第24.7話:地上からの使者(次弾)
光暦3050年。
ある人々は空中都市を作り空に移住した。
ある人々は地下都市を作り地下に移住した。
そして地上に残る人々は空を見上げる。希望をつなぐアクセル。
ディファレンス、ディビジョン、ディレイ。
違い、分裂、遅延。
着陸した場所から少し歩いたところにその研究所はあった。
司令官がいると言われる部屋にサエカリ、稲尾、弥生は案内された。
「姉さん、来たわよ。」
「今更、何しに来たのよ。」
「空中都市の落下を止めに来たのよ。」
「あなたに何が出来るというの?」
弥生は明らかに仲が悪い姉妹の会話だと分かった。二人に何があったのか……。
サエカリは少し間をおいてから
「今回の落下は私たちが始めたからよ。」
パウネラは理解できず、
「何をいってるの?まさか、あんた、まだ地上でそんな活動しているの?!」
サエカリはパウネラを睨み、
「何もかも捨ててここにいるのは姉さんじゃない!」
言い合いになってきたが、コンソールを見ていたアヤリが
「うるさいなぁ!今、そんな事言い合って何になるんですー。姉妹喧嘩なら外でやってくださいー。」と冷たく声を投げてきた。
パウネラとサエカリは怒りと恥ずかしさで顔を赤くしていたが、アヤリの言う通りだった。
状況が分からないサエカリはアヤリに聞いた。
「それで、今どういう状態なの?」
「ミチカゲ自体は落下を止めてくれようとしているみたいです。ただまだクラッキングが継続してます。それを止めないと無理ですね。」
パウネラは
「あんたが始めたんなら、何とかしなさいよ!」
「私だって本気で落とすつもりはないわ。」
サエカリは地下に送り込んだメンバーに連絡を入れてみた。しかし応答がない。
「ちっ、うまく逃げてくれていれば良いんだけど。」
アヤリは見かけない客を見て
「そちらの方は?」
サエカリは
「レーサー稲尾さんとボディガードの弥生さんです。」と答える。
アヤリは少し上を見上げて。
「レーサー……?それって何でも早く走ったり、動かしたりできるって事ですかー?」
と聞いてきた。
稲尾は
「おー、おー、そう言う事、になるかもねー。」
と不思議がりながら言う。
アヤリはミチカゲの攻撃を止めるためにはミチカゲに通じる物理線を破壊するしかないと思っていた。論理的に機械の設定を変えてもハッカーがすぐに防御を破って掻い潜ってくる。
アヤリはパウネラに
「私に考えがあります。そこにおられるレーサーさんに都市中を回ってもらい、各所にあるミチカゲにつながるケーブルを断線してもらえないでしょうか?」
パウネラは眉間に皺を寄せる。
「そんなことをしたら都市の外から得られるデータなしで空中都市を動かすことになるわ。それで大丈夫なの?」
「今は何より外からのアクセス、というか、繋がりを切らなければミチカゲが正常に動作しません。外からのデータなしに都市を動かすのはリスクがありますが、長年の蓄積されたデータから空中都市の状態を把握していくことで制御はできるのではないかと思います。」
パウネラは掛けるしかないと思った。
「分かったわ。そうしましょう。申し訳ないですがレーサー、お付き合い願います。」
稲尾はにんまりとした。
「おー、おー、まかせてよ。サエちゃんの姉さんの頼み、もちろんOK、OK。」
サエカリはアヤリに
「物理線の破壊はどうすれば良いの?」
「物理線は各所の施設内の鍵のかかった部屋に複数のケーブルで外の世界に繋がっています。バックアップも含めて都市の5箇所に分散されています。それら全てを切断する必要があります。あと簡単に接続を外すことはできないはずです。私も全部の場所を知ってるわけではないですが、ケーブルは抜くのではなく、切断するしかないと思います。」
稲尾はやや上を見ながら
「うーーむ。俺一人でやるには時間がかかりそうだ。そうだ。」
「ならば私が行きます。ここに居ても役に立ちそうにないですし、ケーブル切っていいならボディガードとしての武器もあるので。」
弥生はボディの内側に保持している銃を見せる。
サエカリは少しのけ反ってしまったが
「是非行ってきて。その方が絶対に助かる。」
「あー、そこの道具箱も持っていって下さい。その中にケーブル切断用の工具も入ってるんで。」
アヤリが机の下を指さして伝える。
パウネラは
「研究所にも車体はあるんだけど、作業用なのよ。だから私が乗ってきた車体を使って。何かあってボロボロにしても良いから、ちゃんと帰ってきて。」
稲尾はキーを受け取る。
「おー、このキー、SRX-2890じゃないか。良い乗ってるねー。」
「ちなみに”-D3”よ。」
「なぬ!限定機種じゃないか。そりゃ壊すわけにはいかないぜ、ぜ。」
弥生は稲尾に
「急ぎましょ。」
アヤリは
「気をつけて、宜しくお願いします。5箇所の場所のデータは司令官の車体に送っておきます。あ、あととにかく近場から切断して、早い段階から通信経路を削いでほしいです。」
稲尾と弥生は駐車場に向かった。
「さあ、ひとっ走りするかー。」
「こんなことになってすいません。ほんと今日は巻き込みすぎですよね。」
「おー、いや、いや、そんな事ないのよ。久しぶりの地上と空中で楽しい、楽しい。ただこれが終わったらシャワーには入りたいねー。」
弥生は微笑む。
「さっさと終わらせましょ。」
稲尾は1か所目の建物の前に車体を止めた。弥生が建物の中の指示された場所に入っていく。
対象の部屋には鍵がかかっていた。弥生は車体で待つ稲尾に連絡を入れる。
「ドアに鍵がかかってます。研究所に連絡してもらえないですか?」
「おーけー、おーけー。車体から通信するよ。」
しばらくすると
カシャッ、と鍵付近で音がした。弥生はゆっくりとドアを開けてみた。鍵は解除されていた。中に入ると冷え切った部屋の端辺りに大量の細かいライトが明滅しているラックがあった。その中の該当のケーブルを引き抜こうとしてもラックに鍵がかかっている。ラックから這い出している対象のケーブルをケーブルカッターで切断した。
弥生は稲尾に報告する。「一か所目、実施。」
車体に戻った弥生に稲尾は
「次々、いくぜ、いくぜ。」
アクセルを踏み込んだ。
トゥビーコンティニュー……




