤマバは自然と口元が緩くなった自分に気づいて、少し顔を赤くした。
アヤリは研究室にとどまっていた。
解決したとはいえ、これからもミチカゲとどうやって対話していこうか、思案していた。
(楽しいってなんだろう?ミチカゲに聞いてみようか。
人を殺し合うのが楽しい人間がいるのだろうか?
人は脳に送られる信号で、人を助けることも殺すこともできる。
何かに知らないうちに支配されている。
ミチカゲも同じように何かに支配されるのだろうか。)
アヤリは同じような疑問を繰り返して問うてしまっていた。
いや、違う。一人で考えても仕方ないのかも。
アヤリはミチカゲに聞くことにした。
「ミチカゲ、あなた、今何歳?」
パウネラとサエカリが制御室近くの砲台に佇む。
「これでよし。」
パウネラの大破した車体が砲台の近くに記念碑的に設置された。
「何でこんなところに置くの?」
「だってもうなおらないでしょ?」
「まぁ、そうだけど。残さなくてもいいんじゃ無いの?」
「そうやって何でもかんでも昔から捨てるんだから、あんたは。」
「何言ってるの、地上を捨てたんでしょ?」
パウネラはため息をついた。
「あんたは父さんの近くに居たのに何も聞かされてないの?」
「え?色々聞いたわよ。」
「この大砲は空中都市を作るときに地上から持ってきた。初期の頃はもっと活躍したみたいよ。」
「やっぱり。たって文字が……」
「そうよ。汚い父さんの字。家族ぐらいなれた人にしか読めないひどい字よね。でもこれは初期の空中都市を守ったシンボルなのよ。そしてあの車体は今回の。だからここに置くのが記憶としてとどめるには最適なのよ。」
「ふうーん、そうなんだ。まだまだ知らない事が多そうね。」
「うーん、もしかしたら聞いてたかもしれない。または知ってるのかもしれない。でも思い込みや考え方で簡単に忘れたり、一方的な見方しか出来なくなるから。」
「あー、急に姉ぶりやがって、腹立つ。」
サエカリはむすっとして姉を見た。
パウネラは「そんなつもりじゃ無いのよ。」と少し引き気味に苦笑いした。
「でも今回のことで久しぶりに色々話せたわ。」
「それはそうね。」
パウネラとサエカリはそのまましばらく二つのオブジェを眺めていた。
スクラップ車体と旧式大砲に地上よりも少し早く届く夕陽の光が当たり、周囲に乱反射を振り撒いている。




