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エピローグ:教会、始動

 空に焼きつく紅霞。


 時は既に夕刻にさしかかり、太陽は地平線へ没するルーチンワークを、性懲りもなくこなしている。


 更地になった上威区(かみのいく)を、遠くから双眼鏡で眺める青年。白い学生服のような、軍服のような服装で身を包み、夕焼けをバックに茶髪を靡かせる。


 青年は目から双眼鏡を外した。ニタァ、と不気味な笑みを浮かべ、霊子通信を何者かに送る。


佳霖(かりん)様。流川澄男(るせんすみお)が、完全に超能力を使いこなし始めたようです。どうなさいますか』


『ようやく、時は満ちたな。このときをどれだけ待ちわびたか。監視、ごくろうだったぞ。十寺(じてら)


 いえいえ、と白い学生服のような上着を身に纏う青年―――十寺興輝(じてらこうき)は霊子通信越しで会釈する。


 件の三月十六日から今日、五月五日まで、流川澄男(るせんすみお)とその一行の監視を行っていた。


 三月十六日以降、当然のことながら流川(るせん)家の眼が極めて厳しくなった。


 甲型霊学迷彩を常に着用し、その上から変装をしておくくらいの二重対策で、澄男(すみお)達の同行を監視する毎日は、かなりの心労を伴ったものだ。


 件の日から約一ヶ月弱。ようやくこの心労深い任務からも解放される。澄男(すみお)が超能力を使いこなし始めた今、遂に動き出せるのだから。


『では、行かれるのですね。ヴァルヴァリオンに』


『新設大教会は、もはや用済みだ。後々邪魔にしかならん教団など、生かす意味も価値もない』


『しかし、来るんでしょうかね。澄男(すみお)ちゃん。チビって来なかったりして』


『来る。奴らとて無能ではない。なんらかの手段で竜人国の情報を精査しているはずだ。新設大教会の奴らの話によれば、``羅刹凍皇(らせつとうおう)``が人里に降りたらしいから尚更、流川(るせん)は北方を怪しんでいるはずだ』


『エヴェラスタを牛耳ってる魔人、でしたっけ。この間、澄男(すみお)ちゃん元気にタイマン張ってましたけど』


『我が息子のパワー馬鹿は母親譲りだからな。だがお前は、北方の地を統べる魔人どもに深入りするなよ。奴らを敵に回せば、人類文明など跡形も残らん』


 霊子通信越しに、降参、と両手を挙げる素振りをする。


 魔人。ヒューマノリア大陸北方を支配する古来の生物であり、今も現存していると言われているヒューマノリアの原住民族。ヴァルヴァリオンにおいて、古来より神話の存在として語られるほど絶大な力を誇る者達の総称である。


 その力は、たった一体だけで世界の果てに住まう上位のドラゴンと互角と言われている。


 今も北方のどこかに魔人の都があるらしいが、ヴァルヴァリオンの生き残りの末裔は存在を恐れ、関わろうとはしないらしい。


『ひぇー。じゃあ、中威区(なかのいく)を徘徊してたときに聞いた、凪上邸襲撃事件の犯人はバケモノ、って奴には首突っ込まない方がいいですかね。中威区(なかのいく)の連中が自分達の住処を凍土に変えられたのに誰も覚えてないのが気になってて、調べようかなと思ってたんですけど』


『……やめておけ。``羅刹凍皇(らせつとうおう)``は、新設大教会内でも名が知れた、上位の魔人だ。そんな化物が人里に降りたとなれば、同格以上の魔人が遣わされたはず。その事件とやらには、もう干渉しない方がいい』


 畏まりましたー、と軽い態度で返事をする。


 実際に魔人と呼ばれる存在を見たことはない。佳霖(かりん)から、そういう化物の話を聞かされた程度で、そこまで深い関心があるわけでもなかった。


 正直命が惜しいので、調べても目当てがでてくるか分からない割に命の保証がないような調べ物は、やらないに越したことはない。


『我々は先にヴァルヴァリオンに向かう。出立の準備をせよ』


 佳霖(かりん)は、霊子通信を切断する。十寺(じてら)は更地になった上威区(かみのいく)の方角を眺めながら、悪辣に唇を吊り上げた。


 夕焼けの光は赤く、彼の笑顔を更に薄気味悪いものへ塗り替える。沈みゆく夕日が、暗黒の宵闇が訪れる事を示唆しているかのように。


「会うのが楽しみだよ、澄男(すみお)ちゃん」


 ふふ、とか細い笑みをこぼすと、姿は透明になって消え、紅霞に満ちた情景に溶け込んだのだった。

第四章「愚弟怨讐編 上」に続きます。

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