プロローグ:怨嗟
「久三男くん、何してるの」
僕は彼女が好きだった。
「久三男くーん。おーい」
僕が教室の隅でラノベを読んでいたら話しかけてくる彼女。
「今日はどんな本を読んでるの」
僕がぼうっと考え事をしていれば、微笑みを浮かべながら話しかけてくる彼女。
「また妄想? 兄弟揃ってよく考え事してるよね」
僕にとって彼女の全てが愛おしくて、愛おしくて、仕方なかった。教室の隅で休み時間は読書に費やしている僕みたいなのからすれば、友達になれただけでも奇跡と言ってもいい代物だろう。
本当、あの頃は誰かといて初めて楽しいって思えた。どうして過去形なのかと問われれば、もうその彼女はこの世に存在しないからだ。
厳密にはまだ生きているのかもしれない。でもきっと、その彼女は僕が知っている彼女では既になく、もはや``ただの別物``なんだろう。
既に傷物になってしまった、ただの別物。
いずれ傷物になるのは分かっていたし、傷物にするのが僕じゃないのも分かっていた。それは友達だと心を開いたそのときから、自覚していたことだ。
でもさ、こんなのってないよね。
僕の初めての友達で女の子だったのに、初めて画面の向こう側以外の女の子の友達ができたのに、どうして消えてなくなってしまったのか。
僕が一体、何をした。行きたくもない学校に通わされて、それでも真面目に勉強したじゃないか。宿題だってちゃんとやっていたじゃないか。
学校の授業内容なんて幼稚すぎて聞くに堪えないものだったけど、それでも僕は真面目にやっていたんだ。テストでも満点とって学年一位の座をほしいままにしていたぐらいなのに。
どうしてそんなどうだっていいものだけが残って、重要なものが手から滑り落ちるように消えてなくなってしまうのか。分からない。全然分からないし納得いかない。
これは誰のせいだ。僕のせいか。否、違う。
決まっている。みんな、世界が悪い。世界に蔓延る周りの人間が悪い。そして守ってくれなかった兄さんが悪い。
奴らがちゃんとしていれば、僕より強い奴らがちゃんとしていれば、澪華が死ぬことなんてなかった。ただの別物に成り果てることもなかったんだ。
僕はいつもいつも、被害者。か弱くて、戦う力もなくて、体力もなくて、ただ手が器用で物作りが得意なだけの、ただのゲーマー兼オタク。
だから。だから僕は、悪くない。
悪いのは、僕より強いくせに、その強さを然るべきときに発揮できない、周りの奴ら全てなんだ―――。




