第25話:エキセントリックサーキット (ファイナルラップ)
光暦3050年。
ある人々は空中都市を作り空に移住した。
ある人々は地下都市を作り地下に移住した。
そして地上に残る人々は空を見上げる。
今は現実?それとも仮想?
違い、分裂、遅延。
1発外したミサイルが空中都市に近づいている。
空中都市に防衛隊よりも一歩先に制御室近くにサエカリは到着していた。
地下のハッカー部隊に潜入しているメンバーからの情報と稲尾と弥生が出て行った後にパウネラに確認した5か所の中で一番重要そうな場所が制御室だと聞いていた。
「予想がドンピシャね。やっぱりここが最後のポイントになったのね。」
サエカリにパウネラから通信が入る。出ていく時に渡されてた通信機器からだ。
「サエ、そっちに1発ミサイルが飛んでる。制御室の近くに今は使われなくなってる砲台がある。そこに行って迎撃して頂戴。」
「地上である程度の訓練は受けてるけど、空中都市の最新機器なんて使いこなせるかしら。」
「それなら大丈夫。さっき言った通り、今は使われない理由は地上から運んだ旧式の大砲だから。触れるはず、そしてあんたが始めたんだから何とかしてよ。」
「はい、はい、わかりましたー。じゃあ、ちょっと行ってくるわ。」
サエカリはいつも高圧的な態度の姉の口調にうんざりしながら、ゆっくりしてられないと思い、走り出した。
稲尾たちは行き止まりになった空間で車体を止め、その場に降りた。
壁や真ん中付近にある太い柱の周りは相変わらず金粉をまぶしたような表面で、キラキラのざらざらな感じで地面、側面、天井まで覆われていた。
「おー、おー、眩し過ぎるぜ、ぜ。」
「なんだか人工知能のイメージと違いますね。」
「おー、おれはこの金々な感じも嫌いじゃないぜ。」
パキッ。
壁の一か所が割れてケーブルが車体に伸びてきた。
「あ、あれ。車体につなぐケーブルですよね?きっと。」
「おーおー、よし、こっちにこいよー。」
アヤリが車体から呼びかけてくる。
「気を付けて下さい!今ハッカーの壁を破ってケーブルを引っ張り出してきたんですが、一緒に向こうからの攻撃も来ます!」
稲尾がケーブルにてを伸ばそうとするとケーブルよりも先に数重の腕が伸びて襲い掛かってくる。
「うぉー、なんじゃ、きもちわるる!」
稲尾は車体に逃げ込んだ。
弥生は銃を構えた。しかし残弾がゼロと気付き銃を伸びてきた腕に投げつける。
シュ、ウーーーン、ビロビロビロビロ
という電子音的な響きと共に何本かの腕が消滅する。
接近するケーブルよりも腕の方が早いと判断し、弥生は視線を腕の物体に向けたまま、その場を後ろに素早く後退する。
腕が地面につくと人型が腕の分だけ立ち上がってきた。稲尾はアクセルを踏み、轢き殺していく。
アヤリはプログラムを送り込み、人型を1体、また1体と崩していく。
その間に弥生はケーブルを取りに走る。
ケーブルに到着する寸前、左から風圧を感じ、身を引く。目の前を腕が空間を切って過ぎていく。
「ケーブルは渡さない。」
それは地下都市で宣言を発していた地下のハッカー、場利の声だ。
「あんたたちの思い通りにはさせないわ。」弥生は一瞬どっちの味方?と思ったが、思わず言ってしまう。
「偉そうなことを。邪魔をするな。」
場利は高速な動きで無作為に腕を繰り出して襲い掛かってくる。
弥生はあまりの無茶な動きに、相手が格闘を知らない人間だと悟った。
アヤリが呼びかけてくる。「弥生さん、格闘プログラムを注入しますので使って下さい!」
弥生は「分かったわ、えーっと、どうすれば?」
「とりあえずパンチとキックで基本的な動きを試してください。」
弥生は腕を振り切ってみる。足を蹴り上げてみた。
「さっきより俊敏だわ。これでやってみる!」
場利は変わらず無作為な動きをしているが一瞬止まる。どうも動きを連続して続けるのは無理のようだ。
弥生は防御の姿勢を取り続けている。
場利の動きが一瞬止まる。防御の姿勢から腕を素早く前に押し出す。場利の胸に拳が食い込む。現実以上に食い込んでいく。場利の体が正方形の破片に代わっていく。散っていく。
場利の体が崩壊していくかに見えた。が、腕や足は崩れることなく壊れた胸辺りの胴体が再生されていく。
弥生は「これじゃあ、勝てっこないんじゃ・・・」
稲尾は周りの人型を片づけたが、弥生と場利の距離が近すぎて車体では近づけない。
アヤリは「こっちからは場利にハッキングを続けています。もう一度、攻撃を入れて下さい!」
弥生は場利の動きを見続ける。ふと場利の動きが鈍っているような感覚に襲われる。
どうも相手は疲れてきているようだ。弥生は場利の腕が伸びてきたところをキックで蹴り上げた。
「ぎゃっ!」場利が悲鳴を上げる。
場利の体制が崩れたところを左顎を打ち抜く。場利の視線が飛んだところで最後に胸に左ストレートを打ち込んだ。
アヤリが「今だ!」と用意していたプログラムで場利にアタックする。場利の体が先ほどの四角よりもっと細かい粒子になって砂が崩れるように崩壊していく。
場利は「まだ終わらないからな!まだおわ
そのまま消え去ると同時に空間を覆っていた金々の粉が表面からはじけて透明になって消えていく。
その下からミチカゲの実態が現れた。全体的に青ぐらい色に地面から天井にかけて、中心の柱の中を夥しい数の多様な色のケーブルが埋まっている。
弥生は急いでケーブルを車体に取り付け、車体に乗り込んだ。
稲尾は「ふー、これで終わるんだろうね、ろうね。」
アヤリが「今からミチカゲに直接呼びかけます。」
車体からミチカゲにアヤリのデータが流し込まれる。
「これでミチカゲが元にもど
ちょっと、待ってく
アヤリの声が途切れ途切れになる。
弥生は「どうしたの?」
アヤリの声が遠くなりながら「逃げて下さ
稲尾と弥生は顔を見合わせる。「え?」
車体がいきなりスピードを上げる。
目の前の柱が急に高速に震えて見え、急接近してくる。
稲尾はブレーキを踏むが一切効かない。「ちくしょー!」
弥生は(あ!)咄嗟に(ダメだ、死ぬ)と思った。
トゥビーコンティニュー……




