★第13話:人工知能彼女★
光暦3050年。
ある人々は空中都市を作り空に移住し、
ある人々は地下都市を作り地下に移住した。
空中都市、エターク。
地下都市、ニューグラはマイクロセンサーと監視社会。
そして地上に残る人々は。
ディファレンス、ディビジョン、ディレイ。
違い、分裂、遅延。
扉が開く。
白い部屋の奥で彼女はコンピュータを前に
今日もずれ落ちそうなメガネを
視界がぼやける度に上げながら
黙々とプログラミングした部品を
ミチカゲに投げてはその結果を確認する。
この部屋は空中都市でトップクラスの学問組織
ライブラリケーション・スカラーの研究室の一つ。
そして扉を開けたのはここの部屋の担当リーダー、
ミスター・ロッセリランドだ。
「おはよう。今日も早くから熱心じゃないか。」
「あ、ミスター・ロッセ、おはようございます。
今日もミチカゲは元気そうですよ。」
「まるで会話してるようだね。」
「はい、昨日の夜にお風呂で思いついた
プログラムを早速投げてみたら、
なかなかの出来だって言ってくれて。」
「ほぉ、どんなプログラムだい?」
「はい、空中都市の傾きを制御するために、
瞬時に風、温度、湿度、光量、
その他必要となるデータの全てを
測定してリアルタイムに取得します。
それと並行処理で同時にミチカゲに
それら全てのデータをぶち込んで、
あーして、こーして、そーして、えーっと、
だから、これが、あれが、
こうなって、そうやって……」
ミスター・ロッセは聞いた自分が悪かった
と苦笑いを浮かべる。
彼女はいつもこうなのだ。
話がのってくると人工知能ばりの速度で
頭の中を言葉が駆け巡る。
そんな時、彼女は何で自分には
ミチカゲのような能力が
遺伝子でもらえていないのか不甲斐なく思う。
朝からの作業でちょっと疲れた彼女は
椅子をきしませながら両腕を天井に突き上げて
「うーーー。」と唸る。
私の名前はサキナゼ アヤリ。
スカラーの研究室で毎日ミチカゲの強化に
取り組んでいる。
物心ついた時からミチカゲと共に暮らしてきた。
たがら自然とミチカゲのように会話がしたいと思う。
ミチカゲは昔言っていた。
人と話すときは自分の処理速度を落とすのだと。
そうしないと人は自分の言語処理能力に
ついてこれない。
だからミチカゲはとても優しい子なんだ。
私は小さい頃、空中都市の端っこが見たくて
よく街の端ギリギリを見に行った。
そのたびに危ないからそれ以上は行かないように
ミカっち(小さい頃はミチカゲをそう呼んでいた)
が注意してくれていた。
そんな小さな頃からミカっちは私の友達。
空中都市を作った人たちはお空に街を作る!
なんて言う途方もない事を言い出す人たちだから、
とても冒険心があってアクティブだったんだよね、
きっと。
でもそんな祖先と違って、私は運動もできないし、
子供の頃は運動の時間は嫌いだった。
それと女の子と話してても、何が可愛いいとか、
宝石やお花が綺麗とか、ほんと興味がなくて、
むしろ計算ができる男子との会話が楽しかったり、
ううん、とにかく人と話すのは苦手なんだけど、
ちゃんと理屈が通ってないと理解できない。
女の子はいつも突然何を言い出すかわからない。
何もしてないのに怒ったり、急に甘えてきたり、
意味不明。
たまに男子もいきなり何を言い出すか分からない子がいる。
そういう子は厄介。
だって、私より声や体が大きいから。
うるさいのはほんと嫌。
だからいつも理性的なミチカゲが好き。
いつでも正しい事を言ってくれる。
トゥビーコンティニュー……




