★第12話:アローンインザシティー★
光暦3050年。
ある人々は空中都市を作り空に移住し、
ある人々は地下都市を作り地下に移住した。
空中都市、エタークは人工知能。
地下都市、ニューグラ。
そして地上に残る人々は。
ディファレンス、ディビジョン、ディレイ。
違い、分裂、遅延。
ヤマバはまた警察に納品に来ていた。
初めて納品してから何度か注文があり、
その度に納品に行かされる。
受付はいつもの中年男性で、おしゃべりだ。
「いやー、いつも有難うねー。
あんたんとこの修理は腕がいいからさぁ。
あんた、あのいい加減そうなおっさんと
仕事してんだよね?
あのおっさん、あんな感じだけど
腕はいいんだよぉ。」
「え、あの人がそんなに腕いいんですか?」
「あんた一緒に仕事しててわからんのかぃ?」
「俺、板金の仕事今回が初めてなんで、
俺のレベルじゃまだよく分からないです。」
「あの男はいい腕してる。
しっかり技術盗めばいい、いい。」
そこに弥生が入ってきた。
ヤマバは何度か納品に来ていたが、
前回の昼食以来だ。
「お間抜け。久しぶり。」
「あ、え、いいんですか、そんな口調で。」
「あ、もういいの。最近めんどくさくなってきたから。」
「はぁー。」
そこに手錠をかけられた男、
イワラリが連行される。
弥生は連行している部隊の方へ行き、
何か指示しているようだ。
受付の中年男性はため息をついて言う。
「どうも空中都市からのスパイらしい。
捕まったのは越速だったらしいが、
スパイと分かったらしいぞ。」
ヤマバはできるだけ変わらない様子を努めた。
「そうなんですか。何でまたそんな
捕まるような事をしたんですかね?」
「そりゃー、これから取り調べだ。
そのうちわかるだろう。」
ヤマバは背中に汗が滲むのを感じた。
捕まった男は空中都市で会ったことはない。
しかし何でそんなわざと捕まるような事をしたのか。
もしかしたら自分と同じように何か成果を急ぐように
指示されて焦っていたのだろうか。
弥生のブーツの音が受付に近付いてくる。
「最近スパイが多いのよね。」
「そうなんですか…何のために?」
「知らないわよ、そんな事。
空中都市に聞きなさいよ。」
「いや、興味ないんで聞かないですけど。」
「それもこっちの事よく知らずに
いろんなことしてくれんのよね。
だからすぐに怪しいってバレるのよ。
あ。あんたも地上から来たんだから、
変な事したら目立つわよ。」
と冗談ぽく言われる。
「それはどうも。肝に銘じておくよ。」
「何、そのいつもと違う言い方。」
「あー、俺もめんどくさくなってきたんで。」
「あっそ、勝手にすれば。」
弥生はそのまま警察建屋の奥へ入って行った。
少し足音がうるさい。
ヤマバは受付で納品のやり取りをして
警察建屋を出た。
目の前でスパイが捕まっているのを見た後は
体温が数度下がる感じがして、足に力が入らなかった。
まずは地下都市に慣れて色々知ってから動くべきだと、
初めの事故以来そう思って行動しているが、
改めてそれは間違ってないと思う。
ただ、これからどうすればいいか。
ヤマバは車体のロックを解除し、座席に座り込む。
フロントガラス越しの風景はいつもと同じだが、
自分が知らない旅先のように感じていた。
トゥビーコンティニュー……




