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暴露劇のネタの人

数ある作品の中から拙作をお選びくださり、ありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ

初めてきちんと短編として纏まりました( ≧∀≦)ノ




 ある国に高貴な身分の才女が居ました。


 しかし彼女は恵まれた魔力を持ちながら、魔法が一切行使できません。


 それは生まれながらの肉体の特性故、本人にはどうにもならない事です。


 勿論他の誰にもどうにもできません。


 けれども家族は彼女が怠惰だからだと見做しました。基本的な努力もしないからだと軽蔑しました。


 そして原因が判明した時、欠陥品として見棄てました。


 屋敷の離れに閉じ込め、家の恥として外に出る事を禁じたのです。


 その上で彼女を貶める噂を流しました。男遊びが酷い、金遣いが荒い、癇癪持ちで陰湿、息をするように嘘しか言わない、暴力的で手に負えない……。

 その癖事務仕事は彼女頼りなのです。


 家族の流した噂であると知りながら、噂を真に受けた使用人達は彼女を冷遇しました。敷地内ではあっても別宅であるのをいいことに、ろくにお世話をしなくなりました。因って彼女は高貴な令嬢であるというのに自分で身の回りの事をできるようになってしまいました。


 けれど居るのです。


 彼女を色眼鏡で見ない人間が。


 力無い立場でも彼女をひっそり助けてくれる人間が。


 その高貴なるお屋敷に新しく入った使用人で、田舎出身の小娘です。


 小娘は隙を見付けては彼女のお世話に奔走します。


 本来の仕事の合間のお世話なので大忙しです。


 特に食事は彼女を魅了しました。


 その生活は彼女が厄介払いのようにお嫁に出されるまで続きました、とさ。




 これは良くあるお話。

 けれど少し違うのは、何処かで本当にあったお話。











「ったく、それなのに漸くあの馬鹿みたいな家を出られて良かった良かったと思ってたら、嫁ぎ先は浮気野郎の最低男でお嬢sじゃなくて奥様を見ようともなさらなかった屑男! わたくしごときが付いて行けなかったのはしようがないにしても、付いて行けなかった事を心底悔しく思いましたよ。けれどざまぁ見ろです。今やお嬢sじゃなくて奥様は〈太公閣下の知識の花〉として隣国で満開に花開いて大活躍! っへ! ざまぁ見さらせ!」


 この口の悪い()が今各国で流行りの劇の元ネタの提供者。

 過去のあれこれに関して、基本この娘は愚痴と悪口しか述べません。けれど我等が師匠の事は本当に好いてくれているようで、我等が師匠〈太公閣下の知識の花〉賛歌の立ち位置での暴露です。それをわたくしが巧い具合に纏めて手直し脚色して、直接的な名前を出さないよう気を付けて各国の劇場へ脚本を売りました。はい。ただいま師匠は時の人なので〈太公閣下の知識の花〉この呼び名さえ出しておけば誰の過去話であるかは丸分かりの演目です。師匠が過去関わった人々を許しても、我等弟子及び移住先のお偉方は許しません。許さない筆頭が太公閣下です。わたくしの脚本は激怒している閣下の(つて)で各国にばら蒔かれたような形なのです。念のため個人名は一部いじって変えてあるので、本人達から苦情が寄せられてもスッ惚けられます。

 へ! ざまぁみさらせ!

 あら嫌だ。あの娘の口の悪さが移ってしまいましたわ。ほほほほほ。へ!






 〈太公閣下の知識の花〉たる我等がお師匠様は嫁いでから三年待たずに離縁されたそうです。

 何故三年なのか。それは三年経っても跡継ぎが生まれない場合は縁が無かったとして円満な離縁が許される風潮があるからです。女性が子供を生むのは、一般的に期間限定であり、高齢出産は命の危険が高まる為、ご縁の無い場所で肩身の狭い思いをさせない為、という建前があるのも確か。殆どの場合、体の良い厄介払いらしいですけどね。

 で、お師匠様はその三年を待たずに白い結婚のまま離縁されたそうです。

 考えようによっては屑野郎に汚されず別れられて良かったとも受け取れますが……屑野郎はお師匠様との結婚式で、お師匠様とではなく愛人と挙式を挙げたそうです。勿論参列者にお師匠様のご家族及び高貴な家の繋がりの面々が揃っております。であったのに騒ぎにはならなかったそうな。

 なんで?

