02 人工
☆1日3分、悪役令嬢のひとりごと。
僕のお仕えしている令嬢レイナ様は、少々変わったお人だ。
「シオン」
「はい、お嬢様」
「AI絵を出力する人間が絵師を名乗ることについて、どう思う?」
何言ってるんだこの人は。
「お嬢様すみません、えーあいとはなんでしょうか」
「知らないわよね。ごめん。えっとね、人工的に作られた知能の事よ」
「先端魔術の領域ですか? 王立魔術大学院でもそのような事は……」
「ともかく。その『AI』が生み出したものを、まるで自分が丹精込めて作ったかのように言うのはどう思うのかと聞いているの」
なるほど……、お嬢様は先端魔術も履修しておられる……。
「素人考えですが、自分で人造の知能を生んだのであれば、その知能が生んだものも、広義では生産者の被造物であると定義してよいのではないでしょうか」
──そうね。お嬢様は紅茶をすすった。
「では条件を加えるわ」
「はい?」
「そのAIを作ったのは自分ではなく、天才である第三者が構築し無料で公開したものであるという前提で、かつ、AIが絵を出力するには過去の偉大なる画家たちの秀作を学習する必要があるとすれば? あなたはどう思う? それでもAIを利用して絵を作る人間を絵師と、或いは創造的だと言える?」
僕は少し考える。直感的にはノーだ。なぜなら、利用した人間は何の苦労もしておらず、社会的な技術進化の波に乗っただけ、そして学習された作家たちの苦労を知らない。創造的かはわからないが、敬意があるのなら、その行いは魔術の進化の過程というしかない。
「しかしお嬢様。人間は進化の過程であらゆる人道に反した行いをしてまいりました。築城のすべも戦争が生んだものですし、先端魔術ですら過去の偉人が生んだ基礎魔術によって発展したものです。巨人の肩の──」
「巨人の肩の上に乗る。ええ、学術会で最も大切にされる言葉ね。偉大なる先人たちは知の巨人であり、私たちはその肩の上に乗っているに過ぎない」
「ええ、その通りです」
「でもそれって、深い敬愛と尊敬があってはじめて成立するんじゃなくって?」
「エエアイを使用する人々も当然深い敬意を払っているのでは?」
「鼻をほじりながら絵を出力しているわ」
「そんな奴は処刑しましょう」
僕はベルを鳴らして外に控えているメイドに、王立執行騎士団を呼びに行かせた。
「シオン。残念ながらこれはあくまで思考実験。私たちの世界にそんな下品で頭の悪い人間はいないわ」
「そうでしたか。しかし、お嬢様の思考実験は極めて高度でいらっしゃいますね」
「そう? ……私も下手だけど絵を描くのよ。もしもその苦労を知らないで、素晴らしい絵を描く方々の努力を踏みにじる人が居たら、許せないと、そう思っただけなのよ」
お嬢様は思慮深いお方だなぁ……。僕は感涙した。
お絵描き、初めてみようかな。