第25話：エキセントリックサーキット（XY周目）
光暦3050年。
ある人々は空中都市を作り空に移住した。
ある人々は地下都市を作り地下に移住した。
そして地上に残る人々は空を見上げる。
最終コーナーを曲がるレーサー、勝利を確信しているのか・・・
違い、分裂、遅延。
また追跡の車体が来る。弥生の弾があと1発。
後ろからの2台を何とか残弾１で始末したい。
相手が打ってくる前にこちらから仕掛けないと稲尾の超トリッキーな運転で相手の攻撃を避けてもらうとか期待するしかないが、稲尾の技術でも避けられない事態になりかねない。
弥生は賭けに出た。アヤリに呼びかけた。
「お願いがあるの。追いかけてくる車体の前に障害物を出して。相手が1列になったところを射撃して2台とも破壊する。残弾が1しかないのよ。」
アヤリは「分かりました。障害物を用意します。ただその間、前方の障害物の排除は手薄になるので稲尾さん気を付けて下さいー。」
アヤリは障害物を後方の車体の前方に落とした。
ハッカーの車体は訓練されていたようにきれいに縦列になって走行し始めた。
弥生は車体のタイヤ付近を狙ってすかさず射撃した。
ズボゥーーー。
前方の車体は避ける道路の幅もなく、銃弾を受けるしかなかった。前が見えない後方の車体も訳が分からないまま前方の車体が迫ってくるのを避けれずにスクラップと化した。
「よっしゃー！」思わず弥生は叫んだ。
前を見ていた稲尾も喜んでいるだろうと思って弥生は稲尾を見た。
稲尾の顔が引きつっている。
「お。お。お。前方から車体が突っ込んでくるぞ、ぞ、ぞ、」
アヤリはやはり前方に注意を向けれなかったことを後悔した。
稲尾はブレーキを踏む。
迫る前方の車体。その時車体の扉が開き、人が外に飛んで車体を無人にした。
稲尾は「くっそー！自爆攻撃か、か！」
バラバラバラバラバラバラ・・・突然後方から音が大きくなる。
弥生は後方からのヘリポーに絶望を感じた。もうなすすべがない。
ボオウッフーーー何かがヘイポーから発射された。
光が弥生たちの後ろから車体の上部を越えていく。
「きゃーー。」
光の玉が前方のハッカー無人車体に着弾した。
ッグギャーーーーン！
稲尾は破裂した閃光に目を細めた。
「うっへー！間一髪で消滅したぜ！助かった、かったー」
ヤマバが呼びかけた。
「稲尾さん、大丈夫ですか！応援に来ました。制御室のヤマバと言います。あともう少しでミチカゲのところに到達します！」
アヤリも通信してきた。「後ろのヘリポーは味方です！撃たないで下さいよー」
弥生は「あーー、こら。遅いぞ、お間抜けー。もう挟まれて終わったと思ったわ。自分の都市でも相変わらずね。助かった。あとアヤリ、残弾はゼロよ。」
「あ、そうでした。ってお間抜けって誰？」アヤリはそれでも勝利を80％確信した。残りはハッカーの親玉ぐらいでは？と推測していた。
ヤマバは沈黙した。「ボディガードって、弥生警察官・・・なんでこんなところに？！」
「知らないわよ。気づいたら来ちゃったー。」
「いや、何か悪い、空中都市のためにかなり色々・・・」
「私はただ新しい世界を見に来た、だけ？だったような・・・そしたらこうなっちゃった（笑）」
ヤマバは何とも言えない気持ちになった。こんなことに巻き込まれてよかったんだろうか。
稲尾は「さあ、さあ、お話は終わってからさ。行くぜ。あとちょっとなんだろ、だろ？」
アヤリは「はい、あと少し、宜しくお願いします。」
イワラリはカウントダウンしていた。
「５，４，３，２，１」
ヅドドドーーー、ギャギョグァーーー、ドッゴーーー
オぺレーターが結果を告げる。
「隊長、1発残ってます！制御室に到達予定です！」
イワラリは「くっそー、抜けてきやがった！地上部隊はどうしてる？！」
「制御室近くに向かって迎撃態勢を準備しています！」
「間に合うのか・・・。」
イワラリは唇を強く噛むことしかできなかった。
稲尾たちの車体とヤマバのヘリポーがミチカゲのところに到達した。