 え? お師匠様ではない売女(ばいた)が勝手にお師匠様の名前で挙式の主役を務めて婚姻書にサインしたって話ですよね?

 さぎ……詐偽ですよね!?

 で、挙げ句にすぐ離婚!?

 立派な偽称と詐偽と公文書偽造では!?

 何がどうしてそんな真似が通じたのか存じませんが、立派な犯罪確定です! それも主だった参列者全員グルで! お師匠に社会的にミソ付けたって話ですよこんちくしょう!

 ……………失礼しました。

 怒り心頭に発しましたので、この辺もきちんと劇にて暴露させていただいております。っけ!


 何はともあれお師匠様は太公閣下に嫁がれるまでは実質うぶで綺麗なお嬢様でした。けれども知識の幅と深さは他の追随を許さぬ聡明なお方。お師匠様は離縁されてほぼ身一つで追い出され……あー、あー、ムカツク!! けれども知識面の財産があったので、思いきってこちらの国に移住なさったそうです。

 この国、学術研究国家として有名ですからね。

 そして閣下と出会われ花開き、実力を各分野で示して汚名を返上し、嫁ぐ前にお師匠様を守り支えた小娘と再会なされた訳です。

 いえ、正確に申しますと、小娘との思い出をお師匠様から常々聞いていた周囲が大捜索の末に漸く見付けて連れて来た、が真相です。はい。大捜索の一言で察した方もあられるかとは思いますが、小娘は師匠が嫁がれた後、ちゃっかりさっさとお師匠様の生家を辞めておりました。で、吟遊詩人に生家の悪行の話を売りながら自分の故郷目指して旅をしていたのです。はい。小娘は小娘で物語が書けてしまうくらいです。ですが今回は割愛させていただきます。


 一気に話をはしょりまして、再会を果たした二人は大喜び。

 あんなにしみじみと喜びの涙を流されるお師匠様を見たのは、あれが初めてで、今のところ最後です。

 お師匠様が常々懐かしそうに語り信頼を寄せているらしいのは分かっておりました。周囲に居る人間、全員が、です。太公閣下もその一人に数えられました。故にでしょう。閣下が小娘に招致の誘いをかけました。閣下とお師匠様のお屋敷で働かないか、と。しかし……


「え、無理」


 小娘、この一言でお誘いを蹴りやがりました。

 一言で表現するなら不敬です。後ろ楯を持たない平民が元王族の一員である閣下の申し出を断るとかできない了見です。普通なら罰っせられても文句を言えない立場が小娘の立ち位置です。それを分かっているからお師匠様が悲しげに心配そうなお顔に変じてしまいました。それに気づいた我々弟子達がこんこんとその辺を説明してあげました。そうしたら……


「ですからね、今回のような“やらかし”を日々繰り返すと思うんです。でも高貴なお方のお屋敷なんですから、礼儀作法がなってないと困りますでしょう? 私、そこんとこの教育なんて一切受けてませんからね。文字の読み書きだってできないんですよ」


──え!?


 小娘のこの告白に驚いたのは何故か全員です。はい、お師匠様もです。


「貴女、おばあ様にお手紙と仕送りを出していたわよね?」

「お嬢sではなく奥様、あれは私と祖母しか読めない日本語です。でも手紙の住所を書くのも仕送りの手続きもあの胸糞悪いお屋敷のえっと家令? 秘書? にお任せしてました。今では失敗したと後悔してます。手紙はともかく仕送りは着服されて祖母の手には渡ってませんでしたから」


 新たな告白にこれまた全員びっくり!

