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溶ける雪

作者: みや

「みてみて!こんな季節に雪だよ!」


姉はそう言って空を指さしました。私はつられるように空を見上げます。その光景に思わず、声を上げました。

なんと雪がキラキラと、ふわふわと宙を舞ってたのです。夏空を舞う綿のようにふわっとした雪は、まるでたんぽぽの綿毛みたいだと思いました。

手をさらに伸ばしてみると、ひんやりとした冷気が腕を包み雪が染み込むように溶けていきました。

「どうしてこの時期に雪が…?」

そんな疑問を忘れてしまうほどにその光景は幻想的で美しかったのです。


「すごい…!すごいよ、お姉ちゃん!」


私は、姉に呼びかけました。けれど、隣に姉はいませんでした。

前にも後ろにも、姉の姿は見えません。まるで最初から誰もいなかったみたい。

少し目を離した瞬間に溶けていく雪のように、消えてしまいました。


私は怖くなって、村にある家に走って帰りました。

雪は徐々に強さを増していきます。行きの道と、帰りの道。同じ場所を辿っているはずなのに、全く違う場所を走っているように思えてとてもとても怖かったです。


家の中は気味が悪いほど静かでした。そして、気づきました。留守番をしているはずの妹たちの姿がなかったのです。家の中のどこを探しても彼女らはいませんでした。


怖くて怖くて、仕方ありません。外に出た?まさか、この雪の中…?

1時間経っても、1週間経っても姉妹は帰ってきませんでした。


雪は止むことなく、毎日振り続けました。止まない雪が唐突に降り始めたあの日から雪は徐々に強くなり、そして、人がどんどん消えていくようになりました。雪は止むことなく、永遠と振り続けました。


やがて、村にいるのは私だけになりました。一人はさびしい…さびしい…さびしい。


存在するかも分からない誰かを探すために、私は故郷を捨てて旅に出ました。

雪で覆われた森林。白く染まった町。怖いくらいに綺麗な銀世界。

どれだけ故郷から離れた場所でも、雪は相変わらず降っていて、そして人は当たり前のようにいませんでした。

どこもかしこも同じような景色で、それはまるで人が生きていないことを示しているようでした。

変わる事なく降り続ける雪を見ていると、時間が凍り付いてしまったようだと思えます。


今は夏だっけ、それとも冬だっけ。そもそもこの雪が降り始めたのは、いつ頃だっただろう。もうそれすら分かりません。心まで、凍り付いてしまったのでしょうか。

私の髪は、月日を重ねるごとに白みが増していきました。呪われた雪に体を侵食されているようで、まるで自分はこの異常な現象を受け入れて、雪と一体化しているみたいだと思いました。


なんで私だけ生き残っているのか。みんな、みんな。みんな消えてしまったのに。なんで私は、生きているのだろう。なんで私だけ、消えられないのだろう。そんなことを考えるようになりました。

明日になっても、今日と何も変わらない。これからも、ずっと。私自身が消えるまで、雪は降り続けるのだろう。けれどそれはいつの話なのだろう。私はいつになったら、消えるのだろう。


諦めるように目をつむり、眠りにつこうとしました。


その時でした。

歌が、聞こえてきたのです。


見えたのは、一人の少女の背中でした。

天井の崩れた廃墟の中。がれきの上に座って、舞い散る雪に反射する月明りを浴びながら、誰かを呼ぶようにとても澄んだ歌声を、夜の雪空に向けていました。

素晴らしい歌声に私は惹かれ、少女の方に歩を進めました。私の姿に気づいて、歌が途切れます。振り返った彼女の顔つきはどこか私に似ているような気がしました。


「どこかで会ったことがある?」


私の言葉に、少女はうれしそうな笑顔を浮かべて、消えていきました。

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