★第11話:ハイキッカー★
光暦3050年。
ある人々は空中都市を作り空に移住し、
ある人々は地下都市を作り地下に移住した。
空中都市、エターク。
地下都市、ニューグラ。
そして地上に残る人々は。
ディファレンス、ディビジョン、ディレイ。
違い、分裂、遅延。
弥生は追いついた。
速度を上げようとする相手車体。
弥生は左手のみでハンドルを握り、
右手で車内の銃を抜く。
後部の動力付近を狙い、
パーーーンと弾丸を放った。
前方の車体はみるみる速度を失い、
停止する。
弥生はブレーキを踏みながら近づこうとする。
前の車体のドアが開き、
男が慌てて走って逃げようとする。
弥生は車外に出るなり、
先ほどの銃を相手に向けたまま追う。
「待ちなさい!止まらないとうつわよ!」
止まらない男、上空に1発放つ。
前方の男は音に驚き、慌ててこける。
追いつく弥生は越速犯を見下して言った。
「さあ、白状しなさいよ。
単なる越速犯じゃないことぐらい分かってんのよ。」
追いつかれた男は急いで立ち上がり、
右手にナイフを取り出す。
「はぁ、はぁ、うるさいぃ!
お前みたいな女にとめれるわけないだろ・・・」
と言い終わる前に弥生はゆっくり男に背中を向ける。
男はその隙だらけの行為に一瞬あっけにとられるが、
すぐに手に持ったナイフで襲いかかる。
その瞬間、弥生は左足を軽く上げ、
バレリーナのように回転し、
勢いで左足を男の胴体に蹴り込む。
ゴサッ、「ぅおぇ。」バサッ。
男は蹴り込まれた肋骨辺りを抑えて倒れ込む。
「なめてんじゃないわよ。
ほーら、もう口もきけないでしょ?」
弥生は男の顔をカメラでスキャンし、
データを本部に転送する。
車体の通信端末から音声が聞こえる。
「こちら本部、スキャン結果照合。
空中都市No.857、イワラリ カザキ。
どうやら最近送り込まれた奴みたいだな。」
越速犯+空中都市スパイ。
ちょっと山をかけて声を掛けたがビンゴだった。
地下を知らない血迷ったネズミども。
空中都市に仕込まれたハッカー部隊は確実に
空中都市のデータを盗んでいるようだ。
「了解。とりあえず犯人は地面と仲良ししてるから、
待ってるわ。」
「本部了解。っていうか、また怪我人だしたのか?
警察医からまた文句言われるぞ。」
「はいはい、つべこべ言わず、こいつの怪我が
ひどくなる前にさっさと応援よこして。
こんなの一人で運べなーい。」
「本部了解。相変わらず手荒いねぇー。
手配要請した。あとは現場での引継ぎを宜しく。」
「了解。待機しておくわ。」
イワラリは小さな声を呻き続けている。
たまに息遣いが早くなる。痛みに耐えてる模様。
弥生は地面にうずくまる男を見下ろし、
内臓は大丈夫そうね。まあ、骨ぐらい折れてるかも、
と思う。
思わず辞めているタバコに手をかけそうになったが、
とどまる。
好きでやってるわけじゃない。
何かを壊したり、傷つけた後は
何かでごまかしたくなるのよね。
ほんとはこういうの、嫌いなのに。
トゥビーコンティニュー……