 更に仕送りのお金が届かなかったのが理由で小娘のおばあ様は弱り、流行り病を患い薬に手が届かず亡くなっていたというのです。

 事件です。

 この一件に関して(だけでなくお師匠様の過去に関するあれこれに関わる全ても)太公閣下が裏取り調査をしてくださいました。

 結果……小娘の告白通りでした。

 その後に小娘を故郷、おばあ様のお墓に連れて行ったらただ一言「ばあちゃん」呟くように言葉が漏れて座り込んでしまいました。その後ろ姿に案じる気配を感じられての事でしょう、お師匠様が小娘の肩を抱いて擦られました。小娘が振り返りました。小娘の顔を見た我々は何も言えなくなりました。小娘はただ静かに涙を流していたのです。自分が泣いているのにも気付いていないような痛ましい涙でした。


 余程心配なされたのでしょう。お師匠様は無理矢理小娘をこの国に連れ帰って来ました。そうして太公閣下とお師匠様のお屋敷で共に暮らし始めました。

 勿論、下働きの予定でした。

 ええ、働いています。ちゃっかりお師匠様や我々弟子達にこの国の文字を習いながら。あ、この国もお師匠様の生国も喋り言葉は同じです。けれど文字は違います。余計な下地が無かったのが反って幸いしたのでしょう。小娘はみるみる文字を習得して、自力で新聞を読めるまでになりました。元々複雑怪奇な文字を読み書きしていた才能の持ち主です。だって三種類の文字を一度に操っているんですよ。今では“山”とか“川”とか、簡単な文字を太公閣下やお師匠様門下が教えてもらって秘密の記号として仕様するまでになりました。数字もです。小娘曰く、アラビア数字と言うそうです。これ、めっちゃ便利です♪


 お師匠様が気に入るだけの事はあり、小娘個人がなかなか多才であるようです。無いなら自分で作れば良い、との精神で、小娘色々作成いたします。代表格が算盤と爪切り! 本当に便利♡ 閣下の部下の皆様やお師匠様門下は算盤に歓喜の怪しい舞いを踊り、地味ながら爪切りには感謝の祈りを捧げました。この爪切りを切っ掛けに工具を扱う部門のオヤジ達にも気に入られたそうです。


 何気に小娘、人気があるんですよね。

 閣下の部下や護衛騎士達なんて、完全に胃袋掴まれてますから。

 そりゃそうですよね。お師匠様の胃袋掴んで離さないくらいですもの。


 そして現在、厨房にはめっちゃ良い匂いが満ちています。

 隣室の使用人用の食堂にはお師匠様と閣下が既に待機中です。

 そして閣下のお毒味役は、お腹の音を盛大に鳴らしながら小娘の後ろで待機中です。この毒味役、どうも小娘に気があるっぽいんですよね~。小娘、全く気付いてませんけど。


「牛と豚と雉の骨を八時間煮込んだスープです。醤油や味噌があれば一段美味しくなるんですけど、今回は塩で味を調えます」


 小娘の周囲にはお毒味役だけでなく、お屋敷の料理長と副料理長まで待機しております。


「で、仕方がないので、具材に骨髄を加えます」


──はあ!?


 わたくしだけでなく、料理人お二人まで驚愕の声を挙げました。


「脂っぽくなりますけど、お肌とかにも良いんですよ。たぶん。──なので骨を割って中身をスープに投入してください」


 この小娘、下手な遠慮をせず要望や欲しい物事はハッキリ口にするタイプです。断り難いよう余計な情報を放り込んでくるのも得意です。今回はわたくしが「お肌に良い」の一言に食らい付きました。はい。本当にお肌に良いのでしょうね? 脂っこいの一言も聞き逃しておりませんよ!


「拉麺をイメージしたのですけれど肝心の拉麺がありませんし、代用はやっぱりスパゲッティですかね? 重曹入れたお湯で茹でるといい感じになるらしいですし? 具材は一緒にコトコト煮込んだ豚肉チャーシューで、ゆで玉子を半分に割って、お野菜何にしよう……って、もう勝手に飲んでるし」


「味見だ!」


 料理長と副料理長とお毒味役三人の声が揃いました。


 あの……わたくしもお味見したいです……!








最後までお読みくださり、ありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ

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感想等もお聞かせ願いたく存じますm(_ _)m

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