ミチカゲの中心部に入るための扉は閉まっていた。
弥生は車体から降り、扉の取っ手を回そうとした。しかし固く閉ざされている。
「この扉開かないわ。びくともしない。」
アヤリが「ハッカーが頑丈に鍵を掛けています。ここは私の腕の見せ所です。暗号を解読して扉を開放します。ちょっと待ってて下さい。」
アヤリは自分の端末に入っているありったけのツールで暗号を解きにかかった。
場利はミチカゲの扉に攻撃が始まったことを確認した。
「誰だ一体！あの扉にかけた鍵は中々解けないはずだ。とは言え、さっさと空中都市を落とせ！」
隊員が「ダメです！ミチカゲへの通信経路が細く、防御もままならない状況です！」
場利は「仕方ない、ミチカゲにも影響が出るかもしれないが、爆弾を送り込むか。」
ポケットからデータメモリを取り出して端末にセットした。
「このロケットウィルスで奴らを止める。」
場利はキーを素早く叩き、ロケットウィルスを仮想空間に放った。
ヤマバのヘリポーは下りずにホバリングで辺りを見渡していた。
アケタチが「先輩、何か高い音が聞こえないっすか？」
「いや、俺には何も聞こえないが・・・」
キューーン、キューーン、キューーン・・・
ヘリポーのアラートが鳴った。ヘイポー内蔵のAIが警告する。
「ミサイル接近、タイヒ！タイヒ！タイヒ！」
ヤマバは前方に突然現れたミサイルがミチカゲの扉、弥生に向かって飛んでいるのを確認した。
ヤマバはアケタチに「ミサイルにヘリポーをぶつける！合図が合ったらヘリポーから飛び降りて離脱しろ！」
「マジっすか！」
ヤマバは弥生に「伏せろ！」、そして「アケタチ、離脱！」と叫んだ。
ヤマバとアケタチはヘリポーの外に身を投げた。
ヘリポーが扉に到達する前のロケットと上空で激突した。
ゴーーーーーバシャーーーーー
「キャーーー！」弥生が扉を盾に身を小さくする。
稲尾も車体を弥生の近くに寄せて爆風を防ぐ。
アケタチはパラシュートで降りていたが、ヤマバが既に地面近くに落下している。
パラシュートが開いていない。
「先輩、まずいっす！」
ヤマバは仮想空間での死を感じた。「ぐぁーーー！」
その時、サバラナのじぃさんが制御室で叫ぶヤマバに驚く。
「おーーーい。大丈夫かーーー。何叫けんどんじゃー。おい、起きんかい！」
ヤマバが地面が迫ってくる。目を閉じた。爆音が無音に感じる。ダメだ。死ぬ・・・
じぃさんはヤマバを思いっきり叩いた。
「はっ！」ヤマバは制御室の席から目を覚ました。
「お、起きたか！何か叫けんどったぞ。おまえさん、大丈夫か？」
「じぃさん、助かったぞ。もうちょっとで死ぬところだった。」
「はぁ？お前さんはずっとリラックスしとっただけじゃろが。まあ、ええわぃ。」
アケタチは弥生に「僕らはここで離脱っす！すいません！」
弥生は身を起して「分かった、ヤマバは？！」
アケタチの姿は既になかった。ヤマバもいない。
アヤリから「扉の鍵は開けました。ヤマバさんとアケタチさんは仮想空間から離脱したみたいです。」
弥生は「分かったわ。扉を開けるわ。」
弥生は扉を開いた。目の前にまた一直線の通路が広がる。
弥生は車体に乗り込んだ。
アヤリが「その先のミチカゲの頭脳に行って下さい。そこで車体とミチカゲをつないでください。私がミチカゲを呼び戻すようにします。」
稲尾は車体を内部に進めた。
そこは左右を光に包まれたまるで黄金で出来た王家の墓のような雰囲気の空間だった。
弥生は（人工知能って聞いていたけど、全然デジタルじゃない。何かむしろこの黄金が嘘っぽい。何だろうこの感じ。）と思った。
パウネラから制御室に通信が入る。
「今、地下都市からのミサイルが1発、そっちに向かってる。稲尾さんの車体に行って危険があったら二人を助けて。仮想空間に入っているから現実世界の危機には反応できないだろうから。」
ヤマバは「分かりました。アケタチと向かいます。」
仮想空間から離脱したヤマバとアケタチは弥生の車体へ向かった。
トゥビーコンティニュー……
