01 圧力
☆1日3分、悪役令嬢のひとりごと。
僕のお仕えしている令嬢レイナ様は、少々変わったお人だ。
「シオン」
「はい、お嬢様」
「宣伝ポストをリポストしたから、私の作品も当然読むよな? という類の圧力に関して、あなたはどう思うかしら」
ワケが分からない。この人は何を言っているのだろう。
聖レーニア帝国の大公爵の第一令嬢であらせられるレイナ嬢は、昨年、階段から落ちるという事故以来、変なのだ。「すまほ」なるものを、国を挙げて探したと思えば、口癖のように「インターネットがないなんて……」と仰る。
その周囲を考えない態度から、皆からは「悪役令嬢」と呼ばれていた。根っから悪人ではないものの、さながら舞台で悪役を演じる女優の様な傍若無人さがあったからだ。
「シオン、ねぇ、どう思うのよ」
「お嬢様、その。ポストやリポストが何なのか私にはわかりません。ですから仮定の話と致しますが、何かの行いに対する見返りを求めるのであれば、それは契約に基づいて行うべきではないかと思うのです」
「でもねぇ、なろうの規約を違反してしまうわ」
何言ってんだこの人。
「でもそうね。そう言う圧力って、私もよくないと思うの。物書きは、己の力を以てして、その作品の尊さを示すべきだわ」
「お役に立てて何よりでございます」
「今日もありがとうね、シオン」
紅茶を飲みながらにこやかに笑う悪役令嬢──。
僕はお嬢様の事が好きだ。どれだけ変人でも、そんなところが好きだ。いつも何かしら思索にふける横顔、世の不条理を嘆き呟く唇。
身分違いの恋だが、せめて、この問答の時間だけは、僕のものに。
そう思って僕は今日も、極東から仕入れた新しいお菓子を持ってくる。