03 青鳥
☆1日3分、悪役令嬢のひとりごと。
僕のお仕えしている令嬢レイナ様は、少々変わったお人だ。
「シオン」
「はい、お嬢様」
「ぶっちゃけ、ツイッターってもう終わったと思わない?」
なーにを言ってんだこの人は。
「ついったーとはなんですかお嬢様」
「色んな人が好きな時に好きなことを呟くとそれがみんなに共有されるシステムの事よ」
「なんだか恐ろしいことの様に聞こえますが……」
「やって見ると案外楽しいものなのよ。これまで手の届く範囲にしか友達っていなかったじゃない? それが世界中の人間と対話できるようになって、文字通り世界が広がる感じなのよ」
「僕はお嬢様さえいれば幸せですから、その気持ちはあまりわかりません」
「そうなのね。変な子」
お嬢様にいわれたくないなぁ。
「ともかくツイッターって楽しい場所だったのよ。くだらないことで盛り上がったり」
「くだらないこと……? たとえばなんです?」
「神と和解せよってポスターの一部がハゲて、ネコと和解せよになったりしているのをみて笑うのよ」
僕には難しい世界だ……。
「それが2020年頃からかしら。段々、陽キャさん(笑)もツイッターに参入してきてね……」
「? 思うに、自由な弁論の場所だったのでは?」
「そうよ。ツイッターに陰キャも陽キャもない。本物の陽キャはツイッターなんてやらずにフェイスブックかインスタに居るしね」
「では陽キャと陽キャさん(笑)は何が違うのですか?」
「陽キャってのはアルファオスメス。性欲満点の動物よ。生活の高級さを追求して、盛り上がる、光の世界の生き物──」
「ハイエルフの様なものでしょうか」
「そうね。あいつらって下民に興味内でしょ? ハイエルフがヒト族の戦争に興味が無いように、陽キャも深夜アニメに興味ないの」
よくわからない……。
「で、陽キャさん(笑)というのは?」
「これは元々陰キャなの。だのに自分より下の人間を見つけて、自分が陽キャだと勘違いして、程度の低いマウンティングをとる下劣な生き物」
「鶏頭となるも牛後となるなかれ──を実践しているのでは」
「奴らは牛にすらなれないのよ。元の性質が鶏だからね。でも鶏って、上も下もないはずじゃない。私たちは等しくツイッターの隷属なのよ。けれどね、『え? ガン○ム見てないのにSF好きとかW ワロタンゴW』みたいな奴がいるの。昔はもっとネットの深淵に隔離されていた化け物が、ツイッターの気軽さのせいで表出してしまった──」
「な、なるほど?」
「渓谷に封印されてるドクマムシドラゴンがそこらを闊歩している状態よ」
「末期じゃないですか」
憂いた表情のお嬢様はため息をついた。
「嗚呼、2017年くらいの、ツイッターが好きだった──」
意味は分からないけれど、その思慮深い呟きに、僕は感涙した。